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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十五章 帰路に塞がる白い闇
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存在しない正しさ

「なんなの貴女は! 一度ならず二度までも! きつねさんとちゅー、ち˝ゅー!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

「レイラが暴走した!」

「な、なに……!? この人たち頭おかしいよ……怖い」

「君が言うな」


 ラスボス戦に突入したと思ったら、ラスボスの目と鼻の先で頭のおかしな子達が頭のおかしなこと言って取っ組み合いを開始した。発端は言うまでもなく、メティスちゃんが僕に対して不意打ちキスを繰り出したことである。

 玖珂がぐうの音も出せずに黙ってしまったのを尻目に、分かりやすく怒りを露わにするフィニアちゃんと、かつての『赤い夜』の様な瘴気の怪物となって意味不明な言語を発するレイラちゃんが、気付いた時にはメティスちゃんに飛び掛かっていたのだ。

 吹き荒れる瘴気に負けずになんとかレイラちゃんを羽交い絞めにして止めるリーシェちゃんと、両手で必死にフィニアの突撃を止めているルルちゃんがいなければ、事態はもっと愉快なことになっていたことだろう。


 とはいえメティスちゃんの僕依存症は健在らしい。

 どうやら異世界人に戻ったり『神姫』に戻されたりしても、記憶の改竄はなかったようだ。さて、とても面倒くさいことになった。


『ふひひ……きつねちゃん、私が凄惨な過去に打ちのめされている横で楽しそうだねー』

「うわ、かつてない棒読みに二重の意味で寒気を感じる」

『つーん』


 更にノエルちゃんまでが面倒な絡み方をしてきた。

 死んだ瞳が更にジト目で見てくるのが怖すぎる。どうやらメティスちゃんは玖珂の予想を超える存在となっていたが、僕にとってもとんでもない爆弾だったらしい。


shit(くそっ)‼ ……これは想定外だ……まさかあの(・・)メティスを此処まで変えているとは思いもしなかったぞ」


 そこでようやく玖珂が言葉を発する。

 どことなく冷静そうではあったが、その口調はどことなく先程の科学者然としたモノからは崩れていて、言葉の中に品性に欠けた一面が見えていた。表情は歪み、食い縛った歯が彼の焦りを滲ませる。

 どうやら、彼にとってメティスちゃんの神葬武装はそこそこ使えるものだったらしい。とは言っても、一番の予想外は最強ちゃんの登場だろうけどね。流石の最強ちゃんでも追いつくには早すぎるから、多分アシュリーちゃんあたりが気を利かせてくれたってところかな。全く的確に素晴らしい応援を送ってくれたものだ。ありがたいことで。


 さて、外の戦いはどうなってるかな。

 あのエルフリーデちゃんがどれ程のものかは分からないけど、あの屍音ちゃんを呆気なく抑えてる。まして良く分からない序列の第一位……決して凡庸なやり手ではない筈。そこにあのステラちゃんもいるから、相当な戦力だ。

 とはいえ、あの最強ちゃんがソレに敗北するとも思えないけどね。

 今の僕の堅さを抜けるかは分からないけど、ステータス上では世界最高の堅さだった僕の防御を抜く攻撃力、そして『超越者』たる圧倒的戦闘能力と躊躇いのなさ、まさしく最強の実力者だ。

