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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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時間停止

「あははっ、やったぁ。じゃあおにーさんが鬼ね!」

「良いよ。じゃあ屍音ちゃんは逃げてね」


 ぴょんぴょんととび跳ねながら喜ぶ屍音ちゃんに、僕はそう言う。

 でも、僕は彼女の遊びに付き合おうと思っていない。ドランさんを回収し、そのままクロエちゃん達を回収した後逃げる。正直僕はこの場を生きて逃げられればそれで良い。逃げられないのは、ドランさんが人質に取られているから―――正直他のSランク魔族は大したことはないんだし……さくっと逃げる。


 鬼ごっこ、とは言ったものの、彼女と遊ぶといっても普通の鬼ごっこの展開になる筈がない。無論、殺し合いだ。僕の『不気味体質』を受けて、彼女も僕に照準を合わせたようだし、レイラちゃん達にはドランさんの回収を任せるとしよう。丁度、都合よくドランさんがフレーネとかいう魔族の女に引き渡された事だしね。


「ぐぁ……ッ……!」

「大人しくしてなさい、貴方みたいな雑魚が足掻いた所で、どうにもならないんだから」

「がっ……ハッ……!」


 ドランさんは必死に拘束から逃れようとしたけれど、フレーネとかいう魔族の女はドランさんの足を払い地面に倒すと、そのままドランさんの背中を力強く踏み付けた。ドランさんの肺から空気が漏れ、身体がミシミシという軋む音と共に一瞬反り返った。

 気絶はしていないようだけれど、ドランさんは踏み付けの直撃に大分重いダメージを受けた様だ。まぁ、死んでいないのなら構わない。『初心渡り』を使えば後からどうとでもなる。


 問題は、僕が屍音ちゃん相手にどこまで時間を稼げるか……だ。


「皆、ドランさんをお願い。回収次第、隙を見て逃げるよ」

「りょーかい♪」


 屍音ちゃん達に聞こえない様に指示を出し、僕は漆黒の薙刀を構える。未だ向こうに僕の手の内は知られていない……手札が残っている内が勝負だ。僕の手札が全て切られた時、僕はきっと一気に敗北まで追い込まれる。


 さて、それじゃ一丁やりますか。


「鬼ごっこのルールは分かってるよね?」

「うん! 鬼を殺せば勝ち、でしょ?」


 ―――その通り。


 瞬間、地面を蹴った僕と屍音ちゃんの薙刀と何かが衝突した。ギャリギャリと音を立て、火花を散らす。見れば、屍音ちゃんの手には魔力で形成された剣が握られていた。改めて凄まじいな……魔力っていうのは基本的に実体を持たない。持っても魔法として形成された炎や雷といった、物体というより現象的な物が大多数だ。

 ソレを剣という個体にする、どれほどの魔力を注ぎ込めばそうなるのか、僕には想像が付かない。魔力剣、僕が全魔力を注ぎ込んでも、数分保つか保たないかといった所だ。あまり考えたくは無いけれど……この子、最悪魔王より、4代目勇者より、魔力量が多いぞ。


「アハハッ!」

「楽しそうだねぇ」


 金属音と共に斬り払い、僕は彼女と距離を取る。

 すると体勢を立て直したその瞬間に、背後から嫌味な笑みを浮かべた魔族の男が僕に魔法を放ってきた。雷の魔法であり、今まで出会った魔法使いの中でフィニアちゃんを除けば、最高質の魔法だった。最小限の魔力で、最大限の魔法を発動させている。しかも、雷という現象を魔法で限界まで再現している。間違いなく、世界でも最高峰の魔法使いだ。

 迫りくる雷の魔法を瘴気で阻み、薙刀を振るって嫌味な笑みの魔導師に漆黒の斬撃を飛ばした。


 けれど、更に僕の下へと吸血鬼と変態、そしてゴルトが向かって来ていた。まさかの、4対1か……厄介な。完全に僕を潰しに掛かってるな。


「でも―――」

「!」

「僕は死ぬわけにはいかないんだよ」


 くるり、『死神の手(デスサイズ)』を横に円を描く様に回しながら、刃を高速で付け替える。嫌味な魔法使い魔族を『病神(ドロシー)』で、変態魔族女を『死神(プルート)』で、吸血鬼は『初神(アルカディア)』、そしてゴルトは『武神(ミョルニル)』――!

