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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十三章 魔王の消えた世界で勇者は

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迷宮内の災害

 豚に似てるよな。いつも巫女服でなんか不潔。黒髪がなんかイヤ。お淑やかに見えてむっつりスケベ。腹黒い所が生理的に無理。いろいろやっておいて自分がやられると不満な所がウザい。自己中心的。勇者に尽くしているようで、自分の為にやっている所が腹立つ。人間じゃない所が嫌だ。キャラ作りが必死過ぎて気持ち悪い。ツッコミが薄くて使えない。あまり強くないのが使えない。そこそこ胸があるのに背が低いのがあざとい。狙っている様な発言に殺意が湧く。隣に立たれると鳥肌が立つ。なんか香水の匂いが作り物っぽくて嫌だ。役立たずな所が腹立たしい。文句ばかりなのが正直鼻に付く。人のことを下に見る様な言動に苛々する。穴だらけで計画倒れした所が滑稽。死んでないのがむかつく。なんで殺されないのか不思議。仲間に見放されていないのが本当に謎。一丁前に恋心抱いているのが人間っぽくて嫌だ。可愛い顔しているのが性格と違い過ぎて違和感。種族が一緒なのが同じ人間として恥ずかしい。何もしないで欲しい。ふてぶてしくも正義感に駆られているのがキモい。その結果空回りしているのもキモい。というかもう何かしていたらキモい。存在がキモい。同じ空気を吸いたくない。半径数mは近づかないで欲しい。なんで存在しているのか分からない。なんで平気な顔して生きていられるのか不思議過ぎてヤバい。生きていて恥ずかしくないのか真剣に聞いてみたい。というかその実力で魔王を倒そうとしているパーティに居ようと思うのがもうすでにおかしいよね。何を食べて生きているのか教えてほしい。だって最早人間じゃなくて奇妙な生態の新種生物だよね。一種の魔獣なのかもしれないよね。まぁだとしてもランク外の雑魚魔獣だけどね。こんなに流暢に喋る魔獣なんてかなり希少種。拘束して解剖した方がいいと思う。とりあえず色々あるけど、生理的に無理―――……。

 その他諸々、凪君が巫女に言い聞かせた暴言の数々である。豚に似てるよな、の辺りから巫女は涙目になり、その後暴言が3つ重なった所でさめざめと泣き始めたのだけど、凪君は涙を流す巫女を慰める為か頭を撫でながら、暴言を吐き続けた。
 もうね、この辺りで僕は笑い死にするかと思ったよ。なんで慰めるために頭撫でておきながら暴言を止めないんだよ、と地面をバンバン叩きながら笑った。僕の方も涙が出て来たよね、別の意味で。爆笑に爆笑を重ねた位、今世紀最大級に笑ったと思う。

 いやー、これはもうね認めざるを得ないよね。巫女とはいえ女の子に此処までボロクソ言える奴はそうそういないと思うよ。ある意味勇者と言わざるを得ないよね。うん、僕の心がぱぁーっと晴れやかになったよね。スキップしちゃう位には気分が良いよ。
 流石は勇者、僕には到底出来そうもない事を平気でやってのけるね。痺れも憧れもしないけどさ、普通に最低野郎だしね。

 あれ? リーシェちゃんがなんだかゴミを見る目で僕のことを見てる。なんだよ、そのお前も平気でこれ以上のことしただろ的な視線止めろよ。僕は別に巫女に精神攻撃なんてしてないぞ、会話してたら勝手に向こうがショック受けただけだから。どっちかというと豆腐メンタルなのが悪いでしょ、冤罪だ。

「…………ぅぅぅ……!」
「わ、悪かったよセシル……でもほら、俺の思ってることじゃないから! 全部きつね先輩の言葉だから! な? 許してくれよ」
「ぅぅぅッ! ぅぅぅぅぅぅ……!!」
「いたっ、痛いって……止め……悪かったって……! グーは、グーは止めて……へぶっ……ビンタは止めて!? なんか悲しくなる!!」

 巫女は涙をぽろぽろ溢しながら顔を真っ赤にし、謝って来る凪君をべしべし叩いていた。流石腹黒巫女、この勢いに乗って凪君に何かお願いを聞いて貰うつもりだな? やり口があざといね~。
 まぁ、そんなのはどっちでも良いか。とりあえず、凪君のことは勇者と認めよう。ある意味では、そうとしか言いようがない偉業を達成した訳だしね。

