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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十三章 魔王の消えた世界で勇者は
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決闘

更新、なんとかなりました(汗)

 凪君は、僕に危害を加えて来たという点を除けば、普通に善良で普通に人気者を張れる普通の何処にでもいる少年だ。そんなことは僕にもしっかり理解出来ている。

 でも、僕に出会ったことで彼は壊れてしまった。壊れてしまっても正直仕方がなかったと今でも思っている。けれど、彼がこうなった以上僕にも少しは責任がある。それ自体は否定する事が出来ないだろう。


 だから、僕は彼に対して少しだけ手を差し伸べることにする。勇者としての道を踏み外し、そして今人としての道を踏み外そうとしている。此処で戻ることが出来るか、出来ないかが彼のこれからを左右する。

 どうすればいいのか、そんなことは簡単だ。彼の勇者としての道を1つ、見つけさせてやれば良いんだ。幸いなことに、彼は腹立たしい巫女や剣士達に囲まれて幸せな環境にいるようだし、それも踏まえて彼には勇者という称号に立ち向かっていただこう。


「君はどんな勇者になりたい?」


 この問いに対して、凪君は頭を掻き毟る様に蹲った。満身創痍、僕に対して最早敵対する意志もない。戦闘は終わった……問答も終わった。後は、彼が自分自身の中でどういう決意をするかだけだ。僕はその手伝いをしてあげるだけ。立ち直ってくれよ勇者……でないと神奈ちゃんを押しつけられないじゃないか。

 彼女は強いけれど、一緒に居たら面倒なのは考えなくても分かる。初代勇者というだけで一種の神格化の対象である訳だし、存在が明らかになれば僕達のパーティが動きづらくなる。各国の王族達には目を付けられるだろうし、初代勇者を引き渡せと面倒な交渉事にもなる気がする。

 なら、同じ勇者である凪君や交渉事が得意そうな巫女達の下へと預けておいた方が何かと都合が良い。


 つーか、さっきから色々と優しく言葉を掛けてやってんのに何なのこいつ。勇者止めたいみたいな空気出しながら、ずーっと勇者の称号にしがみついてやがる。どっちなんだよ……止めたいのか、止めたくないのかさっさと決めて欲しい。

 決意だのなんだの言ったけどさ、正直答えは1つだけだと思うんだよね。勇者を続けるの? 続けないの? 極論を言えばそれだけだ。僕としては勇者としてこのまま生きていってほしいから、勇者の道へそれとなく勧めているんだけど……この子考えることを放棄しちゃってるから、ぶっちゃけもう面倒臭くなってきてる。


「……なぁきつね先輩……俺は、どうすれば……良いんだ……? 俺には、勇者を続ける勇気も……辞めて生きていける自信も……ない」

「知らねーよ、そんなの自分で決めろ。君はこの世界の人達に、笑顔で居て欲しいのかい? それとも、一緒に笑顔を浮かべていたいのかい?」


 そんなの、選ぶまでも無い。君の性格から考えれば、最早前者を選ぶしかないだろう? だって君はもう、一緒に笑顔を浮かべて希望を与えてくれる存在に期待する、なんてことがどれだけ罪深いかを知っている。ソレを知っているからこそ、その他大勢の中へとその身を混ぜることなど出来る筈がない。

 もう、君には勇者に戻るという選択肢以外、君が納得する道は残されていないんだよ。だからさっさとソレを選んで、さっさと勇者に戻れ。そして、とっとと僕でも魔王でも殺しに行けばいい。まぁ、殺されるつもりもないし、魔王ももう死んでいるけどね。あぁ、魔王の娘がいるかー……あれはもう別格だよね。出来れば勇者に殺して貰いたいんだけど、無理かなぁ……望みは薄いかもしれない。


「……俺は―――」


 そもそも、この世界に来てから面倒事が多過ぎる。コレ何回も言っているけどさ、なんで僕の道はこんなにも危険に満ち満ちてるの? ハードモードを通り越して最早ルナティックとかヘルモードとか言われそうな難易度じゃないかな? 魔王もそうだけど、魔王倒したらそれ以上の娘が出てくる所とか、神の悪意を感じるよね。

 そりゃステラちゃん達も神様殺そうとするよ。僕も1回ぶん殴ってやりたいもん。レイラちゃんがスタートっていうのがまず頭おかしいよね。ただの男子高校生にAランク魔族当てるか普通? そんなことしなくてもさ、帰り方さえ教えてくれればすぐに帰るって。即排除ってやり方が気にくわないというか、底意地が悪いよね。


 ああ、全く面倒臭い。この勇者関係の事案もそうだけどさ、何がそんなに気にくわないの? 僕ってそんな嫌われ者? なんだか泣きたくなってくるんだけど。


「はぁ……仕方ないかなぁ……」


 思わず溜め息が出た。

 すると、凪君がふらふらと立ち上がってきていた。視線を向ける。何か言っていた様な気もするけれど、考え事していたから聞いていなかった。どうしよう、何か重要なこと言ってたら僕ちょっとカッコ悪い人になるぞ……とりあえず知ったかぶろう。


「きつね先輩……行きますよ」


 凪君がそう言って落とした剣を拾い上げ、構えた。え、何この展開。どういうこと? 確かに僕は棒で叩き続けただけだから、多少休めば耐性値の働きで動ける位には回復するだろうけど……ソレでなんで僕と戦うことになってるの? ちょっと意味分かんないんだけど。


