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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十五章 帰路に塞がる白い闇
353/388

玖珂 勅久

まだ頭痛が若干しますが、3月中はまだ時間があるので、今のうちに投稿します!

ここから少しづつ、第二章から撒いていた伏線をどんどん回収してまいります。そして今回から物語が急激に動き出します!ではどうぞ!

 かつて存在した少年Aは、かつて存在した女神に対しこう問いかけた。

 『この世界が悪性に満ちているのならば、間違っているのは生命そのものなのか、それとも正しく生きられないこの世界なのか?』と。


 ―――興味深いテーマだね


 yes……女神の齎した答えは、『間違いなど存在しない、ただ一つ。この世界は何かを誤った』。

 そう、この世界は何一つ間違ってはいない。

 ただ一つ、たった一度、この世界の歴史上でたった一回の誤りがあった。

 つまりはそう、失敗だ。


 ―――へぇ


 but、その失敗は誰のせいでもなければ、誰かが起こしたわけでもない。

 誰かが止められたわけでも、未然に防ぐことの出来ることでもなかった。

 寧ろ、最初は失敗ですらなかったのかもしれない。


 ―――つまり?


 つまり、この世界はそのたった一度の失敗からずっと、おかしくなったまま偽りの姿を晒し続けている。

 誤り、捻じれ、歪み、折れ曲がり、ある意味で間違えた状態のまま正しい物と信じ、正しさとは何かを理解出来ぬままに、清濁の判断もままならないままに、己の信じたい物を信じたい様に信じて、真実から目を逸らしている。


 それが罪だと認められない生命を、私はそれこそ罪深いと心の底から思う。


 言葉という概念を用いながらも、人と人は本当の意味で信頼し合うことを恐れ、寧ろ疑い合うことで一種の安堵にも似た感情を抱く。敵意を抱いている間は、警戒している間は、信頼していない間は、まるで相手が自分に何かしてきても大丈夫だと思っている。

 それはきっと、我々の在り方ではなく――世界の在り方が歪んでしまっているからだ。


 ―――成程、御説ご尤も


 だから私は此処で、この場所で問い続ける。人類とは、神々とは、存在し続けることを是とするべきか否かを。


 それでは始めようか。


 ―――そうだね


 私と、


 ――僕の



 ―――……戦いを



 ◇ ◇ ◇



Excellent(素晴らしい)! ようこそ同胞、私の下へ自力で辿り着いた異世界人は、君が初めてだぞ?」


 鯨の討伐後、ノアの方舟客船は無事に一つの孤島に辿り着いた。

 そこは周りを海に囲まれた、正真正銘の孤島であり、その中央には白い神殿の様な建物が一つだけある。

 船を下りた桔音達は、ステラ達の案内でその建物まで連れてこられ、その玄関ホールの様な広い空間で――一人の男と対面したのだ。


 男は愉快だとばかりに表情を綻ばせ、今に拍手でもせんばかりに桔音達を賞賛した。

 男性にしては少々長い髪は、伸ばしているわけではなく、ただ伸ばしっぱなしにしているのだろう。年齢としては三、四十代――若すぎず、老いすぎずといったところだろうか。

 だが、その瞳は破顔した表情とは裏腹に、捻じ曲がった風景の様な、ドロドロと歪んだ感情が詰まっていた。まるで狂気を眼球の形にして無理やり目蓋の奥に押し込んだような瞳をしている。

 それ故か、桔音達を見ているようで見ていないような、そんな不気味な擦れ違いすら感じた。


「……君が、ステラちゃん達のアタマかい?」

「yes、その通り。私がこの城の城主であり、彼女達の主だ。ああ、君のことは知っているぞ、この世界にやってきた最後の異世界人――薙刀桔音君」

「ふーん……」


 遂に、桔音は辿り着いた。

 目の前に居るこの男こそが、桔音の探していた異世界人にして、ステラ達のバックにいた黒幕。魔王でもなく、勇者でもない第三勢力の異世界人。

 ステラ達の頭だけあって、流石に纏う空気は狂人そのものだ。言葉の端から端まで胡散臭さが感じられ、目が合うだけでも気分が害される。


 おそらく、コレは直視してはいけないタイプの人間なのだろう。


「ok、では自己紹介をしよう。よく聞くと良い。君が知るのは、この世界で最も優れた生命の名前なのだから――」


 そう言って、男は一つ間を空けた。告げる。



「――私の名前は、玖珂勅久(くが ときひさ)。この世界において、神殺しを成す者の名前だ」



 歪んだ瞳で桔音を見下ろす男、玖珂の言葉は、桔音の観察眼を以ってして嘘を吐いているようには見えなかった。つまり、本気で彼は神殺しを成そうとしている。

 ステラ達は会話の中で久我の後ろに控えるように立ち、付き従う様に静かに静止した。


 あの目立ちたがりのアリアナですらそうしている。そんな姿を見れば、目の前に居るこの男の実力が伺える。あのステラ達を従えるだけの力が、彼にはあるのだろう。


「それで? こんな所まで呼び出しておいて、何の用もないって訳でもないんだろう?」


 故に桔音は、早々に本題に入ることにした。

 そもそも桔音は此処に戦いに来たわけではない。元々は、元の世界に帰るための手掛かりを探すためにやってきたのだ。この呼び出しに素直に応じたのは、本来その為でしかないのだから。


