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親子とは何か

 あの、青い長髪の背の高い女性秘書は、僕達をオルバ公爵のいる部屋へと案内する間に、色々と事情を説明してくれるらしい。オルバ公爵がどういう人間なのか、そしてどうしてニコちゃんを狙うのか、ついでその目的等々全部だ。

 彼女が僕達の前を歩き、その後ろを僕もリーシェちゃんも付いて行く。一定の速度で、且つ僕達の歩く速度に合わせている所を見ると、彼女のサポートに関する能力は相当高いんじゃないだろうか。人間観察能力も秀でているように思える。


 そんな彼女の話は、まず自己紹介から始まった。


「まず私の名前は、クレア・ルマールといいます。オルバ公爵の秘書になったのは大体2年前です」

「あ、うん。僕の名前は――」

「存じ上げています。Hランク冒険者、きつね様」

「知ってるの?」

「ミニエラにいる妹の手紙で良く書かれていましたので」


 妹がいる、ということは、ミアちゃんの隣に座っていたあの青髪の受付嬢だろう。青い髪が似ているなぁと思っていたけれど、親族だったのか。というか、どんな風に話が伝わってるんだろう。ミアちゃんのおっぱい揉もうとしたし、色々やったからなぁ……悪評で伝わっていないと良いけど。


 そんな考えが表情から伝わったのか、クレアちゃんがクスッと笑った。


「妹の手紙では面白い冒険者がいるということばかりですよ。貴方が現れてからギルドの雰囲気が変わったとか、先輩が良く笑うようになったとか、そんなことが書かれていました。一度、会ってみたいと思っていたんですよ」

「そうなんだ……でも僕妹さんの名前知らないんだけど……」

「そうなんですか? ……まぁその話は置いておきましょう」


 一度会ってみたいと思っていたってなんか出会い系っぽいけど、そんなことを言われるとちょっと嬉しかったりする。足取りも気持ち軽くなっちゃうよ。


 リーシェちゃんに蹴られた。嫉妬かな? あ、違うな、これは真面目に話をしろっていう眼だ。


「……オルバ公爵は、元々グランディール王国内で軍事に関わる地位に就いていました。ですが、大きな侵略作戦で失敗し、その責任を取る為にその地位を剥奪されました。そして、本国からこの街の管理職を押し付けられ、不本意ながらにこの街の領主になりました」

「公爵って一番高い位だよね? 拒否する事は出来なかったの?」

「爵位と官職は別物ですので、公爵であろうと官職の地位で上に立つ者として、責任から逃げることは出来なかったんです」


 なるほど、そういうことか。爵位の高い貴族だとしても、その地位と軍事における地位は比例しないのか。

 弱肉強食の国であるグランディール王国だからこそ、軍事に関する責任問題には厳格なんだろうなぁ。オルバ公爵も責任逃れするのは出来ないってことか。


「ですが、オルバ公爵はかなり自尊心の高い方……本国を追い出されて辺境の街の管理職など、認めたくなかったのでしょう。時間が経つに連れて態度が高圧化し、周囲のものに当たる様になりました。時には暴力を振るい、酒に溺れる事も多々ありました」

「あはは、リストラされた夫みたい」

「りす……? まぁ、そういう訳で、彼は領主ではあるのですが、仕事を私や下の者に任せて権力を振りかざしています。正直、私も含めて兵士達や街の人々も付いていけないと思っているんです」


 だからオルバ公爵を排除しろってことなのかな。

 でも、それなら僕に頼るまでもないと思う。兵士達も不満を抱いているのなら、彼らを説得して味方にして、秘書の立場を利用して悪政の証拠を集めればいい。そうすれば、後はその証拠やオルバ公爵の現状をグランディール王国に、提示すれば自然と爵位も剥奪される筈だ。

 

