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綺麗な銀の月

 さてさて、白髪ロングの大人びた美人さんを誘拐気味に連れて来たわけだけど、レイラちゃん達は僕が人を連れて来てもなんら驚く様子は無く、荷馬車に適当に積んでおいても、放置する方向の様だった。まぁ、ニコちゃんを連れて来た例もあったし、特に興味もなかったんだろう。


 そしてそのまま、リーシェちゃんの作った料理を食べて、休憩を取る。相変わらずリーシェちゃんの料理は中々にクオリティが高い。うん、美味しい。あ、ちなみに今食べてるの缶詰とパン。

 一応リーシェちゃんの作った料理もある。野菜スープだけど、おかずとしては一級品の料理だった。まぁ多少味は薄かったけれど、移動時用の必要最低限の食料で作ったものだから、そこは仕方がないよね。作って貰った手前、文句は言えない。


「リーシェちゃんって騎士の訓練に没頭してた脳筋女だったのに、良く料理出来たね。練習してたの?」

「お前今さらっと私のこと貶しただろ? もう一回言ってみろ、お前を料理してやる」

「あはは、僕は人生の中で他人に悪口を言ったことが無いことで有名なんだよ? そんなわけないじゃないか」

「……まぁいい、私は大人だから流してやる。……私は最初騎士に志望することを反対されたのを押し切って見習いになったからな……その内父様も騎士を目指すことを認めてはくれたものの、半ば家出をしてしまっていたからな……自炊する必要があったんだ。だからエイラさんに教えて貰って覚えた」


 大人って、僕より一個年下の癖に良く言うよ。まぁ、僕もある程度自炊出来るし、そういう理由があったんだったら納得出来るか。リーシェちゃんも意外に女子力高いよねぇ。

 

「うん、ごちそうさま……やる事もないし、しばらくは休憩してよっか」

「ああ、そうだな……どうやらレイラも、退屈だったのか寝たようだしな」

「……うん、本当にマイペースだねこの子」


 リーシェちゃんの言う方向へと視線を向けると、荷馬車の中でニコちゃんと一緒にお昼寝を始めたレイラちゃんの姿があった。余程退屈だったんだろうなぁ……まぁ確かに面白い物は無いけどさ。

 ちなみに、連れて来た白髪ロングの美人さんは二人からちょっと離れた所に寝かせてある。こんな時の為に寝袋買っといて良かったよ。僕の場合、瘴気布団が出来ちゃったからさ。


「ところで、きつね君……行き先はルークスハイド王国だそうだが、そこへ行ってどうするつもりなんだい?」


 すると、文中では初めてヒグルドさんが僕達の会話に入ってきた。伸ばしっ放しだった髭や髪の毛は、今はちゃんと手入れされて、中々清涼感のあるダンディーなおじさまになっていた。ニコちゃんがあれだけの素材を持っているから、ヒグルドさんもそれなりだと思っていたけど、結構イケメン。

 というか、アレかな? 貴族は良い物食べて暮らしてるから皆イケメンだったりする? あ、オルバ公爵はそうでも無かったな、訂正訂正。


「一応しばらく滞在して力を付けるつもりだよ。レベルアップして、実力を底上げする」

「ふむ……それからは?」

「勇者気取り君をぶっ殺しに行くんだ! あ、ついでに腹黒巫女も、土下座で泣きながら謝らせた後、奴隷商に売り飛ばして僕が購入して隷属の首輪付けて一生犬の様に僕の椅子役でもやって貰おうかなという勢いでお仕置きしようと思ってるんだ!」

「結構具体的にお仕置きの内容決まってるな……」


 まぁどうでもいいけど、フィニアちゃん達を迎えに行かないとね。そのついでに勇者気取り君達と一緒に遊んであげるだけだし。まぁあの腹黒巫女は許さないけどね。決闘とか言って口出ししてきたし、意味不明な言動でお面持って行ったし、ルルちゃん達を脅してたし、マジ許すまじだよね。

 土下座させたあと頭踏んでやるくらいやってやりたいよね。顔面殴打は二、三発じゃ収まらないよこの恨み。


「まぁどちらにせよ、レベルアップを図るのが当面の目標だよ」

「なるほどな……私に何か力になれることがあれば言ってくれ、命を救われた恩があるからな」

「いやまぁ特にないね」

「…………そうか」


 あ、なんかちょっと落ち込んじゃった。言いたい事をばっさり言っちゃうのが僕の性分だからさ、その辺は仕方ないと思って欲しいなぁ。まぁ若干やり過ぎ感があるけど、その辺は仕方ない! 言いたいこと言って、後々後悔しないようにしないとね!

