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赤い瞳と紅い髪

 調べて見ると、まぁ叩けば出る埃の様に出るわ出るわ、この街の近況や人々の抱える問題について様々な問題が出てきた。


 曰く、街の領主が街の住人の意見を取り入れようとしないだとか、曰く税金が例年高くなっているとか、曰く政治を取り仕切る貴族達の動きが最近怪しいだとか、そんな政治的な悪評が数多く出てくる。随分とこの街は腐った部分が多いみたいだ。それこそ、街の住人に隠し切れていない程には。


 でもその中でも気になる噂を聞いた。



 ―――とある貴族が領主の指示で没落させられ、逃亡している。



 『とある貴族』、とあるけれど、政治関連を取り締まっているのもまた『貴族』だ。なのに、その貴族の中でも格差問題が出ているらしい。没落させられた、というからには領主よりも二つ三つ格下の貴族……言えば下級貴族の家だろう。

 僕は貴族に詳しい訳ではないから、どんな貴族の家があって、どれほどの地位を得ているのかなんて知りもしない。


 でももしも、もしもだ。今僕の隣に居るニコちゃんの家名―――『アークス家』という貴族が存在しているとしたら、その噂の没落貴族というのは、ニコちゃんの家のことなんじゃないだろうか?

 そして、当然のことながら貴族であっても税金を納めるのは当然の義務。没落すれば税金を納められないことは自明の理だ。

 それなら騎士に追い回されるのも筋が通るし、家も差し押さえられているとすれば、帰る場所がないという事もなるだろうし、髭が伸びっぱなしだったのも容姿に気を回す余裕がなかったとなれば納得がいく。


 問題は、何故ニコちゃんの家を没落させる必要があったのか、だ。


 彼らの狙いが、あのニコちゃんのお父さんにあるんだとすれば、ニコちゃんをわざわざ探す必要はない。当然、あのザマじゃあのお父さんはとっくに捕まっているだろうし、それなら彼らの目的は『ニコ・アークス』にあるってことなんだろうけれど……ステータスを見る限りじゃ特別なスキルを持っているわけでもなければ、特殊な称号や、秀でたステータスもない。

 となると、普通の子供と違うのはやっぱり、『貴族の子供』だってことだけど……それが何になるのかなんて想像もつかない。

 というか没落させた時点でニコちゃんはもう『貴族』じゃないから、それにも意味が無くなって来るかも知れない。


「……ふーむ、推測でしかないけれど……向こうの目的が見えてこないなぁ」


 さてさて、相手の全容も目的も分からないこの状況で、僕は相手に目を付けられちゃったわけだけど、どうしたものかなぁ。

 

 とまぁそれはさておき、現在、僕とニコちゃんはとりあえず情報収集をしていてお腹が空いたから、昼食ということで宿へ戻って来ている。

 食料や馬車の購入の時に僕は有り金を使い果たしちゃったからね、宿に戻って購入した食料を料理して食べることにしたんだ。

 旅路用の食料を使うのは少し勿体ない気もするけれど、この際仕方ない。心苦しいけど、レイラちゃんの懐に頼ることにして、次の街で纏まったお金を稼ごう。


「おいしいかい?」

「んむッ……んく……うん」

「それは良かった」


 年齢は聞いていないけれど、恐らくは四歳位だと予想しているので、パンを使ってフレンチトースト紛いの物を作ってあげた。噛みやすいし、飲み込みやすいから喉に詰まらせる危険性も少ない筈だ。

 とはいえ初めて食べたのか、恐る恐る手を伸ばし、一口食べてからというもの、夢中で喰らい付くようになった。どうやら気に入ってくれたらしい。


 まぁ家の家事は全て僕がやっていたから、嫌でも料理の腕は上がったよ。中々大変だったけどね、あの頃は。


「……」

「……ああ、おかわりね」

「♪」


 ニコちゃんはどうやら良く良く図太い神経をしているらしい。僕達なんて良く知らない相手だろうし、自分がどういう状況に置かれているのかも分からないのに、ご飯には妥協しないんだね。はっきり言って逆に感心するよ。ある意味将来有望だ、大物になるよ、こういう子は。


 それにしても、レイラちゃんとリーシェちゃんはどうしてるかな。騎士達の様子を上手く探れていれば良いんだけど、もしかしたら僕の事を見つけたあの男からの情報で、何か面倒事に巻き込まれている可能性もある。

 レイラちゃんもいるからあまり心配はしていないけれど、リーシェちゃんと仲良くしている姿が想像出来ない。不安だなぁ……。




 ◇ ◇ ◇




 桔音達が住民達から領主の情報を収集している最中で、レイラとリーシェの行動は難航していた。


 というのも、真面目に情報収集をしようとするリーシェに対して、レイラのやる気が全力で急降下していたからだ。

 桔音と離れているというのが大きな要因だが、元々一人で活動していた頃は、自由気侭に活動していた彼女だ、桔音という―――『目的』であり、一番にして唯一の『興味対象』が傍にいない今、彼女は何をしたいという訳でもないのだ。


 無論、情報収集など面倒臭いのでやりたくはない。


「おいレイラ! 何処へ行くんだ!」

「えー、別に何処でも良いじゃない……私の勝手でしょ?」

「きつねに情報収集を頼まれただろう」

「めんどくさいんだもん……貴女がやってよ」


 レイラは桔音と話している時とは打って変わって、とてもぶっきらぼうな態度だった。まるで母親に叱られてむくれる子供の様に、リーシェの言葉に頬を膨らませてぶーたれている。

