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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第三章 道案内は必要だから
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獣人の性質

「死を乗り越えて」の回にレイラちゃんの挿絵を挿入しました。

「ふむふむ……なるほど、さっぱり分からない」


 さてさて、『赤い夜』―――レイラちゃんとの一件もなんとか話を付けて、僕的にはそろそろ休めるかなぁって思った所に第二波が来た感じの展開に、全く付いていけないんだけど、順を追って整理してみようか。

 まず、僕はレイラちゃんを連れて、っていうか付いてくるのを無視して部屋に戻ってきた。それで部屋に入った瞬間『臨死体験』が解除されたんだ。その結果、どっと戻ってきた疲労感に眠っちゃったんだよね。多分体力がもう限界だったんだろう。


 で、朝目覚めたらフィニアちゃん達がおらず、隣でレイラちゃんが寝てた。はいおかしい。


「……いやおかしくはないのか……? この子僕の後ろから付いて来てたし、寝た後に潜り込んできた、とか……」


 今も隣で気持ちよさそうに眠っているレイラちゃんだけど、考えてみれば付いて来ていた彼女が此処にいてもおかしくはない。

 ただ、今夜は寝ないで欲しいと言っておいたフィニアちゃんが、レイラちゃんの入室を認める筈がない。彼女が『赤い夜』と知らない時でさえ険悪な表情をしていたし、ましてこの『赤い夜』モードの容姿のままレイラちゃんが入ってきたとしたら、戦闘になってもおかしくないんじゃないのかな?


 となると部屋にフィニアちゃん達がいないのが凄く不安になって来るんだけど。まさかまさか、食べたりしてないよね? 約束したよね? 食べられてたら本当に寝首掻くぞこいつ。


「うふ、うふふふ……きつねくーん……すぴー……♡」


 寝ながら発情してやがるし。怖いよもう、なんでこんな子ばっかり集まって来るんだ。勇者と会ったら退治してもらおうかな……それか勇者に惚れる可能性を信じて押し付けようかな。絶対僕より強いだろうし、異世界人だからきっと向こうの方が美味しい筈だ。多分。

 とはいえ、フィニアちゃん達は何処だろう?


「あ、起きられましたか、きつね様」


 とそこへ、なんだか長く明るい茶色の髪の少女が入ってきた。頭には犬耳、お尻には犬の尻尾が生えている。どことなくルルちゃんに似てるけど、ルルちゃんはもっと幼かった、大体小学三年生くらいだったかな。

 目の前の少女は大体中学三年生くらいの容姿をしてるし、ルルちゃんよりもずっと背が高い。もしかしてルルちゃんのお姉さん的な存在だったりする?


「……誰?」

「ルルです」


 素性を尋ねたら、その少女はルルと名乗った。ははは、同じ名前なんておかしな話だ。


「ルルちゃーん、きつねさん起きたー?」

「あ、フィニア様……はい、目覚められました……ただ、見知らぬ人が」

「ああー! この女、ちょっと目を離した隙に!!」


 すると、彼女の後ろからフィニアちゃんがすいーっと飛んできた。そしてレイラちゃんを見た瞬間に速度をあげ、レイラちゃんの顔面に頭突きをかました。


「あたっ……うぅーん……いたた……あっ♪ おはよっ、きつね君!」

「抱きつくな」


 ややこしくなってくるから。

 

 取り敢えず僕はレイラちゃんからフィニアちゃんを引き剥がし、ベッドから降りた。枕元に置いてあった狐面を頭に掛けて、とりあえず身体を伸ばしたり曲げたりして解す。そして、大きく深呼吸して首をコキッと一つ鳴らした。

