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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十四章 魔法と騎士の学園

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閑話 神話と呼ぶには醜すぎる歴史

 少しばかり、歴史の話をしよう。
 この世界――つまりは桔音が転生し、やってきたこの異世界。

 そこは昔、まだ人間もいなかった時代に、現代にはいなくなってしまった神々が存在していた。
 彼らには人間とは違って死の概念はなく、後に人間達にスキルとして受け継がれる力があった。それは、今の桔音が手に入れた超越者としての肉体と似たような力の在り方で、彼らが全員もれなく超越者と呼べる程の力。

 彼らには、争いという概念もなかった。
 彼らには、平和という概念もなかった。
 彼らには、暴力という概念もなかった。

 故に現代の人間の概念で言えば、その原初の時代――この世界は間違いなく平和であったのだ。
 死という概念がない以上殺し合いは起きず、平和という概念がない以上、彼らにとっての生とは現状維持を続けるだけの日々。
 退屈なんて思わない――ただ、彼らの生にはおよそ欲求を満たすだけの何かが欠けていた。

 争いはなくとも、愛はあった。

 愛があるなら、感情もあった。

 感情があるなら、お互いを想い合う心もあった。

 それでも暴力を振るうだけの理由は生まれなかったし、争いが起こる程の狂気も存在しない。
 彼らは清らか過ぎたのだ。
 清く、正しく、神聖で、一切の穢れがない存在。だから愛はあっても憎悪はなかった。希望はあっても絶望はなかった。力があっても、暴力はなかった。
 彼らは持っている力を使わなくても良いくらいに、現状を維持して時の流れるまま過ごすことが出来てしまえる存在なのである。

 故に、この世界は平和だった。

 故に、この世界は希望に満ちていた。

 故に、この世界は愛に満ちていた。

 故に、この世界は神聖だった。

 一切の穢れがなく、無駄な喧騒など存在せず、いつまでもこの世界はこのまま続いていくものだと、誰もが思っていた。

 だが、ある時この世界に、何の偶然か分からないけれど、生まれる筈のない悪性が生まれた。
 それは、たった一人の神だった。狂気を抱いて生まれてきた、悪神だった。 
 この世界には存在しない絶望も、暴力も、狂気も、悪性を抱いた何もかもを持って生まれ落ちた災厄だった。
 彼女は生まれたその瞬間に悟った。

 ―――私はこの世界を変える為に生まれたのだ

 彼女はその日から悪逆の限りを尽くした。
 手当たり次第に彼女は神々を攻撃した。持てる力の全てを暴力へと変換させて、彼女は神々を殺戮したのだ。
 無論、神々には死の概念はなかった。だがそれは、お互い不干渉の下で錯覚していたもの。彼らにもちゃんと、彼らを殺す方法は存在したのである。

 そう、神を殺せるのは、同じく神だ。
 彼らはお互いを殺せる力を、お互いが持っていることに気付かないまま――平和を何千年もの時間維持してきたのだ。
 それがたった一人の悪性によって覆された。思い知らされた。彼らは彼らを殺せることを知ってしまった。

 彼女の悪性は、伝染する。
 知ってしまえば止められない。彼らは彼女によって齎された死の概念に恐怖し、抵抗する。当然、彼らは彼女によって暴力を振るわさせられた。

 そうなれば起こるのは必然――戦争だ。

 彼らは戦った。たった一人の神を殺す為に。己の命を護るために。
 それが彼女の思い通りだということを知らず、彼らは無知にも己の保有する力を存分に振るってしまったのだ。
 多くの神が死に、やがて平和だった世界には恐怖や怒りが生まれた。多くの神々が怒りの声を轟かせ、愛は憎悪へと変わって行った。

 互いを憎み、互いを殺し、互いを恐怖する日々が続いた。

 悪神はケタケタと高らかに笑う。戦いながら笑う。
 神々との戦いを、心の底から楽しんでいた。それは最早、彼女の目的が達成せしめたことを表している。愉快愉快と、彼女は燃え上がる炎と死の匂いの中で気勢を上げた。

