表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
248/388

信じて先へ

昨日0時に投稿をお待ちしていた方、申し訳ございませんでした! 今日の11時も更新しておりますので、読んでいない方はそちらからどうぞ!

 魔王城。

 僕達が辿り着いたその場所は、まさしく魔王城と呼ばれて当然といった雰囲気を醸し出していた。真っ黒尽くしで作られた巨大な建造物であり、その上魔王の魔力の昂りから魔王城を覆う空は真っ暗だ。雲が空を覆い尽くし、一切の光を通さない。

 更に、魔王城の隣には魔王城よりも巨大な塔が建っており、此方は魔王城と違って灰色だ。螺旋状に空高く聳え立っており、本当に空に届いてしまうのではないかと思う程の高さだ。正直、あまり良い印象は得られないね。瘴気を出すと少し瘴気が見え辛い。背景色が似過ぎてるからなぁ。


 魔王城に辿り着くまで結構な距離があったけれど、随分とまぁ巨大な建造物だなぁ。

 瘴気の船を解いて、僕達は地に足を付ける。重苦しい空気が辺りを包んでいるけれど、魔王サマが魔王城前でわっはっはと出て来ないだけマシか。あの魔王サマならやりかねないよね。とはいえ此処まで来る間に結構魔族に遭遇したんだけどね。全員A、Bランクの魔族達だったから、さくっと潰してあげた。今更僕達がAランク程度で負けるとは思わない。実際、冒険者ギルドでSランク取った男だからね、僕。序列は12位だったし、最強ちゃんに勝てる気はしないけど。

 まぁ、Aランクもそこそこ梃子摺らせてくれる奴らがいたから、油断は出来ないけどね。どんな相手だろうと、相性ってのがあるし。


 さて、それじゃあ中へ入るとしよう。


「レイラちゃん達、もう大丈夫?」

「うん♪ 大丈夫♡」

「ああ、戦闘にも支障は無さそうだ」


 一応レイラちゃんとリーシェちゃんの調子を聞いておいて、僕はよしと頷く。どうやら精霊様の力でダウンしていた魔族組の2人も回復したようだ。戦闘にも問題がないということだし、改めて入っても大丈夫そうだね。

 魔王城の正面玄関は開け放たれており、そこから異様な魔力の気配が感じられる。恐らくは、入ってすぐの所に最初の敵が居る。魔王戦でありがちな小ボスや中ボス的な存在がね。此処に来るまでに現れたクラーケンとかリヴァイアサンとか精霊様とか、途中の小ボス中ボスにしてはやり過ぎ。こんなハードモードなボス戦誰もクリアしようとしねぇよこの野郎。


 とはいえ、この先に居る小ボス中ボスはおそらくSランクばかり。この展開だけでぶっ殺したくなる気分だ。魔王もどうせ僕が突破してくること分かってんだからさ、余計なことしないで入り口前で仁王立ちしとけよ。なにこの無駄な手順。書類手続きじゃないんだぞ。


 そう思いながら、僕達は魔王城へと入る。此処に来るまでに話しておいた通り、クロエちゃんとフロリアちゃんは魔王城前で待機だ。一応瘴気の家を作って、周囲からの攻撃に備えておいた。『瘴気操作』が『瘴気支配』に変わってから、大分遠距離でも瘴気を操作する事が出来る様になった。

 だから魔王城前に家を作っておいても、意識を外した所で崩れる事は無い。魔王やSランク魔族でない限りはこの瘴気の家は壊せない。無敵の拠点である。核シェルターと言っても良いかもしれない。


「さて、と……」

「―――よくぞいらっしゃいました、きつね様とその御一行様」

「はーい皆、とりあえずその辺にあるモノ全部壊しちゃってー」

「え」


 僕は魔王城の中に入り、玄関ホールへと足を踏み入れた瞬間掛けられた声を無視しながら指示を出した。すると、皆は僕の指示に従ってその辺にあるモノを壊し始める。ドカバキボカスカ! そんな擬音が聞こえてくるような騒々しさで、壁も床も階段も柱も全て破壊しに掛かった。

