表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十三章 魔王の消えた世界で勇者は
295/388

戦いの後

 屍音の最後の猛攻、発動した固有スキル『玩具箱(ブラックボックス)』は、桔音も察していた通り空間創造系のスキルだ。そして、数あるスキルの中でも、最強といえる類の力である。

 スキルにも色々と種類があり、大きく分けても様々なジャンルで分類する事が出来る。

 例えば、ルルの固有スキル『星火燎原』や、かつて戦った魔族バルドゥルの狂化スキルなんかは、身体強化系のスキルであるし、桔音の『初心渡り』やノエルの『亡霊の宴(ティーズハロウィン)』なんかは事象干渉系と、やろうと思えば一種の種類として分類出来る。


 その中で、空間創造系のスキルというのは、スキルにある全ての種類を内包出来る可能性を持っている。何故なら、大抵の空間創造スキルは、創り上げた空間内において創造者に有利な効果を強制する事が出来るからだ。

 屍音のスキルは、その頂点といってもいい。

 その効果は、発動し、空間内に取りこんだ対象において、彼女の言葉は絶対となるというもの。しかも、屍音が認識出来る範囲であれば、自動でスキルの発動を無効化する事が出来る効果付き。

 屍音が武器を空間外へと出したいと思えば、桔音がいつのまにか武器を失っていた様に、武器だけ空間外へと出すことも出来るし、言葉で言うだけで肉体及び五感にも干渉する事が出来る。指でなぞっただけでステータスを超えて相手を傷つけることも出来るし、その気になれば桔音の腕を簡単に切り離したり、内臓だけを取り出すことも出来る。


 まさしく、彼女の為の世界であり、中に在る物は全て彼女の玩具と成り下がる。生かすも殺すも彼女次第、抵抗の一切を許さず、自分の想像出来る範囲であれば生物を除き物質を創造することも出来る。まさしく最強の一角を担うスキルだ。


 とはいえ、なんのリスクも無く使えるほど甘くは無い。桔音の『鬼神(リスク)』というスキルに副作用がある様に、彼女のこのスキルも大きな副作用を齎す。発動中、彼女の生命力を著しく削り取るのだ。如何に彼女の生命力が魔族という枠組みの中でも桁外れだとしても、このスキルを発動していられるのはほんの数分。

 本来なら数秒もあれば相手を殺せるからそれほどでもないのだが、如何せん彼女は桔音に悲鳴を上げさせ、その上で自分に屈服させたかった。故に発動時間は大幅に伸びることになり、その結果桔音を殺したと思った瞬間の隙を衝かれた。生命力を大きく奪われたということは、身体が動かない程に消耗していることに他ならない。

 流石にこればかりは耐性値が高くとも回復出来るものではない。十分な休息を取ることでしか、回復出来はしない。自分自身への過信と、世界に狂った思考が、彼女自身を自滅へと追い込んだ。加速し過ぎた狂気が、彼女を殺したのだ。


「―――はぁ……はぁ……!」

「……うふふっ☆ いったぁーい、たんこぶ出来た? こぶ? こぶ? お星様、空が真っ白で垂れた足が震えてる! うふふふふっ☆」


 倒れ、意識を失った屍音の上に跨り、『初神(アルカディア)』を突き立てていた桔音。既に白く輝いていた刀は消え、屍音の身体を貫いているのは漆黒の棒だ。そして、屍音は『初神(アルカディア)』で貫かれた事によりその姿を更に一周り小さい幼女に姿を変えていた。元々高校生かその少し手前程の肉体年齢だったのだが、今では完全に小学生程の姿をしている。意識を失っているが、時間が巻き戻された故にその身体に大きな傷はない。ただ、生きてはいる。


 生かした―――という訳ではない。


 桔音にとって、あの瞬間最も間合いを詰めやすかったのが太刀の形態であり、また当たっただけで決着を付けられるのが『初神(アルカディア)』であっただけの話だ。実際、それで屍音は倒されたのだから、命を奪うのであれば時間を奪ってからでも問題は無い。

 ふらふらと立ち上がり、桔音は荒い呼吸で視線を下へと移動させる。そこには屍音の胸の上でぴょこんと起き上がった狂気の妖精がいた。


「人間さん? うふふっ☆ 面白い、面白い。黒? 赤い眼? うふふっ☆ こわーい、なぁに? この棒? 木みたい! 消し炭、真っ黒、地面が引っくり返って小さい芽が踏み潰されちゃうねー」

「はぁ……狂った子は屍音ちゃんでもうお腹いっぱいだよ……大人しくしててくれないかな?」

「ん? 大人しく? 大人? しく? しくしく! うえーん涙が出ちゃうよー、うふふっ☆ わかったー、しくしくしてるー☆」


 桔音が疲れた様に言うと、彼女は泣いている様にぐしぐしと両眼を擦りだした。うえーんうえーんと棒読みな泣き声まで漏らしている。まぁ桔音としては、屍音を見た後なら可愛いもんだと思い、狂気の妖精に関しては放っておくことにした。いざとなればノエルの『金縛り』でどうにでもなるだろう。

