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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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帰還の為の情報

本作一周年です! これからもよろしくお願いします!


 休み時間―――桔音は図書館へと足を向けていた。同じクラスであるレイラを連れて、廊下を歩いている。

 やはり新入生代表という肩書はレイラを有名にしているらしく、桔音はまた悪い意味で目立っていた。レイラに近づいているあの男は誰なんだ、という疑惑と嫉妬の視線が桔音を貫いている。男女問わず魅了するレイラの魅力というのはやはり外面的なものであって、内面を知れば離れていく者も多く出てくる筈。しかし現在はレイラも特に何か問題を起こした訳でもない。

 そうなれば羨望の視線を向けられるレイラの傍にいる男は、現在においてただの嫉妬の対象でしかない。当然羨ましいという気持ちから、桔音に向けられる感情というのはあまり良くないものばかりだ。


 だがレイラも桔音もそれがどうしたとその視線を受け流し、悠々と廊下を歩いていた。どちらも学園の制服を着ているので、いつもとは少し違った印象を得る。男女で制服のクオリティが大きく違うのは4代目の熱意がはっきりと出た結果だろうが、それにしたってレイラの制服姿というのは中々に魅力的であった。

 肩や脇を大胆に露出し、足もショートパンツだったせいで大きく露出していたレイラの格好は、制服によってその露出度を抑えている。だが制服であるということは、ショートパンツではなくスカートになったということ。レイラ達女子は階段下から見たり、風によって翻ったりしてもギリギリ見えない限界まで短くされたスカートによって、普段はなかったチラリズムという武器を手に入れていた。流石は4代目勇者、その欲望に極限まで忠実に動く男である。

 そういう訳もあって、魅力的な制服バージョンのレイラと並ぶ低クオリティ制服男子桔音は、あまりにも不釣り合いに見えている。というか、この制服のスペック差があって男女並べばどんなに顔面偏差値が高かろうが吊り合う訳が無い。まさにリア充殺しの制服。これを見越して作られたとするのなら、4代目勇者は最早リア充を学園内から撲滅する事に成功している。ある意味天才だ。


「ねぇきつね君♪ この制服似合う?」

「似合う似合う、レイラちゃん可愛い」

「もう! 心が籠ってないよ♪」

「だってもう12回目の問い掛けだもの」


 桔音とレイラは視線を気にせず歩く。まるでモーゼの様に道を開ける生徒達は、殺意とも取れる視線を送っては来るものの攻撃を仕掛けてきたりはしないのだ。内心で何だろうこのチキン達は、と思わないでもない桔音だが、そもそもレイラが誰と居ようがレイラの勝手であることを理解しているのだろうと考えれば、仕方の無いことなんだろうなと納得出来る。

 元々、桔音がレイラを連れまわしている訳ではなく、レイラが桔音に付き纏っているのだから文句の言い様もない。


 だが、分かっていてもそれを認めない者も、やはりいる。


「レイラお姉さま!! そんな男と一緒にいるなんて間違ってます!! 私と! この私と一緒にいましょう!?」

「……誰? レイラちゃん」

「んー……私の同居人?」

「うわぁ……災難だねぇ、レイラちゃん」


 現れたのは、レイラの同居人である少女。名前はレイラもまだ聞けていない。何故なら、レイラは入学式の日以降あの部屋に帰っていないからだ。ではどうしているのかというと、リーシェの部屋へ行って過ごしている。迷惑だろうが、リーシェの部屋の同居人もレイラの同居人の話を聞いて納得してくれたようで、寝る時は部屋を使ってくれても構わないと承諾してくれたのだ。

