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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第一章 生き延びる為に
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桔音の才能

 私は思想種、人の想いから生まれた特別な妖精だ。

 私の生みの親が私を生み出す程の強い想いを向けた相手は、薙刀桔音(なぎなた きつね)―――きつねさんだ。だから私は片想いの妖精、強く誰かを想う、至高にして最も尊い感情から生まれた妖精。その想いは、私の中に核としてある。

 だから私は見知らぬ私の生みの親である少女と同じで、きつねさんが大好きだ。厳密には、まだ会って一日も経っていないけれど、一目見た瞬間に私はきつねさんこそが少女の想い人だと確信していた。だって、きつねさんを見た瞬間に私もきつねさんが好きになったんだから、きっと『そう』に違いない。


 きつねさんは弱い。強力な力を持っているからと言って、まだまだ生まれたてで本当に強い者を相手にすれば足元にも及ばない私よりも、ずっと弱い。私と戦えば魔法なんて使うまでも無く勝つ事が出来るだろう。

 だから、私が護ってあげないと直ぐに死んでしまう。貧弱で、脆弱で、虚弱、吹けば簡単に消えてしまう小さな灯火(ともしび)みたいな存在だから。


 森の中、きつねさんは生きようと必死だった。見た目や言動からは全く焦りや不安が汲み取れないけれど、きつねさんの瞳はいつだって逆境の中生き抜こうと必死だった。狼に襲われても諦めない、大蜘蛛と対峙しても恐れない、何に縋りついてでも生きようとする姿は、とても醜く、痛々しい。

 そんなきつねさんの命を奪おうと、また魔獣が現れた。不意打ちにきつねさんを攻撃して、きつねさんは毒で動けなくなった。現れたのは蜂の集団。ブンブンと羽音が不快な音になって、近づいてくる。



 ―――護らないと



 そんな考えが頭を埋め尽くした。きつねさんは死なせちゃいけない、だって、きつねさんは今……『独り』だもん。誰も見てない、誰も知らない、たった一人、孤独に死ぬなんて――――私が許さない。


 そんな時、きつねさんが狐のお面(私の命)を背に隠した。麻痺した身体を無理矢理動かして取った行動が、私を護ることだなんて、これ以上なく嬉しかった。私の中にあるきつねさんを想う感情が膨れ上がる。胸が張り裂けそうなほどだった。


 ―――今ならば、なんだって出来る気がした。

 

 気が付けば私は動きだしていた。自慢の羽をはためかせて、近づいて来ている蜂に突撃する。きつねさんは、死なせない。


「――――妖精の聖歌(フェアリートーチ)!」


 普通なら溜めが必要な魔法だけど、今の私はこの魔法を即座に組み立て、発動出来た。想いの妖精は強い想いから生まれた妖精―――故に、その想いと同じ想いを妖精自身が抱いた時、更に強い力を発揮する事が出来る。

 小さく、白い焔がまとめて数匹の蜂を消滅させる。塵も残さない勢い、空中で完全燃焼し、地面に落ちる前に燃え尽きた。


「不意打ち上等! 虫共掛かっておいで! この美少女妖精フィニアちゃんが一匹残らず相手してやんよっ!」


 きつねさんを好きだと思う気持ち、それが私の原動力。この想いが私を強くする!



 ◇ ◇ ◇



 フィニアが桔音の下を離れて、蜂達との戦闘を開始したことは、桔音にも理解出来た。炎の光と攻撃が当たった音が聞こえるからだ。森の中で火を使うのは山火事的な危険が伴うものの、そうしなければ死ぬのだからあまり禁止出来るものではない。

 が、今この状態でフィニアと距離を離されるのは少し不安が募る。不幸なことに、桔音は今麻痺毒で指一本動けない状態なのだ、今別の蜂からもう一発喰らったりしようものなら、


 今度は筋肉や神経系が麻痺して心臓麻痺や心肺停止を引き起こす可能性がある。


 見た限りではあの蜂は十数匹いた。桔音の知識ならば、蜂は基本的に巣を中心に広い範囲で行動する。広範囲故に、一匹で活動している事もしばしば見かけることがある。

 だが、あれだけの数が集団で行動しているということと、先程の白い花が群生していることを考慮すれば、この場所は桔音にとって非常に不味い場所である可能性が高い。

 そう、それは、ここが『蜂の巣の近く』である可能性。もしもこの可能性が当たっているのだとすれば、フィニアが戦闘したことで発せられる戦闘音は蜂を刺激する。それはつまり、今いる蜂だけではなく―――最悪蜂の大軍が巣からやってくる可能性を高めるのだ。


「……ぐっ……くそ、動かねー……」


 何とか動いてみようとするが、やはり麻痺で身体は動いてくれない。筋肉を動かそうと脳が電気信号を送っても、痙攣した筋肉はそれを実行に移せない。

 桔音は何かこの状況を打破する手段が無いか、破れかぶれに『ステータス鑑定』を発動させた。


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音(ナギナタ キツネ)

 性別:男 Lv.1 《麻痺》

 筋力:10

 体力:30

 耐性:100

 敏捷:10

 魔力:20


 称号:『異世界人』

 スキル:『痛覚耐性Lv8』『不気味体質』『異世界言語翻訳』『ステータス鑑定』

 固有スキル:???

