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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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初神

 さて、とは言ったものの―――現状、有効な手立ては何も無い。勝機が見えている訳でもなければ、奇を衒った奇策がある訳でもない。武器もこの『死神の手(デスサイズ)』だけで、後は瘴気で武器を作る程度。それにしたって、僕の最大技である『武神(ミョルニル)』も効かなかった。アレは耐えたというよりも、物理攻撃自体が効かないといった身体をしている。

 触手が斬れた以上、斬撃も程度を考えれば通らない訳じゃない。但し、あの身体は斬撃自体無効化出来る超速再生能力がある。文字通り、身体の構成(つくり)が違う。


 流石は精霊といったところか、存在の格が違うとは良く言ったものだ。物理技が根本から効かない肉体、魔法を無効化する性質、魔族の天敵ともいえる対魔族性、スキルを試そうにも恐らく大抵のスキルが効かないだろう。どうやって倒せって言うんだこんな化け物。そもそも触手自体が面倒な攻勢防御になっているっていうのに。畜生め、それにしたって何しに来たんだこいつ……僕の運命力が引き寄せたと言っても、何の理由も無く僕を攻撃するかな普通。なんとなく、なんて仮説を立てては見たけれど、本当になんとなくって理由だったら流石に泣くぞ僕。


 何か弱点とかヒントがあれば良いんだけど。


『どうするの?』

「どうするかなぁ……」


 ノエルちゃんの問いに、僕は頭を掻く。こっちを見ている精霊は、触手を動かしながら静かに佇んでいる。帰ってくれるという訳にも行かないんだろうなぁ。まだ試していない手があるとすれば、『初心渡り』等、まだ付与していないスキルを使った『死神の手(デスサイズ)』攻撃。予想だけれど、それぞれのスキルを付与した時の効果はなんとなく分かる。効果自体は、ちゃんと分かっているモノばかりだからね。

 でも、そのスキルを付与したところで、勝てる気はしない。可能性があるとすればやはり、僕自身が発現させた唯一無二の固有スキル―――『初心渡り』のみ。


 けどこのスキル、『死神の手(デスサイズ)』に付与しようとしたら失敗したんだよなぁ。なんで失敗したのかは分からずじまいだし、ぶっつけ本番で試すにしても中々厳しいものがある。このスキルに関しては、付与後の効果が全く想像付かないからね。


『……キサマ、イセカイノ、モノ、キケンダ……ケス』

「喋れるのかよ」

「いえ、精霊は基本的に特定の言語を話したりはしません。ですが、必要であれば会話をする程度の言語を発する事も出来るんです」

「なるほど」


 精霊は精霊同士でしかコミュニケーションを取らず、基本的に人間やその他の生物と会話をしたりはしないみたいだし……そりゃ特定言語を使う意味も無いか。とはいえ、必要なら僕達の言語を使う事が出来るっていうのも凄いスキルだよね。英会話に悩む日本人がどれだけいると思っているんだ。もしも居るんだとすればソレ平等配布しろよ、神様め。

 とはいえ、会話が出来るのならそれに越したことは無い。


「……僕を消す為だけに降りて来たってことかな? 精霊様」

『キサマカラ、アノソンザイノ、チカラヲカンジル……ユエニ、テキダ』

「ごめん片言だから何言ってるか分かんないや」


 "あの存在の力"、ね。あの存在ってのが何を示しているのか分からないけれど、魔族の力という訳ではないだろう。まして、魔族殺しの力を持っている上に存在の格が上の精霊様なんだし、向こうの知っている事を僕が知っているわけでもない。

 となれば仕方がない、何が何だか分からない内に敵認定されちゃった訳だし、今更考えた所で仕方がない。あーあ、ただでさえ『人類の敵』認定されているのに、精霊の敵にまでなるのかよ。面倒臭いなぁもう。僕はただ元の世界に帰りたいだけだっていうのに……本当、僕の帰宅までの道程に危険配置しすぎだって。


 こんなんじゃ、何回か真の力に覚醒しないとやっていけないよ? 漫画や創作じゃないんだからさ、現実的に考えてそう都合よく真の力に覚醒したりしないって。


「はぁ、取り敢えず僕を殺したいってことでオーケー?」

『オーケー』

「あれ、なんか急に流暢になったな」


 オーケーの意味知ってるのか精霊様。一応地球の英語なんだけど……まぁその辺は精霊パワーってことでいいか。言語を用いない種族なんだし、そもそも使用する言語がなんであれ通用するのかもしれないね。僕だって『異世界言語翻訳』ってスキルを持ってる訳だし。

 さて、どうしたものかな。向こうさんはやる気満々、実力差は歴然、手札は総博打。そして、状況を打破するには博打をするしかない。分の悪い賭けだなぁ。


 しかし、そう言ってもやるしかない訳だ。なら、この2週間で手に入れた技を色々試すしかないだろう。


「じゃ、試してみようか」


 僕はそう言って、漆黒の棒をくるりと回す。最終的には、『初心渡り』を付与した状態を作って攻撃するしかない。まぁ、その後の効果については神頼みだけどね。この状況を打破してくれる効果であれば良いんだけど。


『ケス』

「スケキヨ!」

「しりとりじゃない」


 フィニアちゃんのボケにツッコミながら、僕は精霊へと突っ込む。瘴気のナイフを4本作りあげ、同時射出。弾かれはするものの、触手が2本捌けた。その間に更に前へと近づく。残る触手は7本、迫る3本の触手を棒を振り回して2本弾き、1本を躱して切り抜ける。残り4本。

