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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十三章 魔王の消えた世界で勇者は
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出会いの消去

寝落ちしました(汗)

「といっても、あの場で出来たのは消すことだけですけれど……まぁアレ以上やっていれば反感を買っていたでしょうし、最優先はその子を回収することでしたから、良しとしましょう」


 森の中、少しだけ苦笑気味にマリアはそう言った。ステラはなんとなく、彼女の力を苦手に思っている。何故なら、出会いを消す力にはまだ先があるからだ。恐ろしくも、確かに争いを消してしまう先が。


「さぁ、戻りましょう。主も帰りを待ち望んでいますよ」

「……はい」


 森を抜けた先に聳え立つ大きな建物の前に辿り着いた時、マリアはそう言ってステラににこりと微笑んだ。その表情は、まさしく慈愛を感じさせる聖母の様だった。



 ◇ ◇ ◇



 さて、どうしたものかな。


「……んー」


 結局、レイラちゃんをノエルちゃんの力で『金縛り』にして動けなくしたのだけど、全く状況が掴めない。遠くで観戦していたリーシェちゃんと、勇者である神奈ちゃんに関しては特に問題はない様なのだけど、問題はレイラちゃんと、フィニアちゃんとルルちゃんだ。

 彼女達は一切僕達のことを覚えていなかった。僕達、というのは、僕を含めこのパーティのことだ。これは記憶を消されているのか、それともまた別の事象なのか……どっちだ?


 とりあえず、3人に話を聞いてみることにする。


「えーと、フィニアちゃん」

「……? あ、私のこと?」

「あ、うんそうそう」


 そう言えばフィニアちゃん名前を付けたのは僕だった。なら僕のことを忘れた場合、自分の名前も忘れちゃうことになるのか。

 フィニアちゃんはきょとんと首を傾げながらも、フィニア、という自分の名前を何度も呟いている。そしてしばらくそうしていると、なんだか納得いった様に大きく頷いた。


「うん! その名前気に入った! 私はフィニアちゃんだよ!」

「あ、うん……てことで聞きたいのだけど、君は僕のことを覚えてはいないんだよね?」

「うん! でも思想種(わたし)の媒体を持っているってことは、貴方がそうなんだよね……うん! だから私は貴方に付いて行くよ! 貴方の名前を教えてほしいな!」


 うーん、デジャヴ……これはフィニアちゃんとの出会いのやり直しって感じだなぁ。ただ、フィニアちゃんに関しては僕との出会いから人生が始まってるし、想いに関しては消されていないみたいだ。

 多分、自分が何者であり、どんな気持ちから生まれたのかは分かっている筈だ。それに、僕と出会う以前の記憶……僕が地球でお面を持ち歩いていた時の記憶はきっとある。だから僕に対して警戒心を抱いてはいないし、最初に出会った時と同じように付いて行くと言ってくれている。


 となると、これは3人の中で僕と出会わなかったことになっているのかな? 僕の記憶だけが消されているのなら、何もリーシェちゃん達の記憶まで消えることはない筈だ。これは明らかに僕に関する記憶が消えている。フィニアちゃんの中で、生まれた時まで記憶が遡っている以上、そうとしか言えない。

 取り敢えず確認するべきことはしておこう。


「じゃあフィニアちゃん、君はどうしてこの場所にいるのか、どう把握してる?」

「え? んーと……今ここで生まれたんじゃないの?」

「……そっか。うん、その通りだよ」


 フィニアちゃんはこの場で生まれたと思っている。彼女の人生は僕との出会いから始まり、全てが僕に関する記憶だったから、そう思わざるを得ないってことか?

 ともかく、この疑問を確証に変える。


「えーと、ルルちゃん」

「! ……な、なんです……か?」


 ルルちゃんの様子が、いつもと違っておどおどしている。これは彼女を買った時の態度と同じだ……逆らったら叩かれ、食事は与えられず、夜は―――まぁいいとして、そんな奴隷根性の染み付いていた頃のルルちゃんだ。自分の服が綺麗になっていることや、武器が腰に下がっていること、海に居ること、何もかもが分からず困惑しているといった様子だね。


 でも、やっぱり僕の事は分からないみたいだ。


「君は、どうして此処に居るのか……分かるかい?」


 出来る限り、優しく問いかけた。

 すると、挙動不審に視線をうろうろさせながら、両手の指を絡ませたり離したりと忙しない様子だったけれど、怯えた様な震える声で答えてくれた。


「わ、私、は……ご主人様に買われ、て……此処に連れて来られて……あれ……? でも、違う……ご主人様に……捨てられ……?」


 その返答に眉を潜める。ルルちゃんの中では、誰かに買われた事までは分かっているらしい。まぁ、首輪もしているし、外に居るって事実は、イコール誰かに買われたってことになるんだろうけれど、僕に関する記憶が消えたってことは、その誰かが分からなくなっているということだ。

 ルルちゃんの中では、誰かに買われたけれど、その誰かが分からず、此処に居るのは何故なのかも分からないという感じか。やるにしても記憶の改竄雑だなオイ。


 となると、レイラちゃんは僕と出会ってからの変化が全てなかったことになるのか。僕に対する好意も無くなり、初めて出会った頃のレイラちゃんに戻った……うわ、面倒くさ。それってつまり『赤い夜』モードってことじゃん。またあの発情ヤンデレ魔族を相手にしないといけないの? ようやくここまで落ちつかせたのに。


「はぁ……」

「ぁ……ご、ごめんなさい……」

「あ、ごめんごめん、そういう溜め息じゃないよ。ルルちゃんは悪くない、答えてくれてありがとう」


 溜め息を吐いたらルルちゃんが怯えた。何か困らせたと思わせたんだろう、これは僕の失敗。


 さてさて……どうしたものかなぁ。全員僕との出会いをやりなおしている様な感じになっている。これは直るものなのだろうか? というか、何をされたのか分からないから戻しようも無いし、そもそも人の精神にまで干渉出来ないんだよねー『初心渡り』も。


『きつねちゃん、これってどうなってるの?』


 とりあえず、皆僕に関する記憶ぱーん……分かった?