 PTメンバー:フィニア(妖精)


 ◇


 だが、何か変化がある訳ではない。状態異常の表示なのか、麻痺の表示が出ているが、それ以外は前と同じだ。

 

「くっそ……!」


 歯噛みする。なんの打開策も浮かばない。

 そんな桔音の耳に、最悪の音が聞こえた。


 ―――ブブブ……


 蜂の羽音。それも、大木を背にしている桔音の背後、ではない、正面からだ。フィニアが戦っている方向ではなく、目の前からだ。

 視線を上に上げてみれば、そこには一匹の蜂が浮遊していた。お尻に付いた円錐型の毒針が、桔音にその先端を向けている。


「………ステータス」


 桔音は苦し紛れに蜂のステータスを除く。


 ◇ステータス◇


 名前:阻害蜂(パルズィシグナル)

 種族:昆虫型魔獣 Lv5

 筋力:3

 体力:50

 耐性:15

 敏捷:60

 魔力:0


 スキル:『麻痺針』『群体行動』


 ◇


 この蜂は敏捷能力に関しては桔音よりも高い。おそらく、桔音が攻撃を当てようとしてもけして当たらない程の格差があるだろう。

 だが、見てみればこの蜂の筋力はたったの『3』だ。迄音はおかしいと思った。3、つまりは一般人並の自分よりも筋力において劣っているということだ。なのに、仮にも『耐性100』のステータスを持つ自分の身体を穿つ勢いで針を射出出来るとはどういうことだ。


「これはどういう……?」


 桔音は此処までの道中、フィニアの知る能力値についての知識を収集していた。その結果、『耐性』という能力値を分かりやすく表現すると、その人の『防御力』ということだと分かった。

 そして、フィニアの筋力が桔音の12倍であれだけの力を持っていることを踏まえると、桔音の耐性値はこの蜂の針を生身で受け止められる位の防御力である筈。


「まさか……ステータスの力を発揮出来てない……?」


 桔音は考える。もしかしたら何か見落としている部分があるのかもしれないと。耐性100の力を発揮出来ていないのかもしれないと。


 だが、考えている暇はなかった。


 蜂は、思考する桔音を敵とみなした。その針が射出される。


「―――っ!?」


 桔音はその瞬間、世界がスローモーションに見えた。針の先端が少しづつ近づいて来ている。その向かう先は桔音の眉間、確実に死亡コースまっしぐらだ。

 その時、桔音は思い出した。フィニアが魔法をどうやって使っているのかを。彼女は桔音が魔法を使う方法を聞いた時、生まれた時から知っていた、感覚で使えると分かっていたと答えた。


 つまり、意識の部分で桔音は自分の出来ると思っている事と表示されるステータスが噛み合っていないのだ。

 結果―――肉体が針を防げる筈がないと桔音が思っているから、針はステータスの差を越えて桔音の肉体を穿ったということだ。


(――――なら……)


 桔音はスローモーションの視界の中で、生きる望みをまだ捨てない。耐性100のステータスを信じ、桔音は迫る針が自身の肉体を穿てる筈が無いと信じた。思い込み、その針を生身一つで対抗する。


(まだ、死ねないんだよ……!!)


 針が桔音の眉間に触れた、そしてその勢いのままに桔音の肉を……



 ―――穿てなかった



 歯と歯をぶつけたような音が響き、蜂の毒針は桔音の肉体に弾かれ地面に落ちた。


「………耐性100……やるじゃない、僕」


 桔音はどっと吹き出る汗を感じながら、自分のステータスとその使い方を理解した。痛みはなく、傷も無い。これが桔音が唯一得た耐性の才能の力、桔音はそれを体感して薄ら笑いを浮かべた。


 そして、毒などなかったかのように軽々と『立ち上がった』。


「耐性ってのは状態異常にも効くみたいだね」


 本当は効いていなかった毒を効いていると思い込んでいたから麻痺で動けなかったのだ。効かないと分かれば本来は効いていなかった毒など屁でもない。桔音は針を失った蜂を素手で捕らえた。どうやら蜂の方は桔音に攻撃が通らなかったことで困惑していたらしく、逃げるのが遅れてしまったようだ。


「針の無くなった君なんて、全然怖くない。針があっても怖くないけどね」


 桔音は、蜂の顔を覗き見て、薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

 その時、蜂は身体を硬直させる。桔音と対峙した蜘蛛が感じたように、危険な気配を感じ取ったからだ。蜂はジタバタともがく、なんでもいいからとにかく桔音から出来る限り距離を取りたかったのだ。


