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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第四章 引き裂かれる絆

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巫女と赤い夜の違い

桔音と凪の夜
 目を覚まして、最初に目に入ったのはレイラちゃんの顔だった。しかも、凄く近い。というかどんどん近づいてくる。とりあえず不愉快だったから彼女の顔を掴んで押し返す。

「あはっ♪ 起きちゃった? うふふ、うふふふ……でもだぁめ♡ もうすぐ今日が終わっちゃうからぁ……ちゅー♡」
「んむっ……ぷはっ……成程、そういうことか……」

 どうやら今日の分のキスを勝手にいただこうとしていたらしい。まぁ約束だから仕方ないか。
 キスしたから良いだろうと思って上体を起こすと、レイラちゃんは僕の足の上に乗ったままどこうとはしない。所謂向かい合うように座る体勢、対面座位の体勢になっている。

「どいてよレイラちゃん」
「やー♡ 舐めさせてくれるなら良いよ?」
「……何処を?」
「うふふうふふふ……何処が良い?」

 舌舐めずりしていやらしく、妖艶に笑うレイラちゃん。良く見れば赤い瞳にハートマークが浮かんで、頬も紅潮している。更に言えば涎も垂れて瘴気も漏れている。近いから熱い吐息がもろに当たる。
 なんだこれ、起きたらいきなり発情度最高潮のレイラちゃんがいるとかどんな悪夢だ。

 というか、此処何処だ? 僕が寝ていたのはどうやらベッドのようだけど、フィニアちゃん達は何処だ? レイラちゃんの言葉を汲み取ってみれば、今はどうやら夜なんだろうけれど、それ以外分からないな。情報が少ない。

「レイラちゃん、他の皆は?」
「お風呂♡」
「え、お風呂?」

 まさかのお風呂。
 実はこの世界に来てから、僕達はお風呂に入っていない。正直汗臭くて嫌ではあったんだけれど、貴族の金持ちとか富裕層しか入れないとエイラさんが言ってたから諦めたのに、お風呂があるだって?
 そしてフィニアちゃん達はお風呂に行ってるの? え、つまりリーシェちゃんとルルちゃんがお風呂に入ってるって事? 無論全裸だろうな?

「よし、レイラちゃんお風呂に行こう」
「え、一緒に入るってこと? うふ、うふふふ……♡ いいよいいよぉ……きつね君の身体隅々まで洗ってあげるぅ……舌で♡」
「馬鹿かお前は、女の子がお風呂に入ってるんだぞ、覗きに行くに決まってるじゃないか」
「あれ、なんかいつもと違う……」

 威風堂々と浴場へと向かうべくレイラちゃんを押しのけ立ちあがる。
 レイラちゃんがなんか珍しく引いている気がするけどそんなことは構っていられない。風呂、美少女ときたら覗きだろう、僕は小学三年生の時にクラスの男子達によって女子更衣室へ放り込まれた時からそういうのに抵抗ないからね。当時の女子全員からボッコボコにされたけど、思春期入ってから寧ろ故意に入って行くようになったよ僕。笑って謝ったら許してくれたし。

 過去のいじめを糧に成長してるんだよ。そういう経験を全部自分の成長に変換して来たんだ!

「ほら行くよ、皆が上がって来る前に」
「えー……でもフィニア達がお風呂に行ったの結構前だよ?」

 レイラちゃんのその言葉と同時、僕のいた部屋の扉が開いた。入って来たのは湯上りで髪を濡らしたリーシェちゃん達。どうやら上がってしまったらしい。僕は膝から崩れ落ち、その場に四つん這いになって絶望した。
 何故僕は寝ていたんだ。チャンスはいくらでもあったのに!!

