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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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神姫

 目的は別としても、桔音達は学園に入学した身。であればその学園の行事や授業には参加する義務がある。まして、周囲は幼い頃から『立派な騎士になれ』だとか『良い魔法使いになれる』と口々に言われて育ってきて、やっとこの学園に入学した者達ばかりだ。そんな環境下で身勝手な行動ばかり取ってもいられないであろう。

 授業を一度サボった桔音は既に、教師から多少のお叱りを喰らっている。同じ様にサボったレイラが何故かちょっと注意されただけで終わったのが不服といえば不服だが。ともかく授業や行事にはしっかり参加しろと言われてしまったのだ。


 まぁ入学して早々に動きづらくしてしまうのもなんなので、桔音としてもとりあえずは授業に参加している。騎士科の授業はこの世界の常識的な部分を知ることも出来るので、為にならない訳ではない。戦術的な知識や、様々な戦い方も学ぶことが出来、桔音としてもそれを己の戦闘にも活かせるよう思考錯誤してみたりして、有効活用している。

 レイラと共にいることで生まれたクラスメイト達との確執もあるのだが、桔音は敢えてそれをどうにかしようとは思わない。なんと言い繕おうとレイラと共に行動しているのは変えられないし、結局レイラが桔音を好いている以上、彼らの邪推は遠からず当たっているのだから。

 それならその確執をどうこうするより、ステラ達について思考する方がよっぽど有益な時間の使い方と言えよう。


「うーん……どちらにせよ、ステラちゃん達に会わないといけないんだよねぇ」

「何をぶつぶつ言ってるの、煩いわよ」

「あ、ごめんね」


 現在は寮の一室、桔音とフランはいた。

 机の前に座った桔音は、椅子の背凭れに身を任せてどうしたものかと唸っていたのだが、それを煩わしく思ったフランがベッドにうつ伏せで寝転んだままジトっとした目を向けて来た。学園生活が始まっておよそ1ヵ月が経ち、段々と新入生も新入生から在校生並に学園生活に慣れてきている。

 フランも桔音との共同生活には慣れたらしく、元より無かった遠慮が更に無くなった態度を取り続けている。桔音のクローゼットスペースは好き勝手に使い、桔音のベッドの上に服を脱ぎ捨てたり、桔音の椅子を使って本棚の高い場所へ手を伸ばしたり、最早この部屋の物は全て自分の物だと言わんばかりの我儘っぷり。初日に言っていた様に、どうやら桔音は彼女の中で置き物レベルの存在らしい。


 ただ、桔音も特に何か物申したりしないので、相性は良いのだろう。特にこれといった争いも無く生活が続いている。クローゼットは元々使わないし、勉強もしないので椅子は勝手に使って貰って構わないし、ベッドに脱ぎ捨てられた服など最早御馳走である。美少女の脱ぎたての服がベッドに捨てられていれば、桔音は喜んで回収する変態なのだから。昨日も脱ぎ捨てられた服を首に巻いて寝たくらいだ。ほんのりと香る花の様な匂いに包まれて、とても良い気分で安眠出来たという。

 まぁ、その翌朝流石に返してと取り上げられたが、それ以降も普通にベッドに服が脱ぎ捨てられていたので、あまり気にしてはいないようだ。


「というか、何時になったらレイラ先輩紹介してくれるのよ」

「機会があったらって言ったじゃん……まぁ、その内ね」

「貴方がレイラ先輩と親しい関係にあるのは、噂でも聞いたし信用してるけど……」

「んー……まぁその内機会があるんじゃない? いずれ中等部との交流授業なんかもあるし」


 桔音の言葉に、フランは鼻を鳴らして枕に顔を埋めた。簡素だがお風呂も付いている部屋故に、彼女の髪はしっとりと濡れている。服装も水色の寝間着用ネグリジェだ。しかも若干透けるタイプなのか、下着が見えている。

