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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第三章 道案内は必要だから
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護衛依頼と受付嬢

 さて、あの後リーシェちゃんも交えてミニエラを出る話をして、全員に承諾を貰った所で、僕達は行動を開始した。

 レイラちゃんはどうやらグランディールまでの道案内には使えないようで、方向音痴なのは相変わらずらしい。故に役立たずの烙印を押させてもらった。付いてくるのに何の役にも立たないとは情けない。


 リーシェちゃんは魔族を見たことがないのか、白髪赤眼はまだいいとしても瘴気を自身の回りに浮遊させているレイラちゃんを見ても、多少不思議に思う位で何も言ってこなかった。気が付いていないのか、それとも気付いたうえで僕を信じてくれているのかは分からない。

 でもまぁ、それはどちらでもいいとして、レイラちゃんを外へ出すにはちょっと瘴気が邪魔臭いので、学ランを少し貸してあげる代わりに引っ込めて貰った。昼間はある程度理性的だし、そういうことも出来るみたいだ。


 とはいえ、彼女は仲間というよりは傍に置いておく方が安全なストーカーみたいなものだから、フィニアちゃん達みたいな扱いはしないけど、便利な点は使わせてもらおう。なにせ彼女は魔族でありながら、一応Cランクの冒険者だ。そのネームバリューは利用しないと。

 え? 酷い? こっちは命を常時狙われてる様なものなんだから良いじゃないか。いやいや、確かに好意を受けておきながら金を貢がせる奴みたいだけどさ、時と場合によるだろ? 僕の立場になったら分かるよ。


「すーはー……きつね君の匂い……♡ うふふ、うふふふ……最高……♪」

「……」


 こんなのが隣に居るんだぜ? 下手したらこの先ずっと付き纏ってくるんだぜ? 好感度マイナス振り切ってる奴が、自分の匂い嗅いで発情顔で笑ってんだぜ? 想像してみて欲しい、同僚とかクラスメイトに一人はいそうな、煩い奴とかウザい奴で。


「きつねさん……本当にこの女連れてくの?」

「我慢だフィニアちゃん……僕も嫌だ」

「うふふうふふふふ……♪」


 リーシェちゃんやルルちゃんですら引いているんだ、あのCランク冒険者のレイラ・ヴァーミリオンを。強い奴って皆こんな感じなのかな……だとしたら勇者とかもあんまり良い性格してないんじゃないのかな。

 例えば勇者の名前を利用してハーレム作ったり、強さを振りかざして暴君になったり、とか。うわ、途端に会いたくなくなってきた。


 まぁそんなことを考えながら、僕達はギルドへ向かっているところだ。

 グランディール王国へ行く為に、僕達が使う手段は『護衛依頼』を使うこと。Eランク以上の冒険者でないと受けられない依頼だから、フィニアちゃん達が適性ランクまで昇格するまで待とうと思っていたんだけど、都合よくCランク気取ったレイラちゃんがいるから受けられるようになった訳だ。

 『護衛依頼』とは、国と国の間を移動する際に、主に商人、稀に一般人が依頼する物。冒険者にその道中の護衛を頼む代わりに、荷馬車に冒険者を乗せて移動するのだ。

 まぁ報酬は別で現金を渡されるけど、移動の為の足と移動中の護衛という利害の一致が生み出した依頼だね。


「なぁきつね、本当にグランディールへ行くのか? 正直、もう少し強くなってからでも遅くはないと思うんだ……」

「まぁ戦闘大好きな奴らの国だし、心配するのも分かるけど……僕達は戦いに行くんじゃないよ。国である以上は戦わない人もいないとおかしいからね、僕達はそっち側なんだ」


 リーシェちゃんが不安げにそう言ってきたけれど、日夜唐突な決闘が頻発している訳でもあるまいし、まして商人や一般人がいない訳でもないだろう。

 であれば、冒険者だとしても戦いを避ければ平穏に過ごせる筈だ。まぁ勇者に関わる以上多少戦闘は避けられないかもしれないけどさ。


 一応僕達にはフィニアちゃんもいるし、不本意だけどレイラちゃんもいる。早々死ぬことはないでしょ。僕も即死でない限り、『臨死体験』が発動すれば一応死なずには済むしね。


「む……なら良いんだけど……」

「心配しなくても大丈夫だよ、それに強くなるなら護衛中にだってなれるさ」

「……分かった」


 ちょっと強引だけど、リーシェちゃんの不安も分かる。ちょっと急ぎ過ぎてる感もあるけど、僕としては勇者がグランディールを出ない内に会っておきたい。魔王退治に出られたら僕としては追い掛けようがないからね。


 と、そんな会話をしている内にギルドへ辿り着く。扉を開けて中に入ると、冒険者達の視線が僕達に集中した。

 そして僕を見て、全員が視線を切る。会話に戻る者もいれば、依頼書を見る者、食事をする者もいる。でも彼らは全員共通して、僕達の方を驚愕の表情で二度見してきた。

 

