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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十五章 帰路に塞がる白い闇
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暴れる子

遅れてすいません!亀更新なのですが、なんとか時間を縫って書いていきますので、これからもよろしくお願いします!

 ―――来た。


 アリアナが先程とは違って威圧感を増した剣をゆっくりと上げていき、そしてその切っ先を桔音に向ける。力を発揮すれば、まさしく神々しいと呼ぶに相応しい光の剣と化していたその刃。今はそれが刃の部分のみに薄く光るのみに留まっている。

 まるでその輝きを刃のみに凝縮したようで、その色は一層神々しく、まるで情熱そのもののように紅かった。


 アリアナの神葬武装『神壊ノ剣(カミタチノツルギ)』の第二開放。

 

 それは、たった今決まった筈のアリアナの敗北を容易く覆して見せた。桔音も驚きを隠せないといったようにその眼を細めたが、問題はその力の内容ではなく、


 決定された筈の敗北を、覆されたという事実。


 勝負において、また戦いにおいて、勝敗という物は絶対に存在するものであり、その延長には生か死かが両者を待っている。

 ソレが決定してしまえば、敗者は敗者でしかなく、勝者も勝者でしかない。生きるか死ぬかすら、決定されれば最早覆すことなど出来ない絶対の概念だ。

 勝者を死んだ敗者が殺すことは出来ないし、死んだ敗者を甦らせることは不可能。

 ソレが覆るというのなら、それは最早勝利を約束されたも同然ということになる。


 ―――もしそれが出来るというのなら……


「……これは厄介な」

「第二開放……『神裁ノ刃(カミタチノツルギ)』。これを使ったからには、アンタに勝ちの目は万に一つもないわよ、きつね」


 桔音の目を鋭い視線で射抜きながら、彼女は言う。その眼には油断や侮りはなく、桔音に対する警戒心と、必ず勝つという覚悟があった。


「ちなみに、どんな力か聞いても良い?」

「それは、自分で確かめることね!」


 桔音の笑みを、アリアナは一蹴し駆け出す。剣を下段に構えたかと思えば、一瞬でその姿は桔音の背後へと移動している。

 やはり剣を武器にしているだけあって、桔音よりも速い。ステータスの力が魂に宿ったとはいえ元々の力がそれ程高くはないのだ。防御力程極端に強力ではない以上、目では追えても動きは追いつけなかった。

 遅れて桔音の瘴気がアリアナの動きを追っていく。オートではない以上、操作する桔音の反射速度は一歩遅れてしまう。


 しかしそこは瘴気の生成場所の自由さが功を成し、アリアナの剣を受け止めるのには間に合う。その刃と瘴気のガードが衝突し、甲高い音を響かせた。

 

 ―――だが、


「なっ……!?」


 次の動作へと移行するべく、桔音がアリアナの動きに合わせて体の向きを変えた瞬間。

 桔音の背中が大きな裂傷と共に血を噴出した。しかも、アリアナの立ち位置が背後から一瞬で目の前に移動している。その剣は既に振り抜かれていた。

 直接斬られたわけではない。今の桔音の肉体を抜ける程、彼女の剣の攻撃力は高くない。これは先程までと一緒で、過去の桔音を切り裂いたことによる傷だ。


 しかし、今までとは何かが違う。この時間が飛んだかのような、明晰夢を見ていたような感覚がそう告げている。


「うぐっ……!?」


 それを時間回帰で直そうとした瞬間、また時間が切り替わった様な感覚と共に、今度は左脚が貫かれた様に傷が生まれる。しかも、傷が治っていない。確かに時間回帰を発動させた筈なのにだ。


「これは……どういうことかな……?」

「もうアンタの時間回帰で傷は治せないわよ。この力は、それを許さないわ」

「……それはさっきから度々起こる明晰夢みたいな感覚と関係あるのかな?」

「へぇ、普通なら気付けない筈なんだけど……同じ時間操作系の力の持ち主だからかしら?」


 二つも重傷を負わされ血塗れな桔音に反し、その刃に一切の血が付いていない剣。それを振るって空気を切り裂くアリアナは、意外とばかりに目を細める。

 

