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強くなるということは

 ニコちゃんのお父さんに、僕の考えている今後の事を伝えると、娘と一緒に居られるのならと快く承諾してくれた。そうでなくとも、自分の事を助けてくれた恩人の決めた事なら文句はないとのこと。


 なんだか、この世界で久しぶりに普通な人に会った気がする。今まで出会った良い大人って、ミニエラで会った宿のエイラさんくらいじゃない? あの人は良い人だったよね、ルルちゃんにも優しくしてくれたし、服もくれたし、気前の良いおばさんって感じの、人当たりの良い人だった。

 ああそれと、ニコちゃんのお父さんの名前がようやく分かった。ヒグルドさんっていうらしい、爵位を聞いてみた所、元伯爵だった。上からも下からも三番目の地位、正直微妙だった。でも、皆が聞き覚えがある爵位では第一位だと思う。まぁ個人的にそう思っただけだけど。


 で、ジャック君だけど、彼は僕の言葉に感銘を受けたらしく、尊敬の眼差しで僕の事を見てくる。新人特有の、世間の汚さを知らないキラキラした視線がうざい。だから言ったんだよ、どうなっても知らないからねって。凄く面倒臭いことになっちゃったじゃん。

 それで、とてもだるいことに、僕に付いて行きたいらしい。僕はHランク冒険者だっていうのに、Fランクの分際で僕に付いて来たいとか、ふざけてるよね。あれ? 逆だったっけ? まぁどっちでもいいけど。


「とりあえず却下」

「ええっ!? そんな!」

「君と僕じゃパーティを組んでも意味がない上に、相性が悪い。それに、僕に付いてくるって事は、少なくとも魔王級の化け物達と戦うことになるんだ……はっきり言おうか、足手纏いだ」

「…………っ!?」


 だから、僕はジャック君の要望を却下。僕の言ったことは、紛れもなく僕の本音だ。

 最低でも、この先あの勇者気取りとは敵対するだろうし、異世界人を殺すと言っていた使徒ちゃんも、いずれは僕に辿り着く。そうなれば、あの子とそのバックにある組織が僕を殺しにくる。もっと言えば、勇者と戦って勝ったとして、魔王に眼を付けられる可能性も無きにしも非ずだ。


 僕の進む先には、怪物が多過ぎる。ただの冒険者であるジャック君には、かなり荷が重過ぎる。


 だからこそ、素で強いレイラちゃんやフィニアちゃん、伸び代のあるルルちゃん、そして可能性が未知数のリーシェちゃんをパーティにしているんだ。僕も耐性で言えば勇者と同等にまで成長したし、新人の彼は幾らなんでもスタートが遅すぎる。


「君は君で信頼出来る仲間を探すんだ」

「……でも、俺はきつねさんのこと……すげぇでっけぇって思ったんす……俺も、きつねさんみたいになりたいって……!」

「僕なんかに憧れちゃ駄目だよ……言っておくけど、僕はHランクの冒険者で、全力で戦った所で他のどんな冒険者にだって勝つ事は出来ない。多分、君と戦っても勝つ事は出来ない」


 なんたって、僕の攻撃力は冒険者の中でも最弱だからね。耐性で言えばAランククラスだから、負ける事もないだろうけれど、勝つ事も出来ない。

 瘴気の攻撃だって、今の僕じゃそんなに複雑な操作は出来ない。レイスの時みたいにナイフを全方位に配置したとして、そのナイフ達を一斉に動かすことは出来ないからね。精々、一本ずつ刺しに行くのが精一杯だ。


 だから、僕に憧れるのは間違っている。冒険者として、失敗だ。


「僕の事を大きい人だと思ってくれるのは嬉しいけれど、僕は君を連れていけない。君がなんと言おうと、駄目だ、勝手に付いてくるのも駄目だ」

「……そう、すか……分かりました……でも、簡単には諦められないっす」

「……へぇ」

「だから、俺がこの先ずっと強くなって、きつねさんの仲間として認めてくれるくらい強くなったその時は……俺を仲間にしてくれますか?」


 諦めの悪い子だなぁジャック君。でも、そういうところは嫌いじゃない。僕としては、正義感溢れる勇者みたいな天才チート野郎と違って、こういう凡人が泥だらけになりながら、格好悪く努力でのし上がって来るような奴の方が、断然好ましい。

