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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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魔王の真実

 固有スキルが6つ、考えてみれば何故6つも持っているんだろうか?

 思い付く限りで、理由を取って付けてみるとすれば――魔王は倒される度にちゃんと死に、そして何らかの方法で生き返っている。だからその復活が新たな生の始まりということで固有スキルを増やす要因となった。とかかな。でも、これは流石に違う気がする。何らかの方法で復活しているのは確かだろうけれど、それで固有スキルが増えるほど、固有スキルという代物は軽い存在じゃない。

 とはいえ、元々魔王が固有スキルを持っていたというのもあまり考えにくい。100歩譲って、先天的に2つ程度なら固有スキルを持っていてもおかしくは無い。ならば、後天的に後から4つ手に入れたというのはどうだろう? うん、これも多分ない。魔族の寿命がいくら長いからといって、その生の中で4回も自分が生まれ変わる様な体験をするなんてそうそう出来ることじゃない。大抵の人は潰れて、そこで終わりだからね。


 なんにせよ、此処に魔王が復活するシステムの謎が隠されていそうだ。

 今問題なのは、目の前の魔王が6つも固有スキルを持っているということだ。ただでさえアホなステータスを持っているというのに、そこに固有スキルが6つも加わるだって? ハハ、何コレクソゲーじゃん。敗北イベントにしても、やり過ぎだ。


「それほど驚く事でもないだろう。お前とて、私が知り得る限り3つの固有スキルを持っているだろう? 詳しくは知らないが……その魔眼と、レイラ・ヴァーミリオンの瘴気の力、そして……以前私との戦いで見せた正体不明の力……3つ目については未だに正体が掴めないが、間違いなく固有スキル級の力だった」

「いやまぁそりゃそうだけどさ」

「だが、断言しよう。私を倒すのなら、6つの固有スキルを全て攻略しなければならないぞ?」


 6つの固有スキル……1つは分かってる、『武神(ミョルニル)』をも防ぎぎる防御能力。アレが魔法も防ぐのか分からないけれど、多分防ぐだろう。物理のみ完全防御なんて、固有スキルにしてはちゃっちぃし。後はなんだろうか……そういえば前回腕を切り落としたけど、くっついてるな……回復系の固有スキルもあるのかもしれない。ひたすらに厄介だな……つまり、あの防御を超える攻撃で、回復が意味を為さない程のダメージを与えなければならない訳だ。でもなぁ、即死系の攻撃なんて僕持っていないしなぁ。

 此処は、まだ様子見かな。魔王の手札が全く読めない……残る4つの固有スキルについても考えておかないと。どうしたものかな。


『きつねちゃん、手伝う?』

「うーん……ノエルちゃん、現状を打破出来るの?」


 すると、ノエルちゃんが僕に話し掛けてきた。幽霊である彼女が上手く立ち回れば、魔王にも何かしらのダメージを与えられるのかもしれない。とはいっても、ノエルちゃんには固有スキルだけしか手札がない……どうするべきかな。


「作戦会議は終わったか?」

「いや……ん?」

『ん?』


 魔王の言葉が掛かって来て、僕は少し違和感を感じた。作戦会議は終わったか? 魔王には僕しか見えていない筈だ。ノエルちゃんは幽霊なんだから……まさか、見えているのか? 魔王はリッチと違って死霊系の魔族ではない筈だ。なのに、見えているということは―――魔王は幽霊の存在を知っている?


「見えてる…………ってことは知っているの? 幽霊のことを」

「無論、知っているぞ?」


 魔王は、当然の様にそう言った。にやにやと、此方の反応を楽しむ様に笑みを浮かべている。そこはかとなく苛立ちを誘う表情だな。ぶん殴りたい。

 とはいえ、此処で更に疑問が生まれる。何故魔王が幽霊を知っている? この世界で生まれた魔族であることは、魔王本人が断言していた。ならば幽霊の存在を知る機会などある筈がない。死霊系の魔族は、死霊系でありながらも幽霊という存在ではないのだから、そこから幽霊を知ることも出来ない筈だ。それこそ異世界で生まれない以上は、到底説明の出来ない事態だ。


 といっても、魔王は勇者という異世界人に相対してきた。ならそこから幽霊という存在を知ったのかもしれない。何せ魔王は厄介なことに精神干系の魔法が使えるしね。記憶を読み取る位はやってのけるでしょ。ドランさんがその餌食になったんだしね。あの時は精神破壊だったけど。

 でも、勇者達は3代目から殆ど圧勝で魔王を打倒している。それなら幽霊の知識を手に入れたとなれば、初代か2代目の時代の筈……でも、初代はそんなへまをする様な人物ではなさそうだし……やっぱり2代目かな? 田中太郎氏、何してくれてんの。

 とはいえ、彼の固有スキルは戦闘用じゃなかったみたいだし……仕方ないのかな? えーと、確か『傷心否定(キャンセルヘイト)』だっけ、あらゆる傷を心の傷も含めて治癒する事が出来るスキルだね。僕の『初心渡り』と似た様な点があるけれど、精神面にも作用出来る以上回復力においては僕以上だろう。


 ――――て? ()()スキル?