 すると、すぐ傍に精霊が近づいてきた。


『グゥァー……ち、ち?』

「ああうん……ありがとう、君のおかげで助かったよ」

『おー♪ たす、タスか……ッター……』

「……喋れるのかい? ……ああ、違うか……学習した、のか? 以前は曲がりなりにも喋れてたわけだし、必要最低限で片言だったんだ……最大限に喋ろうとすれば出来ない訳じゃないってことか……」


 精霊が喋ったことに少し驚いた桔音だったが、すぐに考え直す。そう言えばこの精霊は自分を親と認識する前、最低限の言語として片言の言語を使っていた。共通言語を本気で話そうとすれば、普通に話す程度のことは出来るんだろう。精霊は知能が高いのだろう……だからある程度会話を聞いたことで、多少話すことが出来るようになった。推測ではあるけれど、間違いないと桔音は思っている。

 すると、精霊の身体が消え始める。おそらくもう顕現していられる時間をオーバーしてしまったのだろう。空へと帰る様だ。


 だが、その前に桔音にこんな言葉を残した。


『……マのモノ……抑圧、カゴ? ……チカラ、強制……』


 部分的な言葉ではあったが、精霊は完全に消えさり、空へと帰って行った。

 桔音は少しだけ首を傾げたが、『マのモノ』とか『チカラ』、『抑制』という言葉、おそらくコレを『魔の者』『力』『抑制』という風に変換すればいいのだろうということは分かる。疲労した頭で、桔音はなんとなく考える。


 『魔の者』とは、おそらく魔族のことだろう。精霊が魔族殺しの力を持っている以上、それは間違いないと考える。その上で、『抑制』と『力』という言葉が連なるということを考えると、精霊が言いたかった『力』というモノの正体は……桔音の固有スキル『天壌無窮』だと予想した。

 精霊と繋がったことで手に入れた固有スキル。ならば精霊と同じく対魔族の力である可能性は高いだろう。そう考えると、その『力』の詳細が『抑圧』に繋がるのではないかとも考えられる。


「……何事も、検証して実証を得る―――か」


 目の前で両手を大きく広げて意識を失っている幼い屍音。何時どの時点でこの少女が狂ってしまったのかは分からないけれど、それでもこの子のポテンシャルと将来性、そして精神の不安定さは既に証明されている。このまま生かしておくのも危険だろう。

 一応、とばかりに桔音は屍音のステータスを覗く。


 ◇ステータス◇


 名前:屍音

 性別:女 Lv1

 種族:王の魔族

 筋力:798090

 体力:900890

 耐性:1098390

 敏捷:998090

 魔力:28729100


 【称号】

 『魔王』

 『狂者』


 【スキル】

 『魔力操作Lv6』

 『身体強化Lv6』

 『剣術Lv6』

 『物理耐性Lv4』

 『魔力耐性Lv3』

 『魔力創造Lv5』

 

 【固有スキル】

 『玩具箱(ブラックボックス)


 ◇


 別段、危険は無いかなと思う桔音。だがおそらく、『狂者』という称号がある時点で狂気に取り憑かれている気もする。先天的だからか、あの最強ともいえる固有スキルも保有している。あまり意味も無いかもしれないけれど、現段階でそれほど脅威にも思えない。ステータスも時間回帰のせいか大幅に減退しているのだから。

 最早死んでも構わない相手であるし、桔音的にもお試し相手には丁度いいと思った様だ。故に、桔音は何の躊躇も無く、屍音に向かって『天壌無窮』を発動させた。魔族殺しの力であるのなら、今やSランク魔族程度へと成り下がった屍音に抜群の効果を発揮するだろう。


 精霊の放つ光とよく似た、少し蒼い色の光が発生し、屍音を包みこんだ。綺麗ではあるものの、なんとなく禍々しさを感じる光だ。だが、桔音はその光に触れてなんとなく直感が働いた。


「……成程、そういう力かコレ……」


 桔音は理解する。そして同時に失敗したなぁと思った。


「ぅぐ……ぅぅぅ……!?」


 屍音が意識の無いままに苦悶の声をあげる。

 すると光は2つに分かれ、屍音の首と手首の2ヵ所に集束していく。そして、パキン、と木の棒を折った様な小気味良い音と共に光が弾けた。手首には青白い腕輪が生まれ、首には黒い金属性の首輪の如きチョーカーが生まれた。

 これは精霊の力の一部、というか―――その結晶とも言えるだろう。桔音は溜め息を吐きながら屍音から視線を切り、今度は凪達の方へと近づいた。白い輪となった結界の中で、汗だくになりながら荒い呼吸をしている巫女と、心臓を潰されて本来なら死んでいる筈の凪がいた。初代勇者の神奈はその隣で巫女の汗を拭いたりしていた。


 桔音はその光景に対して何か疑問を持ったりはしなかった。空間創造系のスキルであるのなら、彼女の結界には何かしらの効果があるのだろうと思うし、それが凪の命を繋ぎ止めているということなのだろうと理解出来ているからだ。