 まぁ努力に勝る才能なしとも言うし、それくらいなら認めても良いかな。まぁ、才能以上の努力なんて、結局は才能無くしてはあり得ないんだけどね。


「じゃそれで、精々頑張ると良いよ。のんびりしてたら置いてくからね」

「ッ! は、はい!」


 よし、とりあえずジャック君には今後会わない様にしよう。仲間だ努力だ言ったけれど、結局面倒だし、昨日の大泣きされて精神的に疲れたことは忘れてないからね。見かけたら見なかったふりして逃げよう。強くなったかどうかなんて、遠目でも『ステータス鑑定』で見れるし。


「それじゃ、ジャック君。頑張ってね」

「はい……きつねさん、ありがとうございました」


 話も着いた所で、ジャック君退室。頭を下げる彼に、僕はひらひらと手を振って見送った。

 そして、入れ替わるようにレイラちゃんとリーシェちゃんが入ってきた。荷物も持っている様だし、どうやら出発の準備は整っているらしい。


「じゃ、そろそろ出発しようか。ニコちゃんはまだ寝てるけど……ヒグルドさんが抱っこして運べば良いでしょ」

「ああ、任せてくれ」

「レイラちゃん、リーシェちゃん、人数が増えたから食料を補充して、馬車を取りに行くよ。早々にこんな街からおさらばしよう」

「ああ、分かった」

「はぁい♡」


 僕の指示に皆が頷いた所で、ようやくこの街を去ることが出来る。元々はちょっと立ち寄って、すぐに出る予定だったんだけどなぁ。随分と時間を喰ったものだ。

 でもまぁ、得るものも多かったってことで、再出発には大分良い感じの空気だと思う。


 そして、僕達はこの街を発つ為に、宿を出た。


 


 ◇ ◇ ◇




 一方その頃。勇者達もまた、各々で朝を迎えていた。


 現在勇者一行の中で起きているのは、勇者とジークだ。彼らは出発してから毎朝、試合形式で朝の訓練をしている。基礎は十分備わっている勇者としては、実戦経験を積まなければならない以上、殺意を持って相手をしてくれるジークとの朝練は、かなりの経験値になっていた。


 そのおかげもあって、鍛えられた高い基礎能力と、実践形式で積まれた柔軟な思考とが合わさって、勇者凪は、数日ながらに凄まじい成長を遂げていた。

 視線だけではなく、感覚と気配で相手の動きを感じ取り、一手先二手先を読む。時には牽制とフェイクを交えて、自身の本命の一撃を隠す事を覚えた。

 勿論、基礎ステータスも大幅に向上し、魔獣との戦闘も難なくこなせるようになっており、魔王や魔族についての知識も、巫女のセシルから学んでいる。


「はぁ……はぁ……!」

「っ……ふぅ……大分、お前さんも強くなったなぁ……そろそろ俺もやべぇかもな」

「っははは……いやいや、まだまだ敵いそうにない……っよ!」


 大の字になって倒れていた凪は、ジークの言葉にそう言い返して、上体を起こした。汗を拭って、剣を鞘に納める。乱れた呼吸を整えながら、悔し半分尊敬半分の苦笑を漏らした。


 そして呼吸が整った所で、凪は視線をジークから別の方へと移した。


「はぁっ!! ふっ!!」

「次、行くよ!」

「はい!」


 そこには、自分たちよりも早く起きて訓練を始めていた、ルルとフィニアがいる。どれほど長い間訓練していたのか分からないが、ルルは汗だくで、動くたびに珠の様な汗が地面に落ちている。獣人故なのか、体力が多いようで、凪達が起きて来てからずっと動きっぱなしだ。

 フィニアの魔法を躱し、光魔法で作られた魔力玉を剣で斬るという訓練だ。フィニアは攻撃に、相手を吹っ飛ばす光の下級魔法を使用しており、ルルが斬る的は、光るだけの魔力玉、攻撃力は一切ない。

 だが、攻撃の光魔法と的の光魔法は、見た目では見分けが付かない。しかも数が多い上に、攻撃の速度も速い。一瞬で的か攻撃かを判断し、正確に的だけを斬る眼が必要になる。


 だが、ルルは地面を蹴り続ける。迫りくる光弾を一瞬で判断、躱し、斬り、そして体力の続く限りそれを繰り返す。その動きは、勇者である凪から見ても、ジークから見ても、華麗で、凄まじい気迫を感じた。