 フラン曰く、本当は全裸で寝るのが通常なのだそうだが、彼女の父親から流石に止めなさいと言われたらしく、その際に渡されたソレを仕方なく着ているとのこと。

 桔音はその際『良いよ、全裸で寝れば?』と言ったのだが、父親との約束は反故に出来ないと返された。まぁ、それを抜けば性に関してかなりオープンな子だなと思った桔音である。


「そういえばフランちゃんってさ」

「エリュシアと呼べって何度も言ってるでしょう、この愚か者」

「クラスでは友達いるの?」

「人の話を聞かない男ね……それと、貴方には関係ない事でしょ」


 あ、こいつ友達いないわ、と確信した桔音である。

 どうやらフランは新入生代表とその容姿端麗さから、序盤こそかなり多くの生徒達に話し掛けられていたらしいのだが――持ち前のつっけんどんな態度で全てをバッサリと斬ったようだ。その結果、彼女は友人作りに失敗した。桔音に強気の言葉で返したように、友人と呼べる者が1人も存在していないからだ。

 まぁ、桔音程彼女の冷たい態度に寛容で居られる人材はそういない。彼女と付き合っていくというのなら、やはり何よりも寛容であることが求められるだろう。そう考えれば、屍音の御付きの様なポジションを確立しているミルーナなんかは、確実にフランと付き合っていけることだろう。まぁ、クラスが違うのか話したりすることはないようだが。


「はぁ……なんでこんな男と一緒の部屋なのかしら」

「最初の段階で気が付いて欲しかったかなぁ、まぁ仲良くしようぜ」

「……まぁ、部屋を使うのに不自由しないし別に構わないけど……置き物のクセに生意気なのが傷ね」


 桔音と同居することは、フランとしてもそれほど嫌な訳ではないらしく、桔音の仲良くしようという言葉を否定したりはしなかった。

 実際、彼女としても桔音という男が嫌いなわけではない。おそらく、この学園の中で言えば同居人としてこれほど都合の良い相手もいないとすら思っている位だ。好き勝手に振る舞っても文句など一切出て来ず、部屋を我儘放題使い荒らしてもたくましく生活して見せる性格の持ち主。つっけんどんな態度でも仲良くしようだなんて言う始末だ。

 今までこの態度のせいで親しい友人なんてものが一切出来なかった彼女としては、親族以外で初めて素のままの自分を曝け出しても良い相手であった。

 しかも、年上に対する敬意など期待していないとばかりに、敬語や尊敬した態度を取れと強要もしてこないし、そういった話題に触れようともしない。出会った当初から桔音に対して後輩あるまじき態度を取っていたフランは、あらゆる意味で桔音という存在が傍に居ても気楽で居られる相手だと無意識に思っているのだ。

 だから1ヵ月経った今、フランは初日よりも我儘に振る舞うようになったし、桔音に対しても大分砕けた態度を取るようになった。まぁ、砕けたといっても悪口のグレードが上がったという意味だが。

 

 故だろうか、フランは今更になって少し桔音という男に興味が湧いた。

 これほどまでに横暴な態度を取って尚仲良くしようと言ってくる彼。相手のパーソナルスペースすら侵略して、後輩としての殊勝な態度すら取っていないのにソレを良しとしてくれている彼。


 ――何故、ここまで温厚でいられる?


 性格と言えばそれまでだが、どんな人間だろうと初対面の人間にあそこまで失礼な態度を取られて苛立ちを覚えない筈がない。第一印象が険悪なものであれば、それは一生続く。それ以降もその印象通りの態度を取り続けられればソレはストレスになり、多少なりとも相手に対する態度も険悪になるはずなのだ。

 なのに、桔音は依然としてフランに友好的だ。薄ら笑いは少し薄気味悪いが、基本的には優しく接してくれている。それが、フランには少し気になった。


「……ねぇ、貴方は私と同室で嫌じゃないの?」


 だから聞いた。嫌だというのならそれまで――今すぐに部屋の変更をしても構わないと思う。フランとしても付き合い易い相手だとは思うが、それが一方的であるのならそれを強要するほど横暴にもなれない。

