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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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試験開始

「受験票は持った? 不安なこととかないかな?」

「大丈夫です」


 きつね様が学校に通うと決めたあの日から1ヵ月。とうとう私達は入学試験を受ける日を迎えました。きつね様は自分も受けるというのに、私のことを心配している。そんなに子供じゃないから大丈夫なのに。やっぱり、きつね様にとって私はまだ妹のようなものなんだと思う。

 焦る事はない。まだまだ時間はあるし、例え今レイラ様の様に恋愛対象として認識して貰おうとした所で、きつね様の重荷になるだけだから。


 そんなことは置いておいて、私達は今日まで受験に受ける為の勉強をしてきた。リーシェ様に聞いた所、貴族様や平民達は仕事の合間に勉強をするのが普通だから、1日全部を勉強に費やし続けていた私達の勉強量はけして負けてはいないとのこと。

 それに、レイラ様や魔王の娘の屍音様は頭が良いらしく、初日に軽く勉強してからずっと私ときつね様に勉強を教えてくれた。屍音様はずっときつね様の邪魔をしていたけれど、時々きつね様がお風呂に連れていくのを見た。この一ヵ月何度かお風呂に強制連行されていたけれど、邪魔を止めないのは学ばないのか……それとも意地なのかもしれない。


 きつね様は時折り私の様子を見に来てくれて、頑張ってるね、と頭を撫でてくれたから、私も勉強を頑張ろうと思えた。

 でも、きつね様が私にどれくらいやってるの? と聞いて来た時、リーシェ様からきつね様が問題集の2周目に入ったということを聞いていた私は、咄嗟に『私も解き終えましたが正答率は7割程だったので、もう一度解き直してます』と答えてしまった。

 本当は7周目を終えていて、正答率も9割以上だったけど、それできつね様のやる気を削ぐのは気が引けた。それに、嘘は言ってない。リーシェ様もそれを知っているから、きつね様に心配しなくていいと言ってくれた。正直、言及されれば嘘だとバレたと思うから、リーシェ様の言葉はありがたかった。


 ソレは別としても、大変だったのは勉強より戦闘稽古の方だった。私は奴隷として買って貰ったあの日の記憶しかないから、いざ戦えと言われても何をどうすればいいのかなんて分からない。気が付いたら海にいて、腰に白くて綺麗な剣――名前は『白雪』というらしい――が提げられていた、というのが私の感覚。

 でも、あの日と比べると大分身体能力が向上しているのが分かった。動きやすいし、なにより本当に私の身体なのかと思う位速く動くことが出来たから。


 リーシェ様に剣の稽古を見て貰い、この一ヵ月間半分は勉強に、半分は訓練に使った。結果、リーシェ様曰くかつての私には及ばないけれど、その半分程の実力は付いたと言われた。確かになんとなく身体が覚えている様な感覚はあって、リーシェ様に教えて貰ったことは大体こなすことが出来た。かつての私が出来たことを教えていると言っていたから、同じ身体を持つ私がソレを出来ない筈はない。

 それでも、熟練度の関係でかつての半分程度の実力。ソレで十分通用すると言われているけれど、やっぱりかつての私と大きな差を感じてしまう。


「さて……と、受験するのは皆騎士科で良いんだっけ?」

「ああ、フィニアとリアを除けば全員魔法使いではないからな」

「それもそっか……じゃあ試験会場は一緒だね」


 そんなことを考えていると、きつね様がリーシェ様とそんな会話をしていた。そういえばリーシェ様はきつね様のことをどう思っているんだろう? 好き、といったようではないから、友人のような関係なんだろうか。良く分からない。

 でも、恋愛感情を抜きにしてアレほど打ち解けられているのだから、きつね様とリーシェ様の間には仲間として深い絆があるのだろう。私の失った記憶分の差が、目の前にある。なんだかこれはこれで悔しい気がする。


「じゃ、行こうか。皆合格すること、良いね?」

「うん♪」

「勿論だ」

「分かりました」

「はいはい……」


 きつね様の声掛けに、私達は揃って返事をした。フィニア様はにこにこと笑いながらきつね様の肩の上から私達を見ている。フィニア様は試験を受けないから、今回は試験中きつね様のお面の中に入っているんだとか。それはあのちょっと変な妖精であるリア様も同じらしく、先に指輪の中に入っているようだ。少しだけ指輪からリア様の禍々しい気配を感じる。


 そしてしばらく歩くと、遂に試験会場へと辿り着いた。

 受付にいる人に受験票を見せて番号札を貰う。そこに書いてある番号はランダムに渡される番号のようで、私達の持つそれぞれの番号は連番ではなかった。おそらく仲間同士の不正行為などを防ぐためのものなんだと思う。

 説明を聞くと、その番号の机に座れということらしい。つまり、私達はバラバラの席に座ることになる。


「……うん、それじゃ皆試験が終わったら宿に集合。屍音ちゃんは逃げるなよ?」

「分かってるようるさいな」

「なら結構。じゃ、皆頑張ってね」


 きつね様は屍音様にそう注意すると、もう一度私達にそう言った後、自分の番号札と同じ番号の席へと去って行った。

 これから少しの間、試験会場できつね様や他の皆さんと一緒にいられる時間はあまりないと思う。試験を受けている間は、私が頑張らないといけない私自身の戦いでもある。


「……すー……はぁ……それでは私も席に着きます」

「ああ、また後でな。ルル」


 ―――よし、頑張ろう。



 ◇ ◇ ◇



 試験が開始され、まず筆記試験となった。

 この日は学校は休みであり、試験の手伝いに来ている生徒達以外の全校生徒は、登校していない。全寮制故に、殆どの生徒が寮にいるか、街に出るなどして休日を過ごしている。だから全校舎が開放され、試験の為の会場として使われる。


