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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第四章 引き裂かれる絆
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到着

着きます

 護衛依頼二日目、この日は初日とは違って多くの魔獣が姿を現した。

 森とは違って、岩山の多い岩石地帯を通る故に、虫系ではなく猿や狼等の動物系の魔獣が多く、その危険度もグランディールに近づいたからか多少上がり、そのほとんどがEランク魔獣。


 とはいえ、レイラちゃんとフィニアちゃんの強さはやっぱり異常で、現れる魔獣が悉く爆散したり肉片になったりと、快進撃を繰り返している。後衛のリーシェちゃんやルルちゃんも同じく、後方から現れる魔獣に対しては上手く対応しており、荷馬車が魔獣の妨害で止まることはなかった。

 まぁレイラちゃんは気まぐれに動いたり動かなかったりするんだけど、元々フィニアちゃんだけで事足りる魔獣達だから問題ない。


 今はレイラちゃんを御者のおじさんを挟んだ向こう側に座らせて、フィニアちゃんは僕の肩の上だ。中間地点に置いておかなくてもフィニアちゃんの飛行速度ならすぐに後方へと移動出来ると、僕の傍に来たんだ。


「グランディールまではあとどれくらいかな?」

「そうですねぇ……明日の昼頃には付くと思います」


 御者のおじさんに聞いてみれば、グランディール王国まではもうすぐそこまで来ているとのこと。

 魔獣の数も多かった時よりは減ったし、そろそろと着くだろう。フィニアちゃんも楽しみなのかぷらぷらと足を揺らして鼻歌を歌っている。


「勇者って、どんな人なんだろうねぇ」

「うん! 楽しみ!」


 勇者、僕と同じ異世界からやってきた人間。

 もしかしたら僕とは全く別の世界からやって来ている可能性もあるけれど、願うならば僕と同じ世界からやって来てるといいなぁ……とはいえ、勇者であることと、勇者でないこと、この差は元の世界に帰る条件として決定的なものになるかもしれない。

 もしも勇者でないと元の世界に帰れない、としたら……どうしようかな。諦めるつもりはないけれど、手掛かりが無くなってしまう。


 そこだけが不安で、そこだけが重要だ。僕はそれを確かめに行くんだから。


「ねぇねぇきつね君」

「……何かな、レイラちゃん」


 と、そこにレイラちゃんが話し掛けて来た。今日はもうキスしたから頼んでもやらないよ。一日1回って約束だからね。


「きつね君は、グランディール王国に行って何をするの?」


 そう聞いてくるレイラちゃん。ああ、そういえば勇者がいるって言ったけど何をするのかは言ってなかったっけ。まぁ言う必要もないんだけど、別に隠す様な事でもないか。

 勇者とか本当ムカつくからね、そんな立場で召喚されて、色々優遇されてんだろうなぁ。可愛い子に甲斐甲斐しく世話を焼いて貰ったり、信頼出来る仲間がいたりとかさ。僕なんか最初に遭ったの白熊レベルの狼だぜ? この差はなんだ。  


「皆に信頼されて、強くて、格好良くて、かわいい女の子にもモテて、美味しい物食べて暮らしてる幸せ者と、少しお友達になりに行くだけだよ」


 だから僕はレイラちゃんの問いにそう返した。


「へぇ~、うふふっ強くてカッコよくてかわいい女の子にモテるって、きつね君みたいっ♪」

「その根拠は?」

「きつね君は弱いけど何処か強いし、カッコいいし、私みたいな可愛い女の子にも好かれてるでしょ? ほらっ、きつね君でしょ♪」

「うわぁ……僕をカッコイイと言ってくれる君の言葉を否定しようとは思わないけれど、自分で自分を可愛いとか言うのって……ちょっと引くよ?」


 僕は僕をカッコいいとは思ってない、でも僕をカッコイイと思うのはレイラちゃんの勝手だから良いさ。でも自分を可愛いとか言うのはどれだけ自分に自信があるんだと思うよ、正直引くぜ。

 でも確かに可愛いからなんか何も言えないな。そういう強かさは僕的に買いだけどね。


「まぁ、ちょっとした旅行だと思ってくれて良いよ」

「ふーん……そっか♪ まぁきつね君が行くなら私も行くし、それでいいや♡」


 レイラちゃんってこの性格のまま人間だったら恋愛で三角関係になっても圧倒的な勝利を収める気がする。これだけダイレクトにアタック出来る上に直接告白する度胸もあるしね、なんで『赤い夜』になっちゃったんだろう、凄く残念だ。

 とはいえ、グランディール王国に着いたらルルちゃんには気を付けておかないといけないね。聞いた限りじゃあそこは奴隷に対する扱いが酷いみたいだし、勇者は違うかもしれないけど、ルルちゃんが歩いているだけで色々言ってくる奴がいると思う。