『うわー面倒臭いのやられたねー、ふひひっ♪』


 ノエルちゃんに状況を教えて、なんとかこれからの事を考えてみる。


 おそらく、ルルちゃんとフィニアちゃんに関しては付いて来て貰えるだろう。フィニアちゃんに関しては僕のことをしっかり認識はしてくれているようだし、ルルちゃんも主人が誰なのか分からない以上、僕に付いてくるしか出来る事はないだろうしね。

 問題はレイラちゃん。この子に関しては僕に付いてくる理由がない。いやまぁ僕の事が食べたいって思っているのなら、当時のしつこい以上に鬱陶しいストーキングを続けてくるだろうけど、正直勘弁してほしいんだよね……どうしたものかな。


「言葉が通用するなら良いんだけど……全く、面倒な」


 でも、この辺りでレイラちゃんを一緒に連れていかないって判断しない所を見ると、彼女の存在の大きさが分かる。いつの間にやら、彼女も大きく成長したものだ。


「レイラちゃん」

「ぐぐぐ…………!」


 金縛り状態から逃れようと、必死にもがいているレイラちゃん。だけどその身体はピクリとも動かない。まぁ、Sランク魔族といっても心はAランク魔族に戻っちゃってるんだし、当然の結果と言えば当然か。

 この子を付いて来させるためには、この我儘魔族に対する強制力が必要だ。となれば、まぁ方法は1つしかないよね。


「はいちょっと失礼しますねー」

「……ぇ……?」

「はい、装着~」

「ッ!?」


 ルルちゃんから『隷属の首輪』を外し、レイラちゃんに付け替える。ルルちゃんに関しては付けなくても無害な事は分かっているし、寧ろ使えるならレイラちゃんに使った方がまだ有効的だよね。

 まぁ、今は記憶の関係でそうじゃないけれど、元々この首輪はルルちゃんの宝物だったし、大切に扱わないとね。とりあえず瘴気でコーティングして壊せない様にしておく。


「はいレイラちゃん、命令だよ。『君はこれから僕に付いてくること』、『無暗矢鱈と人を食べないこと』『人食衝動を我慢出来なくなったら正直に言うこと』、ちゃんと守ってね」


 これで良し、と。ステータスを見ても、ちゃんとレイラちゃんに『奴隷』の称号が付いている。これで当面は大丈夫だろう。マリアさんを探し出して、この子達を元に戻さないといけなくなったけど。

 それに記憶が戻った時、レイラちゃんが人を食べまくっていたとかになったら、大分ショック受けるだろうし、これくらい縛っておかないと不安だ。


 ノエルちゃんに拘束を解いて貰うと、レイラちゃんは凄く不満そうな表情を浮かべた。


「……つまんない」

「まぁ、しばらくしたら取ってあげるよ」

「髪も白くなってるし、可愛いけど服も変わってるし、知らない人になんか奴隷にされるし……なんなの……はぁ……」


 物憂げに溜め息を吐くレイラちゃん。

 何このレイラちゃん、凄い違和感。口調に♪とか付いてないし、発情してないし、なんか落ちついている……もしかして、Cランク冒険者だった頃のレイラちゃんってこんな感じだったの? え、じゃああんなに発情するようになったのって僕がトリガー? うわー、軽くショックなんだけど。まぁ夜になったら関係なく発情するだろうけどさ……さっきのは僕が近くにいたからだろうし。


「とりあえず、レイラちゃんにフィニアちゃんにルルちゃん、僕のことはきつねって呼んでね! よろしく!」

「うん、よろしくね! きつねさん!」

「あ…………はい……」

「はいはい、付いて行くよ。命令だもんね……はぁ」


 僕の言葉に、皆は付いて来てくれることになった。


 とりあえず、ルークスハイド王国に行こう。リーシェちゃんと神奈ちゃんは無事の様だし、この事象を起こした力、まず間違いなく神葬武装だけど……それには多分射程範囲がある。眼に見えるタイプかどうかは分からないけれど、確定してるのは悟られることなく発動出来る武装だってことだ。

 メアリーちゃん同様、神葬武装って武器は面倒臭いなぁ本当。というか、あの武器はどうやって作ってるんだろう? 正直、あんな武器を幾つも作り出せるとは思えない。メアリーちゃんが序列第6位って言う位だし、ステラちゃんやマリアさんを除いても、あと3人はいるわけでしょ? その全員が神葬武装持ちってなると、その武器の出所が分からない。


 予想として、そんなことが出来るとすれば―――


「異世界人、かなぁ……」

『ん?』

「いや、なんでもないよ」


 ノエルちゃんの疑問顔に僕は頭を振る。

 僕と同じ様な存在が居てもおかしくはない。勇者としてこの世界に来たのではなく、ただ訳も分からずこの世界に来てしまった異世界人……そんなモノがいるとするのならば、あの神葬武装は、異世界人が創った代物である可能性が高い。


 そして、あの使徒達の上に立っているのがもしも異世界人だとするのなら―――


「その時は……迷惑料は頂かないとね」


 僕は薄ら笑いを浮かべながら、ぼそりと呟いた。



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