「まぁ、そこまで気付いてるなら教えてあげるわ。アタシの神葬武装の力は"時間改変"――対象の歴史にこの剣を挟み込んで攻撃も防御も出来る。でも、第二開放の力はそうじゃない」

「ッ痛……というと?」

「通常時は対象に対して改変を行える――なら、第二開放はアタシの関わった歴史その物に改変が可能なの」


 ソレを聞いて、桔音はなんとなく納得する。

 つまりアリアナは先程死にかけた瞬間、自分が"攻撃を仕掛けた"という歴史を"攻撃を仕掛けなかった"というように改変したのだ。

 そしてついさっきは背後に回って攻撃を仕掛けたことを、仕掛けなかったことにして、攻撃を仕掛ける前の場所から通常時の力を使って背中を切り裂いた。


 つまり、ゲームでいうところの途中時点からロードする力。


「とはいえ、それなら僕が時間回帰で傷を戻せないのはおかしい気がするけど」

「決まってるじゃない。この場にアタシがいて、アンタが傷を治す瞬間を目撃する以上、その歴史を改変する事が可能でしょ」

「君の目の前で僕が傷を治した、を治さなかったに変えたわけ? ……そういうのもありなの?」

「アタシが関わった歴史、だからね」


 超理不尽――桔音は率直にそう思った。

 だが裏を返せば、彼女に傷を治す瞬間を見られなければ時間回帰で傷は治せるわけだ。つまり、アリアナの第二開放は最早――彼女と対峙している以上破ることが出来ないということになる。

 如何なるダメージも、如何なる能力も、如何なる防御も、彼女の能力の前では全て無力化される。何故なら、彼女の能力はそれら全ての事象を起こる以前の状態にまで戻してしまえるのだから。


 絶対的なやり直しの力――それが、彼女の第二開放。


 桔音はそれを理解し、圧倒的無理ゲー感に肩を落とした。


「これは正直勝てないって。無理無理、こんな戦いやってられるか、僕はもう帰る!」

「ちょっ」


 桔音は非常に流暢な棒読みで逃げ出した。それはもう綺麗なターンで後ろを向き、全力疾走を開始した。


 が、


「うっそーん」

「無駄だって言ってるじゃない」


 逃げ出した瞬間、また夢から覚めるように視界が切り替わる。目の前には先程と同じ様にアリアナがいた。

 『逃げ出した』という歴史を改竄されてしまった様だ。逃げることすら、彼女の前では許されない。


「あのさ……それは無くない? 戦う者としてそれはどうなの? 去る者は追うなよ! そういう奴が一番嫌われるんだぞ! 君みたいな奴はどうせ友達とかいないんでしょ? 仲間とか何とか言っても、ステラちゃん達とはそんな話すことないんでしょ? 船の中でもぼっちだったし、よくよく思い返してみれば僕に絡んできたのもおせっかいじゃなくて寂しかっただけなんだろ! このぼっちが! この! ぼっちがッ!!」

「ぶっ殺すわよアンタ!!?」

「違うっていうなら証明してみせてよ! あー! 友達多い人気者のアリアナちゃんはぁ! ステラちゃんにハグして貰えるくらいには仲良いんだろうなぁー! 羨ましいなぁー! 見てみたいなぁー!!」

「ぐぬぬ……!」


 しかし、桔音の前ではそんな能力も役に立たない。

 逃げられないならとことん特攻をかます桔音である。そもそも、桔音の真骨頂は精神的な攻撃を執拗なまでにぶつけてくるその口八丁手八丁にある。どれ程強大な能力を持っていようと、知性ある生物である以上桔音の言葉は確実に相手のストレスを溜めていく。

 時に核心を衝いて心を抉り、時にウザさ全開で苛立ちを誘い、時に同情して怒りを誘い、時にお涙頂戴で鬱に引き込む。そんな桔音節である。


 現に、アリアナも桔音の煽りによって青筋を浮かばせていた。

 妙にプライドの高いアリアナだ、桔音の言葉は的確にアリアナを苛立たせる。


「えい」

「ちょッ!?」


 俯いてプルプルし始めたアリアナ。

 それを見た桔音は呼吸するように瘴気でアリアナの身体をドーム状に覆った。それも、覆ったドーム状の瘴気を、更に一回り大きいドーム状の瘴気で覆い、それを何重にも作り上げる。中に光を一切通さない瘴気のドームは、中に居るアリアナの視界を完全な暗闇に染め上げた。