 今年の受験者は約3万人。小学校から大学までの一貫校だからか、やはり他の学校に比べて受験者数はかなり多い。この3万人の内の約2万人は、大学を受ける人数だ。

 といっても、地球に比べればかなり少ないと思うだろう。やはり学校という教育機関を取り入れている数少ないクレデール王国ではあるが、地球に比べれば学校教育の歴史が大分浅い。

 地球の有名大学ともなれば学部ごとで受験者数は優に1万を超えてくる。つまり、全学部合わせれば受験者数は大体10万人を超えてくる。そこに小中高の受験者数を加えるとなれば、その数は計り知れないだろう。外部受験やエスカレーターといった制度はあるものの、やはり受験の壁を乗り越えようとする人間の数は多いのだ。


 しかしこの世界では歴史の浅さもそうだが、貴族や平民の確執、王政であること、それによりお金を用意する事が出来る者も限られてくるといった要素がある。桔音達の受けるアースヴァレル学園に通おうとする子供の数としては、寧ろ多い方だと言えるのだ。

 そして小学校から大学まで総合して見れば、この学院の倍率は約6倍。つまり受けにきた約3万人の内、約2万5000人は落ちていく計算になる。

 合格者は小中高大合わせても5000人程度。だが魔法の素質や肉体的な才能も、血によって受け継がれる者には違いない。故にこの5000人の中に入ることが出来る平民の数は、やはりごく少数だったりする。こういう事実が、貴族達が平民を見下す要因にもなっているのだろう。


 そんなことも知らず、桔音のいる試験会場では、カリカリとペンを走らせる音が静かな空間を支配していた。桔音は渡された問題を解きながら、瘴気の空間把握を展開している。


「(この場に居るのは大体2000人くらいかな? 正直受験番号の席を探すのも一苦労だったけど、成程……この場に居るのは皆高等部の受験者ってわけか……)」


 実の所、桔音は自分の席を探して学校の中をかなり歩き回った。

 そして現在彼が座っているのは、高等部受験者用の空間に設置された席。この場には2000人超の高等部受験者が全員揃っているらしい。既にフィニアはお面の中に入っている。

 逆に言えば、中等部や初等部、大学の受験者は別の空間で試験を受けていることになる。

 因みに桔音達のパーティでは、高等部を桔音とレイラ、リーシェが受けている。今や思春期に成長したルルと、容姿的に無理があったが屍音は中等部を受けている。願書に年齢を書く所があったので、そこに桔音達はそれぞれの年齢を、ルルと屍音に関しては若干歳を上乗せして書いたのだ。


「(……っと……こんな感じかな? 見直しても……うん、多分大丈夫)」


 桔音は問題の殆どを解き終え、見直しをしてからペンを置く。試験担当の教師が数人、見回りをしているが、カンニングをする人間はどうやらいないらしい。桔音も瘴気の空間把握で不審な動きをしている者はいないことを確認していた。

 問題を解き終え、少し思考に余裕が出来たので、桔音は少しばかり思考に耽ることにした。考える事は、これからのこと。これから先、自分はどのようにするべきなのかを考える。


「(人間を止める、とは言ったものの……それには大分時間が掛かりそうだし、あの大魔法使いもなぁ……正直相手にするのは面倒臭そうだ)」


 ペンをフラフラと揺らしながら、桔音は頬杖を付いた。なんとなく昔学校に通っていた時のことを思い出して、苦笑してしまう。


 人間を止める。


 そう言った桔音には、この先自分が強くなるための考えがあった。それはどうやら時間が掛かるようで、今すぐにという風にはいかないらしい。だが、大魔法使いに対して相手にするのが面倒臭いと考える辺り、それほど彼女を脅威に思っている訳ではないのか、それとも本当に面倒臭いだけなのか、分からない。


「(ルルちゃん達は大丈夫かなぁ……変なのに絡まれてないと良いけど……そういえば獣人差別ってあるのかな? あるとしたらルルちゃんに嫌な思いさせちゃうかもしれないなぁ……どうしよう)」


 だが、すぐに考えるのを止めた桔音は、この会場にはいないルルのことを考えつつ、時が過ぎるのを待つ事にしたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 その頃学園長室では、学園長が受験生達の面接試験に使う書類を纏めていた。受験番号ごとに束ねられたそれは、入学願書を出す際に同封して出すことになっている面談書類だ。流石に写真は無いけれど、最低限名前と年齢、簡単な経歴程度は書いてある。後は簡単な質問への回答だ。その質問も、普通の学校にありがちな志望理由などである。

 1枚ずつ軽く目を通しながら、順番が間違っていないかどうかを確認する学園長。貴族、貴族、平民、貴族、貴族、貴族、とやはり貴族の受験者の方が多いのが分かり、なんとなく溜め息を吐いた。


 ぺらり、とまた1枚捲る。すると、ふとその書類の受験者の名前が目に止まった。


 ―――きつね


「きつね……もしかして此処に通うつもりだったのでしょうか? ……だとすれば、受験前に殺されてしまったのは残念ですね……」


 その名前を見て、学園長は更に重い溜め息を吐いた。彼はきつねが死んだものだと思っている。つまり願書を出したが、その後大魔法使いによって殺されたと思ったのだ。そしてまたぺらりと1枚捲った。

 だが、この時もっと良く読んでいれば気がついただろう。その願書と面談書類が記入された記入日時の欄に、きつねが殺されたと思っている日よりも後の日時が書かれていたことに。


「さて……そろそろ面談試験の時間ですね」


 それに気がつかなかった学園長は書類の順番が間違っていないことを確認すると、それを封筒に入れて持ち、立ち上がる。


 そして、面談試験にてきつねと再会するなどとは露も知らず―――面談試験会場へと向かったのだった。


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