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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十三章 魔王の消えた世界で勇者は
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失っても残る何か

 ルークスハイド王国へと戻る為、カイルアネラ王国を出た。

 ちなみに、クロエちゃん達姉妹にはしっかり別れを告げてある。次会った時にはまた演奏を聞かせてくれるとの事。呪いが解ける様に祈っていると言うと、少し微妙な顔をしていたけどね。


 で、現在僕達は、とりあえず状況を把握するために会話をしていた。

 ドランさんを失ったことで、僕達の中で馬車を扱える人がいなくなったから少し困ったのだけど、流石は初代勇者、その辺のスキルもちゃんと持ち合わせているらしい。ということで、任せました。

 荷馬車の中で、少し離れた位置にそれぞれ座っている僕達。まぁ、リーシェちゃんとフィニアちゃんは僕のそばにいるのだけど、レイラちゃんはむすっとしながら隅の方で首輪を弄っているし、ルルちゃんに関しては持っていた剣、『白雪』を少し離れた所に置いて、居心地悪そうにしていた。

 武器を持つのはやはり怖いらしい。出会ったばかりのルルちゃんも、ナイフをあげたのにどうしていいか困惑していたし、殺生もあまり乗り気じゃなかったから、当然か。


 一応僕は、記憶を失ったことでステータスに何か変化は出たのかと思い、全員のステータスを覗いてみた。すると、ステータス自体はなんら変動していないのが分かった。

 でも、固有スキルに関しては違った。別に消えてしまったというわけではない。寧ろ、此処におかしいと感じる変化が出ている。後天的な固有スキルは想いによる覚醒が主、その想いも記憶と共に消えてしまったと言うのなら、当然そのスキルも消える筈。


 しかし、彼女達の固有スキルは消えていなかった。表記はこうだ。


 ◇


 【固有スキル】

 『星火燎原/使用不可』


 ◇


 消えたわけではなく、使用不可。恐らく、彼女達がその想いによって覚醒させたスキルは消えずに残っているけれど、その想いを消されてしまった以上、スキルは発動に応えてはくれないということだと思う。

 でも、おかしいよね。想いが消えたのなら固有スキルは消える筈だ。なのに、消えていない。それはつまり……レイラちゃん達の記憶は消されたのではないのかもしれない。そもそも、肉体に何も干渉していないのに記憶を消すことが出来る筈がない。


 だからおそらく、レイラちゃん達の中に記憶自体は存在していると思う。


 『僕と出会わなかった』、という事実を、強引に現実にしてしまう強力な催眠の力。それがマリアさんの神葬武装の力……じゃないかな、と予想する。

 催眠なら解いてやれば良い、と思うけれど、腐っても神葬武装による力だ。多分この催眠は生半可な手段じゃ解く事は出来ない。強力な記憶の封印と、『出会わなかった』という事実の刷り込み……今までになく厄介だ。しかも、どうやって発動したのかも分からない以上、対抗策も練れない。

 そもそも、神葬武装って形が全く定まっていないよね。


 槍の形をした、防御無効の『稲妻』―――『神葬ノ雷(ブリューナク)


 眼には見えず、防御不可の『斬撃』―――『断罪の必斬(フェイルノート)


 そして、『聖母』の持つ出会いを失くしてしまう神葬武装。


 普通の武器とは違う武装の数々……しかも、その全てが防御を無視してくるとか、理不尽過ぎる。いやまぁステラちゃんはまだ良かったよ。だって武器がちゃんと見えるし、それなりに見た目で予想も付いたし、対策も立てようがあったもん。メアリーちゃんから頭おかしいでしょ、この武器達。

 そんなんあるんだったら魔王倒しに行けばよかったじゃん、お前らで。


「ねぇ、これ何処に向かってるの?」

「ん? ああ……ルークスハイド王国に向かってるんだよ」

「ふーん……ねぇ、私お腹空いたんだけど」

「我慢して」

「……」


 レイラちゃんが凄く不満気に唇を尖らせた。荷台の後方は壁に覆われている訳ではなく、過ぎ去っていく外の光景が見えるようになっている。

 不満気に唇を尖らせたレイラちゃんは、ゆっくりとその荷台の後方へ移動し、外を眺めながら頬杖を付いた。うん、可愛いっちゃ可愛いけど、生意気さとやさぐれ感が増したなレイラちゃん。まぁ僕の味を知る前の、何でもいいから食べたい雑食レイラちゃんだから、僕への執着心も薄く、昼間でも結構余裕があるんだろう。


