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様々な決着

グロ表現有り、ご注意ください。

 若き勇敢なる新人冒険者の青年は、意識を失った。


 これは、彼が意識を失った瞬間のことだ。ゴブリンキングが棍棒を振りかぶった時、ゴブリンキングは気が付かなかった。いや、身体が大きく、またその肥えて膨らんだ大きなお腹を持っているこの魔獣だからこそ気が付かなかったのだろう。



 ―――その足下にいる、小さな怪物に。



 それは、小さな手だった。大人の男性の様にゴツゴツとした手であり、その手は手首の辺りから先はない。ただ、その手首の部分は人間の口になっていた。人間の様な唇があり、開けば歯も、舌もある。どういう体構造をしているのかは分からないが、ただ手の姿をした、小さな怪物だった。



 その怪物の名前は、『喰らい手』。



 世界中に全分布で数え切れないほど存在しており、確認されているだけでもその数およそ―――『60億』。その大部分が地中に潜んでおり、地上に出ているのはほんの一部だけ。

 だが、そのほんの一部と絶対に事を構えてはいけない。それは、人間、魔族、魔獣、魔王や勇者であっても、共通の認識であった。


 何故なら、その約60億いる喰らい手の全てが、念話の様に感覚的な物を共有しているからだ。そして、彼らはとても仲間意識が高い。たったの1体でも攻撃されれば、攻撃してきた対象を60億の喰らい手が攻撃対象として襲ってくる。


 そう、『60億』もの『喰らい手』が、『全員』で襲い掛かってくるのだ。


 それは、全世界を震撼させる恐怖の王、魔王ですらも恐れる事態。かつて一国をも潰してみせた史上最悪の脅威なのだ。


 ゴブリンキングはその脅威を前に、一線を―――踏み越えた。




「んぺっ……!」




 小さな、そんな呻き声が、ゴブリンキングの足の下から聞こえた。瞬間、ゴブリンキングは身体の奥底から湧き上がる様な恐怖に襲われた。自分が今、何を潰したのか悟ったのだ。


 ―――だが、始まったものは止められない。


 そこら中の地面が、まるで地雷が爆発する様に弾け跳ぶ。その中から現れたのは、無数の『喰らい手』。その手の色を真っ黒に染め上げ、普段の肌色などどこにもない。仲間が殺されたことの復讐劇が、始まる。


「ウゴッ……! ガァアア……!! ハ、ハナゼ!! グルナァァァアアア!!!」


 その巨大な身体に次から次へと喰らい付く喰らい手。どんどんその数を増やし、ゴブリンキングの体表が一切見えない程に、無数の喰らい手がその名の通りゴブリンキングを喰らっていた。


 肉を噛み千切る音、骨を噛み砕く音、そしてその猛威はゴブリンキングの周囲にいたゴブリンや、ゴブリンナイト達にも襲い掛かる。叫び声が響き渡り、阿鼻叫喚の光景が繰り広げられる。



 そして、



「けふっ」



 そんなゲップをしたかと思えば、その身体の色を肌色に戻した喰らい手達は、その姿をまた地面の中へと消したのだった。


 残されたのは、ゴブリンキング達の喰い散らかされた後の肉片と、何も手を付けられていない冒険者達の死体。生き残ったのは、気を失った若き新人冒険者の青年一人だけだった。




 ◇ ◇ ◇




「誰だ貴様……まさか、例の侵入者か?」

「やぁオルバ公爵、殺しに来たぜ」


 さて、部屋に入ったらそこに、初対面のオルバ公爵が居た。

 容姿としては、中年の疲れた様な顔に、良い物を食べて居るのが分かるほど太った腹、お世辞にもカッコいいとは言えない容姿をしている。


 言ってみれば、悪徳貴族の定番みたいな容姿をしていた。これで実力高い魔法使いというのだから世も末だよね。そういえば僕の耐性ステータスって魔法にも効くのかな? 魔法耐性的な言葉もあるけど、僕の耐性が物理のみだったらちょっと困るなぁ。


