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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十三章 魔王の消えた世界で勇者は
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閑話 次なる目的地

「お前って奴は……どこまで常識破りなんだ」

「あはは」

「あははじゃない! 魔王を倒して初代勇者連れて来て今代勇者を救って魔王の娘をふんじばってその上Aランク最大迷宮の一部をぶっ飛ばすって短期間の内に色々とやらかし過ぎだ!」

「あれ、良いことしかしてないのに何この言われよう」


 ルークスハイド城へと訪問した桔音達は、再度アリシア達と会って話をしていた。事情を話すと、アリシアも流石に許容範囲を超えたらしく、頭を抑えながら大声を出していた。怒っている訳ではないけれど、桔音があまりにも世界規模で騒然となる様なことを色々とやるものだから、アリシアとしても処理に困ったのだ。軽く文句も言いたくなるだろう。

 とはいえ、桔音のやったことは世界的に大きな影響を与える出来事だ。

 魔王を倒し、魔王の娘も無力化し、初代勇者を復活させ、今代勇者を救った。これだけで十分英雄と呼ばれるだけの偉業である。

 しかし、ソレは全て隠蔽される―――他ならぬ、桔音自身の手によって。魔王と魔王の娘は今代勇者が倒したことになり、その結果初代勇者の復活も今代勇者の手柄、そして今代勇者は救われなければならない様な事態には陥っていなかった……それが歴史に残る事実である。


 桔音の名前は一切語り継がれない。魔王との戦いに、桔音なんて冒険者は存在していなかったのだ。


 だが、それを知ったアリシアは目に見えて不満を表情に出した。


「何だソレは……魔王もそこの魔王の娘も、お前が倒したのに、それで良いのか? 今代勇者は何もしていないではないか……それなのに、桔音に救われておきながらその上手柄を全て持っていくなど……いくら桔音がそうしろと言ったからといって、ソレはおかしいだろう」


 友として、一国の王として、桔音が正当な評価を受けないことが不満である彼女は、やはり桔音の話を聞いてそう言った。桔音は普段通りの薄ら笑いを浮かべて、ポケットに手を突っ込み佇んでいる。その姿はやはり飄々としていて、アリシアの言葉もなんら響かないと言った様子で受け流していた。

 故に、彼は特にどうという事は無いといった表情で返す。


「いや、僕としては有名になりたくはないから、寧ろ都合よく手柄を押しつけられてくれて助かった所だよ。それに、魔王を倒したとか、魔王の娘を無力化したとか、そんなの僕にとってはどうでも良いんだよね。僕が求めているのは、僕の故郷への帰り方だけだ。その過程の成り行きと気まぐれで魔王を倒しちゃっただけの話……ぶっちゃけ人々を救うだとか、そんな高尚な理由でやったことじゃないし? そんな気にしなくても良いと思うよ?」

「むぅ……きつねがそう言うのなら別に良いが」


 桔音の言葉に、アリシアは本人の意見ならばと身を引いた。これ以上はただのおせっかいであり、自分の意見の押し付けでしかないからだ。人との距離をしっかりを測れる力、コレも王として身に付けておくべき能力の1つなのだろう。桔音としても、アリシアの付かず離れずといった丁度良い距離の取り方は、付き合っていくに当たってとても心地良かった。

 そんな感想を抱きつつも、桔音は指を2本立てて話を本題に移す。元々此処に来たのは、勇者達との一件に関する報告の為でもあったが、重要なのはこれからどうするかという話だ。


「優先して話すべきは、とりあえず2つ……まず1つ目は、見ての通り僕が拘束しているこの子―――魔王の娘、屍音ちゃんの処遇について。そして2つ目は、僕達はこれからルークスハイド王国を出て別の国へ行くつもりだから、その行き先について……だね」


 何にせよ、情報が欲しかった。

 屍音という存在は、今や魔王の存在を証明し、魔王が倒された事を証明する事の出来る唯一の存在と言っても良い。彼女自身を秘密裏に葬るか、それとも公開処刑として葬り、魔王討伐の情報を断定的なモノへと変えるのか、はたまた別の処遇を考えるか。その最も利益が出る処遇を判断する判断材料が欲しい。

 そして、桔音がこのルークスハイド王国を発つに当たって、次に向かう先には、元の世界に帰る為の情報があるという可能性がないといけない。例えば、大陸一の大図書館があったり、世界一の大魔導師が居たり、勇者や異世界人にまつわる伝承や伝記が残った場所であったり、そういう場所の情報が欲しい。


 故に、桔音が求めるのはこの2つだ。

 

 アリシアはその言葉を受けて、まず顎に手を当てつつ考える。最初に考えるのは屍音の存在についてだ。桔音の話通りであるのなら、勇者が魔王を倒したという情報は、直にグランディール王国から全国へと発信されるだろう。そう、屍音が無力化されたという話も同様だ。

 つまり、屍音の処遇を一国に任せるのなら、ルークスハイド王国よりもグランディール王国に任せた方が筋は通っている。公開処刑をするにしろ、秘密裏に葬るにしろ、グランディール王国でやった方が情報の発信源を1つにする事が出来るし、また妙な伝達の齟齬が発生する事もない。

 桔音が目立ちたくないというのなら、グランディールに屍音を引き渡しに行った時点で、彼の情報はグランディール王国も知る所になるだろう。そこまで行けば、流石の桔音も隠し通せはしない。


 ならば、とアリシアは結論を出す。


「……これはきつねの判断次第だが、目立ちたくないというのであればきつね達の方針で処遇を決めた方が良いと思う。その娘の存在はルークスハイド王国では対処出来ない……勇者のいるグランディール王国に引き渡すのがまぁ一番楽ではあるだろうな……だが」