 どうだろうなぁ……正直このままでも良い気がしてきた。まぁ、これは僕の都合だから元に戻すけどさ。といってもさー、マリアさん達が何処に居るのかも分からないし、ぶっちゃけ直す為のアテも無いんだよなぁ。

 まぁ、当面の目的から少しづつこなして行くとしますか。まずは神奈ちゃんを凪君に押し付ける所からだね。


 ぶっちゃけあの実力を見ると、手放し難くはある戦力だけど……正直戦力以上に厄介事を引き寄せそうだから止めておく。


「ねぇきつねさん、きつねさんは何をしようとしてるの?」

「ん? うん、元の世界に帰ろうと思ってるよ」

「そっか! 頑張ろうね!」

「そうだねー、まぁぶっちゃけ働きたくはないけどね」

「疲れるもんねー」


 なん……だと……フィニアちゃんが悪態を吐かない。なんてことだ、これは早急に元に戻さねばいけないな。こんなのってないよ、フィニアちゃんが悪態を吐かないなんて、そんなのワンと鳴く猫みたいなものだ! 猫はニャーと鳴くから可愛いんじゃないか、何をふざけた違和感を作り出してくれてるんだマリアさんは!


 次襲ってきたら容赦なくぶっ殺そう。天使だろうが聖母だろうが纏めて掛かって来いよ。あ、やっぱ無理、来るなら1人ずつで。


「ん? ……うん、見なかったことにしよう」


 ふと荷馬車の外を見たら、過ぎ去っていく光景に切り裂かれた魔獣の死体が入ってきた。何の音も聞こえていなかったから気にもしなかったけど……どうやら御者をやりながら正面から来る魔獣を全部1人で斬り伏せていたらしい。神奈ちゃん……改めて凄いな。


「ねぇ、あの転がっている魔獣は食べても良いよね?」

「え? ああうん、良いよ」

「取って来てよ、私貴方から離れられないんだし」

「……はぁ」


 生意気な。とりあえず瘴気で外に転がって流れていく魔獣の死体を掴み、持ってくる。レイラちゃんの前にドスッと置いてやった。

 すると、レイラちゃんは僕の出した瘴気に驚いて眼を丸くしていた。そして、目の前に置かれた餌に眼もくれず、僕に詰め寄ってきた。


「どういうこと? なんで貴方がソレを使えるの?」

「元々は君から貰った力なんだけどね」

「私から……? 私のこと、知ってるの?」

「『赤い夜』、とーっても怖いAランク魔族ちゃんでしょ? レイラちゃん」


 僕の言葉に、更に眼を丸くするレイラちゃん。これは面白い、僕はレイラちゃんの色々なことを知っているけれど、レイラちゃんは僕のことを何も知らないんだもんね……これはなんというか、凄いやりやすいな。


『きつねちゃん意地悪だねー』


 喧しいぞ幽霊。


「……ソレを知ってて、なんで私を奴隷にしたの?」

「僕には君が必要だからだよ。それに、君が僕に大人しく付いて来てくれるというのなら、その首輪だって今すぐに外してあげられる。君は知らないかもしれないけれど、僕には君に対してそれだけの信頼がある」

「……そう、じゃあ大人しく付いて行くから、この首輪を外して? 信頼してくれるんでしょ?」

「その通り」


 僕はレイラちゃんの首輪を何のためらいも無く外してあげた。そして、『魔法袋(マジックポーチ)』の中に仕舞う。ソレを見ていたレイラちゃんはまたきょとんとしていたけれど、すぐにむすっとした表情になる。なんだか自分の思っていた反応と違って不満なのだろう。