 以前は出入りが出来なかった結界だったが、今回は結界内に簡単に入ることが出来た。


「何とか生きてるね凪君」

「―――」

「おや……なるほど、そうなってるのか」


 桔音はとりあえず、凪の身体に触れて『初心渡り』を発動させる。すると、凪の肉体は全快時の状態に戻った。心臓も元通りになり、肉体にはなんのダメージもない状態へと回帰する。

 瞬間、巫女がどさりと倒れ、白い光の輪が消える。胸を上下させ、必死に酸素を取り込もうとしている巫女の姿を見る限り、どうやらこの結界を維持するのにもかなりのエネルギーを使うらしい。屍音程の消耗ではない所を見ると、この結界はそれほど高負荷なスキルという訳ではないということだろう。


 桔音はとりあえず命を繋ぎ止めた凪の意識がないのを確認して、その場に座り込む。未だに『鬼神(リスク)』が発動している故に、桔音の瞳は未だ蒼い。魔王との戦い程長く使っているわけではないので、副作用も前回程ではないだろうが、それでもしばらく動けなくなる位には副作用も大きいだろう。ソレを想うと、かなり憂鬱になる。


「ふぅ……巫女、君の力は結界に1つ法則を付与する事が出来る、ってことで合ってるかい?」

「はぁ……はぁ……はい、その通り、です……ナギ様、は……?」

「生きてるよ……しぶといことにね」


 桔音の言葉に巫女は脱力して安堵の息を吐いた。

 巫女の固有スキル『法則領域』は、結界を展開し、その結界に絶対的な法則を付与する事が出来る。以前桔音と凪の決闘で使用した際は、『あらゆる物の出入りを禁止する』という法則を付与された結界を展開していた。故にレイラ達は入ることが出来なかったし、魔王の攻撃も防げるという言葉を吐くことも出来たのだ。

 そして、今回は『結界内にいる重傷者の状態を停止する』という法則を付与していた。つまり、結界の中にいる間は致命傷だろうとなんだろうと、重傷者であればその状態のまま停止する。凪は死にかけの状態のまま、肉体と精神を凍結したということだ。だから死んではいなかったし、生きてもいない状態のままでいたという訳だ。


 だが、彼女のスキルは付与した法則が重い物であればあるほど、エネルギーを消耗する。体力と精神力、集中力を削って発動するこのスキルは、屍音程ではないが長時間発動し続けられるものではないのだ。

 また、自身が結界内にいなければならないという制約もある故に、それほど使い勝手の良いスキルというわけではない。


「きーくん、あの魔王の娘は……?」

「ああ……まぁ、死んではいないよ。ただ、彼女はもう固有スキルを含めてスキルを発動する事も、レベルも上げる事も出来なくなった。魔力剣ももう生み出せないし、能力値も向上しない。放っておいても大した脅威ではないよ」

「それはどういう意味? 殺さないの?」

「……まぁ、僕としては殺しておきたいんだけど……まぁ一種の制限を掛けたんだけど、その代わりに僕には彼女を殺すことが出来なくなったんだよ」


 桔音の行使した『天壌無窮』というスキル、これは魔族殺しの力といっても過言ではない。

 このスキルは、魔族以外にも効果を及ぼすことが出来るが、特に魔族という存在に対して凄まじい効力を発揮する。何故なら、このスキルは自分よりも実力的に格下の魔族に対して、あらゆる意味で枷と呼ばれる制限を仕掛けることが出来るスキルだ。光を放ち、ソレが当たった魔族は桔音が言った通り―――レベル向上制限、スキル発動不可、能力値向上制限といった制限を掛けられるのだ。

 更に言えば、桔音の前であればその行動すらも制限される。人を殺そうとしていたとして、桔音が止めろと言えば勝手に身体が停止するし、立っていたとして、桔音が座れと言えば勝手に身体が座る。


 完全なる、魔族殺しの力。これを掛けられた場合、その魔族は生きるために桔音に縋るしかなくなるのだ。つまり屍音はこの先、桔音が助けなければ今まで暴れた分のしっぺ返しで死ぬ可能性は高いだろう。

 まぁこれは制限を与える代わりに、桔音はその魔族の命を奪うことが出来なくなるという制約がある。故に桔音は屍音を殺す事は出来ないし、脅威でなくなった以上放置しても良いと判断したのだ。


「ま、後は勝手にすればいいよね。新しいスキルを習得する事も出来ないんだし、どっかで野たれ死ぬかするでしょ。とりあえず、後残っている問題は……あの狂気の妖精かな……色々謎めいた部分もあるしね」


 桔音の視線が屍音の胸の上でうえーんうえーんと泣き真似をしている妖精に向く。すると、それと同時に飽きたのか泣き真似を止めた。そして屍音の上をくるくると回りながら飛び始める。うふふと笑う妖精に、桔音は今一度大きな溜め息を吐いた。

 さしあたって、先程の死の感覚の中で何故彼女の声が聞こえたのか、その疑問を解消したいと考える桔音だった。



次回か次々回かくらいで十三章終わりですかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