 それでも、僕みたいなHランク冒険者に頼らなくてはならない理由がある。


 なら、きっと話はこれで終わりじゃないんだろう。

 それに、ニコちゃんを狙う理由も明らかになっていないし、兵士達を仲間に引き入れられない理由も、別にあると思う。今の話だけじゃ、この現状の説明は付かない。


「それで、話は終わりじゃないんだろう?」

「ええ……貴方方が保護している少女、ニコ・アークスをオルバ公爵が狙っている理由が、現状を複雑にしている原因です。勇者が召喚されたのはご存知でしょうか?」

「うん、良く知ってる」


 あったこともあるし、痛い目に遭わされたからね。今その名前が出た瞬間僕の瞳がジト眼になったよ、ていうか、あいつまた僕の邪魔するのかよ。居ても居なくても迷惑とか筋金入りだな。


「本来、勇者が召喚される際には時空間魔法を用いるのですが、今代の勇者召喚にはその時空間魔法の使い手が居なかったんです。元々、適性のある人間が希少な魔法ですから」

「ふーん……じゃあどうやって召喚したの?」

「グランディール王国王家には、代々『神官』という役職があります。時空間魔法の使い手がなれる役職なのですが……適性のある人材が居ない場合は、魔法使いの家柄の優秀な人材をその役職に置きます。そして、勇者召喚の時は『禁術』と呼ばれる魔法で時空間魔法の代替をするんです」


 『禁術』、ねぇ……明らかにリスクの高そうな代物っぽいけど、今回の勇者召喚じゃソレが使われたってことだよね。


「その魔法は、使用者の命と引き換えに発動します。故に、今代の『神官』は勇者召喚と同時に亡くなって居るんです」

「来て早々人殺しとは流石勇者モドキ、やることが違うね」

「ですが、『神官』が亡くなって……本国では新たな『神官』を用意しなくてはならなくなったんです」


 なんだか読めてきたぞ。『神官』が死んで、代わりが必要になったってことは分かったし、時空間魔法の適性のある人材が居ないということも分かった。

 時空間魔法というモノがどんな代物か分からないけど、その代替というのならやはり、魔法使いの家系の人材を使うんだろう。確証はないけれど多分、ニコちゃんがそれに当たるんだと思う。


「オルバ公爵は貴族ですが、それと同じで高い実力を持つ魔法使いでもあります。だからこそ、この『神官』の後継者の話に飛び付きました。貴方の保護している少女の家、アークス家も同じく魔法使いの家系、その御息女を新たな『神官』候補として本国に献上することで、オルバ公爵はグランディール王国へと返り咲こうとしているのです」

「軍事官職に就けずとも、神官の指導役として返り咲く事が出来れば、以前の威光を取り戻すことが出来るって訳か」

「ええ……もっと言えばニコ・アークスは未だ4歳。その年齢から魔法使いとして英才教育を施す事が出来れば、才能がなくとも成人する頃には並の魔法使いにも劣らぬ実力を手に入れることが出来る筈……そう考えたのでしょう。幼い頃に魔力を操ることが出来れば、その魔力量も大きく伸ばす事が出来ますから」


 なんだ、元を糺せば全部あの勇者気取りが悪いってことか。オルバ公爵も、地位を取り戻す為にニコちゃんを利用しようってのは少し不愉快ではあるけど、世の中にある理不尽は大体勇者気取りが悪い。うん、きっとそうだ。


 とはいえ、この話を聞く限りじゃますますニコちゃんは渡せないな。オルバ公爵にも少しお灸を据える必要があるみたいだ。このままニコちゃんを引渡したりしたら、ニコちゃんのこの先の人生オルバ公爵に食い潰されてしまう。