 何かが引っ掛かった。

 僕はかつての勇者達のスキルを思い出す。初代のスキルは詳細不明だけれど、2代目からはその効果が判明している。


 初代『天下無双』

 詳細不明

 2代目『傷心否定(キャンセルヘイト)

 心身のあらゆる傷を治癒する事が出来る固有スキル。

 3代目『獣王(ビーストテイム)

 あらゆる魔獣や動物と契約し仲間にする事が出来る固有スキル。

 4代目『創造知識(クリエイトマテリアル)

 あらゆる物の作り方が分かるスキル。

 5代目『言うこと聞け(モデルアプローチ)』『あっち行け(リフレクター)

 Sランク冒険者をも魅了してしまう強力な魅了のスキル。そして振り掛かる厄災を自動防御、反射する絶対防御のスキル。


 計6つの固有スキル。そう、魔王の言った数と同じ―――6つの固有スキルが存在している。まさか、まさかとは思うがこの魔王……もしかして、勇者の固有スキルを全て吸収している?

 まさか、そんな訳は無い。だって、勇者達は皆魔王を倒して元の世界に帰ったのだから。その固有スキルを、やられた筈の魔王が奪える筈がない。


 でも、僕はその考えが振り払えずにいる。


「フ……流石に気が付いたか?」

「……まさか、とは思うけど」


 目の前で不敵に嗤う魔王を見れば、その異世界人らしき容姿にも説明が付く……そう、つまり、


 ―――魔王は歴代の勇者にやられてなどいなかった、という事実が浮かんでくるのだ。


 魔王は、僕の考えを読んだのか凶悪に笑みを浮かべた。


「お前の思っている通りだ……私は、かつて存在していた勇者達を全員、1人残らず、吸収したのだ」

「その異世界の要素が満載の容姿も、多過ぎる固有スキルも、元は全部勇者のモノってことだね?」

「その通り。実際、この姿は全ての勇者の容姿からバラバラに汲み取って出来上がったモノだ……だから、真に私の姿を見た勇者は初代勇者のみだということだな。奴は強かったぞ、それこそ私が手も足も出なかった程だ……しかし、最後に笑ったのはやはり私だったな。戦いを終えた奴が疲弊していた所を、私は喰らった」


 成程、と思う。

 勇者は全員、元の世界になんか帰っていない。1人残らず、倒したと思っていた魔王にやられたという訳だ……勇者と魔王の戦いは、全ての戦いで魔王が勝利していたのだ。そしてその度に、魔王は勇者の力を手に入れて来た。恐らくは固有スキルだけじゃない、そのステータスも経験も全部まるっと頂いて来たんだろう。

 

 おかしいとは思ってたんだ。


 魔王は復活して間もなく次の勇者に打倒されているというのに、今目の前に居る魔王は明らかに強すぎる。少なからず強くなる時間があったとはいえ、その実力は初代勇者と戦った時代とほぼ変わらない筈なんだ。

 でも、そりゃ強い筈だ。自分に勝った勇者の力を丸ごと手に入れて加算出来るとなれば、大幅に強くなるのも頷ける。ある意味、僕の『初心渡り』を使った成長法並の成長チートだ。

 寧ろ良く此処まで勇者達も魔王を打倒出来たものだよ。相当相性の良い固有スキルに恵まれたね。まぁ『勇者』という称号が、そうさせていたのかもしれないけれど。今回もこれだけの固有スキルに対して、スキル無効化スキルである『希望の光』、なんて固有スキルが目覚めている訳だし。


「ってことは……以前見た能力値は、偽装か」

「ッハハハ! そうだな、今なら私の本当の能力値が見えるだろう?」


 魔王の言葉に、僕はステータスを覗く。


 ◇ステータス◇


 名前:イクスヴァルド・グレシア

 種族:王の魔族 Lv578

 筋力:285628200

 体力:303451400

 耐性:909100:STOP!