 すると、凪君はくすんくすんと泣きやみ始めた巫女を抱き締めながら―――おそらく抱き締めろと言われた物と推測する―――僕の方へと視線を向けた。

「えーと……きつね先輩、言われた通り先輩の想いの丈をぶつけたんですが……こんなんで認めて貰えるんですか?」
「うん、認める認める、勿論認めるよ! 凄いね凪君、君は本当に勇者だよ!」
「あれ、なんだか全然嬉しくない……」
「気のせい気のせい、本当に凄いよ君は」
「……そっか……なら、嬉しいです」

 ―――馬鹿だなこいつは。

 まぁ僕が勇者をどう思おうと、結局彼は勇者なことに変わりは無い。称号で『勇者』となっている以上、僕が認めようが認めなかろうが関係ないよね。ぶっちゃけた話だけどさ。

「これで、胸を張って魔王を倒しに行けます……!」
「あ、もう魔王倒しちゃった」
「ありがとうございます、そう言っていただけると……え?」
「い、今なんて言いました……?」

 再び固まる空気。
 凪君と巫女が唖然とした表情で僕に問いかけて来た。信じられないといった様子だったので、もう一度はっきりと断言する。

「もう魔王倒しちゃったてへぺろー」
「てへぺろじゃないですよッッ!!」
「魔王倒したって……じゃあ勇者(おれ)の存在する意味は!? 魔王いなかったら俺ただの自称勇者の痛い人じゃないですか!!」
「僕最初からそう言ってたじゃないか」
「現実にしないで欲しかった!!」

 文句が多い。勇者気取りって最初から言ってたじゃん。今更どうのこうの言わないで欲しいんだけど。勇者気取りってあだ名が本当になっただけじゃないか。もうね、そんな程度でやいのやいの言われる筋合いはないよ。
 とはいえ、まぁ勇者である凪君の仕事というか存在意義でもある魔王退治をかっさらった訳だし、そこは確かに反省しないとね。だからこそ、ルークスハイド王国内で緘口令を敷いたんだけどね。アイリスちゃんがあんな演説して、国民皆がアイリスちゃんを認めたあの瞬間の後だからこそ、緘口令も強く浸透させることが出来た。ある意味、タイミングは良かったね。

 だから、その辺もしっかり伝えておこうか。

「大丈夫大丈夫、手柄は全部君にあげるから。ほら、この初代勇者も含めて貰ってって」
「ん、初めまして」
「初代勇者ぁ!?」
「ほ、本当ですか!?」

 とりあえず、此処で本来の目的である初代勇者神奈ちゃんを押しつける。魔王討伐の手柄も含めて、全部貰ってってもらう。ほら持ってけ、さっさと持ってけ、早く持ってけ。

「ちょ、ちょっと待ってください……全く話に付いていけません!」
「はぁ……仕方ないなぁ、手短に説明するよ? 魔王倒した、魔王が封印してた封印が解けた、封印されていた初代勇者である彼女が復活した、帰ってきた、現在に至る。おっけー?」
「超! 雑!?」
「最初からぶっ飛んでるじゃないですか!!」

 ツッコミに回る勇者と巫女、うんなんというか妙な光景だよね。

「でもまぁ、魔王を倒したことでちょっと厄介なことにもなったんだけどね……」

 そう、魔王を倒した結果生まれた新たな脅威―――魔王の娘にして、魔王以上の規格外。Sランクというよりは、最早評価規格外(EXランク)の迷宮とされている『地獄』と同等の、最強(EXランク)の魔族だろう。
 最早彼女を倒すことが出来れば、全ての魔族に勝てると言っても過言ではない強さだ。あの狂った価値観は、間違いなく魔王の娘であり、あの馬鹿みたいな実力は間違いなく、最強の魔族。恐ろしいね……あんなのに襲われたら、正直また逃げられる気はしないし、勝てるかと言ったら無理だと言うね。
 アレに対抗出来る存在と言えば、僕の知っている中でも最強ちゃんくらいだ。強いて言うなら、会ったことは無いけどステラちゃん一派のトップならいけるんじゃないかな。神葬武装は神葬武装で馬鹿みたいな規格外武器だしね。

 魔王の娘―――屍音(しかばね)ちゃん。

「厄介なこと……魔王よりもですか?」
「うん、実はね……魔王には娘さんが居てねー……それが魔王よりも強いっていうんだから嫌になるよねぇ……僕も逃げるので精一杯だった。仲間も1人殺されたよ」
「そんな……魔王を倒したきつね先輩でも、敵わなかったんですか……!?」

