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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十三章 魔王の消えた世界で勇者は

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問題です

 ―――正直、勘弁して欲しかった。

 強すぎる、とかそういう次元を大きく逸脱してしまっている。僕の防御力を超えてくる絶大な攻撃力だけでも厄介極まりないというのに、その自身の攻撃力を超える防御力まで兼ね備えてくるなんて、反則(チート)を超えて最早バグだ。何をどうすればこんな生物が生まれるんだ? 王の魔族、なんて血筋だから? それとも出生に何か秘密が? あんな力を発揮出来る肉体なんて、最早奇跡の産物としか言いようがない。
 こっちの攻撃はほぼ通らない。いや、通せるモノが限られたというべきだろう。彼女の耐性値が完全に物理や魔法を通さないと分かった以上、彼女に通用する攻撃はスキルの刃による物理無効の事象攻撃のみ。向こうはスキルを封じ込められている以上、防ぐ手段は無い筈だ。

 それこそ、『初神(アルカディア)』を1発当てられれば、それだけで十分な影響を与えられる筈。

 けれど、彼女にそれを当てること自体が難しい。たった1発だけだというのに、それが果てしなく遠い目標に感じる。
 屍音ちゃんの戦闘センスは、言うまでも無く天性のモノだ。見れば大抵の技術はモノにし、自分のやりやすい形に昇華させることすら出来る。底無しの魔力でもって創り上げた魔力剣から、魔力操作も呼吸をするような気軽さで随一の精密さを誇り、更に狂った精神から敵だろうが味方だろうが気分次第で殺すことを厭わない。

 最悪の人格者に、最悪の肉体性能(スペック)と、最悪の才能を付属した、神の作った最高傑作(けっかんひん)

 間違いなく最強の魔族だ。もしかしたら、世界で最も強い生物と言ってもいいかもしれない。有象無象がいくら集まろうが、彼女を打倒することは至難の技だろう。彼女が思っている通り、世界は彼女の為に在ると言っても過言ではないだろう。彼女は世界を手にする力を持っているのだから。

「……そうだなぁ、もしかしたら此処で死ぬかもね」

 呟く。神奈ちゃんには聞こえたようで、ぎょっとした表情を浮かべていた。まぁ仕方ないかもね、一種の諦めにも聞こえる言葉だ。
 とはいえ僕は死ぬつもりもなければ諦めたつもりもない。意地でも生き残るつもりだし、なんならこの場から逃げるつもりもまだある。でも、この戦いはきっと進むに連れて多くの死者を出すだろう。周囲を巻き込み、なんなら街や国の1つもふっ飛ばすかもしれない。

 僕の最大攻撃力はそれほどの火力を持っているし、屍音ちゃんの最大攻撃力はきっとそれだけの破壊を齎す。

 だから、この場に何も分かってないままの『彼女達』を残らせるのは、不味いだろう。
 僕はリーシェちゃんに目配せをした。そして、口パクで伝える。人の機微には聡い彼女のことだ、読み取ってくれるだろう。伝えることはたった1つだ。
 リーシェちゃんは、僕の口の動きを読み取って目を見開いて驚いた様な顔をする。それはそうだろう。僕がこんなことを言うなんて今までになかったし、それはつまりそれだけ追い詰められた状況だと理解出来るからだ。

 ―――フィニアちゃん達を連れて、逃げて。

 フィニアちゃん、レイラちゃん、ルルちゃんは今記憶を失っていて、今は何も分からない状態だ。戦闘に参加出来るだけの実力を発揮する事は出来ないし、最悪こんなに近くにいたら巻き込まれて死んでしまう可能性は高い。
 正直、この場に居られたら命を落とす。そうなったら僕もあまり気分が良いとは言えない。正直絶望するよね。仲間を失う悲しみは、もう沢山だ。

「ッ……きつね!」

 リーシェちゃん、君は強い。なら、僕のお願いを聞いてほしいな。

「君達には生きて欲しいな、ごめんね」

 僕はそう言って、『武神(ミョルニル)』を発動し、リーシェちゃん達と僕達の間、その天井を吹き飛ばす。
 轟音と共に吹き飛ぶ天井と地面、落ちてくる瓦礫や土塊が土砂崩れとなってリーシェちゃん達と僕の間を埋めて行く。屍音ちゃんがこれ程の化け物なら、正直僕は此処で死ぬかもしれない。生き延びられればソレはそれで良いけれど、そんな甘いことは言っていられない。