 此処からは出し惜しみなし、僕の持ち得る全力と全ての手札をふんだんに使って、生き延びて見せる。


「ぐ……!」

「良く受け止めたね、ゴルト……コレを受け止めたのは君で多分何人目かだと思うよ」


 刃を付け替え、周囲に集まってきたSランク魔族達を攻撃したものの、未だ効果は薄い。まともに直撃させることが出来たのは、嫌味な魔法使い魔族のみ。魔法で漆黒の斬撃を撃ちおとそうとした様だが、僕の瘴気の頑丈さは折り紙付き、防ぐことは出来なかったみたいだね。結果、彼は瘴気の斬撃をまともに喰らった。

 けれど、変態魔族女は大鎌を大きくバックステップする事で躱し、吸血鬼は腕を軽く斬った程度、ゴルトに至っては『武神(ミョルニル)』を背中に背負っていた身の丈以上の大きな剣で受け止めてみせた。


 凄まじいな、流石Sランク。簡単には行かないか。


「おにーさん、私を無視しないで?」

「おいおい、僕は紳士だぞ。少女が居たら無視する訳ないだろう」

「えへへー、じゃあ早く死んでよー」


 ソレは無理。無視しないじゃなくて、出来ないだから。だって無視したら死ぬもん。


 ドランさんはまだ回収出来ないのか……くっ、レイラちゃん達も苦戦しているらしい。あのフレーネとかいう魔族、かなり強いな。もしかしたらゴルトと同じ位強いんじゃないか? 屍音ちゃんとも仲が良い様だし……様付けして呼んでいたし、もしかしたら彼女は魔王よりも屍音ちゃん寄りの立ち位置なのかもしれない。

 ドランさんも面倒な相手と当たったものだね。僕も相当運悪いけれど、ドランさんも随分運悪いよね。


「こんの……! 厄介な……!」


 襲い来る魔力剣、それを瘴気の薙刀で弾きながら僕は動く。動け、動け。


 吸血鬼の爪を躱し、変態が腰に提げていた2本の長剣を柄で受け止め、魔法使い魔族の魔法を瘴気の壁で防ぐ。間髪入れずに迫りくる攻撃の数々に悪戦苦闘しながらも、特に厄介なのはやはり屍音ちゃんとゴルトだ。

 屍音ちゃんは魔力剣と同時に肉弾戦も仕掛けてくる。剣を受け止めたと思いきや、蹴りを繰り出してくるし、かと思えば頭突きまで入れてくる。距離を取ろうにもすぐに詰めてくる俊敏さが厄介だ。

 さらにゴルトは大剣による大威力の攻撃を繰り出してくる。地面に当たれば土煙を巻き上げながらも亀裂を走らせ、更にその大きな剣に似付かわない程の剣速。


 やはり4対1というのは厄介だ。しかも、魔族の身体は耐性値に関係なく基礎自己治癒能力が優れている。攻撃を受けても少々のダメージであれば直ぐに回復してしまう。1人倒すのも難しい。


「アハハハ! つよいつよーい! 流石あのおとーさんと渡り合ってただけあるね!」

「それ、は、どうも!」

「それじゃ――もう少し頑張ってね?」

「―――ッ!?」


 次々と迫りくる攻撃の中、屍音ちゃんが1人僕から距離を取った。すると、魔力剣が燃え上がり、煌々と炎を纏った。剣の芯を残しながら、炎の魔法を纏わせる……なんて、まるで僕の『死神の手(デスサイズ)』みたいじゃないか。剣に炎の魔法を付与する、なんて芸当は、僕には出来ない難易度の技術だけどね。

 不味いな、アレは斬撃に加えて炎の魔法の熱と爆発の性質を持っている。


 威力と攻撃範囲はさっきよりも―――倍はあるだろう。

 

「うっそ……!」

「アハハハハッ!!」

「くッ―――……!」


 猛スピードで再度迫って来る屍音ちゃんが僕へとその炎の剣を振り下ろしてくる。ソレを僕は魔眼で先読みし、瘴気の薙刀で受け流す。


 しかし、漆黒の薙刀と炎の剣が衝突した瞬間、彼女の剣は小規模ではあるけれど殺傷性は抜群の威力で爆発した。至近距離でこれほどの爆発、爆風と衝撃、爆炎による高熱が僕の身体を叩くけれど、流石の耐性値、それを何とか防ぎ切る。

 けれど、身体を押してくる衝撃は消し去れない。軽く重心がブレた結果、体勢が崩れた。Sランクの実力を持った4人を相手に、コレは決定的な隙だ。


 でも、『鬼神(リスク)』によって跳ね上がった身体能力と高速の思考能力は―――この逆境だって捩子伏せる……!!