 だが、桔音はその問いにきょとんとした表情を浮かべた後、あははと笑った。


「美少女と一緒に暮らせるんだ、嫌なわけないじゃないか」

「……そう、物好きね」


 桔音の答えに、視線だけを向けていたフランは呟くようにそう言った。元々、桔音も嫌ではないのではないかと思っていた節はあったのだ。それが本人の口から告げられただけ。フランとしては付き合い易い同居人が、向こうも嫌ではないと思っていてくれただけの話。

 だが彼女は気が付いていない。何時も仏頂面を浮かべていた自分の口端が、ちょっとだか緩やかに吊りあがっていることに。


 桔音は椅子から立ち上がり、自分のベッドに寝っ転がる。いつものように脱ぎ捨てられたフランの服をアイマスクとばかりに目の上に被せると、そのまま寝る体勢に入った。


「さ、そろそろ寝ようか」

「……そうね」


 桔音の言葉に、フランは同意して掛け布団に潜った。そして魔道具の灯りを消し、枕に頭を乗せる。


 隣で自分の服の匂いを嗅ぎながら眠ろうとしている男をちらりと見ると、なんだかむず痒くなったのでとりあえず――


「この愚か者」

「なんで?」


 桔音のことを罵倒して目を閉じたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 ―――クレデール王国騎士団詰所。


 騎士と魔法使いの卵を教育し、優秀な人材を育てようとしているこの国では、騎士団の力は強大である。脅威から民を護ってくれる国の象徴的な存在でもあるのだ。騎士団長副団長を始め、幾つかある部隊を率いる隊長達。そしてその下に付いて日々修練に励む騎士達や魔法使い達は、子供達の憧れであり民達の信頼する国の為の剣であり盾だ。


 その騎士団の中で、少々剣呑な空気が漂っていた。


 その原因は騎士団長と副団長の重い表情にある。各隊長達も同様に難しい顔をしており、大きなテーブルを囲んで無言の空間が生まれていた。


「……どうしますか、団長?」

 

 そんな空間の中で切り出したのは副団長だ。話掛けられた騎士団長は、腕を組み眉間に眉を寄せたまま唸る。

 彼らをこうして悩ませる原因は、つい先日発覚した――魔獣達の活性化だ。此処最近、周囲の自然に住む野生の魔獣達の気性が荒くなってきている。原因は不明だが、気性が荒くなった彼らはいずれ大群となってこの国に攻め入ってくるだろうと予想されるのだ。

 この周辺の魔獣は、騎士団としてはそれほど脅威に見ていないのだが……如何せん数の暴力にはどうしても対処出来る限界がある。騎士団が如何に最善の手を打った所で、民から死者が出るのは避けられないだろう。


 だが、騎士団としてはそんなことを許すわけにはいかないのだ。出来得る限り民から死者を出さない。その為に騎士団は存在しているのだから。


「…………現段階ではどうする事も出来んな……だが、民達には伝達しておいた方がいいだろう。危険な事態になるかもしれないという情報さえ伝達出来れば、有事の際に備えて行動することも出来る筈だ。不安や困惑を与えてしまうだろうが、死者を出すよりもずっといい」

「そう、ですね。分かりました、とりあえずその様に致します」

「ああ、頼む――各隊長は明日より国外へ繋がる外門警備に当たってくれ。副官として数名の騎士と危機を知らせる事の出来る魔法使いを最低1人付けてくれ、人員の采配は各々の判断に任せる。残る騎士達は普段通り国内警備だ。いいな?」

「「「「ハッ!」」」」


 騎士団長の指示に、各隊長達は各々敬礼と共に力強い返事を返す。各々性格の違いはあれど、民達を護る為に騎士になった者達だ―――その為ならば、剣と共に命を捧げよう。


 騎士団長が頷き、解散を告げようと立ち上がった。その瞬間、


「―――ぅぐゥ……ッ!?」


 騎士団長の背後から、副団長が腰に提げていた剣を団長の背に突き立てていた。咄嗟に身を捻った騎士団長は、その剣による致命傷を避ける。そしてすぐさま剣を抜いた。臨戦態勢を取り、副団長の暴挙の理由を探る為に、目を細めた。