 いやだって相手のやり方に乗ってあげる必要も無いし? こっちが出向く必要も無いし? だったら何もかもぶっこわして叩き出した方が早いし? 正直面倒臭いもの。


 僕も『武神(ミョルニル)』を発動してそこら辺を轟音と共に破壊していく。振り落とす度に轟音を響かせて城を壊して行く。ははは、壊せ壊せ、こんな趣味悪い居城なんて壊す為にあるものだぜ。


「きつね君♪ この高そうなツボは?」

「壊してしまえ」

「きつねさん! この大量の魔力が込められた魔道具は?」

「壊してしまえ!」

「きつね様……この壁の高そうな絵画は……」

「壊してしまえ!!」

「きつね! この―――」

「壊してしまえ!!!」

「きつ――分かった壊す!」


 がっしゃんがっしゃん何もかもが細かく破壊されていく。レイラちゃんがツボを叩き割り、フィニアちゃんが魔道具を爆発させ、ルルちゃんが絵画を斬り刻み、ドランさんもリーシェちゃんもノエルちゃんも手当たり次第に何もかもぶっ壊して行く。うんうん、爽快爽快、日頃のストレスが解消されていくようではないか!


 魔王城なんてこのままぶっ壊してしまえ。


「……少々お待ち下さい」

「誰?」

「魔王様より、貴方方の案内役として仰せつかりました……ゴルト・キュルクスと申します」

「へぇ……」


 そこへ改めて話し掛けて来た魔族。皆には破壊活動を続けさせながら、僕は会話に応対する。正直破壊活動を続けていたいけれど、魔王の使いということで話だけは聞いておこう。面倒臭いけどね。

 前も言ったと思うけれど、情報は貴重な代物だ。何故なら情報が事前にあるだけで行動にも精神にも余裕が生まれる。余裕が生まれればその余裕が成功につながるのだから。正直、この情報だけはあまり意味がなさそうだけどね。


 すると、紳士っぽい魔族は深々と頭を下げながら落ち付いて口を開く。


「魔王様より、きつね様以外を通すなと命令を受けております。きつね様はこの先へと進んでいただけますが……他の方は通す訳にはいきません」

「あ、魔王サマに伝えてくれる? 僕達此処で破壊活動を続けるからそっちから来いやって」

「そういう訳には、行かないのです」

「!」


 飛び掛かってきた魔族。その速度は明らかにSランクレベル……瘴気でその拳を防いだ僕だけど、防げていなかったらちょっとした傷を負っていたかもしれないね。まぁ、瘴気で防げた以上僕にも効かなかっただろうけどね。Sランクとなると経験談で僕の耐性を超えてくるから、一応防ぐだけ防いでおくことにした訳だ。

 とはいえ、ちょっと調子に乗り過ぎたかな? でも、敵の領地でふざけて何が悪い。とりあえず、煽っておくことにする。


「結構短気なんだね、紳士ぶってるけど―――結構人間嫌いだろ、お前」

「黙れ、魔王様の命令が無ければ貴様等、とうに殺している」

「と言いつつ、殺せていない訳だけどね」

「ふん……」


 言い返せないんだろ、バーカ。という言葉は飲み込んでおく。ただのウザい奴になりそうだから。


「言い返せないんだろ、バーカ」


 あ、言っちゃった。まぁいいか。

 とはいえ、僕が攻撃された瞬間全員が破壊活動を止めてしまったから、これ以上はいいか。それにしても、僕以外は通さないっていうことは、完全に直接対決する気満々だってことだよね。面倒臭いなぁ……全員で行って袋叩きにしたいんだけど……あーでも魔王ってとんでもない強さを持っているから、逆に足手まといになっちゃうかもしれない。この中で最もステータスが高いのって僕だし。