 その結果誰かが傷付いたりしたとしても、それは僕のせいじゃない。傷付いた方が悪い。だって、僕がそうだったもん。


「まぁ、それならそれでいいんだが。何か困ったことがあればいつでも言ってくれ、力になる」

「あ、うん。じゃあその時は頼るよ」

「ああ」

「ニコもレイラに懐いているしな」

「そうなんだよねぇ……不思議だ」


 三人で、荷馬車で添い寝しているレイラちゃんとニコちゃんを見て、苦笑する。見た目で言えば、お姉さんと小さい妹ととも取れる光景ではあるけれど、レイラちゃんの性格からすればどっちも子供だ。身体の大きな子供と、小さな子供みたいな感じだね。


「んっ……くぅぅ……っ……っはぁ!」


 そんなことを考えていると、レイラちゃん達を見る視界の端で、さっき拾ってきた少女が起き上がった。大きく口を開いて、長々と欠伸をすると、軽快に身体を起こし、ガシガシと頭を掻きながら胡坐を掻いた。

 なんだかそれだけで男勝りな性格なんだなぁということが分かる。寝癖なのかボサボサになった白い髪を手で軽く梳かすと、周囲の状況を確認し始めた。そして、寝ぼけた様な瞳が、つらつらと移動し、僕と眼があった。


 そして、しばらくじっと見つめ合っていると、だんだん彼女の目に意識がはっきり覚醒してくる。


「えっ!? お前誰だよ!? てか、ここどこ?」


 予想通り、男勝りな性格をしているらしい。口調も女の子らしいというよりは、姉御肌だ。


「えーと、僕はきつね。君があっちの方に倒れてたから運んできたんだ」

「え? ……あー、あーあー! はいはい! そういうことね、りょーかいりょーかい、謎は全て解けた」

「高校生探偵みたいに言わないでくれない?」

「いやぁ……まぁ倒れてた所を助けてくれたのはありがたいんだけど……アタシ、木に寄っ掛かって寝てただけなんだよねー……あははっ、悪い悪い、勘違いさせちゃったかー」


 すると、彼女は快活に笑ってそう言った。こんな魔獣の出る可能性もある林の中で寝るとは、随分と肝が据わっているらしい。でも、勘違いさせたことや、運んでくれたことに対するお礼や謝罪があるということは、この少女中々人当たりも良さそうだ。同性に好かれるタイプの人間だね。

 そう思っていると、彼女はニッと笑って荷馬車から下り、地面に足を付けた。すらりと長い足は長ズボンに包まれており、白い髪は寝癖が所々あるものの、お尻のあたりまでと長い。


 そして何より特徴的なのは、月の様な輝きを持った、銀色の瞳。更に言えば、左眼の瞳孔に『☆』のマークが浮かんで見えた。


 吸い込まれそうな月の魅力を放つ瞳は、快活な太陽の様な笑顔とは裏腹に、平静を保った水面の様な落ち着きを感じさせる。


「ふーん……そうなんだ。まぁ勘違いしたとはいえ、何かの縁って事で……野菜スープ、どう?」

「お、悪いねぇ、それじゃあありがたくいただくよ。アンタ達、良い人だね」

「僕は真面目で優しい青少年で通ってるからね、困った時はお互い様だよ」


 彼女は僕の正面に座って、リーシェちゃんから野菜スープの入った器と木のスプーンを受け取りながら、快活に笑う。

 そして、スープに口を付けようとして、ふと気が付いた様に顔を上げる。


「悪い悪い、自己紹介が先だったな。アタシはフロリア・アルファルド、結構可愛い名前だろ?」

「うん、これほど性格と名前が正反対な人は近年稀に見たよ」

「ッハハハ! アタシもそう思うよ、まぁアタシには似合わない名前だよ。もっと似合う奴が他に居るってね。それじゃ、いただきます」


 名前にこだわりは無いのか、あまり気にせずスープを口にするフロリアちゃん。ちなみに歳は幾つなんだろう? 女性に歳を聞くのは失礼に値するみたいだけど、フロリアちゃんは笑って流してくれそうな気がする。


