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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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全知全能の何か

体調不良より復帰しました。まだ軽く頭痛がするので完全復帰まではもう少し掛かりそうですが、執筆欲だけは最早留まる事を知らないようです。気付けば流れる様にパソコンの電源を押して執筆体勢に入ってました!!

 桔音が目を覚ました時、そこには真っ白な空間が広がっていた。真っ白な地平線が見えるばかりで何もない世界だ。

 桔音はそれを確認して、此処は現実ではないとすぐに理解した。現実でこんな場所はあり得ないし、それならば自分が無茶して死んだか、またはヴィルヘルムの時の様な夢の世界か、と考える方がよっぽど現実味を帯びている。

 だが一応、といった思考で桔音は自分自身のステータスを覗こうとする。だが、その意思に反してスキルは発動しなかった。自分のステータスはいくら覗こうとしても見えず、またスキルが発動した感覚もない。これは成功したのかそれとも失敗なのか、全く判断が付けられなかった。

 首を傾げながらも全スキル発動しないことを確認し、仕方ないと溜め息を吐いた。どうやら今の桔音は身体能力は知らないがスキル的にも無力な存在らしい。


 となれば、桔音の次にやる事は現状確認だ。キョロキョロと視線を動かし、この場所がどういう場所で何が存在しているのかを確かめようと行動を開始する。


 だが、その行動は数秒で打ち切られる。


「こっちだよ、きつねちゃぁーん」

「……!」


 声が背後から聞こえた。勢いよく振り向けば、そこには先程まで無かった筈の真っ白いテーブルと2つの椅子が現れており、片方には1人の女性が座っていた。テーブルに頬杖を付き、桔音に悪戯な笑みを向けている。

 その人物から感じる得体の知れない圧力に、桔音は少しだけ警戒心を高めながらも身体をその女性の方へと向けた。


「やぁやぁ、初めましてになるのかな? 私は君達が言うところの、神様だー。とでも言えば、頭を垂れて敬意でも払うかい?」

「そんな殊勝な態度を取ったことは人生で一度も無いよ」

「結構。まぁ座れよ」


 カラカラと笑う女性の指差した椅子を見て、桔音は少し躊躇ったものの――今はこの女性しか手掛かりは無いと考え、大人しく座ることにした。素直に座った桔音の態度を見て満足気に鼻を鳴らした女性は、さてと前置きを入れて悠々と口を開いた。


「まずは自己紹介と行こうか……私はそうだね、君をあの世界に送った者と言えば興味を持って貰えるかな?」

「! ……そりゃ最高の餌だと思うね。僕はきつねだよ……君のことは何で呼べばいい?」

「そうだねぇ……何でもいいよ、名前なんてあったりなかったりするし――適当に呼んでよ」

「じゃあ適当にカスとでも呼ぶよ」

「良いねぇ、カスとは良い響きだ。私も子供がいたら愛情を込めてカスと名付けることにするよ」


 桔音の皮肉にも何処吹く風といった様子の女性――仮称カスは、不敵な笑みを崩さないで頬杖を付いたまま楽しそうに桔音を見ていた。

 だが桔音は内心穏やかではない。それもそうだろう。なにせ、目の前にいる女性が自分を異世界へと送り込んだ張本人だというのだから、冷静でも居られない。何故あの異世界に送り込んだのか、何故自分だったのか、何故あんな運命を課せられたのか、聞きたい事は山ほどある。


 しかし、それは彼女も分かっているらしく、桔音の敵意が籠った視線を受けながらカラカラと楽しげに笑いながら、その手をぷらぷらと振って桔音を宥める。


「そういきり立つなよ、ちゃんと順を追って質問に答えてやるからさ」

「……じゃあなんで僕を異世界に送ったんだ? あの時僕は死ぬはずだった……なのに気が付けばあの世界にいた……しおりちゃんを泣かせてまで、僕をあの世界に送った理由はなんだ?」

「暇潰し」


 は――?