 でも、このやり方は魔王らしくないなぁ。僕が目的だと言っても、レイラちゃん達だって相当の実力者なんだ……あの魔王が放っておく気はしない。


 すると、目の前の魔族―――ああ、名前はゴルトだっけ? は、僕の挑発を無視して話を先に進めるべく話しだす。


「……当然、貴様を魔王様の下へやった後……残った者達の相手は私を始めとする配下の魔族が務めるが、それを倒せたのなら無論のこと魔王様の所へ行ってもかまわない。魔王様はそういうお方だ、自分が不利になろうと戦いに享楽を催そうとする……だからこそ、強いのだがな」

「ふーん……まぁ、それなら良いかな」


 僕はその話を聞いて、レイラちゃん達の方へと身体を向ける。どうやらこの魔族、大分やる様だからね……実力的にはSランクは固い。案内役ってことは大分弱い部類の魔族だろうけれど、気を付けて欲しいところだ。

 さて、それじゃあ魔王サマのお望み通り僕は進ませて貰おうかな。流石に僕達と同じ人数のSランク魔族を一片に相手にするのはキツイし、それなら僕がさっさと進んで魔王を打倒した方が早い。今までのSランク魔族は大抵、僕と相性の悪い力を持っていたからね。どうせ魔王もその辺考えて選んでるんだろう。憎たらしい。


「皆、僕これから魔王ぶっ殺してくるけど、皆は通行止めだってさ」

「……」


 僕の言葉に、全員がじっと視線を送って来る。僕の言葉を待っている。僕の言いたい事は分かっているんだろう。でも、敢えて僕からその言葉が出てくるのを待っている。


 ならば、敢えて言おう。


「―――邪魔はぶっ壊して、さっさと来てね」


 僕達のパーティは、強い。連携的なものではなく、個々人がそれぞれ強いんだ。このパーティに、弱い者は1人だっていやしない。フィニアちゃんは強い、魔法を駆使して何度も僕達を助けてくれた。レイラちゃんは強い、瘴気の力とそのずば抜けた戦闘センスを持ち、何よりその心を強く持っている。ルルちゃんは強い、初めて出会った頃はあんなにも弱々しい存在だったのに、よくここまで付いて来てくれた。リーシェちゃんは強い、吸血鬼となって更にだけれど、それ以前からずっと、彼女は強くなろうともがき続けた。ドランさんは強い、人間でありながら異質なパーティでも支え続けてくれた。ノエルちゃんは強い、幽霊であり、その固有スキルのみの実力で十分脅威となる。

 僕は、このパーティを信じてる。きっと、全員僕の下までやってくるってね。まぁ僕正直自分が人間らしく無さ過ぎて困ってるけど、こんな僕に付いて来てくれた仲間なんだ……信じなくてどうする。


 僕の言葉に、皆が力強く頷いてくれる。


「当然! このフィニアちゃんが1番最初に行くからね!」

「負けません……!」

「私が先♪ 此処は譲らないよ♡」

「いや、此処は私だろう。見ろ、この羽」

「いや、俺――ごめん悪かったよ、だからそんなマジで言ってんの? みたいな目を止めろ」

『ふひひっ♪ まぁ1番は私なんだけどね!』


 仲が良いんだか悪いんだか……まぁこんな軽口を言い合えるんだから良いんだろう。ドランさんは立場弱いみたいだけどね。


「それじゃ、僕は先に行ってるよ」


 踵を返し、目の前に立ち塞がるゴルトの横を通り抜ける。視線が合い、向こうは侮蔑の嘲笑を、僕は薄ら笑いを浮かべながら擦れ違い、その瞬間で、ゴルトが僕にぼそりと呟いた。


「……貴様の下へ、奴らが辿り着く事は無い」


 嘲りの混じったの言葉だった。けれど、僕は薄ら笑いと共にこう返す。


「そういうのを、負け犬の遠吠えって言うんだぜ」


 地面を蹴って、先へと進む。瘴気の空間把握を使わずとも、気配で魔王の居場所は分かる……魔力をこんなに滾らせているんだ、やる気満々なんだろう? 良いよ、待ってろ―――今すぐ殺しに行くから。


 『死神(プルート)』を発動させ、禍々しい大鎌を構えながら……僕は先へ進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