 多分原因は白髪赤眼学ラン装備のレイラちゃんと、成長したルルちゃんだろう。一目で分かる変化だしね。


「白髪だが……あれ、レイラ・ヴァーミリオンか?」

「なんできつねの服着てんだ?」

「あの獣人の娘っ子、第二次性徴迎えたのか……めでてぇな!」

「ああ、別嬪さんになったなァ、わははっ!」


 ざわざわとざわめく冒険者達。その反応はレイラちゃんとルルちゃんでかなり両極端だ。

 レイラちゃんに対しては疑問や困惑が、ルルちゃんに対しては祝福や笑い声が起こる。やっぱり獣人の成長は常識的な事なのか、ルルちゃんの成長に冒険者達がめでたいめでたいと笑っている。

 それを聞いて少し頬を紅潮させたルルちゃんだけど、頭をそれとなく撫でてあげたら、少し照れ臭そうにはにかんだ。うん、可愛い。


「きつねさん! これグランディール行きの護衛依頼だよ!」

「うん、ありがとフィニアちゃん」


 そうしていると、フィニアちゃんが先に依頼書を取って来てくれた。読んでもらうと、それはグランディール王国へ行く商人からの依頼だった。

 募集人数は8人、僕達を入れれば後3人だね。良い依頼だと思って、それをミアちゃんの所へと持って行く。


「ミアちゃん、これ受けさせて」

「はい……って、グランディール王国へ行かれるのですか?」

「うん」

「いや……でも……正気ですか? あそこは弱肉強食の国なんですよ?」

「それでも、行かなきゃならない理由が出来ちゃって」


 ミアちゃんもリーシェちゃんの様に心配してくれているらしい。最初にあった頃は変態呼ばわりだったのに、随分と変わったもんだ。僕としてはその胸を揉む事を諦めた訳じゃない―――わけじゃないよ、うん。


「胸を見つめすぎです」

「胸を見てたんじゃないよ、おっぱい見てたんだ」

「一緒ですよ変態様」


 おっと、どうやら見つめすぎたみたい。ミアちゃんがおっぱいを両手で隠してしまった。まぁそれはそれで胸の形が変わる様子が色っぽいんだけどね。

 これ以上やるとフィニアちゃん以上にレイラちゃんが何をしでかすか分からないから控えておく。


「うふふうふふふ……」


 笑い声が低いトーンになってるしね、相変わらず笑顔で匂いを嗅いでるけど。ミアちゃんも引いてるし、仲間だと思われたくないなぁ……他人のフリしたい。


「……なんでレイラ様の髪が白くなってるんですか?」

「一晩で老けたんだよ」

「なんで眼が赤いんですか?」

「寝不足で充血したんだよ」

「なんできつね様の服を着てるんですか?」

「そろそろ僕も返して欲しいんだけどね」


 ミアちゃんがなんだか呆れた様な眼でレイラちゃんを見ている。そして僕の方を見て、理由の説明には納得していないのか溜め息を吐いた。ミアちゃんは頭が良いからね、きっと僕が理由を説明しないことは分かるんだろう。

 でも、こんな変態行為を続ける子でも一応Cランク、実力は折り紙付きだ。だからなのか、ミアちゃんは依頼書の受注手続きを手早く済ませて、サインを書いた依頼書を渡してきた。


「グランディール王国のギルドに渡して下さい、それで依頼達成となります。護衛対象である商人の方からのサインを忘れると報酬が貰えないので、気を付けてくださいね」

「うん、ありがとう」

「出発は明日の朝です。ミニエラの入り口に集合となってますので、早めに行って他の冒険者の方と交流を深めるのも手かと」


 ああ、他に3人いるもんね。確かにそれはそうか。チームワークが大事だもんね。まぁプライド高い人とか居たら面倒だけど、いざとなったら『不気味体質』で脅そう。そういう人は一回痛い目見ないと分からないからね。


「それじゃミアちゃん、今日までお世話になったね。ありがとうございました」


 僕はミアちゃんにそう言って、薄ら笑いを浮かべる。

 正直な所、彼女には結構お世話になったからね、ちゃんとお礼は言っておかないと。

 すると、ミアちゃんは驚いた様な表情を浮かべて、少し間を空けて返事を返してきた。


「え? あっ…………はい、こちらこそ楽しかったですよ、きつね様のいるギルドは。お気を付けて―――いってらっしゃいませ」


 いつも通り送り出してくれるその言葉が、今日はなんだか深く染み入った気がした。



 ◇ ◇ ◇



 今日は、少しだけ座ってみる光景が違っている様な気がした。

 私はこのギルドの受付嬢として務めて、まだ数年だ。毎日毎日、依頼を受けにくる冒険者様達を笑顔で迎えるのも慣れて、受注手続きをして送り出す日々。私はそんな日常でもつまらないと思ったことはない。給料だってそれなりに良いし、同僚や後輩だって良い人ばかりだから。


