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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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泊まる場所

 フランの怒りは、ほぼほぼ理不尽な逆ギレであることを、桔音は理解している。

 そもそも、桔音が騎士になるつもりであることなど誰も口にしてはいないし、それはフランが勝手にそう思い込んで桔音を美化していただけのことなのだ。勝手に信頼して、想像と違ったから裏切られたと勝手に喚く――まさに、今のフランがそれだった。

 桔音としては糾弾された時点でそう思っていたので、反論する事も出来た。しかしそれをしなかったのは、桔音的には女の子を泣かせたら泣かせた方が悪いというフェミニスト的な自論があるからだ。フランは泣いていた。逆恨みだが桔音に裏切られたと思ったから泣いていた。それだけで十分、桔音にとって謝る理由になる。


 だが、一旦謝って、彼女の気持ちの整理の為に部屋を去ったのは良いものの――桔音には代わりの寝床になるアテなど全くなかった。

 レイラの所に行くにしても、彼女の部屋は現在あの変態百合ガールがいる。リーシェの所に行こうにも、彼女の部屋には既に百合ガールから逃げて来たレイラが世話になっている。かといってルルの所に行くのも気が引けた。屍音の部屋は最初から候補に入っていない。あの少女に泊めて欲しいと頭を下げるのは、桔音のちっぽけなプライドが許さない。


「さて……どうしたものかな」

『外で寝る? 私は気温が分からないけど、まだ寒い時期じゃないんでしょ?』

「確かに外で寝る事は出来るんだけど……でも、外で寝たらほら。他の生徒に見られると困るじゃない? 正直これ以上目立つことはしないって言ったばっかりだし、ソレは避けたいよね」


 となると、桔音としても寝ていておかしくは無い場所を確保しなければならない。放課後故にまだ校舎は開いているだろうが、そこで寝泊まりするのは不可能だ。最終下校時刻を過ぎれば学校は鍵がかけられるし、教室や廊下に居れば警備員に見つかるのが落ちである。

 校舎内は無理、となると学園外の宿に泊まるのが一番だろうが、残念なことに制服を着ている中で外の宿を使ったことがバレれば――それこそ目立つ。全員が寮に入っている筈の生徒が、外の宿を使うのだから。


 ならば寝床に出来る場所は、学園内にある場所のみ。内、校舎と寮は使うことが出来ない。体育館、運動場は遅くまで剣術練習をしている生徒がいる。また、警備員もしっかり見回りに来るだろう。眠っていれば普通に学園長へ報告されるに決まっている。面倒事はなるべく避けたい所だ。


「ということは……残った場所は1つかな」


 それら諸々を考えて、桔音は1つの場所を思い付いた。そして、思い付いたらすぐに行動を開始する。桔音はとりあえずその場所を当たってダメなら、また違う場所を考えよう、という感じで歩き出した。



 ◇ ◇ ◇



「それで私の所に来たの? くだらないわね」

「そう言われると身も蓋もないけどね……まぁちょっと話してみたいこともあったし、丁度良かったんだよ」


 桔音がやって来たのは、図書館内に存在する大魔法使いアシュリーの研究室。ここならば学園内であり、他人の目に付くことも無く、そして警備員や教師陣が関与してこない。桔音にとって最も都合の良い寝床であった。

 とりあえずアシュリーにフランとの諍いについて話し、泊めてもらえないかという話をした桔音。アシュリーはそんな桔音に対して、朱色の瞳をじとーっと細めながら呆れ顔だ。話を聞いて彼女も、フランの逆ギレで追い出されたというのが分かったのだろう。桔音に非が無いというわけではないが、それでもこの状況の原因は殆どフランの勝手な被害妄想である。


 全くくだらない、と思いながらも――桔音の持ってきた話が自分の興味を引く様なモノならば、考えないでもないなと判断した。


「とりあえず座りなさい。貴方の持ってきたらしい話を聞かせて貰うわ」

「ん、面白かったら泊めてね」

「ソレは貴方次第よ」


 桔音は勧められた椅子に座りながら、アシュリーと向かい合う。緊張感は無いが、それでも話す内容はこの世界の中でもおそらくトップクラスに重大な案件だろう。下手すれば、世界規模の話になってくるのだから当然だ。


 さて、そこで桔音が話すのは当然、メティスのことだ。以前話した時には情報がなくて話せなかった『神姫』についてだ。とにかく、桔音はメティスに出会った経緯から話し、容姿や性格、その特徴、そして力の性質の予測としては『裏切りや同士討ち』の力ではないかというところまで、持てる情報を全て話す。そして最後に、彼女と騎士団長殺害事件は恐らく関わり合いがあると伝えた。

 また、メティスの情報ではないものの――現在この国にそのメティスと、その仲間である『天使』メアリーが存在しているという事も伝えておく。


 すると、アシュリーはしばらく無言で考え込んでから、思考を整理出来たのだろう――桔音に視線を向けた。


「多分、貴方の予想は当たってるわよ。そのメティスって子の力は、『同士討ち』の性質があるとみてまず間違いないでしょうね。本人がそう言っているんだし、それに騎士団長の一件で残された現場を見ても……その力なら納得が行くもの」

「というと?」

「貴方も分かってるでしょうけど……まず騎士団長の剣には血が付いていなかった。これはきっと襲い掛かってきた仲間達を傷付けない様にしていたと考えると、納得が行く。そして、騎士団長の身体に幾つもの切り傷があったというのは、きっと全部操られた隊長達の攻撃……騎士団長が死んだ後はそれぞれの隊長同士で斬り合ったと考えれば、状況の説明は付くのよ。それに、隊長達が生きていたのは騎士団長と違ってどちらも操作されていたから。一方的じゃなく、お互いに斬り合うのであれば重傷で済んだのも分かるわ。どちらも斬り合いのダメージで相手を殺し切れなかったんでしょうね」