 あのステラちゃんの『神葬ノ雷(ブリューナク)』の殲滅力も、一点突破ならあの拳の攻撃力には勝らないと思う。


「全く……本当に厄介な相手だな、君は」

「それはどうも……じゃあ散々語ってくれたついでに、今度はこっちから一つだけ聞かせてもらえるかな」

「ハ、何かな?」


 ああ、そうだね――……。

 今は、そんなことは些細なことだ。


 思えば僕はいつだってその為に戦ってきたし、その為に命懸けだったんだ。何の力を持たなかったあの始まりの日から今日まで、何度も死にかけながら生きてきた。

 それは何のためか、決まってる。僕はしおりちゃんとの約束を果たす為に此処まで来たんだ。一度死んだ命だけど、幸か不幸か今生きて此処にいる。


 だから帰るんだ。絶対に。


「僕は元の世界に戻る方法を探してここまで来たんだ……君はどうかな? 元の世界に帰る方法を――知っているかな?」


 元の世界に帰るために、勇者や魔王すら超えてきた。今更怖い物なんてなにもない。絶対に帰る、その為に僕は今ここに居る。


「……成程、君はあの退屈な世界に帰りたいのか……酔狂なことだ」

「退屈さより優先したいものがあるからね」


 僕の言葉に力なく笑うと、玖珂は心底不愉快だと言わんばかりに声を張り上げた。


「理解出来ないな――君もこの世界を見て来ただろう! 何故帰りたいと思える!? この世界には素晴らしいものが多く存在する! あの薄汚れた退屈な世界に何がある!? 私腹を肥やした権力者によって自由を抑制され、発する言葉一つすら罪に問われるような社会! 世間の目が感情を支配し、目の前の相手すら見えていない癖に何もかも分かったような顔して生きる喜色の悪い有象無象! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 私の研究や実験を君は残酷だと言うが、進化を求める私の信念は決して間違っていない!! 命を無駄に浪費して生きている人間なんて、寧ろあの腐った世界にこそごまんといたじゃないか!! 自分に都合の良い世界を誰もが望めば、争いが起こるに決まっているだろう!? 戦争はあれど、基本的に魔族や人間という種としての生存競争として日々戦っているこの世界の人間の方が、生物としてよっぽど正しく美しい!」


 吼えた。彼はどうやら元の世界にとんでもない不快感を抱いているらしい。人体実験や洗脳といった非人道的とされることを多くしている玖珂だけど、どうやら彼の本質は元の世界では随分生きづらいものらしい。

 一般人として生きていた僕としては分からないことだけど、社会を生きる彼には何か別の闇が見えていたのかもしれないね。でも、じゃあこの世界に来た今、


「君の目的はなんなのさ」


 君は一体何がしたいんだ。


「決まってる……神を殺して、世界を壊して、何もかも私が支配する!」

「支配? そもそも神なんていると思ってるの?」

「いるさ、私は確信しているよ。今は亡きユーアリアがそれを証明してくれた!」

「ユーアリア……?」


 玖珂は言った。ユーアリアが神の証明をしてくれたと。

 ユーアリアって確か、リアちゃんの元になった人。確か序列第七位『聖霊』と呼ばれていた存在だったかな。メティスちゃんが言うには死んだらしいけど、玖珂はどうやら彼女に対して並々ならぬ感情を抱いているようだね。

 さて、彼の言う神っていうのが僕達をこの世界に送り込んだあのカスだとするなら、アレを殺すってことだけど……果たしてそれが彼に出来るのかな?


 神葬武装、確かに強力無比な力だ。

 でも、所詮はこの世界に存在する力の一つ……『超越者』になったらしい僕の身体を傷付けられない段階で、その力がアレに届くとも思えない。


「私はユーアリアと出会い、この世界には遥か高みから我々を見下ろしている存在がいることを知った。管理されているのだ、我々は……そんなこと許せるはずもない。我々の生が、神の手によって決められた運命を辿っているなど、私は断じて認めない!」


 でも玖珂はやるつもりらしい。本気で神を殺して、世界を手中に収めるという目的を。

 というかそろそろ僕の最初の質問に答えてほしい所だけど、でも次元を超えるだけの手段は何かしら持ってそうな雰囲気だな。ちょっと期待してもいいかもしれない。


「じゃあステラちゃん達が世界の歪みとか言って僕や勇者を狙ったのは?」

「簡単だ――勇者を含む新たな異世界人がこの世界にやってきた場合、私がそうだったように規格外の力を手にする可能性がある。そうなった時、その異世界人が私の計画の邪魔をする可能性は大いにある。だから出る杭は打とうと考えた。生け捕りに出来れば改造を施して戦力に加えることも出来るが……私の下には既に十分な戦力が揃っていたからね、余計な欲を抱けば破滅する……不確定要素は消しておくに限るだろう?」

「つまり、ステラちゃん達にそういう風に仕込んだわけか」

「そうだ。私に関する情報が彼女達から漏れないように細工を施した。もしも私について話そうとすれば、強制的に肉体が拒絶反応を起こし、その前後の記憶を消去するようにね」


 以前クレデール王国でメティスちゃんに黒幕に付いて聞いた時を思い出す。あの時メティスちゃんは痙攣と出血を起こし、玖珂のことを語ることはなかった。アレが拒絶反応――そしてそれが収まった後、メティスちゃんは僕が玖珂に付いて聞いた事を忘れていた。

 序列組が一枚岩じゃないと感じてはいたけど、そもそも彼女達には目的の共有がなされていなかったわけだ。玖珂の目的の為に植え付けられた使命感に従い、彼女達は玖珂の為にその力を振るっていたわけか。


 ということは、神葬武装の正体は、


「神葬武装は、君が改造して植え付けたスキルや体質ってことかな?」

「yes、その通りだ。偶然とはいえ、メアリーには概念に干渉できる固有スキルが備わっていた。それを解析し、スキルというものの作り方を調べた。それを改良して私はいわばスキルとも固有スキルとも違う新しい力を作り上げた!」

「それが神葬武装ってわけか」

「まぁ、神葬武装とは私が名付けただけだが……とはいえ、その原型はユーアリアだがね」


 玖珂の作った新しいスキルが神葬武装。でもその原型がユーアリアって人ってことは、その人には元々神葬武装のような力が備わっていたってことか。ますます何者だよユーアリアって。

