試験突破
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あと、クリスマスイブが丁度この小説の1周年日なんですが……皆さん、ご予定はどうでしょうか? え? 私ですか? ハハハ! 察して!!(泣)
やって来たのは大図書館だ。桔音は離れることが出来ない屍音と共に開放された図書館へと侵入し、そして大量の本達をスルーして奥に存在している研究室へと向かった。
大魔法使いの名前を暴け、という課題に対して最も有効かつ最短ルートを通ることにした結果、桔音は大魔法使い本人の下へと向かうことにしたのだ。レイラとリーシェはルルやフィニア、リアと共に学校内を調べている。中等部の受験者に協力を求めてはいけないなんてルールは無い、人海戦術を使って広範囲を調べることだって認められる筈だ。
研究室の戸を叩く。すると、すぐに扉は開いた。音を立てて、勝手に開いた。そして中に入れば、中には大量の資料や本、実験道具、魔法具等々、魔法に関するありとあらゆるものが散乱していた。どんよりした空気というよりは、なんだか良い匂いのする部屋で、散乱した物が多い部屋でありながらも何処か居心地の良い雰囲気が感じられる。
キョロキョロと視線を彷徨わせた後、桔音の視線は部屋の中央に向けられる。そこにはクリーム色の長髪を揺らし、オレンジ色の衣装に身を包んだ彼女がいた。如何にも魔女といった大きい帽子を被り、朱色の瞳で桔音を見てくる彼女。不敵な笑みを浮かべながら、すい、と指を立てた。
「やっぱり生きてたのね――改めまして初めまして、私は全世界全時空最高の大魔法使いよ。この部屋に入ったのだし、おもてなしの1つでもしてあげるべきかしら?」
「そうだね、それじゃ名前を1つ教えて貰えるかな」
「イヤよ、私の名前を知っているのは私だけで十分よ」
桔音と大魔法使いの彼女はそう言葉を交わした。
明らかに歓迎されている空気ではなく、また好意的な印象でもないようだ。不気味な空気を纏う桔音を見据えながら、大魔法使いは目を細める。
桔音はそんな彼女に対して肩を竦める。彼にとって、名前を教えてもらえないというのは特にどうでも良いことであった。何故なら、彼には『ステータス鑑定』のスキルがあり、これを使えばどんな相手であろうと名前を見ることが出来るのだから。
「とりあえずお話をしましょうか、床に座って頂戴」
「椅子があるのに座らせないとは……屍音ちゃん、ちょっと椅子になってくれる?」
「死ね」
屍音に椅子になることを要求する桔音だったが、文句も言わずに直球で死ねと言われたので断念した。大人しく瘴気で椅子を作って座る。屍音の分は作らなかったので、屍音は肘置きの部分に腰を落とした。
それを見た大魔法使いは、その瘴気をなんだか興味深そうに見つつその口を開く。向かい合う桔音と大魔法使いは、お互いに不敵な笑みを浮かべていた。
「それで? 貴方が最初に此処に来ようとした時の用件はなんだったのかしら? 毛ほども興味は無いけれど、貴方には興味が湧いたわ―――聞いてあげる」
「そうだね……簡単に言えば、異世界に渡る方法があるかどうか……あるとすれば魔法でそれが可能なのか、不可能なのか、全世界全時空で最高の魔法使いである君に問いたくてね」
「――――」
桔音の言葉に、魔法使いは少し驚いた様な表情を浮かべて笑みを潜めた。
異世界を渡る方法、それが魔法で可能かどうか……随分と突拍子もない話題が出て来たものだと思う。しかし、異世界――大魔法使いとしてもかなり興味の湧く研究対象だ。桔音の話題に出て来なくとも、彼女はいずれそのテーマを研究する事になっていただろう程に、不思議で謎の存在。
大魔法使いは姿勢を正しながら、桔音の視線を真剣に受け止めた。そして少し思考した後に、声のトーンを1つ落として言葉を紡ぎ出す。
「何故、そんなことを?」
「ありのままに言えば、僕は異世界人だ……そうだね、勇者としてこの世界に来た訳ではない異世界人と言っておくよ。だから僕は元の世界に帰りたい、その為の手段が欲しいんだよ」
「異世界人……成程ね、思っていたより変なのが来たって訳か。でも、異世界人っていうのには少し興味はあった所よ。勇者なんてくっだらない存在がいる位だから異世界の存在は認めていたしね」
桔音の言葉を聞いて、更に驚いた様子の大魔法使い。
しかしすぐに冷静さを取り戻した彼女は、桔音の言葉を吟味した後そう言ってまた笑みを浮かべた。異世界、この世界とは全く別の世界であり、全く違う法則が存在する世界。興味が湧かない筈がない。魔法使いにとって、法則とは理だ。そして理とは真理、それを追究し続けることで世界の起源に触れる。魔法とはなんなのか、魔力とはなんなのか、魔獣や魔族という存在はなんなのか、それ全ての根源を知ることが、魔法使い全員の最終にして永遠のテーマなのだ。
ならば、この世界の全ての知識を持ってしても分からないことがあるかもしれない。もう1つの世界の法則を知って分かることがあるかもしれない。そう考えるだけで、魔法使いとしての研究心、探究心は留まる事を知らない。
大魔法使いは全世界全時空において最高の魔法使いを自称している。それだけの実力があり、更にそれだけの自信があるからだ。しかしそれが証明されている訳ではない。敵う者がいる筈がないという自信しか、それを証明出来るものは何もないのだ。