 桔音は即答で答えられたその回答に、一瞬唖然となった。今目の前にいるこの女は、何をほざいたと空白に染まった思考が数秒遅れて考えだし、そして直ぐにその解を思い出させた。


 暇潰し


 暇だったから、なんとなく桔音を異世界に飛ばした。彼女にとってしてみれば、ただそれだけのことなのだ。桔音がなんとなく目に留まって、なんとなく面白いことをしていたから、なんとなく暇潰しに異世界に送ってみただけのこと。カスにとっては、それだけが理由で、それ以上の理由は必要なかった。


「ふざけ―――」

「でも、君はあのままなら死んでただろ? 異世界に送られて二度目の生を得たんだ、そこの所忘れないで欲しいなぁ?」

「そんなの知るか、僕は異世界に行きたいなんて言ってない……! 大切な仲間に出会えたことには確かに感謝はしよう、でもね――しおりちゃんに余計な心配を残したまま消えるなら、例えフィニアちゃん達に出会うことを知っていたとしても僕は最初からそれを望みはしなかった」

「へぇ……でも、君はしぶとくも元の世界に戻ろうとしているんだろう? それが叶うなら、君はもう一度あの女の子に出会うことが出来るじゃないか」


 桔音は目の前で話すこの女が、心底気にくわなかった。

 確かに、フィニアやレイラ、ルルやリーシェ、ノエル、ドラン――多くの者と出会い、そして絆を結んできた。それなりに仲良くなった者もいるし、自分に好意を抱いてくれる存在だっていた。しかし、桔音は分かっている。自分にとって、それがしおりの存在の上に成り立っているものなのだと。

 だからこそ、桔音は彼女達を大切に思ってはいるものの……きっと元の世界に戻れるとなれば迷いなく切り捨てることが出来るだろう。フィニアを連れて元の世界に戻ると言ったことも、レイラの愛に何れ応えると言ったことも、何もかも嘘で済ませて切り捨てることが出来るだろう。


 今の桔音にとっては"まだ"―――彼女達は捨てられる。


 今の桔音にとっては"まだ"―――嘘で自分を塗り固められる範囲内。


 今の桔音にとっては"まだ"―――自分を傷付けられる範囲内だ。


 でも、それをしなくてはならない状況を作ったのは、目の前のこの女だ。だから桔音はこの目の前の女が気に入らない。もっと言えば、"なんとなく"という理由で世界から迫害されたという事実が気に入らない。

 そんなことをされる理由はないし、桔音はそんな目に遭う様な悪い事をした覚えなど一切無いのだ。なのに一歩間違えれば死ぬ世界に放り込まれるなど――ふざけるにもほどがある。


「その言い分が通るのは僕がまたしおりちゃんに会えた時のみだ……それに、あんな運命まで背負わされて憤らない奴がいるとでも?」

「戦闘狂なら喜ぶだろうねぇ、君は違ったみたいだけど……ドンマイ、きつねちゃぁん」

「死ねカス」


 カスは桔音の言動に対して全く動じる様子は無かった。貶される様な言葉に対しても、責める様な暴言に対しても、彼女は大らかに何処吹く風だ。暖簾に腕押しといった様子で、どんな言葉も全く心に響いていないようだ。

 だがそれは心が広いという訳ではない。彼女には実際、何の言葉も響いていないのだ。


 彼女は概念、或いは法則、或いは生物、或いは自然、或いは世界、或いは、神とも呼ばれる様な、大きく不確定で、全知全能の何か。


 ちっぽけな人間の言葉に一喜一憂するほど、人間という存在を同格に見ていない。踏めば死んでしまう虫にバカと言われても何も感じないのと同じ。寧ろ哀れにすら思う様な圧倒的存在の差を自覚している。