「き―――!!」

 リーシェちゃんの声が、土の壁が出来上がっていく音と共に僅かな音となって聞こえた。しかし、その声ももう僕には届かない。出来れば、遠くへ逃げて欲しい。屍音ちゃんの手が届かない所まで、全力で逃げて欲しい。でないと、顔を覚えられている以上殺される可能性はかなり高い。
 大丈夫、僕が一緒でない限り僕の運命力は君達に影響を及ぼさない。元々、僕の運命力で引き寄せられる敵を、一緒にいたから相手していたというのが、フィニアちゃん達の立ち位置だった。だから、僕と一緒にいなければ早々屍音ちゃんに会うことも無い筈だ。

 そう思って、僕は屍音ちゃんの方へと振り向く。この場に残っているのは、僕と神奈ちゃん、凪君、巫女、そして屍音ちゃんだ。内、凪君と巫女は戦闘出来ず、戦力は僕と神奈ちゃんのみだ。まぁポケットの中にはあの狂った妖精も入っているけれど……この子に今目覚められたら厄介だなぁ、本当。
 間違いなく、今までで最もピンチな状況だ。

「アハハハッ! オトモダチを逃がして一安心? そんなにオトモダチが大事なんだぁ? アハハッ☆ それじゃあおにーさんを殺した後追いかけて殺しちゃおう! 私ってホラ、オトモダチいないから羨ましいんだよね、ムカつく」
「それじゃ、今ここで君をどうにかしないとね」
「……不退転の覚悟か、案外愚直なんだな、君は……嫌いじゃないが」

 屍音ちゃんの笑い声に、僕はくるりと棒を回す。

 ここから先は、本当に出し惜しみ無しだ。魔族1匹、叩くだけだ。モグラ叩きよりシンプルで分かりやすい。屍音ちゃんのことだ、何をしようと即座に対応してくるだろう。
 なら、最大限弱体化させてもらう。スキルが使えなくなっているのなら、今度はそのステータスを低下させて貰おう。僕には、対魔族用の力にして最高の存在が味方に付いているんだ。

 さぁさぁ、今こそその力を貸して貰おうか―――精霊(・・)さんよ。

「にょわッ!?」

 屍音ちゃんが空けて入ってきた天井の大穴から見えた空、そこからズドンと光が落ちて来た。青白く、星の様な輝きが辺りを包み込む。光の中から現れるのは、かつて僕に牙を剥いた星の精霊。魔族殺しの光を放ち、魔族の天敵とも言える力を保有する。
 おかげ様で、精霊の光を受けた屍音ちゃんは、少し苦しそうに表情を歪めた。どうやら彼女も一魔族、この光の影響から逃れることは出来なかった様だ。

 オッケー、ざまぁみろ。まだまだ行くぜ、曲がりなりにも僕はこの精霊の親となった存在だぞ……それによって手に入れた新たな固有スキルが、今こそ役に立つだろう。

 ―――精霊の固有スキル『天壌無窮』

 さぁて、期待外れなんて止めてくれよ? このスキルの効果なんて全く知らないし、把握なんて出来ていないけれど……今こそ僕の命を救ってくれ。逃がしたフィニアちゃん達に、もう一度会うためにね。

 一世一代、人生を掛けた大博打だ。

『きつねちゃん、私に出来る事はあるかな? ふひひひっ♪』

 ああ、そうだね。君もいたよね、ノエルちゃん。君にも存分に暴れて貰おうか。策は無い、後はもうただひたすらに――あのキチガイ娘に1発叩き込むだけだ。

『ヴァー……!』

 精霊が鳴き声を上げて、屍音ちゃんを睨む。身体から放つ星の光をうっとおしそうにしている屍音ちゃんは、苦しそうな声を上げる。どうやらかつてのレイラちゃんやリーシェちゃんが体験した様に、屍音ちゃんも体内が焼ける様な痛みを感じているのだろう。まぁ最強の魔族なだけあって、どうやら動けなくなるという事態には陥らないようだけど……大分効いているなコレ。

