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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十五章 帰路に塞がる白い闇
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決着の結末は

今回、決着です!


 ―――私たちが見たのは、最初に会った頃の"きつね君"だった。



 彼はいつだって笑みを絶やさず、己の感情を他人に委ねず、痛みに負けず、あらゆる障害にその身一つで立ち向かい、大切な物を必死に守り抜いてきた。その姿は気高く強く、その背中は誰よりも大きく見える程の存在感を持っていた筈だった。

 しかし、目覚めた彼からは今までのそんな存在感を感じられない。

 いつもと違って動きにキレはなく、その速度も今までとは段違いに遅い。動きや足運びは今までの経験からかそれなりではあるけれど、基本能力が最初に出会った頃のそれと同じになっていたのだ。


 それに、今まで幾ら傷を負ってもその笑みを消すことはなかった彼が、今は痛みに表情を歪めていた。見る見るうちに、自身も満身創痍へと追いやられてしまう。


「……まるでお話にならないわね……げほっ、ご、っ……どういうつもりかしら?」

「痛たた……いや別に、コレといって策がある訳じゃないよ」

「……身体能力も一般人並に落ちて、頼りの防御力も無くなってて、策も無い……死ぬ気かしら?」


 そして、彼最大の強みであった防御力すら、今の彼からは消えていた。

 本当に正真正銘、この世界に来た頃の彼に戻ってしまったかのような弱さだ。今一撃で殺されていないのは、相手が満身創痍であり、その弱さに本気で攻撃を仕掛けていないから。それでも身体中に傷を作っている事実は、勝ち目の薄さを感じさせる。


「確かに、僕に備わっていた力の殆どは失われちゃったよ。苦労して手に入れた防御力も紙装甲に戻っちゃったし、今まで通り使える力と言えば魔眼と瘴気くらい。時間回帰も今は使えないしね」

「あらあら……私の力で、そんな影響は出ないし、げほっ、本当に何をしたのかしら?」


 それでも全くと言っていいほど焦りや不安が生じないのは、未だにきつね君の表情から余裕が消えていないからだろう。

 記憶と感情を操る力。

 それをどう使っても、防御力やスキルを消失させるなんてことは出来ない。なら、そうなった原因はきつね君本人にある。つまりは自分からその力を手放したということ。


 そうせざるを得なかったのか、それとも意図的にそうしたのか、彼の様子を見てもソレは分からないけれど、おそらくはどちらも合っているのだと思う。


「僕はただ、目を背けてきたことに向き合っただけだよ。おかげでやっと自分ってものを思い出せた」

「……」

「だから、君には感謝を込めてさくっと終わらせてあげる」


 きつね君の纏う空気が変わる。

 そしてそのままゆっくりと歩いていき、相手の下まで近付いていく。その足取りは本当になんでもないことのようで、敵に向かって近づいているようには思えない気軽さだった。

 実際、相手の女はそんなきつね君の歩みに呆気に取られ、攻撃の手が止まってしまっている。結果、きつね君の足は容易に彼女の懐まで入り込むことに成功した。私達があれだけ懸命に攻めても中々入り込めなかった場所に、しかも防御力という強みも無しで、あんなにも容易く踏み込んでしまう。やはりきつね君は凄い。


 そしてそのままきつね君は女の血塗れの顔に手を添えた。


「僕に残ったのは、これだけだよ」

「なにを……」


 きつね君はふと微笑みを浮かべて、何かを発動させる



「――『(Life)(of)逢い(Love)』」


 