 改めて周囲を見た。フィニアちゃんはいつも通り、そしてルルちゃんを名乗る中三位の少女がいて、白髪赤眼のレイラちゃんがベッドの上に座っている、と。

 さしあたって確かめるべきなのは、ルルちゃんだろう。


「ルルちゃんってこんな感じだったっけ?」

「私もびっくりした! 昨日の夜突然だったから!」


 どういうこと? そう聞いたら、フィニアちゃんは昨日の夜……僕が眠った後に起こったことを話し始めた。



 ◇ ◇ ◇



「な、なに……!?」


 私が眠ろうとした瞬間、隣から視界いっぱいに広がる光が現れた。びっくりして目を開けたら、そこには身体から光を放ってるルルちゃんがいる。

 困惑しながらも私はルルちゃんに起こった変化を理解するべく、ルルちゃんの身体に触れた。光は熱く感じたけど、ルルちゃんの身体に何か害を与えるような感覚は無かった。

 すると、ルルちゃんの身体が急激に『成長』し始めた! 見る見る内に彼女の顔から幼さが取れていき、身体も平坦なものから多少凹凸のある身体へと変化していくのが分かる。

 一体何が起こっているのか分からない、けどルルちゃんはきつねさんとは違って『獣人』だ。人間と違って何か特殊な性質を持っているのかもしれない。


 そして光が少しずつ収まり、完全に消えた時、ルルちゃんの身体はきつねさんよりも頭一つ小さいくらいにまで成長していた。驚愕で目を丸くして、言葉も出なかったけど、ルルちゃんの身体が呼吸で動いているのを見て、生きていることが分かったから少し安心出来た。


「……んん……フィニア様……?」

「あ……る、ルルちゃん」

「おはようございます……」


 すると、ルルちゃんが眼を覚ました。どきっとして言葉に詰まったけど、別に何も悪いことはしてないから萎縮する必要はない、と思い直す。そして挨拶をしてくるルルちゃんに、私はおはようと返した。

 目を覚ましたルルちゃんは、自分の身体の変化に気が付いて、困惑しながら自分の身体をぺたぺたと触れまわってた。


「え……え……? これって……」

「えと、さっきぱぁって光ってルルちゃんの身体が成長したんだけど……」

「第二次性徴……?」

「第、二次性徴? なにそれ?」


 どうやらルルちゃんは自分の身体に起こった変化について心当たりがあるようだった。ぽつりと彼女の口から出て来た言葉、『第二次性徴』というのはなんなんだろう?

 私は首を傾げながらそれについて聞いてみる、するとルルちゃんは小難しそうな表情を浮かべながら説明し始めた。


「えと……私達獣人というのは、人間と違って少し特殊で……狩りを生業としている人と、普通に暮らしている人とでは成長に差が出るんです」

「なるほど」

「普通に暮らしている人は、人間と同じで時間と共に身体が成長していくんですけど……狩りを生業としている人はレベルが上がるとそれに応じて身体が急成長するです」


 確か今日『暴喰蜘蛛(アラクネ)』退治でルルちゃんのレベルが上がったよね……だからそのレベルに応じて身体が成長したってこと?

 あはは、短い幼女期間だったね! とはいえ、ルルちゃん成長して随分と大人びた感じになったね。話すのも結構流暢になってきたし、というか声も少し子供っぽさが抜けた気がする。精神的にも成長したってことなのかな? 切った髪もかなり伸びたみたいだし。


「へぇ……あっ、ルルちゃんもう身体の痛みは大丈夫?」

「ああ、はい……え、と……大丈夫です」

「そっか! 良かった!」


 まぁなんにせよ、大事にならなくて良かった。ルルちゃんにとっても良い変化だったみたいだし、身体の痛みも取れたみたいだし、良かった良かった。


 すると、ルルちゃんがベッドから足を下ろして、立ち上がった。幼い時に貰った服がピチピチだ。膝丈まであったスカートの裾が、下着が見えないギリギリの所まで上がってる。それに胸元も成長して出て来た膨らみで突っ張っちゃってる。首輪は奴隷の成長に合わせてサイズが変わる様に作られてるみたいだから丁度良い大きさだけど、それ以外はなんだか色っぽくなっちゃってた。


「ちょっと……苦しいです」

「……エイラさんに服を貰い行こっか!」


 それから私達はエイラさんの所へ行って、成長したルルちゃんを見たエイラさんによるファッションショーが朝まで続けられることになるのだった。



 ◇ ◇ ◇



「で、今帰ってきた所ってことか……」

「うん、数着服を貰ったよ!」

「てことは……マジでルルちゃんなんだ」

「はい、すいません驚かせてしまい……」


 フィニアちゃんの説明を受けて、僕はそんなに驚いていなかった。ファンタジーだからそういうこともあるだろうと思ってたしね。寧ろ、ルルちゃんの身体が成長するくらいなら時間と共に起こり得ることだった訳だし、それが遅いか速いかの違いだから別に構わない。

 まぁ多少ステータスにも成長補正が入るだろうし、それはそれで僕達にとっては得になるから良いとしよう。


「まぁそれは良いよ。こっちはもっと大変だし……」

「ん? あはっ♪」


 僕はちらっとレイラちゃんを見る。すると、彼女は僕の視線に気付いて可愛く笑った。どうやら今は発情してないみたいで、顔も赤くないし目にハートマーク浮かんでない。どうやら昼と夜じゃ発情度に違いがあるみたいだね。今本気で良かったと思った。

