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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十二章 人類の敵を名乗る

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閑話 桔音はまた面倒に目を付けられる

「……ん~……むっかつっくなぁ~」

 時間は少し戻り、暗黒大陸。
 魔王城の跡地と言えるその場所で、魔王の娘屍音はそう言った。つい先程、強行突破よろしく去って行った桔音達のことを思い浮かべ、唇を尖らせている。不満ありありといった様子で、如何にも私は不機嫌ですと言っている様な表情だ。彼女は感情の起伏が激しく、表情に出やすい性格をしている故に、こういった喜怒哀楽の感情が分かりやすい。
 桔音が時を止め、『武神(ミョルニル)』によって斬り飛ばしたSランク魔族達は未だ生存していた。ダメージこそ大きかったが、それぞれがそれぞれのやり方でなんとか回復したのだ。
 そして、回復した彼らは立ち尽くしている屍音の傍へと歩み寄ってくる。

「……逃げられましたか」
「ん? んーと……ゴルト、だっけ? おとーさんの腹心って聞いてるけど」
「はい、魔王様の側近として傍に置いて貰っていました」

 魔王の腹心、ゴルトが膝を付いて屍音の前に傅く。その姿は、まさしく忠誠を誓った騎士のようで、構図からすれば、そんな騎士の主である存在は、無論屍音である。
 魔王に忠誠を誓っていた彼ではあるが、魔王が死んだ今、彼の主はその娘である屍音へと移り変わる。主の鞍替えと言えば聞こえは悪いが、別に不思議なことでもなんでもない。魔王の死は、つまり新たな魔王の誕生でもある。今回は偶々、それが屍音だっただけの話だ。

 だがしかし、屍音は魔王の娘であって魔王ではない。彼女は魔王になるつもりもなければ、魔族達の上に立つ存在として君臨するつもりもない。王はどこぞの誰かがやればいいし、折角外に出たのだから、自由に過ごしてみたい。

 故に、彼女が取った行動はなんらおかしな事ではなかっただろう。

「な……に、を……ッ……!?」
「うーん、おとーさんの腹心ってことはおとーさんのモノってことでしょ? 私、お下がりって嫌いなんだー。ほら、遺品は処分しないと。おとーさんも1人じゃ寂しいもんね!」

 屍音は、魔力剣にてゴルトを両断していた。彼女には自分に忠誠を誓う存在など必要ないし、お下がりの中古品なんて余計いらない。彼女が欲しいのは自分だけの玩具だ。自分にとって都合の良い存在であり、自分にとって利益になる存在であり、自分の思い通りに動いてくれる玩具だけ。
 ちょっとでも気に食わない要素があるならば、それは彼女にとって必要の無い物だ。

 どちゃ、と果実が潰れた様な音と共に、ゴルトが赤い血溜まりの中に沈んだ。

「あら……シカバネ様、相変わらずお転婆ね」
「フレーネ……フレーネは私のモノだよ? 妙なことしない限り殺したりしないから安心してね!」
「……そうね」

 ゴルトの死体などもう気にも留めていないらしく、屍音はフレーネに対してニコリと笑った。とても可愛らしく、純粋な笑顔であったが、フレーネにはそんな屍音の笑顔が少しだけ恐ろしくも思える。
 妙なことをしなければ殺しはしない、と言っているものの……裏を返せば妙なことをすれば殺すと言っているのと同じ。逆らえば殺されるし、思い通りに動いてくれないなら殺す。そういうことだ。彼女にとって共に居るべき存在は、自分の言葉を全肯定してくれる存在だけなのだから。

 すると、そこへその一部始終を見ていた嫌味な笑みを浮かべた魔族の男と、ルル愛好家の変態魔族の女が近寄って来た。吸血鬼の男は、少し離れた場所で何か考えていた。

「シカバネ様、でいいのかな? 僕の名はヤール・エドモンドです」

 嫌味な笑みを浮かべた魔族の男、ヤールは屍音に話し掛ける。取って付けた様な敬語が、彼に屍音に対する敬意がないことを示していた。
 彼にとって、屍音の父親である魔王には、強さという要素を除いても、尊敬し、従うだけの魅力と旨味があった。魔王は彼を利用していたし、彼も魔王を利用していた。お互いそれを理解していた上で協力関係を結んでいたし、その上でそれなりの友人関係でもあった。
 しかし、だからこそヤールにとってその魔王を殺した屍音は、上手くやれば利用出来る存在であって、友人でもなければ尊敬出来る存在でもない。従うつもりは、どこにもなかった。

