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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第三章 道案内は必要だから
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桔音と凪の違い

桔音君と勇者、異世界人同士ですがその環境は大きく違います。

「それで、きつね達はこれからどうするんだ?」


 自己紹介も終わった所で、リーシェちゃんの言葉からそんな話題になった。ベッドに腰掛けたルルちゃんの膝の上にフィニアちゃんが座り、リーシェちゃんと僕は備え付けの椅子を使って向かい合っている。

 僕は背もたれの方を向いた状態でさながら対面座位のように座って、背もたれに頬杖をついた。


「リーシェちゃん、勇者が召喚されたって知ってる?」

「ん、ああ……騎士達の中でも有名だからな」

「勇者! 何それすっごいカッコイイじゃん!」

「あ、フィニアちゃん達はまだ知らなかったっけ」


 そういえばグリムさんの話を聞いている時、フィニアちゃん達は依頼選びに精を出していたからね、勇者の話は知らなかったっけ。

 まぁ話の進行になんの妨げにもならないから教えつつ話して行けばいいか。


「どうやら魔王が復活したらしくてね、勇者が召喚されたんだって。グランディール王国だったかな? で、ちょっと興味が湧いたからそこへ行ってみようかなぁって思ってる」

「うーん……グランディール王国か……確かに行くのはそう難しくないが、あそこは弱肉強食の国なんだ、冒険者としてあそこに入るのは余程強くないと淘汰されるんだぞ?」

「それは分かってるさ。僕はあそこにいる勇者について興味が湧いただけだよ、戦うとかそういうことは考えてないし」


 ぶっちゃけ怖いもん。何が楽しくて弱肉強食のバトルジャンキーばかりいる国へ行きたいと思うんだよ。よくもまぁ生物を傷つけるだけの技術を高めようと思ったね、しかも弱かったら同種の人間であっても淘汰するって……ただのいじめっ子の発想だよ。弱い方が悪い、とか絶対言うよ、勇者も良い迷惑だよそんな国に召喚されるとか。

 僕なら絶対怒るね、あ、いややっぱ殺されるから黙ってます。


「それならいいんだが……」

「だから今日からしばらく依頼をこなしてお金を貯めて、ある程度戦えるようになったらこの国を出ようと思うんだ」

「なるほど」

「別の国へ行くの? 楽しみが増えたね! どんな奴でもこのフィニアちゃんが消し炭にしてあげるよ!」

「うん、ありがとう。でも時と場合を選んでね?」


 手当たり次第に燃やされたら堪ったもんじゃないからね。正直、フィニアちゃんならやりかねないから怖い。周囲から敵意の眼差しで見られることは確実だよ。その内背後から刺されるね、僕が。何もしてないのにザクッとやられるね、僕が!


「まぁなんにせよ、結局はいつも通りってことだよ……さしあたって、リーシェちゃんの冒険者登録でもしに行こうか」


 そういえば国を出るって事はミアちゃん達ともお別れか、中学高校と上がっていく中で別れていく人もいたけど、それを寂しいと思ったことは一度も無かったなぁ。そう考えると、なんか新鮮な気分だ。

 とはいえ、二度と会えなくなる訳じゃないし、気楽に行きますか。


「じゃ、行こうか」


 僕のそんな呼び掛けで、僕達は動き始めた。



 ◇ ◇ ◇



 ―――一方その頃。勇者を召喚した国、グランディール王国。


 召喚された勇者は、名前を『芹沢凪(せりざわ なぎ)』といった。

 高身長で、おそらく180cmは優に越えている。だがガリガリな細身や筋骨隆々というわけではなく、引き締まった筋肉と整った姿勢、所謂細マッチョというべき体格をしている。手足も長く、整った顔立ちをしている故か、勇者という称号もあって、かなりの美青年に見えた。