「つまんないなぁ……私が逃げちゃっても良いの?」

「君がそうしたいなら、僕は無理に止めようとはしないよ……ただ、行って欲しくはないかな」

「……ヘンなの」


 レイラちゃんは面白くなさそうに頬を膨らませて、逃げる訳ではなく、置いた魔獣の死体の前に座って、ぐちゃぐちゃとソレを食べ始めた。ルルちゃんに見せない様に、僕はルルちゃんの周囲に瘴気で壁を作った。一応僕の姿が見える様に隙間は開けてあるから、不安にはならない筈だ。

 ついでとばかりに、僕はルルちゃんの方へと視線を向け、出来るだけ優しく話し掛ける。


「ルルちゃん」

「!」

「まぁ信じられないだろうけど……怖がらなくて大丈夫だよ。僕は君の味方だから」


 そう言うと、ルルちゃんは少しだけ考えた後、僕の方へ視線を向けた。そして、たどたどしく口を開く。


「……貴方は、私のごしゅ……ご主人様、なんです、か?」


 出て来たのは、そんな疑問だった。まぁ、あの首輪を取れるのは付けた人だけだし、ソレを取った僕のことをご主人様だと思うのは当然のことかもしれないね。

 でも、それは違うね。僕はルルちゃんのご主人様じゃない……僕は、君を買った時から君を奴隷だなんて思ったことは1回もない。


「違うよ、君を買ったのは僕だけど……君は僕の奴隷じゃない、君は僕の家族だよ」

「……?」

「……まぁ、分からなくても良いよ。いつか、きっと分かるから」


 ルルちゃんに、心配しなくても良いよと笑みを向けた。少しだけ寂しいけれど、きっと記憶は取り戻す。そうすれば、きっとルルちゃんもレイラちゃんもフィニアちゃんも、元に戻る。また、馬鹿みたいに引っ付いてくるレイラちゃんが、悪態を付いてくるフィニアちゃんが、静かに可愛い笑みを浮かべるルルちゃんが、戻って来る。


 僕はもう何も奪わせない、そう決めたんだから。



 ◇ ◇ ◇



 良く分からない。

 気が付けば、私はきつねとかいう男の子に奴隷にされていた。魔族であることを隠して、人間の世界に溶け込んで、好き勝手に食べ散らかしていたのに、なんでこの子には正体がバレていたんだろう? それに、何故かこの子は私のことを信頼していると言う。

 普通、魔族だったら人間は嫌悪すると思うんだけど……それに、この子は折角私に付けた首輪をあっさり外した。私に対する安全策でもあったはずなんだけど……私はそんなに脅威じゃないってこと? 分からない。


 逃げても良いけど、行って欲しくはない……か。ますます意味が分からない。まぁさっき私の動きを簡単に止めたから、正直脅威ではないんだろうけれど……どうしてこの子は私にこれほどの信頼を寄せてくれているのだろう?


「……」


 魔獣の肉を食べ終えて、口元を拭う。普段は食べると満たされる感覚があるのに、今は全然満たされない……何故か物足りない感覚。魔獣もそこそこ美味しかった筈なのに、なんでだろう? 全然美味しくない。寧ろ、凄く質素に感じる……美味しくないわけじゃないけど、舌が満足しない、食指も動かない。全然満足出来ない。

 あのきつねって子からは良い匂いがする。凄く、美味しそうな匂い。正直、食べてみたいのは山々なんだけど……何故か食べようとすると身体が動かない。まるで、身体があの子を食べるのを拒否しているみたいに……なんでだろう?


「ん? どうかしたの? レイラちゃん」

「……別に」


 私の視線に気が付いたあの子に、私はそっけなく返す。分からないし、面白くない。私のことを良く知っている様な目と、余裕綽々な態度が私のプライドなのか、そんな感じのを刺激する。なんとなく、苛々してる……のかな?

 変な男の子……なんでか私と同じ黒い瘴気を出せる。なんでか私の事を知っている。なんでか私を信頼してくれている。なんでか……とても悲しげな笑顔をしている。


 そして、一番分からないのは―――なんでか私は、彼の笑顔に悲しみを見つけることが出来た。


 分からないなぁ……本当に、面白くない。


「……きつねくん……」


 なんとなく呟いた彼の名前は、不思議と胸にすっと入ってきた。


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