 不気味で、気持ち悪い


 桔音のスキルにもある『不気味体質』、これがこの危険な気配の正体だ。


 ―――『不気味体質』:敵と対峙し、精神的優位に立った時相手を威圧し心を圧し折るスキル。


 桔音が精神的に優位に立った時、レベル差に関係なく相手を威圧し精神的に圧倒する凶悪なスキルだ。桔音が敵と認識していないと発動しなかったり、精神的下位に立っている時は発動しなかったりと、発動には様々な条件があるが、決まれば確実に桔音の力になるスキルだ。


「ギ……ィ……!」


 蜂は桔音の手で抑えつけられ、桔音の眼を直視させられる。眼を離したいのに、離せないこの状況が拷問の様に感じていた。

 すると、桔音は口端を吊り上げながら蜂の羽を掴む。


「ありがとう蜂君、君のおかげでこれから少しはやっていけそうだ」


 ぶちぶちと音を立てて蜂の身体から羽を全て引き千切る。蜂は悲鳴を上げようとするが、桔音はそれで他の蜂が寄せ集まって来る危険性を防ぐために、蜂の口に地面に落ちている毒針を捻じ込んだ。

 すると、どうやら蜂の毒は蜂自身にも効くらしく、蜂はもがくのを止めて痙攣し始めた。


「あれ? てっきり自分の毒は効かないんだと思ってたよ。ごめんね」


 桔音は蜂を地面に落として興味が失せたとばかりに視線を切る。殺す気はなかった、桔音なりにステータスの使い方を教えてくれた蜂には感謝しているのだ。とはいえ、羽を失った蜂はこのまま他の魔獣によって捕食されるのだろう。

 だが蜂は安堵していた。桔音が目の前から姿を消してくれることがなにより安心出来た。例えこの後、自分が別の魔獣によって殺されるとしても、桔音が自分から離れてくれるのならそれでもいいと思う位だった。


「ああ、そうだよね、このまま放置すれば他の魔獣に食べられちゃうよね」


 言葉は理解出来ない蜂だが、桔音が振りかえった瞬間に絶望を感じた。少しづつ、桔音が歩み寄ってくる。人間で例えるのなら、首吊りの十三階段を登らされている様な気分だった。

 桔音が蜂を持ち上げる。


「だから、僕が殺してあげた方がいいよね?」

「ギ……!?」


 薄ら笑いから、悪意を感じ取った。不気味な気配が更に危険度を増す、蜂は無意識に痙攣とは別で身体を振るわせた。魔獣の本能が恐怖を感じ、死が避けられないことを確信した。


「さっきまでは殺さないつもりだったけど、君のことを考えたら殺した方が良いもんね――――それじゃ、さようなら」


 桔音は蜂を地面に落として、その上に自身の足を落とす。

 メキャグチャ、とグロテスクな音が響いて、桔音の足の下―――蜂は潰れて死んだ。

 蜂は自分に足が落ちてくる瞬間、精神が崩壊したのを感じていた。そして最後、桔音の足が自分の身体を踏みつぶして行く感覚を他人事のように感じながら、スイッチが切れるようにその命を失ったのだった。


「さて………ん?」


 桔音は蜂を殺して、自分の身体に違和感を感じた。すかさず『ステータス鑑定』で確認する。こういうとき便利だなぁと思いつつ、自分の状態を確認した。


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀 桔音(ナギナタ キツネ)

 性別:男 Lv4(↑3UP)

 筋力:40

 体力:60

 耐性:180

 敏捷:50

 魔力:20


 称号:『異世界人』

 スキル:『痛覚耐性Lv8』『不気味体質』『異世界言語翻訳』『ステータス鑑定』『不屈(NEW!)』『威圧(NEW!)』

 固有スキル:???

 PTメンバー:フィニア(妖精)


 ◇


 どうやらレベルが上がったらしい。魔獣を一匹殺した経験値と能力値の低さが幸いしてかなりのレベルアップとなったようだ。だがそれでもレベル1のフィニアのステータスに及ばない所がやはり桔音の弱者である事実を再確認させる。


「うーん……でもまぁ耐性上がったから良いとしようかな」

「きつねさぁぁぁぁん!!」

「おっと……!」


 そこへ蜂相手に無双してきたのか無傷のフィニアが返ってきた。フィニアが戦っていた場所を見ると、地面が焼け焦げている部分が所々あるが、蜂の死体や血は全く存在していなかった。全て焼却したようだ。

 フィニアちゃんマジ容赦ねぇー、と思いながら、桔音はこの状況を切り抜けられたことを素直に喜んだのだった。



戦闘後のフィニアのステータス。


◇ステータス◇


 名前:フィニア

 性別:女 Lv3(↑3UP)

 筋力:150

 体力:540

 耐性:130

 敏捷:180

 魔力:1550


 称号:『片想いの妖精』

 スキル:『光魔法Lv3』『魔力回復Lv2』『治癒魔法Lv3』『火魔法Lv3』

 固有スキル:???

 PTメンバー:◎薙刀桔音


 ◇

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