「どうしたんだきつね? そんな打ちひしがれた様な顔して」
「きつねさんきつねさん! 凄いよ! 広くてカポーンな熱いお湯がね!」
「ごめん、フィニアちゃん。なんとなく伝わるけど全然分からない」
「きつね様……大丈夫ですか?」

 ルルちゃんが四つん這いに打ちひしがれている僕の横にしゃがんで心配そうに聞いてくる。ごめんね、心配してくれるのはあれだけど、覗けなかったのが悔しかっただけだから。罪悪感半端ないから。

 まぁ出てしまったのなら仕方がないか……とりあえずギルドでの一幕からどうなったのかを教えてもらおう。此処が何処なのかも含めてね。


 ◇ ◇ ◇


「なるほど、あの時の子が怒っていたのはミアちゃんにだったのか」
「いやお前にだろ」

 話を聞く限り、あの後僕はルーナ・セルヴァインとかいうロリ巨乳の右ストレートで気絶したらしい。痛みは無くても脳が揺れれば気絶しちゃうからね、仕方ない。
 で、結局リーシェちゃんが依頼達成手続きを終えて、報酬を貰ったらしい。女冒険者Bは報酬の2割を渡したらすぐに何処かへ行ってしまったとのこと。まぁアレ以上レイラちゃんと一緒に居たくはないだろうから、当然か。

「そして、気絶したきつねを連れて宿を探したんだが……どこも空いてなくてな、結局此処の3人部屋を一室しか借りられなかった」
「お風呂は?」
「ああ、グランディールではお風呂は一般家庭にも浸透しているから、宿でも普通に備え付けてあるんだ」

 なるほど……ん? ということはこの3人部屋で僕達一緒に寝るってこと? ベッドも3つ、となればフィニアちゃんは大丈夫としても最低2人は一緒のベッドで寝るってことだよね。
 勿論レイラちゃんは1人で寝て貰おう、当然だよね、この子と一緒のベッドで寝るとか自殺行為だし。

「寝るのってどうなってるの?」
「ん、ああ……一応レイラは1人で寝て貰うとして……きつねはフィニアと一つのベッドを使ってくれ、ルルは私ともう一つのベッドを使えば良い。さ、流石に私ときつねが一緒のベッドなのは恥ずかしいからな……」

 リーシェちゃんも同じ考えだったのかレイラちゃんは1人で寝て貰うとして、一番一緒にいる時間の長いフィニアちゃんを僕と同じベッドに寝て貰おうと考えているらしい。まぁそれが妥当だよね、フィニアちゃんのサイズなら問題ないし。
 それにしてもリーシェちゃんって意外と乙女なんだね、僕と一緒に寝るのを想像したのか顔を若干赤くして頬を掻いてる。ちょっと可愛いと思った。

「そっか、まぁいいや」
「ごほんっ……それで、明日はどうするんだ?」

 すると、寝床も決まった所で、明日の話になった。
 勇者と会うのが一番の目的だから、まずはどうやって勇者に会うかだけど……これは少し考えがある。彼が日本人だとすれば、僕の名前を出して面会したいと申し出れば会ってくれるんじゃないだろうか。この世界に和名の人はいないからね。
 だから、とりあえず明日は僕とフィニアちゃんで城へ行こうと思うんだけど、それ以外は特に何かする訳じゃないんだよねぇ。

「……とりあえずフィニアちゃんと一緒に僕は城へ行くよ。勇者に会うのが僕の目的だし。それ以外は特に予定もないし……うん、リーシェちゃん達は観光でもしててよ。ギルドで依頼を受けても良いし」
「城へか……まぁ面会出来るかは分からないが、やってみなければ分からないか……だが全員で行っても良いんじゃないのか?」
「あはは、勇者に会って用があるのは僕だけだし、いいよいいよ。あ、出来ればルルちゃんを色々と遊ばせてあげて欲しいな」

 隣にいるルルちゃんの頭を撫でると、しっとりと濡れた明るい茶色の髪の感触が伝わってくる。ルルちゃんは気持ちよさそうに目を細めつつ、首を傾げた。僕の言った事の意味が分かっていないんだろう。
 家族とはいえ、元は奴隷だ。それにまだ彼女は僕の元の世界じゃ遊び盛りの年齢なんだし、暇な時くらい好きに遊ばせてあげたい。良い機会だし、この際遊んで来て貰おうかな。