 でも、そんなことはもうどうでもいいとばかりに凪君がスキルを発動した。


 そのスキルは当然―――『希望の光』


 僕が発動していた『不気味体質』も含めて、僕のスキルが固有スキルを除いて全て無効化された。発動も出来ない。うーん、まぁ昔と違って困りはしないけれど……どうしてこうなるんだろうか。


「俺は、貴方を倒して勇者を続けます……やっぱり俺は勇者として、皆に笑顔になってほしいから……その為には、貴方を超えないとならない―――ソレが今の俺との、決別だから」


 んーと、まぁそういうことなんだろう。どうしようかな、考え事してたから肝心な所聞き逃してる。状況に付いていけてない……とりあえず、僕が彼に負ければことは全部上手くいくってこと? 上手くいくって言っても、上手いことわざと負けないといけないんだけどさ。

 後ろで待機している神奈ちゃん達に視線を向けて、軽くアイコンタクト。頑張れとの応援を頂いた。どう頑張れというんだこの野郎。


「あーもう……分かった分かった、相手になるよ。精々勇者らしく格好良く乗り越えてってちょうだい」


 黒い棒をくるりと回し、凪君の剣先に合わせて構える。姿勢はほぼ自然体、その方が僕にとってやりやすい。隙だらけと言われそうだけど、僕の武器はほぼ全ての射程で刃を振るうことが出来る。棒自体が強固な耐久力を持っているから、前に構えるだけで確実に盾にする事も出来る。

 自然体でも、『先見の魔眼』があればいくらでも対応する事が出来るから、僕にとってはこの構え方が最もしっくりくるんだよね。


 さて、それじゃあさっさと終わらせるとしよう。此処まで来ればもう彼は勇者として立ち直ったも同然だろう。適当に負けて、復帰して貰うとしよう。


「さ、掛かって来い」


 僕は薄ら笑いのまま、そう言った。



 ◇ ◇ ◇



 どんな勇者になりたい――だなんて、そんなの考えたことが無かった。勇者なんて、人を救える力があって、勇気のある者のことをそう呼ぶのだと思っていた。だから、どんな勇者なんて言われても……俺には全く想像も付かない。


 例えば、きつね先輩が勇者だったら、この人はどんな勇者だっただろう……多分、どんなに卑怯卑劣なやり方であっても、勇者としての責務や役目を手っ取り早くこなす為の最短ルートを進む為に、あらゆる手を使うだろう。卑怯な手も、王道な手も、正義感溢れる手段でも、悪意に塗れた手段でも、なんでもやるだろう。

 およそ勇者とは呼べないと思う。けれど、それでもきつね先輩は最終的に結果を出す。それも、誰も死なない、傷付かない様な、完全なハッピーエンドを、誰にも思い付かない様なやり方で、誰にも出来ない力を振るうことで成し遂げる。

 そして、それに気づかせない……誰もがきつね先輩を勇者と認めないだろう。それは、きつね先輩の本意で、そうなることをきつね先輩が望んだから起こる現象。


 だから彼はきっと、『卑怯卑劣な勇者失格』と呼ばれた勇者となる。そんな気がする。


 ならば、俺はどうなんだろうか。

 俺はどんな勇者になりたい? 今更、きつね先輩にあんな酷い事をしておいて、誰も救えずにいる奴が、どんな勇者になりたいんだ? いやどんな勇者になれるっていうんだ……?


「……俺は、罪深い人間だ……だから――」


 罪深い人間、罪を背負うべき人間、だから俺は勇者というよりは、きつね先輩の言う様に勇者失格という呼称でも全く否定出来ない。


 でも、それでも、それなら、ならばいっそ……そうだな。


 『そういう』勇者になろう。


「―――俺は、罪深き勇者となろう」


 罪を背負い、罪を受け止め、罪と共に勇者となろう。そんな勇者として、俺は人々を救おう。

 そしてその為には……この男を超えなければならない。きつね先輩との因縁と運命、そして彼と俺の間にある罪の鎖を断ち切って―――勇者になろう。


 史上初、罪人の勇者……芹沢凪は、此処から始まる。


「きつね先輩……1つ、頼んでも良いですか…………俺と、決闘して下さい」


 俺はそう言って、きつね先輩に頼んだ。フラフラと立ち上がり、俺は剣を手に取る。


「はぁ……仕方ないかなぁ……」


 きつね先輩が溜め息と共にそう言ってくれた。ありがたい……本当にこの人には、頭が上がらない。もしも魔王を倒し、きつね先輩と俺が、元の世界に帰れたのなら……その時は一生を賭けてでも会いに行こう。そして、改めて謝罪とお礼を言うのだ。

 この世界では、俺は罪深くも勇者として生きるから――全ての戦いが終わったその後に、きつね先輩の助けとなるよう、俺の命で手助けをしよう。


 その為にはまぁ、その彼を超えなければならないんだけどな。


 きつね先輩は強い。スキルを封じた所で、今の彼はきっと俺を圧倒する位強いんだろう。けれど、幸いなことに俺は無我夢中の狂気の中で、能力値をなんとか拮抗するほどに引き上げることに成功している。地力の差なら、まだ負けていない。


 勝負は……この剣と、俺の全身全霊で決めて見せる。


「さ、掛かって来い」


 きつね先輩が笑う。相変わらずの薄ら笑い。

 そう、それでこそきつね先輩だ。俺の被害者にして、俺の恩人……もう二度と頭が上がらない人だけれど、今この時だけは……貴方と戦う者として、貴方を超える者として、戦います。


「行きます……!」


 奇しくも、最初に出会ったあの日と同じ1対1の決闘。不思議な運命を感じながら、俺は地面を蹴った。


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