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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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死神と神姫

 メアリーと別れた桔音は無事にレイラ達と合流し、現在騎士団詰所へと戻っていた。そろそろフランも話を聞き終えたころだろうと思ったのだ。


 さて、ここで状況を整理する。 

 桔音は現在持ち得る情報を纏めていく。自分がこの世界から元の世界に戻る為には、異世界人との関わり合いが必要がある。その異世界人はおそらくステラやメアリー達の組織にいる――もしくはステラ達全員が異世界人である可能性も、アシュリーによって齎された。


 現在分かっているステラ達の組織のメンバーは、


 ――序列第2位『使徒』ステラ

 

 ――序列第4位『神姫』メティス

 

 ――序列第5位『聖母』マリア


 ――序列第6位『天使』メアリー


 以上4名だ。序列にどんな意味があるのか、未だ桔音も解明出来ていないものであるが――それでも彼女達はこの世界の人間らしからぬ異常な力を持っている。神葬武装然り、各々の持つ肉体の特性然りだ。ステラはその体質によって固有魔法を発動出来るし、メアリーなど新種の種族でないと説明が出来ない肉体構造をしている。おそらく、メティスとマリアにも何かしらの特性があるのかもしれない。まぁ無いかもしれないが。


 現在、この国にはこの4人の内『神姫(メティス)』と『天使(メアリー)』がいる。片方の神葬武装は分かっているものの、片方の神葬武装は現在不明のままだ。ただ、騎士団長が殺害されたことがメティスの仕業であることは、およそメアリーとの会話で証明されている。

 つまり、騎士団長の一件に関われば自然――この『神姫』と呼ばれるメティスに関わることになるのだ。メアリーの話を聞く限りでは、このメティスという人物はとんでもなく臆病で、扱いを間違えれば爆発する超危険爆弾的存在だという。桔音とはしては、そんな人物に進んで関わりたいとは思えない。


 桔音達の戦力は、防御力は最早規格外に突き抜けた桔音を初めとして、瘴気を扱うレイラ、魔法を使うフィニア、吸血鬼であるが、吸血鬼としての能力を未だ使いこなせてはいないリーシェ、そして長期戦に置いては無類の強さを発揮するルル、幽霊のノエル―――この6人。屍音とリアは正直戦力としては数えていない。数えてもいいと思う程、彼女達は仲間として信頼を置けないのだ。

 正直、戦えるかどうか考えれば戦力不足は否めないだろう。彼女達に比べて、桔音達の陣営は特殊ではあるが常識を逸脱しているわけではない。あくまで、この世界において特殊な構成のパーティであるだけなのだ。

 レイラでは、『天霆(ケラウノス)』を持つステラには敵わないだろう。

 フィニアでは、魔法をも切り裂けるメアリーには敵わないだろう。

 リーシェでは、魔眼同士目を合わせる可能性が高いマリアには敵わないだろう。

 ルルでは、短期決戦で勝負を付けられる彼女達には敵わないだろう。

 桔音達は根本的に彼女達との相性が悪いのだ。まして、屍音やリアを戦力として数えた所で、彼女達もステラ達に敵うかどうか怪しいものだ。


 唯一対抗出来る存在としては、幽霊のノエルくらいではないだろうか。見えない、というのはやはり一種のアドバンテージと言えるだろう。


「どうするかなぁ……」

「ん? どうしたのきつね君♪」

「んー……まぁ、ちょーっと面倒な相手とやり合うことになりそうだからさ」

「……そっか♪」


 横を歩くレイラと肩に乗っているフィニアが、桔音の表情に怪訝な表情を浮かべるが、深くは追求しなかった。桔音が自分達に何か話さない時は、けしてレイラ達を心配して言わない訳ではないからだ。おそらく、桔音の中でも整理が付かない故に話さないのだろう。


「まぁとりあえず……騎士団長の一件を聞いて何かしらの情報を手に入れられたらいいかな」


 呟き近づいてきた騎士団詰所を見る。メンバー全員を見ればなんともならなそうな面々ではあるが、今は目先に登場している『神姫』メティスの情報を集めようと思考を切り替えたのだった。



 ◇ ◇ ◇



「どうやら……お父様の一件は、全く別の誰かがいなければおかしい状況だったらしいわ」

「というと?」


 あの後しばらく待っていると騎士団詰所からフランが出て来た。

 そして、そのままお昼ご飯を食べるついでに話を聞くことになった。入った喫茶店に座り、注文した料理が一通りやって来てから、一息。そしてフランが切り出したのを皮切りに、会話が始まった。