 彼は召喚された時、学校帰りだったので制服のブレザーやズボンを着ており、急に光に包まれたかと思えば目の前に巫女服の少女がいた、という認識だった。

 そして、現れた巫女の少女はセシルと名乗り、凪に対して助けを求めて来た。正義感の強かった彼は、それを聞いて取り敢えず説明を求めたのだった。


「はぁっ!!」

「ぐぁ……!?」

「それまで! 勝者、ナギ!」


 そして、召喚からおおよそ二日。召喚後、魔王を倒して欲しいがために勇者として召喚したという説明を受けた凪は、冷静な思考で精神を落ち付かせることが出来た。

 そして、魔王を倒せば元の世界に戻れること、そして目の前の巫女達は困っていること、自分にはそれを解決出来る力が秘められていること、それだけ分かれば十分。凪は持ち前の正義感から、勇者の責務を背負うことを受け入れたのだ。


 それから、凪はグランディール王国による訓練に参加する。元々、元の世界では剣道や合気道など、様々な武道を習っており、全国大会でも度々優勝や上位入賞と名を残してきた実力を持っていた彼は、すぐに訓練でメキメキと強くなった。

 教えられたことをスポンジのように吸収し、繰り返し練習する事で自分のものにする。また勇者として召喚された際に、彼の身体は元の世界の数倍の身体能力にまで強化されたらしく、訓練初日にして並の兵士では太刀打ち出来ない程に強くなった。


「はぁ……はぁ……ふー……」

「ナギ様、どうぞ」

「あ、ああ……ありがとうセシルさん」


 今も模擬戦にて勝利を収めた所だ。歩み寄ってきたセシルは微笑みを浮かべながら凪に汗拭き用の布を渡した。凪もそれを受け取って礼を言いながら汗を拭った。

 凪はこの目の前にいるセシルという少女の立場を教えられている。巫女の彼女は、勇者として召喚された自分に身も心も捧げなければならないということを。

 やるつもりはないが、自分がその気になれば、夜伽だろうが身代わりだろうがなんでもやるだろう。凪はそれを彼女の瞳に宿る覚悟から、一目で理解していた。


「私の事はセシルと呼び捨てで構いません」

「それを言うなら俺だって様付けはいらないんだけど……」

「ナギ様は勇者様です、敬意を払わなければなりません」

「そんなもんかなぁ……」


 実を言うと、彼はセシルのことをあまり親しく思っていない。まだ出会って二日で、彼女のことを良く知らないというのもあるけれど、やはり勇者に身も心も捧げなければならないという役目からか、壁を感じるのだ。


「それにしても、大分お強くなられましたね。もう一般兵では相手になりません」

「いや、俺もまだまだだよ……フィジカル任せで剣術とは言い難いし」

「ふぃ、ふぃじかる?」

「あ、ああ……身体能力のことだ」

「なるほど……ナギ様は向上心がお強いんですね」


 くすくすと笑うセシルは、凪から見ても可愛らしい少女だ。巫女服と黒髪がマッチしていて、とても清純な少女に見える。元の世界でならさぞかし異性にモテただろうなと思う程だ。


「それにしても、魔王っていうのはどれくらい強いんだ? いまいちピンと来なくて……」


 凪はここで、話を変えてみた。まだ異世界に来たばかりで、この世界のことを良く知らないのだ。自分がどれくらい強くて、魔獣や魔族はどれほど強いのか、まだ城の外へ出たことが無い彼は知らない。

 セシルはその問いに対して、笑みを潜めながら思案する。そして、少し迷った風に答えた。


「魔王は……とても強いです。おそらく、この国の兵士が全員で戦ったとしても勝てないでしょう。騎士団長や魔法騎士達、それに実力ある冒険者達であれば配下の魔族達を打倒することは可能でしょうが、魔王には届きません」