「……レイスはどうした?」

「会ってないよ? 二手に分かれたから僕じゃない方とやり合ってるんじゃない? もしかしたら死んでるかもしれないけど」

「……ふん、役立たずが」

「あはは! 聞いたリーシェちゃん? 役立たずが役立たずって……ぷっ……あはははははッ! 爆笑物だね!」

「お前、本当に良い性格してるな」


 だって、役に立たない男が殺人鬼に向かって役立たずとか、凄い笑える。本当に定番というか、テンプレな悪徳貴族の鏡だよこの人。


 すると、彼は机の上に置いてあった短剣を取ろうとした。とりあえず瘴気を鋭く尖らせて、短剣に伸びたその手を貫いて妨害。


「ぐあああ!!? き、貴様……!」

「いやいや、武器を取ろうとしてるのに黙って見てる訳ないじゃん」

「許さん……! 『雷の槍(ライトニングスピア)』!」


 魔法。オルバ公爵が無事な方の手を此方に向けて、呪文を唱えた。バチバチと雷の弾ける音が鳴り響き、掌の前に魔力が集まる。そして、その魔力が雷へと変質した。


 そして、その雷の塊が一筋の槍と化して―――放たれた。


「っく……!」


 咄嗟に瘴気を操作して、貫いたままのオルバ公爵の手を引く。そして僕の前にも瘴気の壁を作った。

 公爵の体勢が崩れ、その放たれた雷の槍は僕に当たる訳ではなかったけれど、展開した瘴気の壁にぶつかり、消えた。

 魔法耐性があるのか分からない以上、当たるわけにはいかない。下手すれば大ダメージを喰らう可能性もあるんだから。それにしても瘴気でガード出来て良かった……内心ちょっとドキドキしてたりして。でもまぁ、表情には出さない。ポーカーフェイスポーカーフェイスっと。


「なっ……!?」

「あはは、どうやら公爵の魔法は僕には通用しないみたいだね」


 そこで、僕は『不気味体質』を発動させた。


「ひっ……! あ、ああ、あああああ……!!? く、来るな!!」

「あはは、そんなに怯えないでくれよ。僕はただのHランク冒険者だぜ?」

「ぐっ…………っ……!」


 どうやらステータスが上がったからか、効果は抜群らしい。急に怯えた様な表情で僕から距離を取り始めた。魔法も効かなかった事もあるのかな? とにかく公爵は歯噛みしながら、気丈にも僕を睨みつける。


「えーと……オルバ公爵だっけ? 僕は貴族の偉さとか、格の大きさとか、良く分からないからさ……無礼は許してね?」

「…………貴様……何故あのガキに味方する……!」

「僕子供好きなんだよ。ほら、僕って保父さんに向いてるじゃない?」

「知らないが……」

「知っとけよ、相手の事くらい。あんな殺人鬼差し向けてくるくらいなんだからさ」


 飄々と答えた。まぁ本当は子供嫌いだけどね、ニコちゃんは除くけど。

 僕の将来の夢は世界征服とかどうかなぁと今考えてみた。やる気は起きないけどね。面倒事は嫌いなんだ。 面倒といえば、体力の無駄遣いって言うけど、だったら何をすれば無駄遣いにならないのかって話になるよね。夢を叶えるとかそれ自体体力使うし、寧ろ生きてるだけで体力使うよね。

 だったら、妄想してだらだらしているのって、寧ろ体力の有効活用とも言えるんじゃない?


 おっと、脱線しちゃった。とりあえず、殺さないと。そう考えて、僕はオルバ公爵に一歩近づいた。手を後ろに隠して、瘴気でナイフを作る。


「……く、来るな!」

「いやいや、公爵なんて大層な名前を持ってる人にこんな所で会うなんて幸運なわけだし、ゆっくりお話ししようよ」

「ッ……!」

「あはは、そう緊張しなくてもいいんだぜ? 僕は巷じゃフレンドリーな少年で通ってるんだよ、きっと仲良くなれるさ」


 なるべく刺激しない様に、僕はオルバ公爵に近づく。仲良くしよう、自分で思うにそんなフレンドリーな笑顔を浮かべていると思う。これならきっと向こうも油断してくれる筈だ。そこそこ楽に殺せるんじゃないかな? そう思いつつ、僕はオルバ公爵の目の前に足を踏み込む。そして彼の顔を覗きこむ様に見上げた。笑顔笑顔っと。


「ほら、公爵の好きな色って何? え? 僕? 僕は……赤い色以外ならなんでも好きかな?」


 そんな雑談を投げかけて、僕はオルバ公爵に向かって隠していたナイフを振り上げ、突き立てた。ずぶり、と肉を穿つ感触が伝わってくる。刺さったのは、公爵の太ったお腹だった。