 各隊長達も騎士団長が刺された瞬間に剣を抜いており、既に行動を開始していた。どんな理由があったにせよ、暴挙に至った副団長の拘束。理由は後で問い質せばいい、まずは危険の排除が最優先だ。


 動揺を押し殺して行動出来るところが、彼らの強みでもあるのだろう。


 副団長を拘束するべく隊長達が剣を振るい、組み伏せる形で副団長を抑えつけた。凄まじい連携によって瞬く間に捕らえられた副団長は、剣を押収されて項垂れている。


「……どういうことだ? 何故お前がこんなことを――誰だ!?」

「あっ……見つかっちゃった……ご、ごめんなさい……怖い顔しないでお願いします泣いちゃうから……」


 副団長に近づき暴挙の真意を問いただそうとする騎士団長は、その部屋に出現した気配に気が付いて剣先をその気配の方へと向けながら振り返り、睨み付ける様にそこにいた者へと視線を向けた。

 すると、会議をしていた大きなテーブルの上に、先程まではいなかった筈の少女がちょこんと女の子座りしていた。ゴスロリのお人形のような服を着て、その両手でぎゅっと兎のぬいぐるみを抱き締めている。騎士団長の眼光に怯えて涙目になり、白というよりは青白い肌を更に蒼白にしながら震えていた。両手首を拘束する手錠がチャラチャラと音を鳴らしており、奴隷の為のものではないが首輪も付いているので、その姿はなんだか捕らわれた姫の様でもある。

 白紫色の髪を持ち、青白い肌は病弱な印象を与え、華奢な身体は触れれば壊れてしまいそうな程の繊細さを感じさせた。なんだか庇護欲を煽る少女だが、しかしその顔立ちはかなり整っており、今は病弱な容姿故に心配してしまう気持ちが先に来てしまうものの、紛れも無く美少女と言えた。


 その姿から騎士団長は少しだけ罪悪感を感じて剣先を下ろしたものの、だが警戒は解いていない。


「……君は誰だ? 一体何処から入ったのか、聞かせてくれるか?」


 出来るだけ刺激しないよう優しく話しかけたつもりだったのだが、少女はヒッ、と小さな悲鳴をあげた。騎士団長は強面故に勘違いされ易い。特に女子供からは少々恐れられぎみなのだ。それが此処でも出ていた。


「わ、私は何もしてないもん……悪くないもん……うぅ……!」

「わ、悪かった……だからー……その、なんだ、泣かないでくれ」

「私は悪くないっ……うぇぇん……!」

「あぁぁっ……そ、そうだな! 君は悪くない! 悪かった、泣き止んでくれ……今のは俺が悪かった」


 騎士団長は剣を収めて泣きだした少女を宥める。こんな少女に今更何か出来るとは思わないし、また華奢な身体故にこの場で暴れられても最悪自分と隊長勢が居れば取り押さえることも出来る。そのことによる一種の安心感にも似た思考から、騎士団長はいつのまにか警戒を解いていた。


 解いてはいけない警戒を、解いてしまった。


「えへっ……えへへへへっ……そうだよね、私は悪くない」

「あ……ああっ、そうだな」


 泣きやみ、少女は可愛らしく笑う。そしてそれに安堵した騎士団長は、次の少女の言葉で自分の行動を後悔した。



「だから――悪いのは団長さん」



 ドスドスドスッ、騎士団長は自分の身体の内側でそんな音が鳴ったのを聞いた。そして唐突に身体中に走る激痛を感じて、ゆっくり首を回して振り向く。そこには自分の信頼する部下である隊長達が、拘束していた副団長が、自分に対して騎士の誇りである剣を突き立てている光景があった。