「そ、そんなに強いのか……」

「ええ、ですからナギ様にはもっと強くなって欲しいのです。勇者は、この世界の希望ですから」


 そう言って笑うセシルの言葉は、切実な思いが込められていた。凪は、世界の希望と言われても良く分からないし、いきなりそんな立場になったことにも困惑している。

 この世界の名のある実力者達がこぞって勝てない怪物、魔王。それを倒せと言われても正直無理だと言って逃げたくなるのが本音だ。


 でも、


「まぁ、頑張るよ」


 こうして、勇者とはいえ何処の誰とも知れない自分に助けを求めてくる程、切羽詰まった少女の願いくらいは、叶えてあげたいと思う凪だった。


 強くなろう、いや―――強くならなければならない。


 世界を救える力なんて言われても、そんなものが自分にあるのかは分からない。でも、可能性があるのなら、力になれるのなら、精一杯頑張ろうと思った。


「これ、ありがとう」


 汗を拭いた布をセシルに渡して、また模擬剣を振るう。気合十分、今ある時間を、精一杯使って強くなる。そんな気迫が感じられる表情と、一振りごとに鋭くなっていく姿は、まさしく勇者。

 周囲にいた兵士達は、素振りをする彼の姿を見て希望の光が大きくなるのを感じた。

 

 これが勇者


 人々の希望となり、導く者


 悪を断ち、世界を救う希望の光


 魔王の手は、すぐそこまで迫っている。今この時にも魔獣や魔族によって命を落としている人がいる。凪はそれを頭に入れながら、ひたすら剣を振るう。教えられたことを実践し、自分のものにする。

 

 その日の訓練を終えた時、凪は100人の一般兵と一人ずつ模擬戦をし、勝利を収めた。

 


 ◇ ◇ ◇



 グランディール王国の巫女セシル・ディミエッタは、勇者の世話をしていた。訓練疲弊した様子の凪に肩を貸し、彼に与えられた部屋へと連れてきたのだ。荒い息を吐く凪の汗をタオルで拭き、水を飲ませる。どうやら自分の限界を超えて剣を振り続けていたらしい。手もボロボロで、汗も尋常ではないほどに溢れている。


「はぁっ……はぁっ……疲れた……!」

「ナギ様、もう少し自分のお身体を大事になさってください」

「っははは……はぁ……はぁ……夢中だったからさ……はぁ……はぁ……ふぅ……」


 心配そうに注意してくるセシルにそう言いながら、少しづつ息を整える凪。そして、完全に呼吸を整えると、途端に汗が気持ち悪くなってきた。


「汗、気持ち悪いな……」

「浴槽の準備が整っていますが、入られますか?」

「ありがとう、じゃあ入ろうかな」


 凪はセシルに案内されて、大浴場へと連れて来られた。男湯と女湯で別れているのは異世界でも同じらしいと思いながら、男湯の方へと入る。ちなみに、彼は桔音とは違って異世界の文字も読めるようで、男湯の文字もしっかり読めている。ただステータスを見るスキルは持っていないようだ。

 服を脱ぐスペースは広く、誰もいない様子だった。凪はゆっくり風呂に入りたい気分だったから誰もいないなら丁度良いか、と思いながら服を脱ぐ。


「しょっ、と……ん?」

「………」

「……えーと、なんで此処にいるんだ? セシルさん」

「お、お背中を……お流ししようと」


 上の服を脱いで、セシルがいることに気が付いた凪。てっきり女湯に入るか、部屋へ戻っていると思っていから驚いた。

 上半身が裸になった凪を目の前にしているから、顔を真っ赤にしたセシルは目線をあちらこちらへと向けて挙動不審になっている。ちらちらと凪の身体を見ているが、バレバレだ。