 その瞬間、この戦いは終わりを告げた。



 ◇ ◇ ◇



 桔音が何をしたのか、ソレを理解出来たものはいなかった。

 一瞬たりとも見逃すことはなかったのに、誰もが次の瞬間ユーアリアが崩れ落ちたとしか見えなかったのだ。文字通り、身体がボロボロと崩れていったのである。


 その破片から残ったのは、禍々しい紫色のガラス片の様な物体だけだった。


 ここまでの戦いからは思いもよらぬ、呆気ない戦いの終わりに、桔音を除いた全員がソレを理解するのに数秒を要した。

 ガラス片を拾い上げた桔音が、ゆっくりと振り返る。

 そして彼が優しげに笑みを浮かべると、ようやく戦いに勝利したことを全員が理解出来た。


「きつねさん!」

「っと……お疲れさま、フィニアちゃん。遅くなってごめんね」

「んーん、きつねさんが無事で良かった……」


 戦いが終わったと理解出来れば、皆の心も一気に軽くなる。

 重い緊張の糸が緩み、疲弊し傷だらけだった身体が嘘の様に動き出した。ゆっくりとだが、一斉に桔音の下へと駆け寄っていく。


 各々が重傷軽傷それぞれではあるが、一先ずは全員が無事なことを確認し、桔音はホッと胸を撫で下ろす。


「っぐ……いたた……もう、最悪ぅ……!」

「勝った……?」


 するとこの場において最も重傷である二人、屍音と最強ちゃんが声を上げる。屍音は両腕を肩口からバッサリと失っており、最強ちゃんも胸に負った刺し傷と肋骨の骨折が酷い。一歩間違えれば死んでもおかしくなかっただろう。

 桔音はそんな二人に近づき、ユーアリアと同じように手を添えた。すると、次の瞬間には二人の負傷がなかったかのように元に戻る。時間回帰で見慣れた光景ではあるが、時間回帰とは少し違っているのは直ぐに分かった。


「きつね君……一体何をしたの? それに、今までと少し違うような……」

「あはは、特にこれといったことはしてないんだけどね……今までと違うのは――……まぁ、心境の変化かな」


 身体が治った二人はすぐに立ち上がり、自分の身体を動かして調子を確かめている。

 どこかおかしい場所もないようで、無事を確認するとおもむろに桔音の近くへと近付いてくる。

 なんだか個性バラバラな女の子達に囲まれて、一気にハーレム感が増したな、なんて思いながら、桔音はクスリと笑みを零す。


 そして最後にステラと視線が合わさり、全員がとりあえず生き残れた事実を実感すると、桔音はゆっくりと口を開いた。


「みんな無事で良かった。僕が行動不能になっている間も必死に戦ってくれてたみたいだし……ありがとね」

「なーんか素直で気持ち悪いなぁ、おにーさん……」

「素直にお礼言ってるんだから黙って受け取ってよ傷付くなぁ」


 桔音は屍音の言葉に苦笑し、頬を掻いた。

 そして皆が訊きたいと思っているであろうことを察し、どこから話すべきかと思考を回しながら語り出す。


「えーとね……さっきまで僕はユーアリアちゃんの力を受けてを精神負傷(トラウマ)を抉られちゃってね……暫くの間動けなくなっちゃってたんだけど」

「だがこうしているということは、乗り越えたのか?」

「そうだね。さっき言った心境の変化っていうのは、まぁそのトラウマと向かい合えたからってことなんだけど……結構その傷は僕の生き方の根底に根付いていた問題だったから、僕自身の魂に大きな変化を齎したんだ」

「変化……?」


 桔音の変化、それはフィニア達全員が感じている。それが精神的変化だというのなら、それは別段気にすることではないのだろう。トラウマを乗り越えたからこそ、今の憑き物が落ちたような表情も納得がいく。

 だが、それが桔音の魂に変化を齎したというのなら、その力の変貌はあまりにも今までと違い過ぎた。そこまで桔音の心境に変化があったというのだろうか。


「実はね……僕は物心ついた頃から今日まで、誰かを信じることが出来なかったんだ。本当の意味で、フィニアちゃん達と向き合えてなんかいなかったんだよ」

「へぇ、そっか!」

「それで、さっきの力はなんなのかな♪」

「そうだ、アレはなんなんだ?」

『早く教えてよー!』

「あれ? 結構大事な告白だったと思うんだけどな。君達本当に僕の仲間?」


 とはいえ、どうやら彼女達にとって桔音から信じられていなかった云々といった話はどうでもいいらしい。思っていた以上に彼女達は桔音のことを大切に想っているようで、桔音から信じられていなかったことは関係なく、自分達を救ってくれ、護ってくれた桔音を想う気持ちが大事な様だ。それだけは嘘ではないのだから。

