桔音×屍音
活動報告で言いましたが、本日の更新は休ませていただきました! 寝落ちが多く、疲労が溜まっていたようです(汗)
おかげ様で休ませていただきましたので、更新です。
「さてさてー……あの図書館はどうすれば利用出来るんだろう?」
『さぁ?』
「知らないよ、私に聞かないで」
現在、僕とノエルちゃん、屍音ちゃんの3人は街の中を歩いていた。
宿を取ってから僕達はとりあえず情報収集をすることにしたので、僕と僕の近くにいないといけないノエルちゃんと屍音ちゃんの3人は図書館へ行く事になり、他の皆にはリーシェちゃんを中心にこの国について調べて貰っている。
図書館はどうやら大きな学校の隣にあるらしく、坂道も多くて複雑に入り組んだ道だから、余計に遠い場所にあるように思える。面倒臭いな畜生め。
まぁそれはそうとしても、学校に近づくに連れて子供が多くなってきたのはアレか? 学校が近くなってきたからかな? にしたって、小奇麗な格好の子供が多い。何やらドヤ顔がデフォルトみたいだし、上から目線なのかちょっと顎を出している感じがまた生意気だ。多分、アレが貴族生まれのお坊ちゃん達という奴なのだろう。
「僕の特技は火魔法でね―――」
「欲しいの? 買ってあげるよ―――」
「うふふ、高貴な方なんですね―――」
「高貴高貴、優雅、気品、美しい―――」
話を盗み聞きしてみると……自慢しかしてないな、この子達は。最後の子なんてちょっと綺麗な言葉を並べてるだけじゃない? ある意味怖いよこの子たち。
それに、なんだか視線を感じる。主に屍音ちゃんに集まっている気がするなぁ、この視線は。確かにこの子は見た目こそ美少女だけど、中身はアレだよ? 君たちみたいな自己中心的な子達の頂点に立つ自己中心思想の究極系だよ? 絶対止めといた方が良いって……しかも見た目は小学生程度なんだから、下手したらロリコンだぞ君たち。
とはいえ、なんだか居心地の悪い国だなぁ此処は……面倒臭い。
「ねぇおにーさん、私帰りたいんだけど」
「僕も帰りたいよ。でもほら、目的の為には色々と乗り越えないといけないものがあるじゃん」
「やだよ、帰りたい」
「君本当話聞かないな」
全く、この子も周囲のクソガキ達も面倒臭い。
それからしばらく歩いていると、大きな神殿の様な図書館が見えて来た。奥には負けない位大きな校舎が見える。僕の世界じゃ考えられない位大きいな、此処の学校は……というか、制服あるんだねこの世界でも。女子の制服が妙に可愛い所からして、どうせ4代目勇者が何か関わってるんだろうなぁ、グッジョブと言っておこう。
それにしたって、4代目勇者って分かってるよね。小学生から大学生まで一貫校みたいで、それぞれにちゃんと制服があるのもそうだけど、小学生には健康的で露出を抑えた制服を与えているし、中学生には少しだけ成長した四肢を美しく魅せる事の出来る露出度で、かつある程度成長した大人には全くエロいと感じさせない、思春期男子のみを惹き付ける健康的なエロさ、流石としか言いようがない。しかも、そこからの高校生―――コレは完全に狙ったとしか言いようがないスカート丈だ。高校生の中にある、女性としての魅力を惹き立てる可愛いらしい制服。最高だぜ。
4代目、君の考えた制服は最早黄金律と言っても良い位精密な計算の下作られている! 素直に尊敬するよ。
「アレが図書館だね」
「やっと着いたの? はぁ……早く用事済ませてよ、もう飽きて来た」
「歩いただけで何をほざくか君は」
ダレてきた屍音ちゃんの首根っこを掴んで、ずるずる引き摺りながら図書館へと向かう。学校の敷地内に入った様な気もするけど、多分気のせいだ。
図書館の入り口の扉は、なんだか厳重に閉ざされていた。見れば扉の中心に何か手を置く台座の様なものがある。生徒達を見ていると、手を置いて魔力を流すことで扉を開いていた。成程、魔力を流すことで開く扉なのか。
試しに手を置いて魔力を流し込んでみた。
しかし、扉は開く気配がない。あれ? どういうことだろう……もしかしてこの図書館に入るには学校の生徒でないといけないの? 魔力登録制とか全然優しくないじゃん。なにそれふざけんなよ。図書館なら平等に誰でも利用出来る位の心の広さを見せてほしい。
「侵入者だ―――」
「―――探せ探せ……」
なんだか周りが想像しい。けど僕は図書館の優しさが欠如していることに肩を落としていて、それどころではなかった。
どうするかなぁ……一旦帰るべきだろうか。この図書館の中の本にはぶっちゃけ読めないから興味ないんだけど、中に居るっていうらしい世界一の魔法使いさんには会っておきたいなぁ。どうしよう? 遠路はるばる会いに来たんだから、何かしらのサービスというかさぁ……もっと向こうの方から歩み寄ってきてもおかしくないんじゃないの?