 ちなみにリーシェの同居人は、リーシェと相性の良い常識人だったらしい。リーシェも久々に穏やかで普通の時を過ごせると漏らしていたという。


 桔音もそれを聞いていたので、レイラの同居人に関しては少し気になっていたのだが――まさかここまでの変態とは思っていなかったらしい。


「くっ……そこの男! レイラお姉さまに触れるな! というか近づくな汚らわしい!!」

「君はその心が汚らわしいよね」

「煩い!! その穢らしい視線を止めろ!!」

「うんその厭らしい邪推を止めろ」

「レイラお姉さま! 貴女は騙されてるんです! この男に!」

「君はおめでた過ぎるんです、その頭が」

「お前とは話してない!! 黙れ!」

「君とは話したくない、帰れ」

「ッキィィィィィィ!!!」

「はい誰ですかー? 此処に魔獣を連れ込んだのはー?」


 やってきた少女の言葉を桔音は軽くあしらう。寧ろ挑発する様に少女を煽っていくスタイルを貫いていた。頭を掻き毟って桔音を睨む少女は、遂にその腰に提げた剣に手を掛けた。どうやら彼女は騎士科の生徒の様で、腰に提げた剣が大分使い込まれていることから、それなりに剣術を修めて来ているようだ。

 だが桔音からしてみれば、その覇気や佇まいや剣の構え方も、様にはなっているものの"ある程度"という感じでしかない。というか、魔王や使徒達といった化け物達と戦って来たのだから当然なのだが、普通の人間の少女に負ける気はさらさらない。


「殺します!!」

「逃げます」

「逃げるな!!」


 だが、戦いたいかと言われればそうでもない。桔音としては、全ての戦いを正面から戦おうとは思わないからだ。逃げられる戦いは全て逃げる。命を賭けた戦い、まして無駄な戦いなどする意義も意味も見出せないのだから、受けてやる必要もない。

 だから桔音は逃げる。無駄な色狂いの百合女に付き合ってやるほど、桔音も他人に甘くは無い。とはいえ、桔音の周囲にいた生徒達はどうやらこの百合少女の味方らしく、逃げようとした桔音の行く手を遮った。まぁ微妙な表情故に、この百合少女程の執着は無いのだろうが、やはり桔音とレイラが共にいるのは承諾出来ないようだ。


 溜め息を吐く桔音に、跳び掛かってくる百合少女。その剣は迷いなく桔音に振り落とされ、


「めんどくさいなぁ」

 

 そして桔音の手によって鈍い音と共に弾かれた。

 廊下を歩いただけでこれか、とうんざりした表情を浮かべる桔音。最早これも運命力云々の引き寄せた厄介事じゃないだろうかと思ってしまう程、桔音は厄介事に見舞われる機会が多い。さてどうしたものか。桔音は剣を弾いた手をぷらぷらと振りながら、その視線を百合少女へと向ける。


「……何をしたんですか?」

「見た通り。剣を振ってきたから、手で弾いた」

「そんなこと……出来る筈がない! 手で弾くなんて……刃の側面だとしても狙って出来ることじゃない!」

「じゃ偶然出来ちゃったんだよ」


 桔音は尚も気だるげに受け答えをする。ちらっとレイラを見るが、レイラは桔音がやられないことを分かっているからかニコニコと笑みを浮かべている。ただ、百合少女に対する好感度はガンガン下がっているらしい。

 それにまた溜め息を吐いた桔音は、レイラの手を取るとその場から大きく前へと跳躍した。その結果、2人は百合少女達の頭上を飛び越えて、遥か後方へと着地した。そしてそのまま駆けて行く。どうしようもないから逃げる。結論としてはそういうことだ。


「あっ……待て!!」

「待たない、休み時間は無限じゃないんだ。君に構っている暇は無いんだよ」

「くっ……レイラお姉さまぁぁぁぁぁぁ―――!!!」


 段々と聞こえなくなっていく百合少女の声を背に、桔音とレイラは図書館へと向かう。レイラは百合少女の声に少しだけ微妙な表情をした。さしもの『赤い夜』レイラ・ヴァーミリオンも、行き過ぎた変態には少々引き気味である。

 