 まぁ、正確には魔王にトドメを差したのも屍音ちゃんだったけど……ソレは言わない方が良いかな。凪君の慄き様が尋常ではない。これ以上ショックを与えると、容量オーバーでパンクしそうだ。巫女もさっきまでの軽い雰囲気を払拭し、なにやら深く考え込んでいる。
 それもそうだろう。何せ魔王よりも強い魔王の娘だ……それはつまり、新たな魔王の誕生と言っても過言ではない。勇者としての役割は、まだ残っているというべきだろう。

「そう、僕達は敵わなかった。正直二度と遭遇したくはない……凪君達にまだ勇者として彼女を殺すという覚悟があるのなら、立ち向かってみると良い。ただ、お勧めはしないよ」

 コレはマジの言葉だ。さっきまではからかうために色々と茶化して言っていたけれど、コレは本当の話。あの狂った娘を相手するには、今の僕より弱い彼には無理だ。簡単に心臓を抉り取られて死んでしまうだろう。最低でもSランク迷宮を単独踏破出来るくらいに実力を付けないといけないからね。
 まぁ、この場所もAランク最高峰の迷宮なんだけどね。僕達の戦いのせいか魔獣達は近寄って来なかったけど。
 ああ、ちなみに今は凪君のスキルも解けているので、僕のスキルはちゃんと使えるようになっている。瘴気を展開して周囲を確認したけれど、魔獣達の気配はかなり遠ざかってしまっている。

「まぁとりあえずは……そろそろこの迷宮から出な―――ッ!」

 その瞬間、僕は捉えた。
 瘴気が、1つの人影を捉えていた。それは僕が行動するよりも速く、皆に危険を知らせるより早く、一直線に上の階層をぶち抜き、僕達のいるこの空間へと落ちて来る……否、降りてくる。

 天井が崩壊し、唐突にソレは現れた。

「―――え?」

 一直線に落ちて来たソレは、僕の目の前にいた凪君を地面に叩き付けた。凪君は反応出来ずにぽかんとした表情のまま、痛みすら感じる間もなく地面に倒れ伏す。

 そして遅れて噴き出したのは、凪君の中に詰まっていた大量の―――"血"。

 ぶしゅッ、と噴き出す血を気にせず、ソレが凪君の胸に刺さって(・・・・)いたその手をずるりと、引き抜きながら立ち上がる。
 何処かで見覚えのある光景だ。

「な……ッ!? ナギ様!!」

 巫女が状況について来れたのは、ソレが立ち上がってから数拍後。冷静さを失い、倒れ伏し胸から血を噴き出した凪に駆け寄ろうとする。
 しかし、凪を跨ぐ様にして立っていたソレは、近付いてきた巫女を軽々と蹴った。ズドン、という重く鈍い音が、巫女の腹から響く。吹き飛ぶ訳では無く、吹き飛ぶことすら許さない程の速度で巫女の腹を蹴り抜いたのだ。衝撃が巫女の身体を突き抜けて後方へと伝わったのが分かった。

「か……ぇぅ……ッぅげ……ぇ……!?」

 そして蹴られた巫女は、その場で膝を付く。そしてあまりの衝撃だったのか、涎と共に血と胃の中のモノを全て吐き出してしまう。びちゃびちゃと地面を汚しながらも、巫女は気絶しない。多分、気絶する間も無い程痛みが鋭く、そして速く突き抜けて行ったんだろう。
 ソレは蹲る巫女の頭に、追撃とばかりの踵落としを叩き落す。

「ガッ!?」

 巫女はその一撃を受けて初めて気絶する。自身の吐瀉物と共に地面に頭を埋め、ドクドクと大量の血を流していた。ソレは勇者と巫女を、これ以上なく容易く片付けてしまったのだ。

「うわぁ……きったないなぁ……なにこれ? 人間? 邪魔だったから蹴っちゃったけど」

 そしてソレはぼそりとそう言う。

 ―――頭にちょこんと乗った、王冠が嵌められた可愛らしい帽子

 ―――まるで伝説の龍の様な覇気に満ち、見る者を魅了する瞳

 ―――黒い手袋に包まれた手を頬に当て、物憂げに溜め息を吐く

 ―――そして、一目で分かる狂気の気配

 間違いなかった。ソレは、たった今話していた存在……魔王の娘にして、最凶最悪の魔族。今や新たな魔王とも呼べる世界最大の天災。

「あ! ……やぁっと見つけたよ、おにーさん……とりあえず、死んで?」
「……やぁ屍音ちゃん……久しぶり」

 狂気の娘。屍音ちゃんが狂気の笑みを張り付けて、現れた。

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