本当なんか僕に対して対応酷くない?
「貴様か! 侵入者というのは!!」
なんか僕らの事を取り囲んでいる教師っぽい姿の大人達がいるけれど、無視していこう。そうだね、まぁ学校の生徒ではないと図書館には入れないということが分かったから、帰るとしよう。
「はぁ……屍音ちゃん、帰ろっか」
「何? 何もしないの? あー時間の無駄だったじゃん……本当死ねよおにーさん」
「ちょいちょい死ね死ね言うのやめない? 僕もそろそろ怒るよ?」
「きゃあぁ! このおにーさん乱暴してくるぅ!! タスケテー!!」
「ちょ待てよ、容姿を逆手に取ったその戦法はずるいぞ!」
おいおい待てよ屍音ちゃん、如何に僕の力で君にかなり重い枷が嵌められてるからって、そんな手段に出るなんて酷いじゃないか。やめろってそういうの地味に社会的地位が下がるんだぞ、痴漢冤罪並に払拭が難しいんだからな!
全く……油断ならない奴だなこの自己中娘は。今度縛り上げて放置プレイ実行してやろうかコイツ。あ、ダメだ……その場合冤罪じゃなく僕社会的に終わるわ。
「無視するな!!」
「うわ……何? どちらさまでしょうか?」
すると、いきなり顔の目の前に男の人の顔が広がった。正直トラウマものの汚い顔だ。今までこんなに近い位置に女の子の顔があったことは度々あったけれど、男だとこんなにもおぞましいのか……恐ろしいな性別の壁。
ところでこの人だれだろう。なんだか怒った様子なんだけど、僕なんかしたかな? 知らない内に足を蹴っちゃったとか? それとも肩パンしちゃったかな? まぁどっちにせよ怒られる筋合いはないね、ぶつかってきた向こうが悪い。だって僕一歩も動いていないんだし。
まぁ冗談として、こんな大勢で囲まれる様な肩パンはした覚えは本当にない。何やら周囲には野次馬という名の生徒達が大勢集まってきているし、逃げ道が無いなぁ。まぁ空中はいけそうだけど、瘴気を見せたらそれこそ魔族扱いされてもおかしくないしなぁ……以前それで魔族扱いされたし。
本当の本当にどうしよう。
「貴様は何者だと言っている……この学園に何の目的で忍び込んだ? ……まぁ、大体の見当は付いているがな……大方、世界一の大魔法使いという名前に引き寄せられてきたのだろう?」
「まぁ見当違いってことはないけど……ああ、ココ入っちゃダメな場所?」
「……入り口に『関係者以外侵入禁止』って書いてあったし」
「オイ屍音ちゃん? 何故言わなかった」
「今みたいな状況になったらおにーさんが困るからだよバーカ!」
「確信犯かこの野郎」
屍音ちゃんが物凄くムカつくドヤ顔でほざきやがったので、とりあえずそのドヤ顔で見開かれた両眼に眼潰しを入れておいた。『うぉぉぉ!?』と叫びながらその辺を転がり回る彼女を無視して、僕は教師達に向き直る。耐性値は僕の筋力値を大きく超えている筈なので、転がり回っているのは痛みではなくただのノリなのだろうが、まぁ適当に放置しておけば飽きて止めるだろう。
問題は教師達だ。杖を構えている者も居れば、剣を構えている者もいる。侵入者に対して中々シビアな対応するんだね、この学校って。
とりあえず弁明は必要だよね。僕も今から帰るつもりだったし、さっさと誤解を解いて……まぁ誤解ではないけど、帰らせて貰おう。
「とりあえず、僕達は間違って入っちゃっただけなんだ。去れっていうならこのまま去るからさ、帰らせてくれない?」
「嘘を吐くな……図書館に侵入してきた者は今までもいたが……図書館の入り口に堂々と現れる侵入者などいなかった。そして早々に帰ろうとするその姿勢……十中八九何か情報を持ち出すことに成功しているのだろう? そうはいかんな」
「何それどんな深読み?」