 とはいえ、夜より話が通じるようになっただけで発情してない訳じゃないみたいだ。この分じゃ夜が怖いな。


「そう! なんでこの女が此処にいるの!? きつねさん!」

「あー……昨日呼び出されて会いに行ったんだけど……そしたらレイラちゃんがあの時の怪物だったって分かって、食べられそうになったから一緒にいていいとか色々条件付けて止めて貰ったんだよ」

「ぐぬぬぬぬ………!」

「分かったかな? 私ときつね君は昨日結ばれたんだよ!」

「ちょっと黙ってくれる?」


 放っておけば何言いだすか分からない。気が付いたら僕とレイラちゃんが付き合ってるとか噂が流れそうで怖い。こんな子と付き合う奴とか正気の沙汰じゃないよ、瘴気だけに。

 とはいえ、昼間は夜に比べて比較的大人しいし、思ったより一日中くっつかれるような事にはならなそうだ。レイラちゃん以外だったら大歓迎だけどね、この子だけは無理。行き過ぎて食べられる可能性もあるし。


 早々に耐性値上げてこの子が脅威にならないくらいまで成長しないと……いつか絶対左眼じゃ済まなくなる……というか左眼返せよ、どうせそのお腹の中に入ってるんだろうけどさ、ぐっちゃぐちゃになって。


「という訳で、まぁ彼女も僕らに付いてくることになったから、仲良くしてね」

「いや!」

「やー♡」

「ははっ、駄目だこりゃ」


 まぁフィニアちゃんとレイラちゃんが仲良くする光景とか想像出来ないし、仲悪くても一緒にいるのを認めてくれればまぁいいか。とりあえず大幅戦力アップってことで良いか……僕を餌にすればレイラちゃんも少しは働いてくれるだろう。


 とりあえず手を舐めるまでは許そう。一日1回キスしなくちゃいけないけど。


「さて……と、それじゃそろそろかな」

「何が、ですか?」


 いがみ合ってる二人を置いて、僕は一つそう呟く。ルルちゃんが首を傾げた。

 色々あったけど、取り敢えずは僕達の準備が整ったと言っても過言ではない。僕の耐性も森を抜ける位はイケる程に上昇したし、リーシェちゃんも戦えるようになったし、ルルちゃんも予想外だったけど成長したし、フィニアちゃんは言わずもがな、そこにSランク魔族のレイラちゃんが加わった。戦力的には最強のパーティと言える自信がある。


 ならば、もうこの国に留まる理由はないだろう。そろそろ行こうか、グランディール王国。異世界からやってきた人間、『勇者』に会いに。

 正直、この国にはミアちゃんとかエイラさんとかお世話になった人がいるし、『赤い夜』をのさばらせておくのは忍びない、危険だからね。


「うん、そろそろこの国を出ようか」

「!」


 僕の言葉に、ルルちゃんが目を丸くした。驚いた様な表情を浮かべる彼女の頭を撫でてやる。すると、此処は変わってないのか相変わらず気持ちよさそうに頭を擦りつけてくる。思わず苦笑が漏れた。

 フィニアちゃんの襟首を摘まんで肩に乗せ、レイラちゃんの額をこつんと叩く。にへらっと笑う赤い眼の彼女は、寝っ転がったまま瘴気に乗って空中に浮遊する。便利そうだな、あれ。


「とりあえず、今日グランディール王国に向かう準備を整えて、明日の朝に出発しようか」

「うん!」

「えー、あの国つまらないんだけどなぁー」

「今は勇者が召喚されたらしいから、少しは楽しめると思うよ」


 なんだったら押し付けるしね。

 僕がそう言うと、レイラちゃんは少しだけ楽しみといった笑みを浮かべた。というかこの子を連れて街に出ても良いのかな? 正直、見た目は完全に魔族なんだけど。

 フィニアちゃんは正体に気が付いているだろうし、ルルちゃんは正直奴隷だったからか、彼女が魔族であること自体気が付いてないみたいだし良いけど、外に出たら絶対バレるよなぁ。

 そう思い、少し考えてみた。


「仕方ない、ルルちゃん……とりあえずリーシェちゃん起こして来てくれる?」


 でも、上手い案は浮かばない。レイラちゃんに元の黒髪黒目の人間モードになってもらえればいいんだけど、その代わりに何を要求されるか分からない。

 仕方なく外に出るわけにもいかないので、僕は成長したルルちゃんにそう頼んだ。



ルル、進化ー!


きつねは眠っている


ルルは幼女から少女へ進化した!

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