 背中から胸や腹部を貫いて出てきた剣は、騎士団長の血に濡れている。そして噴出した血は正面にいた病的な少女の顔を赤く濡らした。


 騎士団長は視線を少女に戻すと、少女は微笑む様な笑顔を浮かべながら騎士団長を見ていた。顔の半分を赤く染め上げたまま、まるで陰日向に咲く一輪花の様な繊細な笑顔を見せる。


「とっても強い団長さん……とっても強い隊長さん達……とってもとっても怖い……だって、その気になれば私のことなんて簡単に殺しちゃえるもの……それはとっても怖いの……私、毎晩怖くて眠れないの……何度も涙を流したよ? でも怖くて怖くて……震えが止まらないの……」


 だから、と少女は続けた。


「悪いのは団長さん、悪いのは隊長さん達、悪いのは騎士さん達、悪いのは魔法使いさん達、悪いのは騎士さんや魔法使いさんになろうとする子供達、悪いのは――この国だよ」

「な、にを……!!」

「私はちっぽけで弱いもん……魔獣が襲ってくればすぐに肉塊になっちゃう……血を噴き出して、とっても痛い思いをしながら死んじゃうよ……怖い、怖い、とっても怖い……」

「うぐっ……!?」


 少女の独白は続く。騎士団長は、ギリギリで急所を外されたのかまだなんとか生きながらえていた。出血も剣が刺さった状態であればまだ抑えられる。

 しかし、この状態は少々不味いと言えた。隊長達がこのようなことをしたのは、この少女のせいなのか、それとも全く別の思惑が動いていて隊長達が望んでこのような暴挙に出たのか、それが分からない。疑問は騎士団長の頭に浮かんでは消えた。


 少女は続ける。


「赤ちゃんも、子供も怖い……可愛いけど、手加減を知らないんだもん……簡単に人を傷付けることを言うの……私は心が弱いから、馬鹿って言われたらとっても傷付く……胸が痛くなって、体調を崩しちゃう……だから怖い、とっても怖い……死ねって言われたら、私きっと耐えられないよ……それはとってもとっても怖いことだよ……」

「は―――ぁぁぁあああ!!!」


 騎士団長は、少女を危険と判断した。この状況が長引けば、いずれ死ぬのは自分。ならば、この状況下でこの少女を生かしておいてはならないと判断した。

 無理矢理身体を動かし自分に突き刺さった剣を前に踏み出すことで引き抜くと、自分の剣を抜いて少女に切り掛かった。全身全霊、騎士団長として長年戦ってきて初めて出会った恐ろしい何か、それを打倒する為に最大限自分の全身全霊を込めて剣を振るった。


 最高速最大威力で、目の前の謎を切り裂く。


 ここで、殺す―――!


「怖いから、いなくなってほしいの」

「ゴッ……ぁ………!?」


 少女はガタガタ震えながら、震える声でそう言った。そして、その言葉と同時に騎士団長は自分の剣が空振りするのを実感する。いや、空振りしたのではない――団長の剣が彼の腕ごと斬り飛ばされたのだ。

 そして目の前にいたのは、自分が最も信頼していた副団長。剣を振り抜いた姿でそこに居て、ゆっくりと二撃目の為に剣を振りかぶっている。腕を失いゆっくりと倒れそうになっていた騎士団長に、その剣に対応するだけの余裕は無かった。


 刹那、


「団……長……ぁ……」

「!」


 剣を振り抜き、自分の胴を切り裂いた副団長の瞳から零れた涙を見た。副団長は、自分の意志で騎士団長を切り裂いたわけではない。それを、その涙が物語っていた。信頼は、裏切られたわけではない。騎士団長は薄れゆく意識の中、それを理解して少し――安心した。


 お前は悪くない、そう言おうとして口が開かない。


 代わりに、


「私は、序列第4位『神姫』……メティス……皆はメティって呼ぶよ……えへへ」


 そんな自己紹介が聞こえる。

 ぼやけていく視界の中で見た少女の顔は、どこかのお姫様の様に綺麗で、お人形の様に不気味だった。



「ああ……これでぐっすり眠れそう――」


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