ならば、証明し続ければ良い。凄い魔法を見つけ出した、魔法の新しい発見をした、歴史が変わる様な何かをした、そういった偉業を成し遂げ続ければ良い。それだけの力が、彼女にはある。
異世界へ渡り、その法則を手中に収めた―――それはどれ程の偉業になるだろうか。
「最近退屈していた所よ―――良いわ、私の知っていることを教えてあげる」
「へぇ、意外だね」
「当然条件は付けるわよ……異世界の情報を私に寄越しなさい、出来れば概念とか何かの法則に関する内容が良いわね」
「その代わりに異世界へ渡る為の情報を提供すると?」
「そうよ」
桔音に笑みを向け、桔音もまた大魔法使いに笑みを向ける。
利害は一致していた。魔法使いとして追求すべきものを追求する為の情報と、異世界人として異世界に帰る為の情報とを、交換する。そうすれば、大魔法使いは更に魔法を極めるだろうし、桔音は少なくとも異世界に帰る為の手掛かりを手に入れられる。
「良いよ、その条件を呑もう……僕はきつね、よろしく大魔法使い」
「予想以上よ、期待してるわきつね。退屈させないでね」
「じゃあ退屈させないついでだ―――君の名前を当ててみせよう」
桔音は不敵に笑みを浮かべて、その名前を覗き見る。ステータスを覗き、大魔法使いのその本名を知る。
桔音の言葉に目を丸くしきょとんとした顔を浮かべた大魔法使いは、一拍後に破顔する。桔音の言葉で思い出したのだろう、コレが今試験中だということを。そういえばそうだったと笑いながら、笑いで出てきた涙を拭った。
そして佇まいを正すと、桔音の顔を期待した眼差しで見つめながら口端を吊り上げる。
「じゃあ、当てて見せて貰いましょうか」
桔音はその言葉に薄ら笑いを浮かべ、こう言った。
「アシュリー・エルフリーデ、良い名前だね」
「ふふっ―――合格、期待以上よ」
―――アシュリー・エルフリーデ。
全世界に認められた、過去未来現在において最高の魔法使いの名前である。桔音の差し出した手を握り、握手を交わす彼女。
そんな頼もしくも少し変な彼女は、久しぶりに退屈せずに済みそうだと思いながら、刺激を持ってきた桔音と協力関係となった。
◇ ◇ ◇
そんなこともあって、桔音は一旦試験会場に戻った後、レイラ達と合流後魔法使いの名前を共有し、無事に試験を突破した。2日後の合格発表で、屍音はギリギリであったものの、見事に全員が合格する事に成功出来たのだ。
レイラが首席合格という偉業を成し遂げていたのに桔音はびっくりしていたものの、筆記は満点、面接も用意してあった通りの回答をし、そして実技では本名を当てたのだから、それは仕方がないことかと納得した。レイラは特に嬉しがったりはしていなかったけれど。
桔音は面接試験で学園長を脅したものの、回答自体は優等生そのものであり、他の教師陣の評価が高かったこともあって成績は平凡だ。まぁ合格は合格だと特に興味は無いらしい。
ちなみに屍音は面接の点数があまりにも酷かったので、首席どころかほぼ最下位での合格である。結果に納得出来ず少し駄々を捏ねたのだが、結局桔音が結果は結果だと言って宥めた。
試験を利用してなんとか大魔法使い――アシュリーとの協力関係を築けたことは良かった。桔音としても、彼女の協力を得られるというのは中々、どころか最高の戦果とも言える。
――異世界に渡る方法
魔王を倒しても駄目だった。勇者達もそれを知らなかった。異世界に関する手掛かりが悉く期待外れで、その上運命力のせいか襲い掛かってくる命の危機達、そうして辿り着いた新たな手掛かり。それが彼女であり、大図書館であり、この学園なのだ。
「元の世界に戻る為の何かが見つかると良いんだけど……」
呟き、借りた宿の一室で桔音は思い出す。
元の世界、そこにあった迫害の日々と、そして出会った一筋の希望、大切な親友である篠崎しおりとの約束を。帰って、果たさないといけない約束がある。拭わないといけない涙がある。
桔音はこの世界に来て、様々なものと戦ってきた。戦ってきて、得たものは殆どない。寧ろ、失ったものの方が大きいだろう。
―――ならば、そろそろ何か得たって良いじゃないか。
失ったモノの大きさ分、これから得るモノが大きくなければ気が済まない。そしてその為には、これからやってくるであろう使徒達や最強ちゃん以上の怪物を相手に生き抜かなければならないのだ。人間を止めるといった桔音の発言は、空気に溶けて消えたものの―――未だに桔音の瞳の中で意志として存在している。
立ち上がり、桔音は大きく息を吐く。
「きつねさん?」
「ちょっと散歩してくるよ、屍音ちゃんもこの部屋から出ないなら来なくていいから」
「んー」
桔音はフィニアの言葉にそう返し、屍音をも置いて部屋を出る。ノエルは付いてくることになるが、桔音は気にせず宿を出た。部屋に残されたフィニア達はいずれも不思議そうに首を傾げていたが、散歩だということでまぁ大丈夫だろうと判断したようだ。誰も追っては来なかった。
宿から出て街並みを歩きながら、桔音は薄ら笑いを浮かべる。そしてぽつりとこう呟く。
「さ、一丁覚悟決めていこうか」
その言葉の真意は、唯一傍に居たノエルにも分からなかった。