「ああ、そうだね。その前に……起きろ、メティス」

「!?」


 玖珂がそう言った瞬間、共にやってきていたリーシェの背中――背負われていたメティスの身体に異変が起きた。

 勢い良く振り向く桔音。目を丸く見開いてみた先で、メティスの身体が元に戻っていく。髪が白紫色に、肌は白く、身体も弱弱しい痩せ細った物へと変わっていく。


 嘘だ、と思ってしまった桔音を、誰が責められるだろうか。


 メティスは元々異世界人だ。それが『神姫』メティスとして変化していた姿が、桔音達の前に現れた少女だった。

 だがしかし、それは桔音のスキルによって元の『異世界人』としてのメティスに戻った筈。それが、簡単に元通りになるなど、誰が思うだろうか。


Deplorable(残念だね)……全く、何をどうしたのかは知らないけれど、人のモノを勝手に壊さないで欲しいね。これでも私は、メティスのことを結構気に入っているんだ」


 何故なら――、そう続けた彼の言葉が聞こえた瞬間。そして驚愕は続く。

 リーシェの背中に気を取られていた桔音達の視界の外から、白金色の閃光が駆け抜けた。それは一瞬にしてメティスの身体をリーシェから剥がし取り、そのまま玖珂の下へと届けてしまう。

 その速度は凄まじく速く、気を取られていた以上目視は難しかったかもしれない。


 だが、桔音には見えてしまった。その姿が。


「まさか……なんで、君が生きて(・・・)いるんだ?」


 そこに居たのは、いつか見た白金色の髪を持った少女。天使の輪を頭上に持ち、白く輝く翼を持った少女。


「何故なら――弱々しくて愚かで、見ていて滑稽だろう?」


 歪んだ笑みを浮かべながら、意識のないメティスの身体を抱き抱えつつ、そんなことを言う玖珂の後ろに留まった彼女の名前を、桔音は零す。

 その姿に間違いがないのであれば、告げた音は長音含めて等しく四つだ。


「……メアリー、ちゃん……!?」


 死んだはずの序列第6位、『天使』メアリーがそこにいた。



 ◇ ◇ ◇



 あの日、クレデールの街の中、メアリーとの殺し合いをした時のことだ。

 桔音はメアリーに対して勝利を収め、その首を掴んだ。頭の中で色々と思考してみた結果、桔音は彼女に対し死を以って戦いを終わらせることを選んだ。

 生かしておく意味も無ければ、生かしておけば後々損しかないと思ったからである。

 事実彼女の力は脅威的で、自分でなければ確実に誰かが死ぬ。ならば此処で殺しておくことこそが、桔音の取るべき最善の選択と言えた。


 故に、桔音はなんの躊躇いもなくメアリーの首を絞めながら持ち上げる。

 少々苦しみながらも睨み付けてくるメアリーだったが、桔音はその視線に罪悪感を感じて逸らしたりはしない。

 今までも人間程度なら殺してこれた。今更一人二人増えようと、桔音にとっては何の重責でもないのである。


 しかし、メアリー達はある種人間とは違った肉体構造をしている者達。窒息で確実に死ぬとは思えない。

 桔音はそう考えた上で、くるりと『死神の手(デスサイズ)』の先端に漆黒の刃を付ける。瘴気の力を付与して作り上げた薙刀、『病神(ドロシー)』だ。


「ッ……!」

「じゃあね、メアリーちゃん。君とのやりとりは……まぁちょっとは楽しかったよ」


 カチャリ、そんな音を立てて桔音は刃を振り上げる。その動作には一切の迷いなどない。そして、一気にその漆黒の刃をメアリーに向けて振り下ろした。

 ザグ、とメアリーの肩口から入ったその漆黒の刃。同時に桔音はメアリーの首から手を離し、その分勢いよくその肩口から勢いよく柄を動かす力を込めた。

 肩口から、反対側の腰骨の辺りまで、斜め一直線に切り抜いた結果、メアリーの身体には致命的なまでの深い切り傷が出来る。


 メアリーの表情は苦痛に歪み、悲鳴を上げる暇もなく地面に倒れこんだ。その刃は途中までは背中側まで抜けていたのだろう。彼女の羽が片方切り落とされて落ちていった。


「ぐっ……! あっ、あぁぁぁああ……!!」


 痛みにギュッと目を瞑り、悲鳴を漏らすメアリー。桔音はソレを唯冷たく見下ろしていた。


 すると、ただ死を待つだけだったメアリーに異変が起こる。

 メアリーの頭上にあった天使の輪、ソレが一層強く輝き出したのだ。


「!」


 まさか、最後に何か力技にでも出たのかと思った桔音ではあったが、その光はどんどん強くなっていき―――最後にはメアリーの身体をすっぽり包み込んでいく。

 そしてその光に包まれたメアリーの身体が少しずつ宙に浮いていき、桔音の視線よりも高い所まで飛んでいくと―――


 ――メアリーの身体に続々と罅が入っていった。


 まるで陶器が割れるようにピキピキと音を立てて彼女の身体が罅割れ、そして崩れ落ちていく。

 静かに、崩れ落ちていった肉体は消失して、やがて彼女は塵の一片の遺さず消えていく。最後に残った天使の輪が空気に溶けるように消えると――メアリーという少女は完全に消滅してしまった。