「ぎっ……! ああああああああ!!」

「あ、ごめんごめん。心臓に刺したかったんだけど、焦っちゃったのかな? 外しちゃった……あれ、抜けない……」


 叫び声をあげる公爵に、僕は笑って謝る。そしてナイフを引き抜こうとしたら、何かに引っ掛かってるのか抜けない。どうやら公爵の筋肉と脂肪が締まってナイフを留めているらしい。


「んー……あ、こうすればいいのか。えい」

「んぎゃああああああああ!!!」


 瘴気のナイフだから、触れている部分の細胞を浸食して瘴気に変えた。そのおかげで公爵の腹の肉がそこそこ抉られたけど、ナイフが抜けた。ああ良かった良かった。

 あれ? スキル解除して再構成すればよかったんじゃない? 公爵には悪いことしちゃったかな? 反省反省、この失敗はちゃんと心に留めておこう。あと数分位は忘れない。


「さて……思わぬところで部分的に瘴気変換が出来る事が分かっちゃったわけだけど……どうやって殺そうかなぁ? リーシェちゃん良い案ある?」

「人殺しの方法を私に聞くな……それに、私はまだ人を殺す覚悟を持てそうにない」

「それもそっかぁ……元々は騎士志望だもんね、ごめんごめん。ていうか、それじゃ僕を止めたりしないの?」

「殺すのはどうかと思うが……その男の自業自得だとは思うからな」


 リーシェちゃんはどうやら人を殺すのは無理そうだ。まぁ、進んで人を殺したいと思う人も珍しいか、レイラちゃんとずっと一緒だったし、最近じゃレイスと会ったばかりだから、ちょっとその辺感覚が麻痺してたのかな?

 まぁいいや、僕としては今更人を殺すのも魔獣を殺すのも一緒だし。


「ぐっ……ぅう……! あああああ……!!」

「公爵、痛い? ごめんね、そろそろ殺すから」

「ひっ……! 止めろ……死にたくない……!」


 蹲って痛みに悶える公爵の前に、しゃがんでそう言うと、公爵は顔をぐしゃぐしゃにして死にたくないと言ってきた。こういう時、主人公とか勇者ならなんて言うかな? そう言って助けを求めた人々に、お前は何をした? とか?


 正直、そんなこと言うなら助けを求める人々をお前はちゃんと助けて来たんだろうな? って思う。違うよね、助けられたんだったら悪役を殺しになんてこないし。

 まぁどうしても助けられない状況だったとか事情はあるんだろうけど、殺しに来た時点で悪役と一緒だよね。とはいえ、僕は正義感とか持ち合わせてないし、自己満足で殺すから悪役でも良いんだけどね。


 少なくとも、公爵を殺せばニコちゃんとその父親は助かる訳だし、僕に何の損もない。後のその他大勢はどうでもいい。


「じゃ殺すね。どうやって死にたい? 死に方くらいは選ばせてあげるよ! 僕は優しいから」

「死にたくないぃ……! 助けてくれ……!」

「あ、うん。ごめんね、それは選択肢に入ってないや」


 そう言って、僕は今度こそ殺す為に、公爵の首にナイフを突き立てた。


「あッ………ッ……! ……ッッ!! 血……がッ、……ああ……あッ!!?」


 ナイフを引き抜くと、勢いよく血が噴き出した。手で押さえるも、ぶしゅぶしゅとその勢いは止まらない。叫び声をあげるも声にならない様子の公爵、身体が痙攣していた。

 そして、じたばたと身体を転がして苦しむ公爵に対して、僕は直ぐに死ねるように追撃をすることにした。この際だからこの人も瘴気に変えちゃおう。証拠隠滅じゃないけど、死体が無くなれば、後始末もしやすいだろう。


「それじゃ公爵、これから公爵の命は僕が有効活用するから安心して死んでいいよ!」


 僕は優しいからね、何の役にも立てずに死ぬのは公爵も嫌だろうし、せめて僕の役に立てる道を用意してあげた。うんうん、これなら公爵も安心して死ねるだろう。

 そう思いながら、僕は公爵の身体を瘴気で包み込み、その身体の全てを瘴気に変える。


「……ああッ……あああ……ぁぁぁ……ッ……!!!」


 叫び声が段々と小さくなり、最終的に聞こえなくなった後、瘴気を消すと、そこにはオルバ公爵の姿はなかった。あの猿と一緒で、全て瘴気に変わったらしい。これでクレアちゃんのお願いは全部達成かな?


「うん、これで良しっと……クレアちゃん終わったよ?」


 立ち上がり、僕は扉の近くに佇んで青褪めた顔をしているクレアちゃんに、笑顔でそう言った。



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