 ずぶずぶ、ぐさり、ざしゅっ、どすっ、ばきばき、ぐりぐり、ごきん、ごりゅりゅ。

 戦争を起こした彼女は、長い年月を戦い――最後は多くの神々によって処刑された。
 神々の抱いた憎悪を、拷問という形で一身に受け、最後は最も残酷な方法で命を奪われたのだ。
 何本もの刃を突き立てられ、何度も肉を斬られ、飛びかかる矢を何百本と受け止め、全身の骨を少しずつゴリゴリと砕かれ、眼球や舌、内臓を遠慮なく抉られ、骨の関節はねじ切るように回され、細胞の一片に至るまで犯し抜かれ、屈辱と恥辱の果てに死を迎えた。
 だが、彼女は最後まで笑っていた。狂気の感情を爆発させ、嗤っていた。

 それもそうだろう。
 彼女は最後の最後まで、己が見たかった光景が見れていたのだから。

 ――殺せ!
 ――死ね! 死ねぇ!!
 ――クハハハッ! 良い音で折れたな!
 ――アハッ! 貴女の身体の中に虫を入れてやったわ!
 ――うわっ、胃の中に蛆が湧いてやがる! 気持ち悪いんだよ!
 ――死ね!!
 ――死ね! 死ねぇ!!
 ――死んでしまえェェェェ!!!!

 憎悪と悪に染まった神々の表情。怒りを発散させて悦楽を感じている表情。悪性を持って生まれた自分よりも残虐な方法を考えて、それを自分に試してくる狂気。己が最も嫌悪していた悪性を、己が振るっていることに気が付かない滑稽さ。

 気が付いていないのだ。彼らは気付かない。
 悪性が彼女一人だけのものと信じて疑わない。彼女を殺せばこの戦争は終わり、元の平和が戻ってくると信じて疑っていない。
 なんと愚かで、滑稽なことか。
 彼女はだから笑う。

 ―――この世界を変えてやった

 今後、伝染した悪性は新たな悪を生み出し、更なる戦争を引き起こすだろう。
 この戦争が起こった時点で、神々は神々を殺した。愛を持っている以上、彼らは己が殺した命の分――憎悪を買うのである。
 憎しみ合った神々は、己が悪性に染まったことに気が付かないまま、己だけは神聖なままだと勘違いして、また戦争を繰り返す。

 そう、彼らがこの世界から消え失せるまで、何度でも繰り返す。

 ――私は、この世界を! 変えたんだ!! アハハハ!!

 確信を胸に、悪神はこの世から消えた。
 そして、彼女の確信の通りになった。この世界は、混沌とした憎悪と怒りによって戦争を激化させていったのだ。
 一人、また一人と神は死んでいった。神話と呼ばれるにはあまりにも醜い、戦いの歴史が積み重なっていく。

 だがそんな中に、悪神の予想に反した存在が一つだけあった。
 この世界が悪性に染まって尚、神聖なままでいた神が居た。憎悪を捨て、怒りを悲しみ、死を慈しみ、戦いを収めようとした神が居た。
 彼女は、聖母の様な心を持っていた。
 全ての神々を愛し、彼らの死をただ悲しみ、決して憎悪に染まってしまった神々を憎まず、ただ一人――この世界に広まってしまった悪性と戦うことを止めなかった。

 戦争は終わる。

 一人、また一人と、彼女の美しい心に触れて戦いを止めていった。彼女は一人一人と対話を繰り返した。戦いを止めましょうと。

 ―――戦いを止めましょう。憎悪や怒りは、また新たな憎悪と怒りを生むだけです。私は悲しい。どうしてあんなにも清らかだった貴方たちが、血を流し、戦っているのでしょうか。どうして、悪性は自分の心の中にあると気づけないのでしょうか。貴方たちは悪性の彼女を、彼女と同じやり方で殺しました。それは、紛れも無く自分自身が悪性に染まっている証拠ではないですか。戦うべきは自分自身。己を律し、己を愛し、目の前の友人を慈しみ、そして手を取り合う勇気を持ちなさい。相手を許すことの出来る、希望に満ちた未来を見なさい。

 伝染した悪性は、たった一人の神の、ありふれた言葉によって打ち消された。

 戦争は終わったのである。戦いは終わったのである。
 彼らは己を恥じた。そして、血塗られた歴史と悲しみの連鎖に終止符を打つ。
 もう二度と、戦争はしない。そして、その誓いの証として力を捨てることを決意した。