 更に前に進み、瘴気の薙刀を作りあげる。もう隠しておく必要はないのだからと、瘴気の刃をひゅんひゅんと飛ばした。迫る直前だった触手を2本斬り飛ばし、残る2本の触手を直に薙刀で斬り裂く。目の前に本体までの道が開き、更に前へと進む。先程の様に1本残した訳ではないから、今度は邪魔されない。僕も大分慣れて来たよこの触手の対応に。


 この触手は、基本的に同時に動かせるのは2本か3本。操るのは精霊様1人なんだから当然だろうけれど、弾いたり斬り裂いたりした触手は同じ理由で追って来ない。次の触手を動かしている以上、対処された触手は動かせないよね。

 そして、硬化するまでに少しだけ時間が必要だということ。動き始める辺りまでは、斬り裂ける程に柔らかい。速度に乗って初めて硬くなるのだろう。多分だけど、あの触手自体は硬くなっていないんだと思う。あの速度に乗ったからこその硬さなんだ。つまり、あの触手の強みは硬さではなく速度なんだ。


 ならば、対応は簡単だ。魔眼と五感をフル稼働させて軌道を読み、2、3本ずつ対処していけばいい。攻勢防御の触手で、切り抜けるのも簡単ではないけれど、対処法は案外シンプルで分かりやすい。まぁ、実行して完遂出来るかどうかは絶対じゃないけどさ。


「『死神(プルート)』!!」

『―――ッ!!?』


 本体の目の前まで攻め込んだ僕は、漆黒の棒に禍々しいスキルの大鎌を生み出し、精霊様に対して振り抜く。物理的攻撃でないので大鎌の刃は精霊様をすり抜け、僕も精霊様の後方へと抜ける事が出来た。

 物理がダメなら、内面を攻撃する。


 通用するか―――


『ク、グ……ヤハリ、キケンダナ……!』


 この反応は、恐らく通用した。やはり、僕を脅威に思ったということは、僕に対して少なからず危機感を覚えたということ……危機感、それ即ち恐怖だ。ならば、精霊様といえど恐怖の念を持っている。『死神(プルート)』による恐怖の植え付けが効かない筈がない。

 でも、精霊様に対して恐怖だけで勝てると思えるほど、僕も馬鹿じゃない。やっぱり、此処は決定打が必要だ。触手をこの大鎌で斬っても恐怖が伝わるのなら、恐らく向こうもこの大鎌に触手をぶつけたりはしないだろう。


 今の一撃は、大きな牽制となった。


 後は……『初心渡り』の付与。その名は―――『初神(アルカディア)


 出来るだろうか? なんで失敗したのかも分からないのに。どういうモノが出てくるかも分からないのに。出来るのだろうか?

 でも、出来なければ意味がない。出来なければ勝てない。大博打、分の悪い賭け、でも避けられない現実、なら1発やっちゃうしかないでしょう。だって、中途半端じゃ勝てないんだから。


「さて精霊様……見てろよ、これからお前になんかするから」

『ナニ……?』


 棒を握り締め、『初心渡り』を付与するべく発動させる。

 瞬間、ゾクッと身体の内から湧き上がる様な力を感じた。同時に、コレでは間違っているという感覚も湧いてくる。前にやったのとは違う……前は試しにやってみた感じだったから、あまり集中していなかったからかな?


 なんで間違っている……? すると、棒が段々と形を変えていく―――ッ! そうか、これは棒がバルドゥルの肉体へと戻ろうとしているんだ。『初心渡り』がちゃんと付与させることが出来ていない。成程、このスキル自体何かに『戻る』という性質を付与するスキル故に、スキル自体を付与させることが難しいのか!

 なら、もっと根本から……このスキルの効果ではなく、このスキルそのものをちゃんと付与させる感覚で……! 性質ではなく、本質を―――


『!』


 ―――『初神(アルカディア)』、発動。


 握り締めた棒が元に戻り、棒に纏わり付く様に真っ白な光の刀が出来上がった。その輝き、は刃紋も刃も見せない程に神々しく、周囲を照らす。僕の他のスキルとは違って、神聖さ溢れるスキルだなぁ。


 でも、出来た。


 どういう効果を持った刃なのかは分からないけれど……それでも、この光の刃に賭けてみよう。


「さ、行くぞ精霊様……」


 そう言って、僕は切っ先を精霊様に向ける。精霊様が少しだけ怯んだ様に後ろへと後退したけれど、それだけの覇気と威圧感が、この刀にはある。何が起こるか分からない危険性が、何でも起こしてしまう可能性が、この刃の中に内包されているんだ。

 如何に精霊様といえど、負ける訳にはいかない。魔王討伐の前に死ぬわけにもいかないしね……カッコ悪いから。それに、クロエちゃん達に迷惑を掛けたこの運命力の責任は、僕自身が何とかしないといけないだろう。


「きつね、何か手伝えることはあるか?」


 ドランさんが言う。先程までの戦闘に割り込めるほどドランさんは人間を辞めていないから、仕方がない。此処は僕に任せて貰おう。まぁ、ドランさんが人間辞めていても僕に任せて貰うつもりだったけどね。フィニアちゃんの魔法は効かないし、ルルちゃんは付いて来れるようになるまでかなり時間が掛かる。


 やっぱり僕がやるしかないよね。


『ソレハ……キケンスギル、ケス……!』

「残念、僕もこの力については何も知らないんだ……どうなっても責任は負わないから――ねッ!」


 精霊様が触手を動かしながら動いた。今まで動かなかったのに、初めてのことだ。何か危険な力を感じるけれど、それは僕も同じことだ。対して、僕も地面を蹴って走り出す。刀になった分小回りが利き、動きやすい。


 僕は下段に構えたまま全速力で突進し、精霊様は触手を振り回して迫る。


 そして―――次の瞬間、僕と精霊様は衝突した。


次回決着......!!


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