 笑顔で接し、遜っていれば、それだけでちょっとした利益位は得られるだろう。そんな下心満載の態度であった。

「ふーん、それで?」
「貴女は我が友人である魔王の娘……ならば僕は貴女の剣となり、貴女を護る盾となりましょう。これは決してお下がりといったモノではなく、僕自身の意志で貴女の傍にいたいのです」
「へぇ」

 ヤールの言葉に、屍音はにっこりと笑いながら短くそう返す。ヤールの言葉を、屍音は自分にとってとても都合の良い存在であると認識した。彼はおそらく、自分がやってくれと頼めば大抵の事はやってくれるのだろうと思った。

 しかし、そんなヤールの首が、いつの間にか宙を飛んでいた。魔力剣で斬り飛ばされたのだ。

 そして頭を失ったヤールの身体が、ようやく状況に付いて来れたとばかりにビクビクと痙攣し、前のめりに倒れた。どちゃっと首から勢いよく噴出した血液が、屍音の足先に付着する。
 すると、眉間に皺を寄せた屍音はその足でヤールの身体を踏み潰した。何度も何度もその足でヤールの身体を潰して行き、彼の身体が地面の染みになるまで踏み潰した。

「こ……の……ガ、キィ……!」

 地面に転がったヤールの頭は、まだ生きていた。屈辱と憎悪に表情を歪めており、屍音を睨みつけている。
 屍音はそんな彼の頭を拾い上げる。無論、彼女とて自分の為に傍に居たいと言ってくれたことに何も感じなかったわけではない。それはそれで都合が良かったし、そういう存在が居てくれるのはとても嬉しい事だ。

 しかし、彼女はヤールの顔を両手で持つと、にっこり笑って言う。

「だってヤールの顔って不細工なんだもん。私の言うこと何でも聞いてくれるって言ってくれてありがとね! でもほら、なんか生理的に受け付けないってゆーか? やっぱりゲロを傍に置いておく女の子っていないと思うの」
「か…………ハ……ッ……」
「なんか近くに来るとヤールって臭いね」

 そんな言葉と共に、ぶちゅ、と屍音の両手がヤールの頭を潰した。ぼたぼたと掌と掌の隙間から頭の中に詰まっていた血や頭の残骸が地面に落ちていき、ヤールは死んだ。
 屍音は両手を振って血や頭の残骸を振り払うと、もうヤールに興味は無いかのように視線を移した。その先に居たのは、ルル愛好家の変態魔族女。少しだけ怯えた様な表情で、屍音を見ていた。遜ってもダメ、かといって逆らっても殺される。そんな八方塞がりな窮地に立たされているのだ、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。

 屍音は、そんな彼女の目の前まで踏み込むと、血に濡れた笑顔を浮かべる。言葉は無く、貴女はどうなの? と聞いているかのようだった。下手な事は言えない、それが彼女の心を追い詰める。

「私は……夢魔(サキュバス)のミーナ・アルヴェルクです」
「そう、ミーナ……ミーナは私のモノになるの?」
「は、はい……貴女が望むのなら」
「ふーん、そっか! それじゃあこれからよろしくね? あ、でもヘンなことしたら殺しちゃうからね?」

 ミーナは屍音の言葉に勢いよく何度も頷いた。吐息が顔に当たるほど近くまで詰め寄られ、殺気と共にそんなことを言われれば頷かずにはいられないだろうが、ともかくそのおかげもあってミーナはなんとか生きていられる様だ。ミーナの頭の中には、ルルの顔が浮かんでいた。

(助けてルル様ぁ……)