 そういう奴はちょっと気を付けないとね。


「ん、そろそろ野営の準備に取り掛かりやしょう……日が暮れ始めました」


 護衛依頼二日目、この日もなんの危険も無く過ぎ去って行った。



 ◇ ◇ ◇



 翌日、護衛依頼三日目の朝。僕達はまた出発前に一度集まった。

 女冒険者Bはレイラちゃんを見ると怯えた表情を浮かべたけれど、どうにか理性を取り戻したらしい。リーシェちゃん曰く、ルルちゃんが彼女の股間を殴ったらしい。すると、悶絶して気絶した女冒険者Bは、次目を覚ました時ある程度理性を取り戻していたとのこと。

 ルルちゃん、君は男女関係無く股間を強打するんだね。ちょっと教育間違えたかな。


 さて、それにしてもさっきから嫌な予感がしている。『直感』のスキルが僕の脳内に危険の警鐘を鳴り響かせているんだ。

 岩石地帯を越えて、しばらく進んだ所。岩山もなく、ただの平野となっている場所だけれど、なんだか嫌な気配がする。流石にレイラちゃんよりは小さな気配だけど、僕達の行く先を遮る可能性のある魔獣、か?


「……ん! これは美味しい奴だ!」


 すると、ぼーっとしていたレイラちゃんがいきなり眼を煌めかせた。何をするのかと思えば涎を垂らして行く先を眺めている。今にも飛び出しそうにうずうずしているのが分かる。

 どうやら魔獣が来ているのは確からしい。


 すると、少しづつ地面が揺れ始めた。地鳴りの音が響き渡り、荷馬車が一旦進行を止めた。そしてその揺れはどんどん大きくなって行く。


「っ……前か!」

「きつね!」

「きつね様!」


 僕が魔獣の位置を前だと確信した時、リーシェちゃんとルルちゃんがやってくる。その後ろには女冒険者Bも連れて来ている。どうやら危険を察知して援助にやってきてくれたらしい。既に三人とも武器を構えて、魔獣にそなえている。

 そして、更に揺れは大きくなり、一際大きな地鳴りの音が轟いた後、



 一瞬の沈黙が訪れた。



「―――来るよ!」



 僕が『直感』に従ってそう言った瞬間、全員が身構えると同時に―――


 ―――地面が爆発した。


 地面を盛り上げて地中から飛び出してきたのは、巨大なミミズ。荷馬車の数倍もの大きさ、全長およそ7mほどはあるんじゃないかと思う程に大きい。見上げなければ頭が見えない程に巨大で、強いと思った。

 頭には眼は無く、丸い巨大な口が開いており、その中には何本もの鋭い牙がうじゃうじゃと生えているのが見える。ミミズ、という印象を持ったけれど、此方の言い方では少し違うのかもしれない。


 ワーム、そう言った方が正しい見た目をしていた。


「ステータス……」


 ◇ステータス◇


 名前:土竜蚯蚓(ブロークンワーム)

 種族:蚯蚓(ミミズ)型魔獣

 筋力:2500

 体力:5000

 耐性:250

 敏捷:7800

 魔力:0


 ◇


 推定ランクにしてDランクの魔獣の中では中堅レベル。予想する限り敏捷性だけなら一つ上のCランクにも届くだろう。これで筋力がもっと上ならば魔族ともやりあえるのかもしれない。


「ブロークンワーム……!? なんでこんな化け物が……!」


 女冒険者Bがそう言って驚愕している。多分こんな所にDランクの魔獣が現れるなんて思っていなかったんだろう。僕だってそうだ。


 でも、


 普通の森で、『赤い夜』が出てくることもある。この程度、驚くには値しない。僕達の進む道を遮ってくるのなら、ただただ打ち破って進むだけだ。その為の力を、僕達は持っている。


「フィニアちゃんとレイラちゃん中心に攻撃、ルルちゃんとリーシェちゃんは隙を見て援護、そこの人は……」

「っ……」

「戦えないなら下がってて、やれるんだったら荷馬車と依頼人を護って」


 僕の視線に少し身体を硬直させた女冒険者B、僕はすぐに視線を切って最低限の指示を出した。レイラちゃんとのトラウマが彼女を戦わせられないというのなら正直下がってて欲しい。

 依頼人を殺されると困るので、僕は荷馬車の前に立ってワームが来ないように『不気味体質』を発動させた。逃げてくれるのならそれでいいのだけど、どうやらこのミミズは逃げてくれないらしい。