「この隙に逃げるぜ、ばいびー」


 瞬間、桔音は逃走を開始する。念入りに、ドームと桔音の間に瘴気の壁を何重にも生んで、アリアナの視界に入らないようにして。

 木々の陰に入った瞬間、桔音はどんどん逃げていく。完全にアリアナの視界から振り切った瞬間桔音の傷は消えていき、そして一瞬で森の中を駆け抜けていった。


 後ろを一瞥した時、なんか小さくオレンジ色が見えた気がしたけれど、気にせず桔音は逃げたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 そして桔音が逃げた後のアリアナはというと―――


 無事に歴史改竄で瘴気のドームから開放され、瘴気の壁を全てその剣でぶち抜いたところで、桔音に逃げられたことを理解していた。

 散々おちょくられた上に、あんなにも自信満々に無駄だと言い切った逃走を許してしまったことが、アリアナのストレスを更に爆発させる。


 よく見ると肩が小刻みに揺れており、無理矢理に浮かべた様な笑みも引き攣っていた。


「本ッ当に意味分かんない位予想外なことばっかりするわね……!」


 アリアナはそう呟きながら桔音を追う為に足を動かす。

 そして一歩踏み出した瞬間、横から同じ様に誰かが一歩近づいてきて、急に出て来た存在に両者とも一瞬硬直した。


「……」

「……」


 現れたのは橙色の髪を持った幼女。眠たげな瞳が特徴的で、華奢に見える見た目にそぐわない強者の風格がミスマッチしている。

 アリアナは無意識に唾を飲みこみ、ぶわっと滲んだ汗が危険信号を生んでいた。


「アンタ……何者?」

「ん、さいきょー」

「は?」

「ちょ、ちょっと……速いって……えー……」


 原稿用紙にすれば一行分にも満たない様なやり取りの直後、そこへレイラが遅れてやってきた。そう、アリアナの目の前に飛び出してきたのは、最強ちゃんである。

 レイラは追いついて直ぐに、状況を把握し不味い所にやってきてしまったという顔をする。まさかさくさく行ってしまった最強ちゃんに追いついた瞬間、チート級の敵に遭遇するとは思わなかったらしい。


「アンタは……桔音の仲間の女ね……もう普通の人間とそう変わらない筈だけど、まだうろちょろしてたのね」

「む……まぁ、桔音君がいるなら逃げるなんて考えられないし」


 アリアナの言葉に頬を膨らませて反論するレイラ。意外に童顔な彼女がそれをやるとかなり幼く見えるのだが、瞳の奥の熱がそんな彼女を少し大人びて見せた。

 すると、レイラの服をくいくいと引っ張る最強ちゃんの姿がそこにある。

 レイラがそちらへ顔を向けると、最強ちゃんはこの空気をぶった切るように口にした。


「レイラ……これは、敵?」

「はい、敵です」

「え」

「じゃ……ぶっとばぁー……す」


 瞬間、彼女の拳はありとあらゆる認識を置き去りにして、アリアナの剣を砕き、彼女の意識を刈り取った。


 ――アリアナの後方、大量の木々と地面を大きく抉り取るようにして。




「ん……きつね、探そ」




 未だ誰も気づいていない。

 この誰も知らない島で、最強の嵐が暴れ始めていることに。




おまけ


【身長プロフィール】

桔音    165㎝

フィニア  15㎝

レイラ   153㎝

ルル    146㎝(幼女時138㎝)

リーシェ  166㎝

ドラン   182㎝

屍音    144㎝

リア    15㎝

最強ちゃん 139㎝ 


案外設定上はレイラが結構小さかった事実に、最近気づいた作者です。

これ傍から見れば大分小さいパーティですよね。ドランさんの保護者感がやばいです(笑


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