一難去ってまた一難
「……ふぅ、一休み……と」
それから川沿いに歩いて、桔音は洞穴を見つけた。中を探索してみたが、魔獣はおらず、また住みついている様な形跡もなかった。空もどっぷり暗くなっている故に、おそらく魔獣に襲われる事に関しては中々安心出来るのではないだろうか。
桔音は洞穴の壁に寄りかかりながら嘆息する。なんだかんだで今日はずっと歩きっぱなしの一日だった、こうして休息をとれるというのは大分気を落ち付かせることが出来た。
「……異世界、か……なんで僕がこの世界に来たのか未だに不明だけど、まぁ良くある話か」
どう考えても良くある話ではないが、桔音は考えても分からないことは考えても仕方が無い、と結論付けて思考を停止させた。
そして次にありがちな特典的な力がないかと思い至る。普通こういう展開には転生した、もしくはトリップした者になにかしらのチートないしちょっとした力が備わっているのが定番。もしかしたら、桔音にもそういった力があるのかもしれないと思ったのだ。
「一番メジャーな力としては……ステータス確認だよねー」
なにげなしに呟いた言葉。だが、その言葉を言い終わった瞬間に変化が起こった。桔音の頭の中に、やけに鮮明なパソコンの画面の様なものが浮かんだのだ。
「!」
そこには、こう書いてあった。
◇ステータス◇
名前:薙刀 桔音
性別:男 Lv1
筋力:10
体力:30
耐性:100
敏捷:10
魔力:20
称号:『異世界人』
スキル:『痛覚耐性Lv8』『不気味体質』『異世界言語翻訳』『ステータス鑑定』
固有スキル:???
PTメンバー:フィニア(妖精)
◇
「……これまた定番な」
元の世界で呼んだ一般的で健全なライトノベルで登場する転生者達が通常装備で持っていそうなステータス確認の力。桔音もまた、例に漏れずその力を付与されていたらしい。
桔音としてはこのファンタジーな世界で自分もファンタジーな存在になっていたことに若干の興奮と落胆を覚えた。とりあえず、このステータス確認能力のおかげで知り得たことは、桔音に一つの幸福と一つの不幸を与えた。
幸福だったのは、『異世界言語翻訳』というスキルがあったこと。これは恐らく、この異世界に存在する人との会話を翻訳してくれるスキルとみていいだろう。これがあるのならこの先人に会ったとしても大丈夫そうだ。
不幸だったのは、ステータスの低さと武器になりそうなものが何一つ備わっていないことだ。これでは自分で身体測定出来る人物なだけだ。何の意味も無い。
ちなみに、お面を見ながらステータス確認と念じてみると、フィニアのステータスが頭の中に浮かんだ。
◇ステータス◇
名前:フィニア
性別:女 Lv1
筋力:120
体力:500
耐性:120
敏捷:150
魔力:1500
称号:『片想いの妖精』
スキル:『光魔法Lv3』『魔力回復Lv2』『治癒魔法Lv3』『火魔法Lv3』
固有スキル:???
PTメンバー:◎薙刀桔音
◇
フィニアのステータスは全てにおいて桔音を上回っていた。しかも魔力の高さが尋常でない。頼もしいとはいえ、若干負けた気がして少しだけ複雑な気分になった。こうしてみると、フィニアの腕力はどうやら通常の男子高校生である桔音の12倍はあるようなので、後々基準にする為に幾つか実験をさせてもらうとしよう、と桔音は考えをまとめた。
「さて……今日は寝ようかな……疲れたし」
桔音はステータス画面が脳内から消えたのを確認すると、そのまま急に襲い掛かってきた深い睡魔に身を任せて意識をゆっくりと落として行った。
(あー……これ死んだ時に似てる、成程確かに眠る様なものだったなぁ……)
桔音は眠リに