 とはいえ、散々頭を悩ませた謎がようやくその正体を見せてくれた。

 アシュリーちゃんが頭を悩ませたわけだ――ステラちゃんの『神葬ノ雷(ブリューナク)』はまだしも、アシュリーちゃんがメアリーちゃんの『断罪の必斬(フェイルノート)』やメティスちゃんの『叛逆の罪姫(クラウ・ソラス)』の正体を暴けなかったのは、ソレが現存するスキルや魔法の範疇に収まらない新しい力だったから。


「……ふーん」

「君にも分かった筈だ、私が成そうとしていることの正しさが」

「いや分かんないけど」


 それはそれ、僕にとってそれはどうでもいいことだ。

 僕は玖珂が世界を手中に収めようと、あの(カス)が死のうとどうでもいい。僕はただしおりちゃんの所へ帰るだけだからね。

 散々苦労させられたんだし、その辺の謎は全部すっきりさせておきたかっただけのこと。


「な、分からないだと……!?」

「いや、寧ろ今の説明で分かる方がおかしいでしょ」

「……君も所詮は有象無象の一人か」


 さて、色々分かった所で、そろそろ僕にも言いたいことがある。玖珂、君ってさ、



「――お前、よくある異世界転生モノの主人公かよ」



 ほとほと呆れるよ、此処まで来るといっそ清々しい。本当、変態極まってる。


「なにを、」

「まず第一に、神葬武装ってなんだよ神葬武装って。神を葬る武装と書いて神葬武装? 中二病も行き過ぎてて爆笑ものだよ。その内容もブリューナク(笑)とかクラウ・ソラス(笑)とか、ちょっとネットで調べた様な神話上の武器の名前とか付けてる段階でお察しだね! しかも序列ってなんだよ、第何位とか言ってるけどその基準も良く分からないし。挙句の果てにはそれぞれに二つ名まで付けてるとかいい加減にしてよ、僕を笑い死にさせる気なの?」


 彼の言葉を遮って言う。神葬武装なんて頭の悪い中学生がかっこよさげに付けたような名前を付けて、その中身も神話上の武器の名前とかを起用する――年齢が年齢なら良いけど、いい感じに歳喰った大人がそんなことしてると、本当に痛々しい。

 彼の行動にはいちいち笑ってしまう。爆笑も爆笑、咽てしまう位おかしい。


「第二に、自分以外が全員女子ってどうなの? まぁ異世界人の子達が偶然女子だった訳だしそこは百歩譲っても、ステラちゃんの素体の実験体の子達も大体女子みたいだし、創ったっていうメアリーちゃんも色々混ぜた割には可愛い女の子の姿だね? しかも揃って美少女で属性豊かだったね? しかもエルフリーデちゃんを除けば大体が未成年くらいの見た目だったし、なんなら中学生くらいの子すらいたよね? メアリーちゃんとかアリアナちゃんとか、どうみても犯罪なんだけど。この世界の人ならまだ分かるけど、元の世界の常識を知ってる良いおっさんがなにやってんの? 中二病の上にロリコンか、さっき元の世界がどうのこうの言ってたけど、自分を振り返ってから言って欲しいよね、正直心底気持ち悪いよ?」

「な」


 ハーレムかよ、しかも洗脳と実験で作り上げただけのハーレム。そこまでやって玖珂に好意を抱いている子が一人もいない辺り相当だ。

 本当異世界転生でなんやかんや追放された結果、悪堕ちしてダークヒーロー的な感じになったかと思えばなんやかんやハーレム出来てるような主人公、もしくは異世界官能小説で洗脳能力とか使って奴隷ハーレムとか作って邪魔する奴はチートで容赦なく殺す屑主人公かよ。

 神を殺す? 世界を支配する? 勝手にやってくれて構わないけど、そこに正しさとか言われても全然説得力ない。

 客観的に見てみれば分かるでしょ、


 良いおっさんが狂科学者マッドサイエンティスト気取って神を殺すと言っています。但し戦力は全員洗脳した女子中高生で構成されています。


 駄目だ、もう手遅れだ。


「そして最後に、僕の質問にちゃんと答えろ。まともに会話出来ないのかお前」


 僕が知りたいのは元の世界に戻る方法があるのか、ないのか、それだけだ。


「く、ぐ……!」

「何か言いたいことでもある?」


 顔を真っ赤にして唸る玖珂にそう問いかける。

 すると、彼は絞り出したように微かな声でこう言った。


「……序列の基準は、私の好みだ」


 訪れる沈黙。


「…………気持ち悪っ」


 意外にもそう言ったのは、メティスちゃんだった。玖珂がなんとか絞り出した言葉がこれとは、思わず気が抜けてしまう。



 ―――あらあら、なんだか楽しそうね。



 そんな声が聴こえた。



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