 敏捷:235267960

 魔力:920930450700


 【称号】

 『魔王』


 【スキル】

 『剣術Lv9』

 『身体強化Lv8』

 『徒手空拳Lv9』

 『高速機動Lv7』

 『魔力操作Lv8』

 『魔力硬化Lv7』

 『精神干渉魔法Lv8』

 『火焔魔法Lv7』

 『闇黒魔法Lv8』

 『召喚魔法Lv8』

 『魔力回復Lv7』

 『王の威圧』


 【固有スキル】

 『天下無双』

 『傷心否定(キャンセルヘイト)

 『獣王(ビーストテイム)

 『創造知識(クリエイトマテリアル)

 『あっち行け(リフレクター)

 『言うこと聞け(モデルアプローチ)


 ◇


 見辛い……最早数値が異常過ぎてちょっと頭が混乱してくる。えーと、まず筋力、体力が約3億、耐性は90万で、敏捷は2億ちょい、で魔力が……ひぃふぅみぃ……9200億ね―――アホか! この魔力量、どう考えてもアレでしょ? 4代目勇者のステータス顕著に出てるでしょ? おい4代目、君とは上手くやっていけそうだと思ったけど前言撤回だ。お前なんか敵だこの野郎。この魔力馬鹿め、死んでしまえ。あ、もうやられてるんだった。


「こりゃまいった……勝てる気がしないなぁ」

「フハハハハ! まぁ、お前が私を倒した所で……またお前を喰らって60年後を待つさ。取り込んだ相手を身体に馴染ませるにはそれだけの時間が掛かるからな」


 仕方がない、かな。こんな状況になったんじゃ、僕としても出し惜しみは出来ない。これ程の実力差、これ程の格差、これ程の手札の違い、覆すにはもう小手調べなんてしている暇は無い。向こうが本気を出す前に、叩き伏せるしかない。


 使うしかないね―――奥の手。


「……あーあ、コレは使いたくなかったんだけどなぁ……後始末が面倒臭いから」


 勝てる気がしない―――このままでは、だけど。

 筋力値と敏捷値が飛び抜けている以上、魔王が本気を出せば僕は一撃で敗北する。しかも、あのスキルの数々だ……どうにか出来るといっても限度がある。なにせ今の魔王と戦うということは、歴代の勇者達全員と纏めて一片に戦う様なモノなのだから。


 あのステータスに僕が対抗するには、色々と乗り越えなければならない条件が色々ある。


 1つ、5代目勇者の防御力を超えた攻撃をしなければならない。

 1つ、4代目勇者の膨大な魔力を使わせない。

 1つ、3代目勇者の契約魔獣達を呼ばせない。

 1つ、2代目勇者の回復スキルが無意味になるほど決定的な一撃を入れる。

 1つ、初代勇者のスキルを発動させないままに勝負を決める。


 合計5つの条件を達成して、奴を倒す。一撃での決着、そしてその一撃の威力はあの防御の壁を越えていかなければならない。


「『初心渡り』、『鬼神(リスク)』……付与して混ぜて、出来上がり」


 『初心渡り』を『鬼神(リスク)』で強化した最強の時間回帰武器。あの物理や魔法を完全にシャットアウトするスキルの防御を抜く為には、それこそ攻撃力を持たないスキルの刃しかない。その為に必要な武器、それが――


 ―――『原初の鬼神(アヴァロン)


 そして、僕自身にも『鬼神(リスク)』を発動させる。この刃を当てるには流石に速度が桁違いに差があり過ぎるからね。流石にこのスキルを発動させないと勝てる気がしない。

 瞳が蒼くなり、一気に視界がクリアになる。漲ってくる鬼神の如き力と、向上していくステータス。元のステータスが向上した今、このスキルで上がる部分もかなり大きくなる。魔王程とは行かないだろうけれど、少しは対抗出来ればそれで良い。


 『鬼神(リスク)』に『原初の鬼神(アヴァロン)』、まさに鬼に金棒という奴だ。


「ふむ……どうやら本気みたいだな?」

「うん、まぁ……どうやら長期戦になると僕は勝てそうにないからね……次の一撃に、全てを掛ける! っていう熱血主人公にありがちな展開で行こうと思う」

「ッハハハハ! 良いだろう、私もそういう展開は大好きだ。決死の一撃をぶつけあってこそ、戦いというのは面白い……!」


 魔王の身体に、全力の魔力が滾る。魔王城が震えるほどの威圧感と魔力の大きさ……魔王も全力って訳か、あの拳……一撃でも喰らえば死にそうだな。即死だ即死……でも、今の僕のステータスなら直撃さえ避ければ死にはしない。


 臆せず行こう。作戦は―――ガンガン行こうぜ、だ。


 僕と魔王はじりじりと見つめ合い、そして地面を蹴った。


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