 多分、父親は殺されるだろうし、母親が生きているのか知らないけど、親と会う事も出来なくなると思う。それはいただけない。


「なるほどね、兵士達が反旗を翻さないのは、オルバ公爵が返り咲いた後のおこぼれを貰えるからかな?」

「はい、オルバ公爵が兵士達にそれをほのめかすような発言をしていました」

「そこで、僕達って訳か。ニコちゃんを保護した冒険者で、かつオルバ公爵に与していない、持って来いの立ち位置だね」

「オルバ公爵を殺していただいても、街から追い出していただいても構いません。後始末は私が全責任を負いますので、どうかお願い出来ないでしょうか?」


 つまりこれって使徒ちゃんの時と同じで、勇者気取りの後始末ってこと? うわぁ、そう考えると途端に面倒臭くなってきた。

 でも、このままじゃニコちゃんが楽しい子供時代を送れなくなるなぁ……僕の子供時代は全然楽しくなかったけどね。


 あのレイスを相手にするのも面倒だし、正直やらなくてもいいことだけど……まぁミニエラでも懇意にしてくれた青髪の受付嬢のお姉さんと、ニコちゃんに免じて、オルバ公爵を殺すか。話によると魔法使いらしいけど、Hランクと分かってて僕に頼むんだから、僕でも出来るんだろう。


「いいよ、オルバ公爵をぶっ殺せばいいんでしょ? やるやる、僕にやらせてよ、こんなの朝飯前だよ!」

「そんなにやる気満々で言うことではないと思うんですが……やってくれるなら構いません」

「リーシェちゃん、話聞いてた? ちょっとオルバ公爵ぶっ殺しに行くよ?」

「……ああ、聞いてたよ。ただなんでそんなに笑顔で言うのかちょっと分からないな」


 そして、僕達がオルバ公爵を殺すことを決めた所で、丁度クレアちゃんの足が大きな扉の前で止まった。どうやら、オルバ公爵のいる部屋に辿り着いたらしい。


「オルバ公爵はこの中に居ます……どうか、よろしくお願いします」

「うんうん任せておいて、僕は子供好きだから、子供の未来とその可能性を護ってあげないとね!」


 なんて、思ってもないことを言ってみたりして。

 子供時代に虐待を受けていた子供は、大人になってから自分の子供に虐待をするっていうけれど、僕の場合はどうなんだろう? 逆に、虐待してくる人から離れて行っちゃったからなぁ。


「じゃ行こうか、ちなみにこの中に殺人鬼とかいる?」

「いません」

「それは良かった」


 僕はそう言って、扉を開けて、中へと足を踏み入れた。




 ◇ ◇ ◇




 その頃、地下。レイラとレイスの勝負は、決着が付いていた。


 ニコ達のいる部屋の前に、両手を後ろに回して少し前屈みに佇むレイラの足下に、レイスは倒れていた。彼の身体には無数の刀傷があり、二撃目で数本髪を切られたが、レイラの肌には一切傷がない。

 そして、倒れた彼の頭を、レイラはその足で踏み付けていた。その表情はにんまりと満足気に笑っており、そしてレイスの意識は完全に途絶えている様だった。


 元々彼が持っていた抜き身の剣も、レイラの瘴気のナイフの前に砕け折れ、倒れた彼の身体の下から赤い血が流れ出ている。まだ生きているようだが、その命も時間の問題だ。あと一撃でも入れば、レイスは死ぬだろう。


「うふふうふふふ♡ 頑張ったねぇ♪ んちゅ……ん♪ まっずい♡」


 レイラは床を赤く染めるレイスの血を指で掬って舐めて、そう言う。

 やはり、どれほど限界を超えようと、殺人鬼程度では本当の怪物は殺せなかったのだ。レイラの圧倒的力の前に、殺人鬼は墜ちた。


「んー、でもでもきつね君の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の……ずぅっと半分位には美味しいかも? うふふうふふふ♪ あー楽しかった♡」


 すると、レイラはレイスの頭から足を退けて、くるりと踵を返す。そして、そのまま扉を開けた。


「ニコ、終わったよー♪ さ、行こ♡」

「れぃら……!」


 すると、中からニコが駆け寄ってきた。レイラの腰に抱き付いて、黒いワンピースを強く握りしめ、レイラのお腹にその顔を埋めた。

 きょとんとした表情を浮かべるレイラだが、ニコが震えながら顔を埋めているのを見て、何が何だが分からないがとりあえず、


「うふふっ♪ どうしたのー?」


 笑って抱きしめ返したのだった。


なんかレイラちゃんがニコちゃんに懐かれた様です。


次回、ゴブリンキングとかとか

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