「そういえばドランさんも殺してくれたっけ……よし! 復讐だ! 今すぐ死ね、名前の通り屍となって僕に土下座しろ小娘」
「うぐぅぅぅ……!! いっ……たいな……ぁ……!! 鬱陶しい……ムカつく、ムカつく……! 相変わらずおにーさんは私を怒らせるのが好きだね……本当、ムカつき過ぎて逆に愛おしくなってきちゃうよ…………だから精一杯(あい)してあげる♪」

 精霊――後で名前をあげるか――に指示を出す。どうやらこの子は僕の思考を読み取ってくれるらしい。ノエルちゃんとの契約的な念話が出来る様だね、まぁ僕から精霊への一方通行のようだけど。精霊は小さい幼体になってはいるが、その触手や身体の性質は以前と同じ様で、屍音ちゃんへと突撃した。
 魔力剣を振るう屍音ちゃんだけれど、その剣は精霊を切り裂く事は出来ない。精霊はまず存在としての格が違う……魔族最強だろうと、傷付けることなんて出来はしないんだよ。

 精霊の触手が屍音ちゃんの身体に直撃した。尖端が鋭い棘になっているわけではなかったから貫くことは無かったけれど、その威力は健在。屍音ちゃんの身体を大きく後方へと吹き飛ばす。触手の速度はやはり以前と何ら変わりない。幼体だろうが、あの強さは健在の様だ。
 しかし、屍音ちゃんは吹き飛ばされながらもしっかり着地する。特に大きなダメージはないらしい。あってもあの耐性値だ、すぐに回復するだろう。

 続き、僕と神奈ちゃんが地面を蹴った。視線を交わし、お互いに何をするのかアイコンタクトで通じ合う。上手い連携が取れる訳ではないけれど、お互いどういう行動が最適な行動かをしっかり理解している。なら、それをする為に取るべき行動を選択するのみだ。
 僕は右から、彼女は左から、そして精霊が中央。三方向から一斉に襲い掛かる僕達に対して、屍音ちゃんは魔力剣を消した。

 そして、新たに作り出したのは―――魔力の弾丸だった。

『ヴァ……!!』

 放たれる無数の弾丸。その密度は全ての弾丸が僕の肉体を抉れる程の威力となっている。しかし、それを数本の触手が高速で叩き落していく。僕達に迫る魔力の弾丸は当たることなく叩き落され、僕達は屍音ちゃんの目の前まで踏み込んだ。
 両手に生み出される魔力剣。しかし、その剣を振るわせる訳にはいかない。

「ノエルちゃん」
『ふひひっ♪ ほい!』

 だから、ノエルちゃんがソレを止めた。『金縛り』によって、屍音ちゃんの身体がぴたりと止まる。驚きの表情を浮かべる屍音ちゃん。
 しかし、その拘束も長くは続かない。屍音ちゃんは強引に力づくで拘束から逃れた。バキン、という音と共に拘束が解かれ、屍音ちゃんは遅れながらも魔力剣を振るう。

「フッ―――!」

 でも、振るうのが一瞬遅れただけで、大きな隙だ。神奈ちゃんが先に屍音ちゃんの懐へと踏み込んでその剣を振るう。その時見えた彼女の瞳は、少しだけ炎の様に赤く煌めいた気がした。
 そして、その剣は先程と同じ様に屍音ちゃんへと届き、魔力剣を切り裂く。更にそのまま振るわれる剣先が屍音ちゃんの頬を掠め……その肌に一筋の傷(・・・・)を付けた。

 驚愕したのは、屍音ちゃんだけじゃないだろう。僕も追撃に彼女の懐へと踏み込みながら、内心で驚いていた。神奈ちゃんは今の一撃、屍音ちゃんの耐性値を超えた一撃を繰り出したのだ。驚くのも無理はないだろう。
 だがしかし、そんな驚愕は投げ捨て、僕は『初神(アルカディア)』を発動して真っ白く輝く刀を屍音ちゃんへと突き出す。時間回帰の太刀、喰らえば彼女とてただでは済まない。