「明日はリーシェちゃんと一緒に好きに遊んでおいで」
「良いんですか?」
「うん良いよ、遠慮せずに楽しんでくると良いさ」

 ルルちゃんは少し僕の事をじっと見つめると、ふと力を緩めた様に微笑んだ。

「えへへ……分かりました」

 うんうん、素直でよろしい。今やルルちゃんだけだよ、こうしてやりとりしてて和む相手は。
 悪態吐いてくるフィニアちゃんは和むというより楽しい子だし、リーシェちゃんはなんだか真面目な所あるし、レイラちゃんに至っては論外だ。ルルちゃんは僕の癒しだね、オアシスルルの名前をあげよう。

「きつねくーん私はー?」
「森へ帰れば良いんじゃない?」
「うふふうふふふ、きつね君が一緒なら良いけどねぇ♡」
「じゃあいいや、ルルちゃん達に付いててあげてよ。誰か絡んできたら護ってあげて…………今晩、僕が寝てる間左手を好きなだけ舐める事を許してあげるから」

 レイラちゃんにルルちゃんの護衛を頼もうとしたら、その御褒美を求める視線を送ってきたから、とりあえず今晩だけ寝ている間左手舐める権利をあげた。ホント現金な子だな、発情するんじゃない。

「やったぁ♪ うふふうふふふ……でもでも一晩中舐めてたら私ぶっ壊れちゃうかもぉ……えへへぇ……♡」

 あーあ、明日朝起きたら手ベッタベタになってるなぁ、憂鬱だなぁ、寧ろぶっ壊れてればいいのに。そしたら袋に入れてどこか人のいない森とか山に捨てて来れるし。
 まぁなんにしても、だ。ようやく勇者の居るグランディール王国に来れた。勇者は城にいるようだし、会えるかどうかはまだ分からないけど……少しだけ近づいた。手掛かりがあるなしに関わらず、同じ異世界人である勇者に会えれば、それだけで十分有益な情報を聞ける筈だ。こっちに来た時の状況とか、此処に来てからのこととかね。

 どっちにしろ……明日だ。今日は明日に向けて身体を休めて、明日勇者に会いに行こう。

「じゃ、取り敢えずそんな感じで……今日は寝ようか」
「はーい」
「うん♪ 早く寝てねきつね君♡」
「分かった」
「分かりました」

 僕の言葉に皆が頷き、おのおのがベッドに入る。レイラちゃんだけは僕のベッドの横で息を荒げて待機しているけれど、気にしないでおこう。せめて行き過ぎて僕を起こさないようにしてほしいなぁ。
 勇者はもっと良い布団でかわいい女の子におやすみって言って貰ってるんだろうなぁ、畜生め。

「……おやすみ」
「おやすみっ♡」

 君じゃなきゃ良い気分だったよ、レイラちゃん。


 ◇ ◇ ◇


 一方勇者。

 凪は王様との話を終えて、一通り訓練メニューをこなした後、セシルと共に旅の支度を整えた。
 とはいっても彼の場合必要なものは城の中に大体揃っていたので、買い出しも必要なく、ただ旅に必要な荷物をまとめるだけで良かった。また王様に頼まれたセシルが手伝ったことといっても、何がどれだけ必要なのか大体の目安を教えた位。
 しかも高価な魔法具である『魔法袋(アイテムポーチ)』を貰い、片手で持てるポーチ並の大きさなのに、保有者の魔力量に応じて中に入る許容量が上がるという超便利なアイテムであるが故に、荷物もかさばらないときた。