 だから人間である桔音に何か言われた所で何も感じない。寧ろそんなことを言う桔音を哀れにすら思っているし、観察対象としては中々面白い事を言うじゃないかと褒めてやりたいとすら思っている。つまりはそういうこと、彼女にとっては桔音も桔音が飛ばされた世界も、等しく観察対象。小学生が夏休みの宿題でやるような、朝顔の観察程度の価値しかないのだ。


「それで、他に聞きたい事はないのかな? 今は機嫌が良いから、とりあえず答えてあげるけど」

「……僕が元の世界に戻る方法は?」

「んーんーんー……そーれは反則だぜきつねちゃぁん。ゲームは攻略法を自分で探しながら冒険するモノだろう? そういうのなんて言うか知ってるかい? チートっていうんだよ……だからその方法は教えてあげない」

「なるほど、つまり元の世界に帰る方法は"ある"んだな?」

「おっとぉ、これは失言だったね」


 桔音の問いに対して、カスはおどけた様に口元を抑えながらウインクをする。桔音はしてやったりといった表情をしたが、カスのそんな態度にまた眉をひそめた。


 カスは桔音に対してカラカラと愉快に笑い、テーブルに付いていた肘を離し、両手を広げながら椅子の背凭れに寄り掛かる。そして睨みつけてくる桔音の、観察対象としての価値のみを見つめて口を開く。


「良いよ、ヒントをあげよう。君はこの場所への扉を取り敢えずは開いた――その御褒美だ。花には水をあげないといけない、虫には餌を、土には潤いを、争いには勝敗を、殺戮には快楽を、被害者には絶望を、救われた気がしてる奴らには希望とか、人間にはまぁ色々と……なら君にも与えるものが無いとね?」

「……それで?」

「確かに、君が元の世界に戻る方法はあるよ。方法は教えないけれど、ソレは1つだけってわけでもない。まぁ君はこれからその中でもとりわけ厳しい方法を見つけるんじゃないかな? いや、見つけられるのかもしれないけれど」


 彼女の言葉に、桔音は表情を歪めて疑問顔を作る。何を言っているのか分からないといった表情だ。それもそうだろう。元の世界に戻る方法は幾つかあると言われて、その中でもとりわけ厳しい方法に近づいていると言われても、現状だけでは全く判断が付かない。何をどうすれば彼女の言う元の世界へ戻る方法へ近づけるというのか、全く分からないからだ。

 そんな桔音の困惑を余所に、彼女はカラカラと笑いながら立ち上がり、桔音の傍へと歩み寄ってくる。腰から上半身を前のめりに倒して桔音の顔を覗きこんだ。


「ヒントはそうだね――『幽霊』『異世界人』『白い意志』……とりあえずはこの3つかな?」

「幽霊……?」

「ああ、君の傍には幽霊がいるんだったね……ま、ヒントはあげたからこれ以上は言わないでおこう。さて、それじゃあそろそろ君を元の世界に戻そうかな。私も暇じゃないんだ、これからアニメを見ながらポテチを貪って新しく買ったゲームに勤しむ予定があるからさ」

「……最後に1つだけ聞かせて。僕以外にあの世界に送った異世界人は何人いる?」


 そうして桔音をさっさと追い返そうとしたカスに対して、桔音は更なる質問を投げ掛けた。異世界人は桔音の知る限り、勇者を除いておそらく1人、多くて2人だ。先程のキーワードヒントからして、おそらくノエルの実験に関わっていたのは異世界人に間違いない。

 だとすれば、あの世界には桔音以外に異世界人がいる。それは確信を持って言える事実となった。


 桔音は知っておきたい――あの世界で、自分の様な異世界人が何人いるのか。


「いいよ、教えてあげる」


 そして、彼女はその質問を心底面白いものとして捉えたのか……凶悪に笑みを浮かべた。


「私があの世界に送った人間は君を除いて―――"7人(・・)"だ」


 そしてその全員が未だあの世界で生きている―――彼女の発したその事実に対して……桔音は驚愕に目を見開いた。



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