 泣きたい気分である。彼女は彼女自身が言った通り、Sランク魔族の夢魔(サキュバス)なのだが、元々この夢魔(サキュバス)という存在は、戦闘能力的に見てもそれほど強い存在ではない。なのにSランクと呼ばれているのは、彼女がそれだけ多くの精を吸ってきたからだ。
 この夢魔(サキュバス)という種族は、眠っている男の精を吸い取って自分の力に還元する。だが、その吸精中の夢魔(サキュバス)は殆ど無防備になり、更に吸精は始まれば終わるまで止める事が出来ない。それ故に対象が夢から覚めてしまえば、簡単に殺されてしまう。本来はCランク下位の弱小魔族だ。

 だが、このミーナは全ての吸精を成功させてきたのだ。何十、何百と男の精を吸い取り続け、その力は最早、対象が目覚めた所で殺されない程の実力となっている。故のSランク。その吸精能力は、成功すれば吸った対象を問答無用で殺す。相手の生命力を全て奪い尽くすのだから、当然だ。

「さて、そこの吸血鬼のおじさんは……どうするのー?」

 すると、屍音は吸血鬼の王……ヴラド・バーンに向かって声を掛けた。

「ふむ……その前に1つ聞かせて貰っても良いか? 魔王の娘よ」
「ん? なにかな?」
「お前はこれから、どうするつもりだ?」

 ヴラドの問いに、屍音はぱちぱちとまばたきをしながらきょとんとした表情を浮かべた。これからどうするか、と問われれば、まぁ好き勝手に生きたいというのが彼女の考えだが……特に何か考えていた訳ではない。故に、その問いに対して、彼女は直ぐに答える事は出来なかった。
 すると、屍音はんーと顎に人差し指を当てながら考え始め、ふと何か思い付いたかのように両手を合わせた。

「あのおにーさんをぶっ殺したいな! なんだっけ、きつね……だったかな?」
「……そうか、ならば私も付いていこう。あの人間に用はないが……我が同族が傍に居るのでな」

 すると、ヴラドの言葉に屍音は満面の笑顔を浮かべる。だが、その笑顔の裏が殺意で満たされているのは、ヴラド達全員が感じ取っていた。明らかに怒っている、それは誰が見ても一目瞭然だっただろう。
 そして、そんな殺意の籠った笑顔で屍音は言う。

「そっか! うんうん、同族とか興味ないけど、あのおにーさんむかつくもんね! 私に向かってどうでもいいとか言いやがって、ぶっ殺さねーと気が済まねー」
「シカバネ様……口調が乱れてるわ」
「おっと……女の子はお淑やかな方が可愛いもんね」
「そうね……でも、昔よりは直っているわよ」

 怒りで口調が乱暴になる屍音に、フレーネが指摘を入れる。どうやら元々彼女は乱暴な言葉遣いだったらしい。どういう過程があったのかは分からないが、彼女の乱暴な言葉遣いは今の様な感じになったようだ。
 お淑やか、という言葉が似合うような性格をしていないのだが、屍音にとって自分はお淑やかで可愛い女の子らしい。ミーナとヴラドは屍音の言葉に、お前お淑やかじゃねぇだろ、と内心でツッコミを入れていた。だがどうやら、このメンバーの力関係は屍音がトップのようだが、その次はフレーネで決まりの様だ。実力ではなく、この中で最も屍音の舵が取れるからだ。

「よし! それじゃ、人間の大陸へ行こっか!」
「……どうやって?」
「……え?」

 屍音の言葉に、フレーネが当然の疑問を投げかけるが、船など何処にもない。ヴラドは飛べるが、二週間も飛び続けるなど体力的に無理だ。屍音も魔王同様転移を使えるものの、人間の大陸など行ったことも無いので、転移先の指定が曖昧だ。正直、遠見の水鏡も城と共に消えてしまった今、彼女達に人間の大陸へ行く手段はなかった。

「……船でも作るか?」
「めんどくさー」

 ヴラドの言葉に屍音は唇を尖らせたが、最早それしか手段は無かったので、駄々を捏ねたりはしなかったのだった。

 前途多難である。
屍音パーティ、桔音狩りに動き出す。
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