 こういう要素もあって、彼の荷造りはすぐに終わった。

 それからは普通に自主訓練をして、汗を掻き、風呂に入った後すぐに夜が訪れた。実は芹沢凪、勇者である彼は驚くべきことに、


 ―――巫女、セシルと同室である。


 勇者に身も心も捧げ、サポートする役目であるセシルは部屋も同室で、何かあった時にすぐ力になれるようにしてあるのだ。
 故に、凪は最初セシルの寝息の音にドギマギして眠れなかったりしたのだが、今はなんとか慣れて眠れているが、セシルの寝巻きは薄手の浴衣なのでかなりドキドキするのは変わらない。

 しかも、凪はセシルよりも5分ほど速く起き、セシルには先に起きたら起こして欲しいと頼まれているので、必然的にセシルの寝顔を見ることになるのだが、セシルは結構寝返りを打つ方なので浴衣が肌蹴てその瑞々しく穢れの無い肌が露わになっていたりする。
 毎朝凪は鼻血を出さないように鋼の精神力で欲情しないよう頑張っている。『これも勇者としての訓練なのか……!?』 とか見当違いの事を思っていたりもする。

 そんな訳で、夜。

「ナギ様? どうかしましたか?」
「い、いや……なんでもない。早く寝よう」
「あ、はい……明日も早いですしね」

 セシルは裸を見られてから二日ほど、勇者の傍にいながら顔を赤くして目を合わせずにいたのだが、今はどうにか立ち直って頑張っている。
 しかし、なぜ寝巻きはこんなにも薄着なのに平気なんだと凪は思っている。女の考えは全然分からない。

「明日は出発前に冒険者ギルドへ行きましょう」
「冒険者ギルド?」
「はい、勇者というだけでは入国出来ない場所もありますので。幅広く入国出来る通行証になり得るギルドカードがあった方が何かと便利なんですよ」
「へぇ……この国にもギルドってあるのか?」
「勿論ありますよ。ギルドは世界各国に点在してますから」

 冒険者ギルドと聞いて、凪は元の世界で友人に勧められたRPGゲームを思い出す。依頼を受注してくれる場所ということだけは分かっているが、まさか本物を見られるとは思っていなかったので、少し内心嬉しかったりする。

「そうかぁ……冒険者って強いのかな?」
「さぁ……でも今のナギ様よりも強い方もいますよ。Sランクの冒険者は1人で一国と同等の戦力を持っていますから、Aランク魔族を相手にしても単独で撃破出来ます」
「すっげぇ……その人達って魔王を倒す旅をしてたら会えるかな?」
「どうでしょうね……でも、強くなればきっと会えますよ」

 凪は素直にSランクの冒険者に尊敬の念を抱いた。セシルが以前話した『赤い夜』もまたAランクの魔族、そして勇者である凪自身も勝つのは苦しいだろうと判断されているのだ。
 それを撃破出来るという格上の存在、普通なら手の届かない高みの存在。でも凪はそんな存在に近づきたいと思った。

「楽しみだ」
「変わってますね、ナギ様は」
「ッハハハ! まぁそうかもな、でも魔王魔王じゃ疲れちゃうだろう? 折角の旅なんだ、楽しんでいこうぜ?」
「……本当、変わってますよ」

 凪は子供の様な笑顔を浮かべ、それを見たセシルは思わずクスクスと笑ってしまった。
 そして、そこからこの先の旅の内容に思いを馳せて、まだ見ぬ世界に興奮した様子で話す凪とそれを優しく微笑みながら聞くセシル。

 遠足の前の子供とその母親の様な二人だが、そうして話している内に凪が眠ってしまった。興奮して話し疲れてしまったのだろう。そんな凪に、セシルはまだ優しくはにかむ。
 そして、眠ってしまった凪に近づいて掛け布団をちゃんと掛けてやると、優しい眼差しで凪の頭を優しく撫でる。

「おやすみなさい、ナギ様」

 そう言ったセシルの瞳は、少しだけ愛しいものを見る様な熱さを秘めており、その表情には少しだけ赤みが差していた。


次回、凪と桔音の邂逅。ようやく出会いますよ!
+注意+
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