 彼らの持っていた超常の力は、世界に放出され――そして神々以外に存在しなかった、新たな生命を誕生させた。動物や自然、そして人間も生まれた。
 彼らから放出された力がこの世界を形作り、そして力を失った彼らは、神々はこの世界に存在するべきではないと、消滅を選んだ。

 彼らの命は、この世界に愛を持って平和を齎した彼女の中へと吸い込まれ、一つになった。全ての神はいなくなり、代わりに博愛の精神を持った唯一神が生まれた。
 彼女は手に入れた力を用いて、この世界の生きる全ての生命に祝福を与える。

 ―――いつかこの世界に戦争が起こった時に、これを収める力を

 抑止力と言っても良かったのかもしれない。それは、この世界に生まれた生命に宿った彼らの力を抑える為のものだった。後にステータスと呼ばれる力を抑え込める枷。それは、彼らの力が彼ら自身で抑えられる様にという彼女の祈りだった。
 戦争が起こった時、神々は憎悪を抱きながらも愛は忘れなかった。
 それはきっと新たな生命とて同じだと信じて、彼らが悪性に染まってしまったとき、心の奥底に愛があるのなら、踏みとどまれる心の強さを。

 そしてその祈りを抱いたまま、博愛の彼女はこの世界から消失した。肉体という概念を超えて、彼女はこの世界を形作る概念そのものになったのだ。

 その祈りは、この世界に幾千年の平和を齎した。
 戦争は起これど、人間達は己の力でそれを終息させる心の強さをみせたのだ。出来得る限り、手と手を取り合って、友人を慈しみ、恋人を愛し、家族を大切に想いながら、彼らは拙いやり方ではありながらも――一つの平和の形を保つことが出来たのだ。

 だが、その平和もまた――直ぐに崩壊することになった。

 悪性の神が、死ぬ間際に残した力の種があったのだ。
 それはこの世界をじわじわと蝕み、一つの生命を生み出した。それが魔の存在――魔族、そして魔獣だった。
 彼らは人間に拘らず、多くの生命を何の意味もなく殺す存在だった。それは原初、悪神の彼女がやったことと同じ――この世界に憎悪と怒りを生み出すきっかけを振りまく存在となる。

 彼女の撒いた種は、後に"魔王"と呼ばれる存在を誕生させ、その魔王が魔王と呼ばれるようになった時期に、最後は種その物が一つの"魔王を超える魔族の少女"へと変化した。

 魔族は人間の敵となり、人間は魔族の敵となる。そんな分かりやすい構図は、最早種としての戦争が、どちらかを滅ぼさない限り終わらないことを示している。
 博愛の神はもういない。悪性の神ももういない。
 だが、博愛の神の遺したものも、悪性の神の遺したものも、どちらも遺ってしまった。そしてそれは新たな戦乱の時代を作り上げ――この世界と次元を異なった超常の存在の介入によって、あるいは神々の戦争以上の狂気を、この世界に齎すことになった。

 そう、異世界人の介入によって。

 暴走する狂気がこの世界を呑み込み、博愛の神の祈った平和は崩壊してしまった。悪性の神の望んだ連鎖は、最早彼女の手を離れてしまった。
 神々の生んだこの世界の秩序は、まったく別の世界の存在によって崩れていく。

 ――ああ、なぜこうなってしまうの。私はただ、異なる命が愛を持って平和に生きてくれさえすれば、それで良かったのに。

 もういない筈の博愛の神。その彼女の心が悲しんでいるかのように、この世界が悲鳴を上げている。

 ――想像してなかった。こんな狂気、私の手には余ってしまう。見るに堪えない。

 もういない筈の悪性の神。その彼女の心が恐怖しているかのように、この世界が震えている。

 戦いは既に、火蓋が切って落とされた。始まってしまった戦いを止めるには、誰かが終わらせなければ終わらない。


 でなければ――どちらかが死に絶えるまで、止まらないのだ。

お久しぶりです。こいしです。更新を停止してから一年半程でしょうか。
スランプに陥ってから全くと言っていいほど何も書けない日々が続きました。本当に長い間お待たせして申し訳ありません。そして待っていてくださり、ありがとうございます。
執筆を再開したいと思います。確実に亀更新になると思いますが、これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。

そして今後についてですが、リメイク版を書いていて旧作の執筆を望む声が多かったので、まずは完結まで書いてからリメイクしていこうと思います。不安定な更新をする私ではありますが、応援していただければ。
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