 このスキル、僕への印象を恐怖に変えてるはずだからこっちにミミズを来させることはないだろうけど、なんか違う気がする……っと集中しないと。


「うふふ、うふふふ♪」

「『炎の槍(ファイアランス)』!」


 すると、レイラちゃんが猛スピードで突撃し、その背後からフィニアちゃんが火魔法で攻撃する。先んじて炎の槍がミミズに当たり、肉を焼きながら削ぎ落した。そしてミミズがその痛みに叫び声を上げる間もなく、レイラちゃんが瘴気でミミズを持ちあげた。

 何をするのかと思ったら、大量の瘴気が一瞬で形を成し、巨大なギロチンを作りあげる。


「ちょっきんっ♡」


 レイラちゃんはギロチンの上に乗って笑顔を浮かべると、小さくそう言って刃を落とす。

 ズドン、と大きな音を立ててギロチンの刃はミミズの身体を途中で斬り落とす。


『ジュアアアアアア!!!』


 今度こそ叫び声を上げるミミズ、すると奴はその大きな口から何か液体を吐き出してきた。その液体の向かう先にいるのは、リーシェちゃんとルルちゃん、でも彼女達はその液体を躱してミミズに近づく。

 そして抜いた剣でもって蚯蚓の身体を切りつける。途中で身体が切られたことで起き上がれなくなったのか、芋虫の様に這って動くミミズは、更に切られたことでその身体を乱暴に動かした。


『ジュラァァアアア゛!!』


 身体を転がして切りつけてきたリーシェちゃんを喰らおうと追い掛けるミミズ、でもその動きはフィニアちゃんが食い止める。火魔法を使ってミミズの前を炎で遮り、リーシェちゃんの逃げる時間を稼ぐ。

 熱を感知したミミズはすぐにその身体を引いて炎を避ける。Sランクの魔族であるレイラちゃんと戦えば圧倒的な戦力差がある、ミミズはそれを本能で察知したのだろう。


 奴は自分が出て来た地面の穴から逃げようとした。


「させない!」


 でも、レイラちゃんではなくフィニアちゃんがそれを許さなかった。以前蜘蛛にやった様に、炎の竜巻を背負って、ミミズの正面から突撃する。あたかも炎のドリルのように進み、空気を焼く音と空気との摩擦音が轟音となって鳴り響く。

 そしてミミズの口から入った炎の竜巻は、フィニアちゃんが通り過ぎた所からギャリギャリと削る様な音を立てて肉を焼きながら削ぎ落す。まるで炎の回転刃のようだ。


 フィニアちゃんが炎の竜巻をミミズの中に置いてきたかのように、体内から飛び出してくる。

 後に残ったのは、良い感じに焼かれたミミズの肉の肉片と、焼け焦げる様な匂い、そして炎で熱せられた空気の熱だけだ。


「あーんっ……んー♡ 焼いた肉も美味しっ♡」


 レイラちゃんはフィニアちゃんが焼いた肉を拾って食べて恍惚とした表情を浮かべている。というかあの子の瘴気って何か物体に出来るとは分かっていたけど、あんな巨大なギロチンにも出来るんだ……ずるくない? それでアレを吸ったりしたら感染するんでしょ? ウイルスなんだし……やっぱりSランクか。


「……強すぎる……」

「ん、そうだねー……連携というよりは個人個人が隙を見て攻撃したような感じだけど……下手な連携させるよりも思い思いにやらせた方が強いからね」

「でもっ……あの白髪女は化け物よ!? 人間を殺して食べるなんて……!」


 女冒険者Bは、この戦いを見てあり得ない物を見た様な顔をする。そして僕の言葉にレイラちゃんをディスって来た。うんうん、その言葉は分かるよ。僕もそう思うもん。

 君はなにも間違ってない。彼女は化け物で、人殺しで、僕のストーカーです。


「うん、僕も………彼女はどうにかしてほしいよ……!」

「……アンタもその……苦労してんのね」


 なんだか思い出したら泣けて来た。肩を落として切実にそう言ったら、女冒険者Bは凄く気まずそうな表情で僕を励ましてきた。

 本当になんで僕なんだ、いつもいつもそうやって僕ばっか嫌な目に遭う。僕が何をしたっていうんだ。


 でもまぁ今更か。


「ってことで、ミミズ退治も終わったし……進もうか」


 ミミズの肉片をレイラちゃんが瘴気に乗せてどかし、荷馬車が再度進みだす。奴隷商人もミミズには驚いたようだが、僕達の強さも分かって大分安心出来たらしい。大分精神に余裕が生まれたようだ。


 そして、それからしばらく荷馬車は走り続け、昼を少し過ぎた頃、僕達はとうとうグランディール王国へと辿り着く事が出来た。



やっと着いた。勇者のいる国!

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