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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第三章 道案内は必要だから
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 何が起こったのか、にわかには信じられなかった。


 私達が森の出口で出会ったのは、レイラ・ヴァーミリオンって名前の女の子。見た目年齢ではきつねさんと同じ位、身長は小柄で、見た目は可愛いなと思った、見た目はねっ。

 その子はランクCのとんでもなく強いらしい冒険者だった。レベルが上がってからなんとなくそういう気配が分かるようになってきたからすぐに分かった、この子は強いって。きっとCランクでは収まらない位ずっと強いって思った。


 だからこそ、ヘンだと思った。Cランクになるまでにきっと何千何百の魔獣や魔族との戦いを経ている筈なのに、腰に提げている二本のナイフは新品のように使われた跡が全くなかったから。新品を買った後だっていう可能性もあるんだろうけど、防具も新品だったもん。取り敢えず一式全部買い揃えましたって印象だった。

 だから、私にはきつねさんに擦り寄るこの子が凄く怪しく映った。何かヘンな事を考えているんじゃないか? きつねさんに何かしようとしているんじゃないか? って思ってた。ハニートラップか! 色仕掛けで何をするつもりだっ、とね!


 現にきつねさんは胸を押し付けられて簡単に、ころっと、容易に騙されてた。薄ら笑いがにやにやした笑いに変わってたもん。なんだかすっごくもやもやした!

 歩いてたらきつねさんの腕に絡みついてたから叩いてやった、しつこく離れなかったけどきつねさんの方から離れてくれた、やっぱり一緒にいる時間が長い私の方が大事なんだよ、それにきつねさんの肩に座れるのは私だけだもんね! 特等席だもん。


 ギルドに着いたら、彼女の目的がきつねさんだってことが分かった。なんでもきつねさんの存在の希少性が他国にまで伝わってたらしい。名前が他国にまで広がっているのは流石きつねさんだと思ったけど、彼女のきつねさんを見る目が凄く気持ち悪かった。人間が人間を見る目じゃないと思った。

 


 ―――まるで、獣が餌を見る様な、格下を見る目。



 怪しい光を宿した瞳が、凄く気持ち悪い。きっと彼女は戦いが好き、命の削り合いが好きなんじゃないかと思う。わざわざ強者の多いグランディール王国からきつねさんに会いに来るくらいだもん。

 だから私は彼女ときつねさんが戦うのを避けようとした、話をなあなあにして誤魔化すのはきつねさんの得意技だから、そうしようと思った。


 でも彼女は話を聞かなかった。知らない内に勝負することが決まってた。皆なんで気が付かないの? 彼女が心に秘めてる危険な気配に。


『フィニアちゃんはルルちゃんと居てよ、ささっと終わらせてくるから』


 きつねさんはそう言ってあの子の所へ向かった。ルルちゃんの肩に私を置いて、背中を向けて去っていくきつねさん、なんだかすごく嫌な予感がした。


「フィニア様……?」

「うーん……」

「どうしたフィニア、らしくないじゃないか」


 ルルちゃんとリーシェちゃんが私にそう言ってくる、でもそれに対応するような余裕はなかった。腕を組んでうんうん唸る私を心配そうに見ている二人だけど、ルルちゃんはともかくリーシェちゃんはそこまで心配している様子はない。ちょっときつねさんの実力を過信してるんじゃないのかなって思う。

 そういえばリーシェちゃんってきつねさんが戦っている所見たことないんじゃなかったっけ?


「……うん、やっぱり私見に行ってくる!」


 きつねさんが心配だから、私は羽をはばたかせて浮遊し、ルルちゃんの肩から飛び立つ。ギルドの裏手にある訓練場まで、私は飛んで向かった。すると、ルルちゃんが後ろから付いてくるのが分かった。あの子もやっぱりきつねさんが心配だったのかな? 家族として少し嬉しい。


 でも、そんな束の間の喜びはすぐに消し飛んだ。


 何故なら、



「んむっ!?」



 きつねさんを押し倒したあの女が、きつねさんにちゅーしてたから。



 ◇ ◇ ◇



「っぷはっ……」


 初めてのキスは、女の子の味がしました。ばい、きつね。


 なんて事を思いながら、僕は僕の唇から顔をあげた彼女の顔を見上げつつ、口を拭う。さっきまで僕の身体を縛っていた謎の悪寒は消えているけど、相変わらず僕の身体の上に跨っているレイラちゃんは、頬を紅潮させ、妖艶に吊り上がった口元に指を当てている。瞳には怪しい光が宿っていて、心なしがハートマークが幻視出来た。

 というかなんだ、何が起こった。少し遡って思い出してみよう。


 レイラちゃんと出会った、ギルドまで案内した、勝負する事になった、勝負した、負けた、キスされた、はいおかしい。最後とその一個前がどうやっても繋がらない。熱い溜め息を吐くレイラちゃんはそれはもう色っぽくて発情してんじゃないかと思わせる雰囲気をしているけど、今はどうしてそうなったかだ。


「えーと、レイラちゃん?」

「うふ、うふふふふ……」

「駄目だこいつ、聞いてねぇ」


 話し掛けても怪しく笑うだけの彼女、正直、めっちゃ怖いです。


 すると、


「きつねさんから離れてっ!!」


 フィニアちゃんの声が、レイラちゃんの身体の向こう側から聞こえた。レイラちゃんで見えないけど、きっとそこにいるんだろう。その声音は、ぞっとするくらい怒気が混ざっていた。肌がビリビリと振るえる程の圧力がある。