「フロリアちゃんは幾つなの?」

「んあ? ああ、確か19だったかな?」

「へぇ、結構大人びて見えるね」

「んー、まぁ色々と旅ん中で経験してきたからな。それなりに護身術とかも使えるし……美味いな、これ」


 どうやら僕より一つ年上らしい。それにしても、白髪の人って結構多いんだね。今会っただけでもレイラちゃんに、使徒ちゃんに、フロリアちゃんの三人もいる。あまり珍しくないのかな? 黒髪も僕の他には覚醒前のレイラちゃん位しか見てないし。あ、ちなみに勇者気取りは髪若干明るい茶色に染めてた。心底どうでもいいけどね。


 まぁそれは置いとくとしても、なんでこんなところで寝てたんだろう? 気にならないといえば嘘になるけど、あまり踏み行っちゃいけない領分ってのもあるよね。


「フロリアちゃんは何処に行く予定なの?」

「あー……悪い、そのちゃんっての止めてくれない? なんかむず痒い」

「そう? じゃあロリ姐さんで」

「なんか悪意を感じるなぁオイ……それなら姐さんで統一してくれよ」


 ということで、呼び方が姐さんになった。


「とりあえず、アタシは今妹探しの旅の途中なんだよ。普段は一緒に旅してんだけど、時々方向音痴なのかふらっとどっか行くんだよ」

「へぇ、妹かぁ……どんな子なの? もしかしたら見たことあるかもしれないよ?」

「んーとな……髪は黒髪で―――」

「あ、ごめん見たことないや」

「最後まで言わせろよ!?」


 黒髪の時点で見たことないよ。誰だよソレ。というか黒髪の人居るんだちゃんと。ちょっと安心しちゃったよ。僕一人黒髪でアウェーだったからさぁ、なんだか居心地悪いじゃない?

 まぁ、黒髪の女の子といえば僕好みだ。やっぱり僕としては慣れ親しんだ黒髪の方が好きだったりする。


「はぁ……どうも調子の狂う奴だなお前……まぁいいか、一応名前だけ教えとくよ。『クロエ・アルファルド』。黒髪をこう……肩よりちょい長めに伸ばした位にして、黒服でマフラー着けてる。ああ、あと眼が綺麗だ」

「ふーん、可愛い?」

「アタシの妹だぞ? 世界一可愛いに決まってるだろ」

「断然探す気になったよ。会ったらとりあえずお茶に誘うね」

「まずアタシに教えろよ!? 何口説こうとしてんだ!」


 まぁ冗談だけどね、うん冗談冗談。でも、確かに姐さんはスタイルも良いし、おっぱいだってレイラちゃんに負けないくらい大きい。美人だから、妹さんもさぞ可愛いんじゃないかな? ソレに黒髪って話だし、中々会ってみたいじゃないか。


「そんじゃ、アタシはこの先の街へ行くつもりだからさ……まぁ妹を見かけたら次会った時にでも教えてよ。スープ、ごちそうさん。美味かったよ」


 すると、話が一段落した所で姐さんが立ちあがる。荷馬車の中に置いてあった姐さんの荷物を背負って、そのまま去るつもりらしい。

 でも、偶然にも姐さんの向かう方向は僕達と同じだった。どうやら、姐さんも僕達と同じ街へ向かうらしい。となれば、ここで別れなくても街まで送って行けばいい。その方がよっぽど効率的だ。


「姐さん、僕達もこの先の街に行くつもりなんだよ。良かったら乗ってかない?」

「え? あ、そうなの? んーと……じゃ、よろしく頼むよ。スープも美味かったしね」

「だってさリーシェちゃん」

「む……これはこの先の料理も気合が入るな」


 そう言いながら、僕とリーシェちゃんは大方の道具を片付けて、荷馬車に乗せた。料理道具位しか出してないし、片付けは比較的早く終わる。


「それじゃ、ヒグルドさん。また御者よろしくね」

「ああ、任せてくれ」

「世話になるよ」


 そう言って、僕とリーシェちゃんに続き、姐さんが荷馬車に乗る。そして、御者台にはヒグルドさんが座った。出発の準備は整った。


 さて、次の街へ急ごう。


姐さんがパーティに加わりました。

お姉ちゃん属性を持った姉御肌の彼女、妹の存在をほのめかしつつ、出発進行です!

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