「は―――ぁぁあああああ!!」


 まだまだこんなものじゃない、僕はこの程度の逆境に屈するほど甘くは無い。死神の名前は、伊達じゃないぞ。


 崩れた体勢を敢えて耐えずに崩し切り、そのままバク転の要領で体勢を立て直す。そして両手を地面に付いた瞬間に、瘴気を展開して、全方位へと瘴気のナイフを射出! 『瘴気操作』が『瘴気支配』となった今だからこそ出来る複数同時操作。

 屍音ちゃん達は迫りくる大量のナイフを躱す為に距離を取り、僕はその間に体勢を立て直した。無論乱雑に放ったナイフ達が当たる筈も無く、全員が僕の放ったナイフを全て対処し切った。炎の剣で焼き尽くした屍音ちゃんの攻撃を見ると、やはりあの剣は僕の耐性値を超えてくるのだろう。直撃は避けなければならない。


『きつねちゃん! あの大きな男の人助けだしたよ!』


 するとそこへノエルちゃんが僕にドランさんを助け出した旨を伝えて来た。視線を向けると、確かにレイラちゃんが抱え上げたドランさんを地面に下ろしているのが見える。フレーネを倒した訳ではないようだけれど、なんとか助けだしたみたいだ。


 後は逃げるだけ―――なんだけど……!


「えいっ!」

「このッ……!」


 思いっきり上段から屍音ちゃんが炎の剣を振り下ろしてくるのを、『武神(ミョルニル)』で対抗する。炎の剣と僕の巨大な刃が衝突し、今度は大爆発と衝撃波が広い空間を埋め尽くした。跳び上がって振り下ろした炎の刃故に、大爆発は衝撃波に押されて空を真っ赤に染め上げ、衝撃波は大爆発を押しきれず地面に広い範囲でクレーターを作りあげる。

 爆発の轟音と光、そして双方の衝撃波は空間に破壊の嵐を作りあげた。


 ――そんな中で、僕と屍音ちゃんはお互いに接近する。嵐の様な破壊の猛威の中で、僕と屍音ちゃんは衝突を繰り返す。炎の剣が巻き起こす炎の斬撃と、瘴気の薙刀による漆黒の斬撃がそこかしこで衝突し、僕と屍音ちゃんの持っている炎の剣と『死神の手(デスサイズ)』が衝突する。

 彼女が負った傷はその魔族としての回復力ですぐさま回復し、僕が負った傷は『初心渡り』ですぐに消えてなくなる。致命傷と成り得ない攻撃では無意味、最早僕と彼女の戦いはますます激化していき、エスカレートした戦いに他のSランク魔族達は介入出来ないでいた。


 片や魔王の如き魔族の少女、片や死神の様な人間の僕。


 ぶつかればこうなるのは始まる前から分かっていた。このまま続けば、どちらかが死ぬしかない。とはいえ、どうやら『初神(アルカディア)』や『原初の鬼神(アヴァロン)』はもう使えないらしい。さっき吸血鬼に使用した時に分かった。『初心渡り』の付与は、大分武器に負荷を掛けるらしい。


 でも、僕には逃げる隙さえあればソレで良い。


 だから―――使うか、僕の真の切り札。


「―――屍音ちゃん」

「アハハッ! なーに? おにーさん!」

「悪いね、遊びはもう終わりだ」


 そう言って、僕はかつて魔王にも使った最終手段を展開する。コレを展開するのは少しばかり負荷が大きいが仕方がない。此処で決定的な、隙を作る!


 くらえ、『初心渡り』における最終手段――


 ―――時間回帰による、『時間停止』!!



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