「ま、さっさと異世界に帰る為の情報を手に入れたら……さくっと退学でもなんでもして去れば良いさ」

「うーん、なんとなく近づきたくないなぁあの子♪」


 それは昔の僕が君に思っていたことだよ、とは言わない桔音だった。



 ◇ ◇ ◇



「それで、頼んでおいた情報に関してはどう?」

「まぁ簡単な情報程度なら集めたわよ」

「そりゃすごい」


 図書館の研究室の中で、桔音はアシュリーと対面していた。レイラの姿は無い。アシュリーが桔音以外をこの空間に入れなかったからだ。渋々と言った様子で、レイラは図書館をうろついている。

 そして本題である異世界に関する情報の話をすると、アシュリーは既に簡単な情報を集めていてくれたようだ。桔音としても、たった数日でそれほどまでの情報収集を終えているとは思っていなかったので、素直に感嘆する。


「まず、この世界と異世界を繋ぐ方法だけど……古代魔法にそういう物は確かにあるわ」

「!」

「勇者召喚の為の魔法は、その魔法の技術の一部が使われている……所謂劣化版ね。昔はどうやら異世界を行き来する事も出来たみたいよ?」

「……じゃあ、それを使えば帰れるってこと?」

「そうね、帰るどころが自由に来たり帰ったりも出来るでしょうね……ただ、この魔法に関しては勇者召喚の魔法以外に技術がなにも残っていないの。だからあの召喚魔法を基に逆算して元の魔法を編み出すとしても、数年掛かるでしょうね」


 アシュリーの齎した情報にちょっとした希望が見えたかと思ったが、その魔法は既に失われているという事実が見えただけだった。やはりそう甘くはないようだ。だが、帰る方法は幾つかあるとあの神は言っていた。その魔法はその内の1つなのだろうと思えば、まだまだ諦める訳にはいかない。

 桔音が続きを促すように目で訴えると、アシュリーはクスッと軽く笑いながら更なる情報を開示する。


「だから魔法で異世界を渡る方法は、あるけれど時間が掛かり過ぎる。でも、魔法って限定しないのであれば、可能性は0じゃない」

「となると?」

「異世界人っていうのは貴方だけじゃないのよ。世界中で異世界人っていうのは何人かその姿を見せてる……つまり、この世界では異世界人が来るのはそうそう珍しいことじゃないってこと。それなら、こっちから向こうに行くのだって難しい話じゃないでしょう? なら、それらしい存在を当たってみれば何か分かるかもしれない」


 情報としては的を得ている。桔音とて、あの神と名乗る女から異世界人がこの世界に7人存在していることを聞いて知っている。

 だが、その異世界人というのが何処に居るのか、それは全く分からないままだ。魔族という種の頂点に立つ魔王と相対したところで、勇者以外の異世界人に出会う事は出来なかった。なのに、他の異世界人が何処にいるかなど――分かる筈も無い。


 とはいえ、異世界人ではない彼女とてそれ位分かっている。異世界人はこの世界の人間と容姿的に特に変わりがない。しかし、彼女は驚くべき事実を桔音に述べる。


「私が集めた情報で―――異世界人と睨んでいる存在がいるわ」

「! ……それは、凄いね。一体誰なのかな?」


 そして彼女は次の言葉を待っている桔音に、にやりとシニカルな笑みを浮かべながら言った。


「最近この世界に―――『使徒』と呼ばれる存在が現れているらしいの」


 桔音はその言葉を聞いて、怪訝な表情を浮かべる。

 確かにいる、『使徒』と呼ばれるステラという少女、そして彼女の仲間であるメアリーやマリアという『天使』と『聖母』。桔音の知り得る限り3人の白い存在が。

 だが、その彼女達は異世界人を狩る存在。つまり異世界人とは寧ろ敵対する関係である存在の筈なのだ。ならば、彼女達が異世界人である筈がない。


 しかし、稀代の大魔法使いアシュリーはそれを否と切り捨てる。


「私が知る得る限り、『使徒』の他に『天使』、『神姫』、『聖母』を加えた4人を、私は異世界人だと睨んでいるわ」


 新たに出現した『神姫』という存在も含めて、桔音は驚愕に目を見開いた。


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