 赤い瞳を半眼にして、何処へ行く訳でもなくスタスタと歩いて行ってしまう。リーシェはそれを慌てて追いかけた。


「ま、待てレイラ!」


 リーシェはそんな自分勝手で我儘に行動するレイラに内心焦る。実は桔音にも仲良くする様に言われている、だから最低でも日常会話を交わすことくらいは出来るようになりたいと思っているのだ。

 だが、幾らリーシェが歩み寄ろうとレイラの方があちらこちらへと離れて行ってしまう故に、その距離は一向に縮まらない。どうしたものかと頭を抱えるばかりだ。


 すると、リーシェはレイラの行動を思い返して、一つのアイデアを捻りだす。

 騎士としての訓練で色っぽい話も無く、また恋愛的な話も苦手だった故に、レイラが桔音の事を好きだということは分かるのだが、それどうこうするなんてことは思い付かない。

 だが、この時ばかりは、彼女の頭の中でこれこそ正解だろうという案が出たのだ。



「―――あ、あーあ、情報収集を真剣にやって役に立てばきつねにもいっぱい褒められるのになぁー!」



 ぴたり、レイラの動きが止まった。

 

 そして、くるっとリーシェの方に顔を向ける。その表情は何処か嬉しそうで、先程までの不機嫌そうな表情はどこへやら、転じて上機嫌な表情になっていた。


「ほんと? きつね君褒めてくれるかな?」

「あ、ああきっと褒めてくれると、思う」

「ほんとに? きつね君頭撫でてくれるかな? ぎゅーってしてくれるかな?」

「う……それは分からないが、きっときつねも喜ぶと思うぞ?」

「そっかぁ……うふふっ♪ じゃあ情報収集頑張ろうかなぁ♪」


 レイラは何を想像したのか楽しげに笑うと、身体を揺らしながら上機嫌に歩いて行く。リーシェもそれを追うように歩きだす。

 リーシェはレイラが情報収集をするという言葉を出したことで、一先ずほっと安堵の息を吐く。


 だが、次の瞬間その表情は引き攣ることになる。何故なら、


 ―――レイラがその身体から黒い瘴気を溢れさせ、辺り一面に拡散させたからだ。


 その瞬間に思い出したのは、桔音から教えられたこと。レイラは瘴気を操る魔族であり、『赤い夜』である。そしてその瘴気には、人間を『赤い夜』へと変えることが出来る性質があると。

 今、レイラはそれを拡散させたのだ。否が応でも焦ってしまうのは仕方のないことだ。


「レイラ! 何をっ!?」

「んー? じょーほーしゅーしゅーだよ♪」


 だが、レイラは焦るリーシェとは対照的に、飄々とそう言った。

 彼女がやっているのは、何も感染させて『赤い夜』を量産しようということではない。彼女の使う瘴気には、あらゆる使い方と言うモノがある。


 例えば、瘴気を固めて物質化すること。


 例えば、瘴気を拡散させて空間把握をすること。


 例えば、瘴気で生物に干渉し、『赤い夜』へと変貌させること。


 今回は二つ目の空間把握の応用の様な使い方だ。拡散させた瘴気は目に見えない程に細かく空気に溶け、広範囲に散り散りとなる。

 レイラは今回それを空間把握ではなく、音の振動を感知して広範囲の音を集めることに使ったのだ。これにより、彼女は広範囲の会話や物音を集め、情報を集めたのだ。


「……周囲の人間に影響は無いのか?」

「無いよ、というか……『赤い夜(わたし)』は私だけ、下手に増やしてきつね君を好きになられたら面倒だもん―――殺さなくちゃいけなくなるでしょ♪」


 リーシェは、恋する乙女の様にとても可愛らしく笑ってそう言うレイラに対し、恐怖を抱いた。もしも、自分が桔音に恋をしたとしたら、おそらくレイラはどれほど自分と仲が良かったとしても自分を殺しただろう、そう確信出来た。


「……そうか、そう、だな」

「うふふうふふふ♪ それじゃあ頑張ろっか、情報収集♡ ね? リーシェ♪」


 そう言ったレイラの言葉には、桔音に対する気持ちが籠っていた。なにもかも、桔音の為。


 桔音が褒めてくれるなら、撫でてくれるなら、笑ってくれるなら、抱き締めてくれるなら、自分を見てくれるのなら、レイラはなんでもするだろう。人を食べるなと言われれば永遠に人を食べようとはしないだろう。魔王を殺せと言われれば殺しに行くだろう。代わりに、桔音に好意を抱いた者は、容赦なく殺す。フィニアといった例外もあるが、それ以外は確実に殺すだろう。彼女は、人間らしい恋心は芽生えたが、それでも―――Sランクの魔族であることには変わりは無いのだ。


 うふふと笑うレイラの赤い瞳の奥に、うっすらとハートマークを幻視したリーシェだった。


「……きつねの前とそうでない時では、別人の様だな……」


 リーシェは、レイラに聞こえない様にそう呟き、せめてレイラの邪魔にならない様に大人しくしていることにした。



 ◇



 それからしばらくして、彼女達も昼食の為に宿へと戻る。 


 だが、桔音の考えていたように、レイラとリーシェの仲は良くならなかった。寧ろ、リーシェとレイラの間には、人間と魔族という種族の壁が立ち塞がってしまったのかもしれない。



リーシェちゃんはレイラちゃんと仲良くなろうとしましたが、レイラちゃんのヤンデレ性質が発動した結果、失敗したようです。


桔音君が見ていない所では乙女レイラは消失する様です。



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