「あはっ、貴女はきつね君にくっついてた虫ね」

「うるさい、良いからきつねさんから離れて発情猫」


 なんだか、穏やかじゃない雰囲気だな。フィニアちゃんの言葉遣いや雰囲気も普段と違う、普段僕に対する悪口には悪意が全く感じられないのに、今のフィニアちゃんの言葉には節々から棘が感じられる。怒りと苛立ちの含まれた、文字通りの悪口、暴言。

 対してレイラちゃんもフィニアちゃんに対して虫と言った。思い返せば彼女は出会ってからずっとフィニアちゃんに対してなんの反応も見せなかった。フィニアちゃんが彼女の手を叩いている時も、無視してた。

 今思い返せば、アレはフィニアちゃんを眼中に入れてなかったってことだったのか。


 とはいえこの空気は不味い、此処は僕が取り持たないと。


「レイラちゃん、どうして僕にキスしたの?」

「うふ、うふふふ……私どうしても駄目なんだぁ、興味深い人を前にすると我慢出来なくて……今までは一緒にいた仲間が止めてくれてたんだけど……今回は駄目だったの」

「いや、意味分かんない」

「あ、安心してね、今の私のファーストキスだよ?」

「全然安心出来ねぇ!」


 密かに、あ、嬉しいと思ってしまった自分がいる。だって、女の子がファーストキスを僕にくれたというんだからそりゃ嬉しいですよ、若干強引だったけど、女の子にもそういう強引さがあっても良いと思う! 寧ろ美少女に強く迫られたら嬉しくない男はいないでしょ。

 でも、これ以上は駄目だね。なによりフィニアちゃんが悲しむし、僕は大してレイラちゃんが好きだという訳でもないしね。


「私、興味が湧いた人を目の前にすると身体が熱くなって、思わず襲っちゃいたい気持ちになるの……きつね君は私の好みに凄く合ってるんだよ? それに、Hランクなのに私の攻撃を受けて最後まで意識があるし、弱そうなのにそうじゃない所が……もうたまらない……!」


 レイラちゃんは自分の身体を抱き締めるように、何かを堪えるようにそう言う。弱そうなのにそうじゃない……これがあの有名なギャップ萌えか、いやいやそうじゃない。

 ということはこういうことなのかな? レイラちゃんにとって僕はタイプの容姿をしてて、ギャップ萌えがあって、興味が湧いたから、思わず発情しちゃいましたってこと? あはは、フィニアちゃん結構的を得てるね、確かに発情猫だよこの子。


「そんな事どうでもいいよ……離れないんだったらもういい、動かないでね……今すぐに燃やしてやるっ!」

「あはっ♡ まぁ貴女が来たから興が冷めたし、離れてあげる」

「……フィニアちゃん、僕は大丈夫だから。そんなに怒らないで」


 レイラちゃんが身体の上からどいてくれたことで、フィニアちゃんの怒った顔が見えた。僕は上半身を起こしてフィニアちゃんにそう言う。フィニアちゃんには怒った顔はして欲しくない、いつもみたいな笑顔で傍にいて欲しいなぁ。

 すると、フィニアちゃんは猛スピードで僕のお腹に飛び込んできた。


「きつねさーん!!」

「げふっ……!」


 痛みが無くて良かった、お腹に突撃してきたフィニアちゃんの一撃に、身体の中にあった空気が強制的に口から漏れ出た。苦笑しながら、僕の身体に顔を埋めるフィニアちゃんを片手で抱きしめた。小さいから潰さないように優しくね。


「なんだか妬けちゃうなぁ、ねぇきつね君、この後二人で何か美味しい物でも食べに行かない? 虫はおいてってさ」


 レイラちゃんが僕にそう言ってくる。多分彼女の気持ちは恋じゃない、友愛でもなければ、好意ですらない。ただ、興味に惹かれる猫みたいなものだ、新鮮な物が嬉しい、珍しい物に興味がある、そういったただの好奇心みたいな感情なんだと思う。

 でも、たとえ彼女のコレが恋愛感情だったとしても、僕は多分同じ様に返したと思う。


「ごめんね、フィニアちゃんを虫呼ばわりするお前と食べるご飯なんて、不味過ぎて食べられない、それと――――発情するなら余所でやれよ」


 僕の言葉に、彼女はきょとんとした表情を浮かべた。キツイ言い方かもしれないけど、僕の本心だ。

 フィニアちゃんを虫なんて呼ぶ奴は許さない。例えリーシェちゃんやルルちゃんでも、どんなに絶世の美少女や美女であっても、どんなに権力をもった王様や騎士団長でも、或いは勇者や神様であっても、僕が許さない。


 それはしおりちゃんの想いに対する侮辱で、フィニアちゃんに対する侮辱だ。


「勝負は着いた、僕は帰るよ。フィニアちゃんを虫と呼ばなくなってから出直して来い」


 僕は最後にそう言って、その場を去る。ルルちゃんが隠れて此方を見ているのに気が付いて、眉間に集中した力を抜いた。気持ちを落ち着かせて、表情をいつもの薄ら笑いに戻す。ルルちゃんを怖がらせるのは忍びないからね。

 ルルちゃんは僕が薄ら笑いを浮かべると、多少ほっとしたようだった。僕は彼女の頭を撫でて、一緒にギルドの中へと戻る。去り際にちらっとレイラちゃんを見たら、俯いて立ち尽くしているのが見えた。でもちっとも罪悪感を抱かないまま、僕は彼女への視線を切った。



フィニアちゃんが一番大事です。


出来れば夜に連投したいなー。

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