 でも、こんな日常の中でもやっぱり慣れないことが一つある。

 冒険者というのは、命を掛けて魔獣や魔族と戦う仕事でもある故に、依頼を受注した冒険者が依頼中に殉職して、戻って来ない事も少なくない。

 中でも、私が受付した冒険者が死んだと聞いた時は、やっぱり少し思うところがある。つい先日まで生きて、話をした相手が死ぬというのはやっぱり辛い。それを体感して辞めていく子もいるのだから。


 だから、きつね様がこのギルドで仕事をし始めた時、これほど安心出来る冒険者はいないと思った。

 Hランクだから、命を落とす仕事は出来ない。嫌でも命を落とすことはないだろうと思えた。昇格試験も受けるつもりがない所も、立ち場とは裏腹に安心した部分がある。


 でも、いつしかきつね様が魔獣討伐の依頼を受けるようになった。フィニア様がFランクの冒険者になったからだ。受けるのは雑魚魔獣ばかりだったけれど、『赤い夜』の件もあったから今まで彼にだけは感じていなかった不安が、安心感を塗りつぶしていった。

 私は受付嬢だから、彼に昇格試験を勧める事もしなくてはならない。Hランクでも実力が伴っていると判断した場合、昇格試験を勧める義務があるからだ。断って欲しいと思いながらも勧めてみれば、彼は普通に断ってくれた。


 少し、安心感が戻った。


 でも、雑魚を倒して一週間が経った頃、彼はEランク魔獣『暴喰蜘蛛(アラクネ)』討伐に出て行った。この時私は、行かないで欲しいと心から思っていた。もしくは行っても良いから、どうか死なないで欲しいと思っていた。

 今まで話してきた冒険者達に、そんなことを思ったことはない。死んでしまうのは仕方がないと、半ば諦めた様な感覚で見送っていたから。



 だからだろう、私にとってきつね様は少し特別な存在なのだと自覚出来た。



 その日は、仕事も手に付かず、きつね様の無事だけを祈っていた。何処か上の空だったのか、冒険者の何人かが心配そうに声を掛けてくれたけれど、なんて返したのかは覚えていない。

 そして、きつね様が無事に帰ってきて、いつもの薄ら笑いが私の視界に入った時、心の中では凄く安堵していた。レイラ・ヴァーミリオンというCランクの冒険者がいた事の驚愕もあって、なんとかバレないようにいつも通りを装えたけれど、きつね様が帰って来た事が嬉しかった。


 そしてその日、私はきつね様が帰って行くのを見送りながら、理解する。多分、私にとって彼は弟みたいな存在なのだ。心配を掛ける弟のように思っていたのだ。

 彼は他の冒険者に比べて小柄だし、童顔で、親近感の湧く様な子供っぽい性格をしているから、きっとそんな風に思ってしまうのだろう。少なくとも、恋愛感情では無いことは確かだ。


 だから、翌日きつね様がこの国を出る護衛依頼を受けにきた際、少しその事実を受け入れられなかった。いや、気付かないふりをしていたというべきだろうか。

 いつも通りの薄ら笑いを見て、私は普段の様な会話を交わす。レイラ様が白髪赤眼になっている事よりも、きつね様の学ランを着て嬉しそうにしているのが少しむっとした。懐いていた弟が突然彼女を連れて来たような気分だった。


 そして、いつも通り受注処理をして送りだそうとしたところで、きつね様が言った。


『それじゃミアちゃん、今日までお世話になったね。ありがとうございました』


 その言葉で、ようやく気が付く。きつね様が、私の日常からいなくなる事実に。思わず茫然となり、少しの間頭の中が真っ白になった。


 でも、


 私は受付嬢、冒険者を送りだすのが私の役目。それが例え勝手に弟の様に思っているきつね様だとしても、同じ。行き先が弱肉強食のグランディール王国だとしても、私には止める事が出来ない。

 それを考えて、少しだけ言葉を呑む。そして、どうにか声を絞り出した。


 どうか、どうか死なないで欲しいと、生きて欲しいと、そう祈りながら、



「…………はい、こちらこそ楽しかったですよ、きつね様のいるギルドは。お気を付けて―――いってらっしゃいませ」



 いつも通りに送り出す。でも、今日のいってらっしゃいませには、今までにない感情が込められたと思う。

 行ってらっしゃい、願わくば生きてもう一度此処に帰って来て欲しい。


 その時は、きっと本当の笑顔でお帰りなさいと言える気がするから。



ミアちゃんは恋愛フラグじゃなく、お姉ちゃんフラグでした。



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