 アシュリーの言葉に、桔音は一つ一つ頷く。桔音としても、集めた情報を鑑みればその結論が出ていた。メティスが関わっていることは彼女自身の口から出て来たので、そうなった時に説明を付けられる力を探せば――同士討ちしか思い付かないのだ。

 神葬武装故に、おそらく同士討ちという能力はまた別の特殊性を持っているのだろうが――アシュリーもその正体までは掴めないようだ。今回はメアリーとは違い、力を使っている姿や瞬間を見た訳ではないし、情報が少ない故の不明さである。


「なんにせよ、同士討ちの可能性が高いだけで確実ではないわ。私もその線が一番あり得ると思うけど、常識を超えた力だし……別の可能性もあるということは頭に置いておくと良いわ」

「そうだね……まぁ、僕としては彼女は上手いこと立ち回れれば敵に回す事は無いと思う」

「話を聞く限りじゃその様ね……まぁ警戒するに越したことはないわ。一番謎な存在である『天使』もこの国にいるんでしょう? 防ぎようの無い力だから、正直早々に片付けたい案件ね」


 とはいえ、現在の問題はメティスではなくメアリーの方である。

 アシュリーとしては、メティスの同士討ちの神葬武装が牙を剥いた所で大したことは無い。そもそも彼女自身、同士討ちにされるような相手もいないのだ。

 ならば目下最も危険なのは分かりやすくも力の詳細が分からないメアリーの存在。アレは手刀の一振りで人を十数人と一気に殺すことが可能な概念武装であり、例え戦えたとしても対抗手段がない。斬ったという結果のみを発生させるあの力は、防御のしようがないのだ。


 まさしく、ありとあらゆるものを両断する刃である。

 ソレを防ぐことが出来るのは、現時点で桔音だけ。手刀を弾くというとんでもない防御を見せた桔音だが、それといっても必ずそう出来るという訳ではない。


 結局、危険は危険のまま残っている―――


「ああそうそう、もう1つ話したい事があるんだ」

「へぇ……それは今までの話とは違うのかしら?」

「うん。多分、僕と君と――最強ちゃんにしか分からないことだ」


 ぴくり、桔音の言葉にアシュリーの瞳が軽く動いた。桔音と自分に共通し、そして最強ちゃんにまで共通すること。そう聞いて思い付くものといえば、1つしかない。いや、思いつくではないだろう。想像し、予想出来ることというべきか。

 だがその予想通りの内容であるのなら、目の前の桔音が"そうなった"ということに他ならない。だが、もしもそうなら桔音は自分と同じ領域にまで上ってきているということになるのだ。それは、アシュリーにとっても最強ちゃんにとっても、放置する事が出来ない事態である。


「――神とか名乗る女に、会ってきた」


 そして、その予想が当たっていることを、桔音はその言葉で確信させた。

 神と名乗る女と出会った。その言葉を聞いて、アシュリーはガタッと音を立てて立ち上がる。その表情は驚愕に染まっており、信じられないという言葉が言わずとも伝わってくる。


「……やっぱり、あの子が言ってた橙色の服の子っていうのは君のことか」

「……本当に、あの女に会ったって言うの?」

「うん。そして、彼女が僕をこの世界に送った張本人だった」


 桔音は衝撃の事実をさらりと述べる。異世界から異世界へと人間を放り込んできた張本人が自分の知っている存在だと知って、彼女は更に驚愕に目を丸くしている。余裕な態度を崩すことの無かったアシュリーが、初めて動揺を見せた。その事実に、桔音は少しだけ苦笑した。


「ぁ……っ……つまり、貴方はあの女に会い……そして何かを得た。代償に何を支払ったのかは知らないけど……そうなると貴方も『超越者』になったのね」

「『超越者』?」

「便宜上私がそう呼んでいるだけだけど、今の所私とあの最強娘……そして貴方の3人だけね。あの女の所に行って、人間を超越した力を得た者のことのことよ」


 桔音はその言葉を聞いて、成程的を得ているなと思う。とはいえ世界広しと言えど3人しかいない『超越者』、その中に入ってしまった桔音。アシュリーと最強ちゃんという冒険者最強と魔法使い最強の2人に並ぶというのは、中々恐縮してしまうようなものではあるが――だが、これであの神の下へ行ったのがアシュリーと最強ちゃんであることが分かった。それだけでも十分だろう。


「成程……因みに君が得た力っていうのは、魔法の力なのかな?」

「そうね……私の場合は全ての魔法の知識を手に入れたわ。魔法適性と魔力量に関しては自信があったし、知識を活用出来る様になったのは大分最近のことよ。結構努力したんだから」

「なんか可愛い一面を見た気がする」

『結構隠れた努力してたんだねー……ふひひっ♪』


 ともかく報告の様な形ではあるが、桔音はアシュリーに自身が超越者であることを告げた。


「……で、今日は此処に泊めて貰えるのかな?」

「……はぁ……仕方ないわね、同じ境遇の好みよ。好きにしなさい」

「ありがとう! じゃあもう寝るね! おやすみ!」

「ちょっと、そこ私のベッドなんだけど」

「すーはーすーはー……むむ、なんだか良い匂いがする。なんだろう、凄くムラムラする匂いだな……すーはー……」

「ちょっ!? やめなさい! こら、離れなさい!!」


 とまぁ、そんな感じで桔音はアシュリーの部屋に泊まることが決まった。フランとは違った反応に、新鮮な気持ちになった桔音である。


 因みに、桔音は簀巻きにされて床で寝ることになったのだが――アシュリーの顔は真っ赤になっていたので良しとする。


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