 フランが騎士団詰所内で話を聞いた限り、どうやら騎士団長の一件には第三者が介在していたことが分かったそうだ。だが、桔音もそれは把握している。寧ろ、その情報がますますメティスという存在が居たという根拠になってくる。


「あの場所に、白紫色の髪の毛が落ちていたらしいの。でも、あの日あの部屋にいたお父様達の中にそんな色の髪を持っている人はいない……つまり、その髪の毛を持つ誰かがいた可能性があるらしいの」

「ふーん……ってことは、その人物がフランちゃんのお父さんを何らかの方法で死に追いやったことか」

「でも……お父様の剣は、抜かれていたのに血が一切付いていなかったらしいわ。あのお父様が一太刀も入れず、一方的に殺されたなんて思えない……!」


 フランは両の拳を握り締めながら、怒りに震えた声で言う。余程自分の父親を尊敬していたのだろう。その実力を知っているからこそ、何も出来ずに殺される筈がないと信じているのだ。

 しかし、桔音としてはあり得る話だと思う。それだけの相手なのだ、彼女達は。普通の人間では一切対抗出来ない圧倒的力を持つ存在―――彼女達はそういう理不尽である。


 だが、フランの話を聞いて桔音は思考する。

 もしもこの騎士団長を殺害した事件でメティスが関わっているとすると、どのような手で騎士団長が殺されたのか、だ。そこから神葬武装の正体がつかめてくるかもしれない。


 例えばこれが神葬武装そのものによる事件ならば、その正体は手を出さずに相手を殺すことが出来る能力ということになる。メアリーに似た様なものだろうか。

 また逆に神葬武装を扱うメティス自身による事件ならば、メティスは臆病者といえど相当の実力を持っている可能性がある。この場合神葬武装はステラと似た様な物理武器だろう。


 どちらにせよ、この事件を行うにはどちらか確定する事が出来ない―――しかし、


「それに……お父様だけを殺すだなんて、意味が分からない……」

「え? お父様"だけ"?」


 桔音はフランのその言葉に反応した。


「ええ……あの日あの場にはお父様と――全隊長達がいたの。でもその中で死んだのはお父様だけ……他の隊長達は重傷らしいのだけど、一応命はあるそうよ――」


 桔音はその言葉に、確信した。メティスの神葬武装は、前者だと。


 何故なら、メティス自身に騎士団長を打倒出来る実力があったとして、隊長達が死んでいないのは不自然だ。騎士団長の剣に血が付いていない以上、メティスが無傷なのは確実。その状態で隊長達が重傷ということは、その場にいた全員と戦っても勝つ事が出来る実力を持っていることになる。なのに隊長達は殺さずに去るなど、明らかにおかしい。騎士団長を殺したのなら、隊長達も殺さなければ騎士団長を殺した意味が分からないのだから。

 故に、隊長達が生きている以上メティスはどうやったかは知らないが、自分で手を下さずに相手を死に追いやることが出来る神葬武装を持っているということになるのだ。


「そっか……うん、ありがとうフランちゃん。他に何か情報はあるかな?」

「……いや、私が教えて貰ったのはそれだけよ」

「成程、分かった。それじゃとりあえず今日の所は帰ろうか」

「……ええ、分かったわ」


 フランからの情報が打ち止めということで、桔音はとりあえず今日の所は帰ることにした。少なくとも、今のフランはちょっと頭を落ちつかせる必要がある。

 席を立ち、寮へ帰る為に歩き出す。桔音とレイラは料理を食べ終えているが、フランのはほぼ手が付けられていない。そそくさと店を出ていったレイラとフランを見て、桔音は此処の代金は自分持ちなのかと少々苦笑した。


 桔音も席を立ち、会計の為に店員の立つレジ台へと向かおうとする。肩に乗ったフィニアは、フランの残したパンケーキが少々気になるのか、名残惜しそうな顔をしていた。それに気づいた桔音は、お土産にパンケーキを包んで貰う。フィニアの喜ぶ顔に、桔音も微笑んだ。

 そして代金を払い、フィニアは包んで貰ったパンケーキを手に取りご満悦だ。そしてそのまま店の外へ出ようと踵を返した桔音だが――振り返ったその瞬間、ソレに気が付いた。


 両手で紅茶を飲み――此方を見ている水色の瞳に、気が付いた。


「……フィニアちゃん、先にレイラちゃん達と寮に帰っててくれる?」

「え、どうかしたの? きつねさん?」

「うん、ちょっと1人で考えたいことが出来た」

「…………そっか、でも危ない事はしないでね?」

「うん、約束するよ」


 桔音はフィニアを先に帰らせる。その水色の瞳は、今も尚ずっと桔音を見ている。じっと、ただ観察する様に此方を見ている。桔音は直感で、この瞳には1人で対峙した方が良いと確信する。フィニアがいた場合、何か危険なことになる気がしたのだ。