凄い深読みされた。情報を持ち出すってなんだよ……この図書館は何か? オール閲覧禁止の棚で構成された図書館なの? そんなもの生徒に読ませてんの? 将来が怖いんだけど……この世界に狂った人が多いのってそういう面倒臭そうなものをオープンにして教育するからじゃないの? 魔王しかり、この図書館しかり……どうでもいいけどさ、最早止めようのない現実だし。
「貴様らは此処で拘束させて貰おう。そして、学園長による尋問を行ってから処遇を決める」
「尋問って、それでも学校かよ」
「騎士と魔法使いを育てる学校だ、こういうことも将来関わって来る……まぁ、学ばせるのは侵入者を捕らえる、という部分だけだがな」
ちらり、と教師の1人が後ろの生徒達に視線を向けながらそう言った。すると、後方になにやら空間の揺らめきが見えた。教師の1人の杖の先端が光っているのを見つけ、理解する。成程、音声遮断の結界的なものか……捕まえる様子しか見せず、話している内容の詳細は聞かせないってことだね。黒いねー腹の中真っ黒だ。
とはいえ……学園長ねぇ。尋問するってことはそこそこ話は出来そうだ。なら、大人しく捕まって学園長さんに直接話して誤解を解きつつ、この学園について色々とは質問させて貰おう。上手く行けば図書館を使わせてくれるかもしれないし、もっと上手く行けば大魔法使いさんとやらに会うことも可能かもしれないしね。
「分かった、じゃあ大人しく捕まえられてあげよう―――但し、扱いには気をつけろよ? 僕は良いけど、こっちの地面に落書きを始めたお子様は扱い辛いから」
「落書きじゃないよゲージュツだよ」
「落書きだよ頭湧いてんのか」
「はぁ……おにーさんセンスないね? カワイソー(笑)、死ねば?」
「殺したい、この笑顔」
文句を入れてくる屍音ちゃんが、地面に寝っころがって石畳の上にガリガリと指の力で絵を描いていた。その上僕を的確に煽ってくる。ドヤ顔と嘲笑うかのような笑いが癇に障り、真面目に殺したいと思った。
というか器物破損すんなよ、普通なら直すのにもお金掛かるんだぞ。払うの誰だと思ってんのこいつ? しかも書いてる絵が良く分からない。何その○にギザギザした線を足した絵は。スイカなのか? それとも猫のつもりなのか? 良く分からないんだけど芸術ではないよね絶対。
とりあえず、『初心渡り』で消しておいた。あっ、と声をあげる屍音ちゃんだったけれど、知らん。お前好き勝手し過ぎだから少しは自重しろ。
睨みつけてくる屍音ちゃんの視線を受けて、僕は見下す様な視線を送ってやった。視線と視線がぶつかり火花を散らす。多分間違いなく、お互いに死ねって思ってる目だなこれは。レイラちゃん以上の問題児だよこいつ。
「ん、んんッ! 話を進めても良いか? とりあえず、貴様らは拘束させてもらうぞ」
「ああ……はいはい、でもやるならこの子からやった方が良いよ」
「……なんでこいつらこんなに呑気なんだ……」
ぶつぶつ言う教師の男性が、僕の忠告通り屍音ちゃんの両手足に拘束魔法で生みだした光の輪を嵌めようとする。
しかし、屍音ちゃんはそれを嫌がってひょいと躱した。身のこなしは流石だし、人を傷付けないという約束を守るのはいいけど、余計な手間を取らせないで欲しいんだけど。
とりあえず、屍音ちゃんはノエルちゃんが拘束して、その後拘束魔法の光の輪を嵌めさせた。全く、瘴気が使えない状況で無駄なことをするんじゃない。
「はぁ……じゃあ付いて来い」
「はーい」
「……えいっ」
「壊すな」
「あたっ!?」
光の輪を腕力で壊す屍音ちゃんの足を払って転倒させた。顔面から地面にぶつかり、ガン、と鈍い音を響かせる。耐性値もあるし痛くはないだろうけれど、ノエルちゃんの『金縛り』で縛りあげ、拘束された両手で屍音ちゃんを引き摺りつつ、僕は前を歩く教師たちの後ろを付いて行った。
引き摺られつつ、動けないでいる屍音ちゃんは、
「死ねよー……死ねよー……おにーさん死ねー……」
ぶつぶつと僕への呪詛を紡いでいたのだった。とりあえず間違いを装い、踵で蹴っておいた。
桔音と屍音の絡み。