 しかも、恐ろしいのはその伸び代が見えないところだ。剣を振るう度に、無駄が消え、洗練されていくような感覚を覚える。


 おそらく、凪と一騎打ちで勝負すれば凪が勝つだろうが、それでもかなり互角の勝負を繰り広げるだろう。それほどまでに、彼女の強くなりたいという想いの強さと、溢れる才能は凄まじい。


「……凄いなあの子……」

「ああ、ありゃお前さんとは違う意味で、天才だろうな……だが、ちょいと無茶し過ぎな気もする……身体壊さねぇと良いんだが」

「……そうだな」


 それからセシルとシルフィが起きてくるまでの一時間、ルルとフィニアの特訓は続いた。


 そして、現在の彼らのステータスはこうだ。



 ◇ステータス◇


 名前:芹沢凪

 性別:男 Lv72(↑12UP)

 筋力:12030

 体力:13400

 耐性:310:STOP!

 敏捷:13800

 魔力:6780


 【称号】

 『勇者』


 【スキル】

 『剣術Lv7』

 『身体強化Lv6』

 『俊足』

 『威圧』

 『魔力操作Lv3』

 『天賦の才』

 『直感Lv4』

 『不屈』

 『心眼Lv3』

 『隠蔽Lv3』

 『索敵Lv3』

 『見切りLv3』


 【固有スキル】

 『希望の光』


 ◇



 ◇ステータス◇


 名前:ルル・ソレイユ

 性別:女 Lv47(↑34UP)

 筋力:6890

 体力:10340

 耐性:100:STOP!

 敏捷:7950

 魔力:5670


 【称号】

  なし


 【スキル】

 『小剣術Lv7』

 『身体強化Lv4』

 『見切りLv4』

 『心眼Lv4』

 『直感Lv4』

 『野生』

 『魔力操作Lv3』

 『不屈』


 【固有スキル】

  ――ネタバレなので見せられないよ!――

 ◇



 ◇ステータス◇


 名前:フィニア

 性別:女 Lv57(↑30UP)

 筋力:5640

 体力:7890

 耐性:300:STOP!

 敏捷:8020

 魔力:19800


 【称号】

 『片想いの妖精』


 【スキル】

 『光魔法Lv6』

 『魔力回復Lv6』

 『治癒魔法Lv5』

 『火魔法Lv6』

 『身体強化Lv4』

 『威圧』

 『魔力操作Lv5』

 『命中精度Lv4』

 『並列思考Lv4』

 『思慕強化Lv5』

 『障壁魔法Lv3』

 『高速機動Lv4』


 【固有スキル】

  ???


 ◇


 

 彼らは、そして彼女らは、桔音の予想以上のスピードで強くなっていた。

 今や、あのルルでさえ勇者に匹敵する実力を手にしている。現在はそれほどステータスは伸びず、レベルもそう上がらなくなってきているが、それでもステータスに限界は来ていない。もっと、もっと強くなりたいという想いだけで、彼女達はここまでのし上がってきたのだ。


 フィニアも、ルルも、強くなっている。それこそ、二人で組めば下級魔族ぐらい容易に打倒する事が出来る。


「大丈夫? ルルちゃん」

「はっ……! はぁっ……! だ……大丈夫、です……!」


 疲労したルルを、フィニアは心配する。魔力回復のスキルが高いフィニアは、魔法を使い続けても、ある程度時間が経てば回復する。それほど動いてはいない故に、体力はそう消費していない。動きっぱなしのルルよりは、それほど疲労していないのだ。


「あまり無理しちゃ駄目だよ……きつねさんが心配するよ?」

「っ……はい……でも、もっと強くならないと……きつね様に、もう……あんな顔させたくないんです……!」

「……ルルちゃん、今のルルちゃんを見たら、それこそきつねさんは悲しい顔をすると思うよ?」

「……すいません、ちょっと顔を洗ってきます……」


 だが、ルルは少しだけ変わった。自分に、勇者に付いていけと言ったあの時の桔音の顔が忘れられなくて、それを振り払うように、ひたすらに力を求めるようになった。フィニアも、ルルが倒れない様に訓練も多少手を抜いているが、それでもフィニアの見ていない所で一人、自主練をしているようでもあった。


 今のルルは、フィニアから見ても……少し危うかった。



ルルちゃんとフィニアちゃんの成長具合が半端無いですね。でもルルちゃんの様子が……?


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