「そうなると、僕は少なからず目立つ事になる、か……じゃあ僕達の方でその辺は決めるとしよう」

「そうしてくれ。私達も、その娘に関しては知らなかったことにする」


 アリシアはそっぽを向いている屍音を見て、目を細めながらそう言った。正直、危険度で言えば魔王クラスと言っても過言ではないが、現状彼女を抑え込んでいるのは桔音だ。ならば桔音が判断するに異議はないし、桔音以上に屍音へ不要な手出しをするべきではないだろうと判断する。


 続いて、桔音の次なる行き先の話だ。


「……その前に、きつね……お前達はこの国を発つのか? なんなら此処を拠点にしてくれても構わないんだぞ?」


 アリシアはまず、桔音を引き留めようとする。友としてはもう少し話をしたり、軽くじゃれあったりもしたい相手であるし、王としては実力ある冒険者を手放したくないという打算もある。正直、他国へ行かれるのは色々な意味で口惜しかった。

 だが、それに対し桔音は苦笑しながらこう返す。


「んー……正直、この国のことは好きだし、アリシアちゃん達とも仲良くなれたから住みやすくはあるけど……残念ながら僕の目的は此処じゃ果たせない。僕は立ち止まる訳にはいかないし、何処の国に居ようが僕の目的が達成されないのならいずれ移動することになる……僕の旅はそういう旅だ」

「……はぁ、お前は何処までも掴みどころのない奴だ……残念だが、仕方ない」


 アリシアは溜め息混じりにそう言いつつ、桔音らしい発言に少しだけ笑みを浮かべた。それでこそ桔音だ、とでも言いたげな様子で、ほんの僅かな喜色を感じさせる雰囲気を纏っていた。

 そして、そのまま少し考える。桔音の目的はより多くの情報がある場所……それも、魔法や異世界に関する情報が主だ。そういった情報の多い場所を記憶の中から探し出し、幾つか候補を出してみた。


「考え得る限りでは2つ程あるな……1つは大分遠いが、宗教国家『アルスフィア』。此処は国民全員がとある伝承の神を信仰していてな、信仰心が強すぎる故にその宗教を否定すると結構な確率でキレる。まぁそこさえ気を付けていれば温厚で平和な国だ。そして、この国では過去、異世界人ではないが……異世界の代物らしきものが召喚されているらしい。何かヒントになる物があるかもしれない」


 アリシアの説明に、桔音は頷き、続きを促す。


「へぇ……で、もう1つは?」

「こっちは『アルスフィア』よりも近くにあるな……学園都市を擁する教育国家『クレデール』。国王の統治する国だが、かなり貴族の多い国だ。平民の暮らしもある故に、その実子供も多く住んでいる。そしてこの国は元々教育関係に力を入れていたんだが、昔からあった教育方法にかつて勇者が持ち込んだ学校という制度を取り入れ、より教育関係を発展させた実績を持つ。幼い頃より魔法使いや騎士としての教育を施すことで、優秀な人材を育てているんだ」

「成程、それでそこにはどういった情報が?」


 桔音はアリシアに聞く。すると、アリシアはその国に行く事で得られる桔音の利点を説明した。


「どんな情報があるかは知らないが、『クレデール』には世界で最も蔵書量の多い図書館があるんだ。そして、魔導書も多く蔵書されている故に、そこには世界最高の魔法使いが研究室を設けている。色々と話を聞ければ、何か良いヒントを貰えるかもしれない」

「成程。世界最大の図書館に、世界最高の魔法使いか……それだけの重要な情報源が揃っているのなら、行く価値は十分にあるね……よし、それじゃあ次はその『クレデール』に向かおうかな。1つ目よりも近いみたいだし」


 話を聞いて、桔音は次の行き先を学園都市を擁する教育国家『クレデール』に決めた。

 世界最大の図書館に、世界最高の魔法使い――これだけのモノが揃っているのなら、桔音としては行かない訳にはいかない。

 グランディール王国にルークスハイド王国、この2つの国を回ったのはそもそも実力を付けるためだ。それまでに様々な存在と散々戦ったけれど、その実桔音は元の世界への糸口を全く掴めていない。唯一の手掛かりであった勇者と魔王関連の情報は、全くのでまかせで、魔王を倒した所で元の世界に帰る事は出来なかった。


 ならば、次はアプローチを変える。図書館に行った所で文字が読めない桔音は意味がないだろうが、そこはパーティメンバーに協力を頼めば良いし、世界最高の魔法使いと会話すれば何か掴めるものもきっとあるだろう。

 まぁそこで運命力云々でまた面倒事が起こる可能性は極大なのだが、桔音も屍音を相手にした時点で最早諦めている。寧ろ、屍音以上のモノが来るのであれば是非とも見てみたいものだとすら思う。それほどまでに屍音は強かったし、命の危機にも瀕した。


 あと懸念事項なのは、ステラ達『使徒』や『天使』、『聖母』といった謎の組織達だ。異世界人を狙っているということで、桔音も標的となっているらしいのだが……いつどこで出会うかも分からないし、出会った所で戦闘になるのは必至……正直会いたくないというのが桔音の本音だが、どうなることやらと溜め息しか出ない。


「ま、それじゃ屍音ちゃんは僕達で処遇を決めるとして……『クレデール』へと向かいますか」


 桔音はそうまとめて、意識を切り替えるべくいつも通り、薄ら笑いを浮かべた。


十三章、完結です。

次回は閑話を入れるか、キャラ紹介ですね。

そうかーーー300話か(゜o゜ ;)

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