 桔音はその光景を見て、メアリーの種族は死ぬ際に消滅する種族なのかもしれないと考えた。

 大魔法使いアシュリーの談によれば、メアリーの様な種族は見たことがないという。それはもしかしたら、このように死ぬ際に何の痕跡も残さないからではないかと。


「まぁ、いいか。とりあえず死んだってことで」


 そうして結論を付けた桔音は、その後メティスの下へと向かっていったのだった。



 ◇ ◇ ◇



「そう、あの時君は死んだ筈だ。なのに、どうして生きているんだ?」


 あの日あの時、メアリーは完全に崩壊して消滅したはずだった。それは桔音自身がはっきり見ている。

 なのに今もこうして生きているのは幾らなんでもおかしい。死んだ者が生き返らないなんてことは、今日日小学生だって分かっている現実だ。ましてこの世界には、蘇生魔法なんて便利な代物は存在しないのだから。


「ok――その問いには私が答えようじゃないか」


 桔音のそんな疑問に答えたのは、やはりというか玖珂だった。

 余裕綽々といった様子で笑みを浮かべると、メアリーの頭に手を乗せ撫でる。


「何故メアリーは死んだはずなのに生きているのか、そんなものは決まっている。最初から彼女は"生きてなどいない"からさ」

「は?」


 彼は言った、メアリーは最初から生きてなどいないのだと。


「そもそも、君はおかしいとは思わなかったのかい? この世界に彼女の様な種族がいないという事実を。いない、つまりは存在しないということだ。それは、この世界の摂理として彼女が存在していることはおかしいということになる」

「……」

「それに、この世界に『天使』なんて物が存在していないのに、どうして彼女は自分を『天使』と名乗れるんだ? ソレは私達の世界の空想の存在だった筈だろう?」

「! ……まさか、そういうこと?」


 気付いたようだな、と言わんばかりに笑みを深める玖珂に対し、桔音は苦々しい表情を浮かべながらこめかみに手を当てる。

 まさか、今まで戦ってきたメアリーがそういう存在であると認めるのは、桔音としても中々認めたくない部分があった。


 しかし、気付いてしまえばそれは辻褄が合う。メアリーが死んだ時の光景も、現象も、メアリーの容姿も、人格の凶悪さに関してもだ。


 桔音の想像通り、全てそう(・・)だったのなら――



「メアリーちゃんは、創った(・・・)んだな? 君が」

Exactly(その通り)、大正解だよ桔音君!!」



 序列第6位『天使』メアリーは、玖珂によって"創られた存在"だったのなら、全て説明が付く。付いてしまうのだ。


 気付いてしまえばあっさりしていて、どうして気が付かなかったのかと桔音は歯噛みした。

 彼女の姿があまりにも生き物としてそれらしく、人間として自我があるように思えて、生命としてちゃんとそこにあるように感じて、触れた時には温もりを感じられたから。そう思ってしまった。

 目の前の玖珂が、面白いモノを見たとばかりに笑う。まるで新しい玩具を見せびらかす様に、楽しそうに。


「……成程ね」

「まぁ、だから正確にはコイツは『天使』どころか『機械天使』であって、人間ではなく、機巧人形(マシンドール)だ。私の作った、ただの玩具さ」


 とはいえ、と彼はメアリーの頭を撫でていた手を止めて、逆に彼女の頭を力強く掴んだ。小さな少女の頭は小さく、大人の男である彼の手であれば簡単に容易に掴むことが出来る。

 そしてそのまま彼は、


「私の役に立たなかった以上、もうただの廃棄品(ゴミ)に過ぎないがね」


 メアリーの頭を地面に勢い良く叩き付けた。元々意識はないのか、メアリーは悲鳴すら上げない。ただされるがままになっていた。


「ッ!?」


 その行動に息を飲んだのは、桔音ではなくルル。

 だが、桔音もルルと同様にその行動をあまり良くは思っていない様だ。無意識にだろうが、『不気味体質』が発動していた。空間全てが、桔音の死神の如き重圧に覆われていく。


 しかし、そうにも拘らず、メアリーの頭をゴリゴリと地面に押し付ける玖珂は、尚も愉快そうに笑っていた。

 そしてメアリーから手を離し、ゆっくり立ち上がって桔音の方を見る。


「お前……幼女に手を出すとか、元の世界じゃ豚箱行きだぜ?」

「安心したまえ、この世界じゃ私がルールだ」


 どうやら、穏便に済ませるつもりは、最初からなかったようだ。


 玖珂は笑う。


 桔音も――笑った。


感想お待ちしています!玖珂さんナギ君以来の胸糞キャラです。

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