 だが、出会ってからずっと落ちついた雰囲気の少女だった故に、こうして慌てるセシルの様子は、なんだか新鮮だった。


「あー……いや、別に良いよそこまでしなくても……」

「い、いえ……しょ、それも……私の仕事でしゅので……!」

「顔真っ赤だけど……あと噛んでるし」


 見た目の清純さは内面もそうだったようで、異性の裸は上半身だけでも恥ずかしい様だ。真っ赤な顔を俯かせ、噛んだことにも恥ずかしさを感じている様子だ。

 しかし、引く気はないようで、一向に出ていこうとはしない。凪も汗だくのままいるのは気が引けたので、折れることにした。


「……分かった、それじゃあ後ろを向いててくれる?」

「は、はい……」


 くるっと後ろを向いたセシルを確認して、凪は手早く下も脱ぐ。そして腰に布を巻いて大事な部分を隠した。


「もういいよ」

「はい……にゅっ!?」

「ん?」


 セシルは凪の姿を見て変な声を上げながら落ちついた表情をまた真っ赤にした。腰布一枚の姿、後は全て一糸纏わぬ肉体が露わになっている。流れる汗が扇情的で、初心(うぶ)な彼女にとっては刺激が強すぎた。

 くらくらとなる視界を首を振って抑え、視線を斜め下に移動させる。


「それじゃあ先に入ってるから……無理なようなら別に無理しなくても良いから、むしろそうしてくれ」


 凪は苦笑して浴場へと入って行った。ほっと安堵の息を吐くセシル。まだ顔が熱いが、それでも初めて見た異性の肉体には興味津津の様子だ。

 巫女服を脱いで、下に来ていた白く薄手の肌襦袢(はだじゅばん)だけの姿になる。裾を大きく捲り、太ももの半ばまでたくしあげて紐で留める。そして、一つ深呼吸をして、凪の入って行った浴場へと入って行った。


「ナギさ――――きゃあ!?」

「え?」


 セシルは扉を開けて、凪が入っている湯船へと近づくと、つるっと足を滑らせた。その結果、湯船へと頭から飛び込む形になり、大きな水音を立ててお湯の中へと沈んで行った。


「あぶぶぶぶぶぶ!?」

「セシルさん!?」


 凪は慌ててお湯の中に沈んだセシルを抱え上げた。ぷはっと顔を上げたセシルは多少咳き込みながらも怪我はない様子だ。

 凪はそれを見て溜め息を吐きつつ、安心した。したが、そこで彼の思考はストップした。


「けほっけほっ……す、すいません……ありがとうございます」

「………」

「? ナギ様? ……何を……っ!?」


 セシルは何も言わない凪を怪訝に思い、その視線の先を追った。すると、その視線は自分の身体に向けられており、下に視線を移すと、白い肌襦袢が濡れて、



 ―――肌が透けていた。



 下には下着を付けているセシルだが、上は何もつけていない。濡れた結果、胸はその膨らみから先端の赤い突起まで全てが丸見えだった。


「きゃあっ!?」

「はっ……ご、ごめん!」


 咄嗟に胸を両手で隠す。凪は我に返って目を逸らした。

 セシルは凪に見られたことと、失態を晒した羞恥心で、凪の身体を見た時以上に顔を真っ赤にしていた。


「え、えーと……俺目を閉じてるからさ、その内に出るといいよ」

「す、すいません……次はちゃんとお背中をお流しします……!」


 凪の言葉で、セシルはいそいそと浴場から出て行った。

 それを確認した凪は、大きなため息と共に少し赤くなった顔にパタパタと手で風を送る。流石に女性の裸をこんな形で見てしまったことと、服が透けて見えるという扇情的な見かただった故に、彼も釘づけになってしまったようだ。


「……結構、大きかったな……」


 セシル・ディミエッタ。グランディール王国の巫女、その年齢は弱冠17歳。17歳の凪と同い年ではあったが、その巫女服の下に隠されていたのは、大きく実った母性の塊である。


 勇者、芹沢凪はそれを目にして、茫然とそう呟いたのだった。



勇者、かなり主人公っぽいですね。しょっぱなからラッキースケベとは飛ばしてきます。

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