 揺るがない心という意味では、彼女達の方が桔音より何枚も上手らしい。思わずツッコミを入れてしまう桔音だが、ソレを理解すれば嬉しさが勝る。


 そしてそんなことよりさっきの力は何だと詰め寄ってくる少女達。なんだかおかしくて笑ってしまう。


「全くもう……さっきのは僕の『初心渡り』が変質した力だよ」

『変質?』

「まぁ、『初心渡り』は僕の精神的歪みの象徴みたいなものだったから、それが今の僕の変化に応じて変化したってところかな」

「だがさっきユーアリアを崩壊させたことと、屍音達を治したのは同じ力なんだろう? 少し効果が違い過ぎないか?」


 桔音の説明に対し、皆一様に首を傾げた。

 リーシェの言う様に、先程桔音が行ったことは両極端な効果を発揮していた。相手を崩壊させる力と、相手を治療する力。これを一つの力で成立させる能力はかなり限定された能力になる。

 桔音はその疑問は至極ご尤もとばかりに笑みを浮かべ、続きを話す。


「それはこの力、『(Life)(of)逢い(Love)』が謂わば望んだ結末を呼び寄せる力だからだよ」

「望んだ結末を呼び寄せる力?」

「そう……遠い未来、近い将来、長い歴史や最近の出来事、ありとあらゆる時間の中で、あらゆる事象には行き着くべき色んな終着点がちゃんとある……その中で、僕が望んだ結末を今に持ってくる力だよ」


 つまり、桔音は先程結末を呼び寄せる力を使って、二つの事象の結末を呼び寄せたのだ。

 一つは屍音と最強ちゃんの負傷という事象の、完全な回復という結末を呼び寄せた。これは後遺症の残る回復や欠損の残ったままの回復という結末があり得る中で、全てが元通りに完全回復するという結末を呼び寄せたのだ。


 もう一つはユーアリアの生という事象の、死という結末を呼び寄せた。

 これは余程の存在でない限り行使出来る最終手段。なにせ誕生という事象に対して、必ずと言っていいほど存在する死という結末を呼び寄せられるのだから、如何なる強者だとしても死は免れない。


 とはいえ、今の桔音が一般人レベルの戦闘力しか持たない上に、対象に触れなければならないという制約や、桔音の望まぬ結末は呼び寄せられないという制約がある以上、脅威的な力も中々シビアなのだが。


「なにそれ、無敵じゃん! おにーさんずるい!」

「まぁでもユーアリアちゃんは運が良かったし、ほとんど例外だよ。死を呼び寄せるなんて、もうやりたくないし」


 まさか本当に死神のような力を手に入れるとは思っていなかったが、桔音はこの力を幸せを掴むための力だと思っている。元々人を信じ、幸せな人生を望んでいたからこそ、こういう力になったのだろうと。

 『初心渡り』のように時間を巻き戻し、過去に逃げる力ではなく、どんな結末があろうとそれを乗り越えようとする力なのだと。


 これは過去ではなく、未来を望む力だ。


「なにせ、望んだ結末以外の……それこそ最悪な結末があることにも向き合わないといけないからね」


 そう、何故ならこの力は数ある未来の可能性から、桔音が望むものに一番近い未来を呼び寄せる。

 それはつまり、最悪な結末しか残されていない場合、その事実を目の当たりにするということなのだから。この力は未来を変えるわけではないのだ。

 それこそ、先ほどの屍音達の治療だって、完全な回復があり得たからソレが成っただけで、どうしても欠損が免れない場合は屍音の両腕は元には戻らなかった可能性だってあったのだから。


「なるほど……どんな力にも欠点はある、か」

「ま、そういうことだね」


 桔音の説明に皆が納得した所で、


「それで……これからどうするつもりですか?」


 ステラからの質問が空気を変える。

 そうだ。ステラ達を創った玖珂は死に、玖珂を殺したユーアリアも消滅した。敵だった中でこの場に残っているのは、ステラを除けばメティスくらい―――


「あ」


 今思い出したとばかりにメティスのいた方へと視線を向けると、


「う~~……ぐぅ……」


 戦いの激しさに対して恐怖が許容量を超えたのか、気絶して転がっているメティスがいた。


「……そういえばメティスちゃんのことを忘れてたよ」

「途中から空気だったね!」

「ソレは言ってはいけない」


 差し当たっては、メティスを起こすことから始めることにしよう、と思う桔音だった。



最終決戦決着!

そして最終話まで、残り話数もあと一桁程だと思います。どうか最後までどうぞよろしくお願いします!

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