「アハハッ……!!」

 屍音ちゃんは笑った。
 頬を掠めた一撃で付いた傷から、たらりと少量の血が流れる。それをぺロリと舐め取りながらも、彼女は大きく身体を逸らして僕の突き出した刃を躱した。そしてそのまま大きく反り返り、両手を地面に付いてバク転。宙に浮いた足で、僕の顎を蹴りあげた。
 躱しながら、即座に攻撃に転じる。そのアクロバティックな動きは、予測不可能な変幻自在さを感じさせる。

「ガッ……!?」

 揺れる視界を抑えながら、僕は体勢を立て直し屍音ちゃんへと視線を向ける。
 すると、彼女は頭をトントンと小突きながら小首を傾げ、吊りあがった様な笑みのまま不気味に笑う。そして、キョロキョロと視線を移動させながら僕達を順々に見て行く。

 視線がぴたり、と止まった。

 その先に居たのは、現在勇者……凪君。

「貴方かぁ……さっきから足を引っ張って来てたのはぁ……アハハハッ☆」

 そう言った彼女は、その場から姿をふっと消す。あまりにも初動が速過ぎて眼が追い付かなかったのだ。慌てて彼女の姿を探す。

 すると。

「……え……?」

 凪君のそんな声が聞こえた。まるでふと零れた様な小さな声、何が起こったのか分からないといったそんな声だ。
 その声の方へと視線を向けてみると、巫女の横に膝を衝いて座っていた凪君の目の前に、しゃがみ込んだ屍音ちゃんがいた。そして、その黒い手袋に包まれた手は……凪君の胸の中央を、正確に貫いている。

 背中へと突き抜けたその血塗れの手には、凪君の心臓と思しき内臓が掴み取られ、ドクドクと大量の血を地面に垂れ流している。

「邪魔だよ。私のジャマをするのはいけないことなんだよ? おかーさんに教わらなかった? 私が楽しいって思うためにはジャマをしちゃいけないの。だからこうして殺されることは、貴方が1つ賢くなれたってことなんだよ! 嬉しいよね! ゴミでもちゃんと私の為に賢くなれたんだもの、だから笑顔で死ねるよね! うん、感謝していいよ? ほら、ありがとうは?」

 そんなことを言いながら、屍音ちゃんはぐしゃっとその手に掴んだ心臓を握りつぶした。当然の様に笑顔でそんなことを言う彼女は、やはり頭がおかしい。

「ぁ……ぐ……ぁぁああぁ……あ゛……!!?」
「あーりーがーとーうーはぁー?」
「ッ……がぁぁぁああああああああああああ!!?!?」
「アハハハ! 汚い鳴き声~、まるでゴブリンみたーい! 気持ち悪いなぁ」

 呻き声を上げる凪君に対して、ずるずると腕を引き抜いていき、その手を凪君の体内に戻し笑う彼女。叫び声を上げた凪君を見ると、どうやら彼女は凪君の身体の中でその手をめちゃくちゃに動かしているのだろう。血管を引っ張り、肺を潰し、神経に爪を立てる。並の痛みではない筈だ。
 しゃがみこみながら片手1本で凪君を蹂躙する彼女の姿を見て、僕は正直此処までするかと思った。動こうとするも、屍音ちゃんから発される圧倒的な苛立ちの気配が、僕の身体にとてつもない重しの様な重圧を感じさせ、足を動かさせない。

「あー、つまんないの」
「ぐ……ッ……ぅ……!!」

 ずるっと手を引き抜き、倒れる凪君を見下しながら立ち上がる屍音ちゃん。凪君の身体から白い光が消えた。痙攣している様子から、どうやらまだ死んではいないようだけど……あと数秒の命だろう。このままだと死んでしまう。

 もう一度『初心渡り』を―――と、思った瞬間だった。

「ねぇおにーさん? 問題です……私はいつ此処に移動したでしょうか?」
「ッ……!?」

 目の前に、屍音ちゃんがいた。

「答えは簡単! 『今』、転移して此処に来ました~! 不正解者には楽しい死をあげま~す!」

 彼女はそう言って、僕の左腕をその魔力剣で斬り落とした。

 スキルの封印が解かれた彼女による蹂躙が――始まる……。
屍音ちゃん、強過ぎ……!
+注意+
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