 フィニアは桔音の顔が真剣味を帯びていることを感じ、それが大事なことなのだろうと思っていうことを聞く。この場において自分がいることは不味いことなのだろうと、桔音を信じて。


 フィニアがパンケーキを持って外へと出ていったのを見て、桔音はその水色の瞳に視線を送る。口に付けていたカップを離すと、その瞳の少女はカチャ、とコースターの上にカップを置いた。そしてその白紫色の髪を揺らしながら、ニコリとぎこちない笑みを浮かべる。


「――こ、こんにちわ……」

「……こんにちわ。相席してもいいかな?」

「ど、どど、どうぞ……」


 そこに居たのは、ゴスロリ姿に白紫色の髪を持ち、膝にボロボロの兎のぬいぐるみを乗せた少女だった。両手には鈍く光る手錠が付いており、首には鎖の伸びた首輪が付いている。まるで囚われのお姫様の様な印象を与えてくる少女だった。

 しかし、少女の見た目はかなり病弱で、触れれば壊れてしまいそうな繊細さを感じさせる。白紫色の髪と水色の瞳が、より彼女を硝子細工のように見せる。


 相席と言って、彼女の正面に座る桔音。この時点で、桔音はなんとなく確信していた。この少女が、例の『神姫』メティスなのではないかと。ただの直感でしかないのだが、しかしフランの言っていた情報と彼女の持つ独特な空気がそう思わせたのだ。


「……」

「……えと……その……こ、これ、食べる?」


 会話が無い事が気まずかったのだろうか。彼女は目の前に置いてあったケーキをすすす、と前に押し出してきた。桔音はそのケーキを見て、どうしたものかと思う。メアリーは言った、扱いを間違えると爆発すると。

 これを受け取るべきなのか、受け取らないべきなのか―――数秒考えて、桔音は結論を出す。


「いや、これは君が食べると良いよ。君の物を取るのは気が引けちゃうし」

「そ、そう……じゃあ、食べる―――え……?」


 おどおどびくびくする彼女は、そのままケーキを食べようとするものの、その前に桔音がケーキの横に置いてあったフォークを手にとって、ケーキを一欠片切る。首を傾げる少女は、桔音が言葉と違う行動を取り始めたことに疑問を抱く。もしかしたら食べたかったのかもしれないと思って、手錠で繋がれた手をひっこめた。


 だが、フォークが器用にケーキを一欠片拾い上げると、それがゆっくり少女の方へと向いた。


「?」

「あーん」

「ひゅいっ!?」


 桔音は少女に対して、自分が食べる様に相手に食べて貰う選択肢を選んだ。そして顔を赤くした少女の反応を見て、内心ガッツポーズ。ついでにこれからどうすればいいだろうか、と内心真顔になっている自分を自覚。

 メアリーの時の勢いから、ちょっと調子乗り過ぎたと反省する桔音であった。


 だが、ここからどうするかと考える桔音。


「……あ、あーん……」

「あ、はい」


 すると、口を開けた少女。桔音はやるのかと思い、彼女の口の中にケーキを放り込んだ。もぐもぐと咀嚼する彼女を見て、なんだか雛鳥に餌をあげている気分になった桔音。メアリーではないが、今度は桔音は思った。なんでこんなことしているんだろう、と。


「えーと、君はメティスちゃんで合ってる?」

「!」


 もぐもぐと、まだ口に物が入っている途中で問いかけられたからだろうか、急いで飲み込んでから口を開く少女。


「そ、そうだよ……序列第4位『神姫』メティス……皆はメティって呼ぶよ……よろしく、ね?」


 えへへ、と照れるように笑みを浮かべる彼女は、やはりお姫様の様に可憐で、お人形の様に不気味だ。桔音も不気味な少年と言われているからか、なんとなく波長が合いそうな気がする少女である。

 しかし、思わぬ所で出会えた『神姫』と呼ばれる少女。見た目が最早丸分かりなのは、今までの全員を見て来て納得だが――さてさて、此処からどうするか。

 桔音は次のケーキを待って口をあーんと開ける少女を見て、フォークを動かしながら考えるのだった。



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