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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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明けない夜

 翌日、僕は真っ暗な瘴気の家の中で目が覚めた。フィニアちゃんの光魔法を灯り代わりにしていたのだけれど、皆が寝静まる際にはその灯りも消えていたから、瘴気の中じゃ真っ暗なのも当然だろう。

 学ランを着てから瘴気の壁に穴を開けて外へと出る。寝起きで固まった身体をぐいっと伸ばして、大きく息を吐いた。首をコキッと鳴らしてから、周囲を見渡す。


 そこで―――おかしなことに気が付いた。


 まだ空に満月が昇っている。そんなに眠っていなかったのか、それとも翌日の夜まで寝てしまったのか、そう思ったけれど、どうも違う。前者なら身体をほぐさなければならない程に固まっている筈も無いし、後者なら僕以外の皆も同じだけ眠っているのはおかしい。せめて睡眠の必要がないフィニアちゃん位は、流石に起きる筈だ。

 ということは……どうやら夜が終わっていないらしい。コレは、暗黒大陸特有の通常気象なのか、それとも暗黒大陸でも特異な異常気象なのか、どっちなのだろう? 僕としては、人間の大陸に居た時はこんな現象は無かった訳だし、異常気象だと思うんだけど。


 そう思いつつ、空から視線を落として周囲を見た。藁の様な草木で出来た家々が点々とあり、魔族達の姿は見えない。まだ家の中で眠っている様だ……もしかしたらこの夜の間では強制的に眠りに落ちてしまう力か何かが働いているのかもしれない。僕の耐性値は毒とかの状態異常にも作用するから、僕だけが目を覚ましたのはある意味説明が付くしね。

 それはそうと、他の皆を起こしてみよう。誰かが起こせば目を覚ますかもしれない。寝る時も一応皆僕の『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』を着せていたし、瘴気の家の中なら尚更状態異常にも対抗(レジスト)出来た筈だ。


 瘴気の家を消して、皆を起こす為に近づく。僕と同じベッドで寝転がっているフィニアちゃんを指先で突いて、起こす。


「フィニアちゃん、起きて」

「んー……ガラスの靴は……私が砕いた……ふふふ……はっ……おはよう、きつねさん!」

「うん、おはよう」


 相変わらずの寝言だった。ガラスの靴砕かないでよ、シンデレラ可哀想じゃん。というかそんなことしたら王子様泣くぞ。

 とはいえ、起こせばフィニアちゃんは目覚めた。どうやら強制的に睡眠状態に陥らせる力が存在するとして、ノエルちゃんの様に眠らせ続ける訳ではないようだ。他の皆も起こそう。


「起きてードランさん」

「ん……? ……何かあったみたいだな」

「うん、ちょっとね」


 ドランさんは目覚めてすぐに異変に気が付いた様だ。瘴気の家が消えた以上、空が夜のままなのはすぐに分かるだろう。フィニアちゃんはドランさんの言葉で、空がまだ暗い事に気が付いた様だ。少し目を丸くしている。

 続いてリーシェちゃんとレイラちゃんを起こす。リーシェちゃんに関しては夜行性の魔族なんだし、寝覚めは良い筈だ。ついでに、フィニアちゃんにルルちゃんを起こすように頼んだ。


「レイラちゃん、リーシェちゃん、起きて」

「……う、ぐ……っ……!」

「くぅ……っ……!」

「!」


 軽い感じで身体を揺すったら、リーシェちゃんとレイラちゃんは苦悶の表情で魘されていた。大量の汗を掻き、呻き声が苦痛を感じさせる。2人共身体を丸めて、痛みを堪える様な体勢だ。『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』を着ているのに、この様子。どうやら、物理的、魔法的な力が働いている訳ではないな……スキル的な特殊な効果か……それとも魔族だけに効く何かがあるのか……どういう訳だろうか。

 でも、この2人がこの状態だというのなら……この集落の魔族達は皆この状態だということになる。なにもこの2人だけが特別だという訳でもあるまいし。


 とりあえず、2人に『初心渡り』を掛けてみた。この集落に到着した頃の状態に戻したのだけど……どうやら戻しても意味は無いみたいだね、継続的に何かの力が働いているらしい。肉体の状態を戻した所で、その力は肉体に傷的な物を与えている訳ではないらしい。直接的か間接的か、故意的に行われているのか無意識的に行われているのか、ソレは分からないけれど……何かが彼女達の痛覚に刺激を与えているのか?


「……『痛覚無効』付与―――『痛神(タナトス)』」


 『痛覚無効』を『死神の手(デスサイズ)』に付与する。すると、漆黒の棒の先に鋭いスピアが付いた。刃というよりは、先端が鋭く尖った棒になった感じだ。まぁ、攻撃の為のスキルではないからね。多分相手への致死性の高さが刃にも現れるのかもしれない。

 僕はそれでレイラちゃんとリーシェちゃんの肌をチクリと刺した。すると、まるで蜂の毒針の様に僕の力が2人の体内へと入りこむ感覚があった。そしてその感覚の後直ぐに、2人の表情が和らいだ。どうやら『痛覚無効』の効果を与える事が出来る武器らしい。


 とはいえ、永遠ではないだろう。2人に入れた僕の力の効果が切れれば、また2人には痛みが襲い掛かる筈だ。仕方ないとはいえ、今は我慢して貰おう。元々応急処置の様なものだ。

 ただ、痛みは無くなっても2人が目覚めない事には変わりは無い。魔族をピンポイントで狙ったようなこの状況、暗黒大陸に魔族に敵対する何者かがいるのか……? それとも、また僕の運命的な力が何か面倒臭いのを呼び寄せちゃったのかな。だとしたら面倒臭いなぁ。


「皆、どうやら今魔族の敵かもしれないなんかが居るみたい。レイラちゃんとリーシェちゃんはそのせいで目を覚まさない。今は僕の力で抑えているけれど、時間が経てば痛みに苛まれると思う……」


 というか、瘴気の外套が無かったら死んでいたんじゃないかな……あの家が何かしらの力を対抗(レジスト)していたのかもしれないしね。でもそうなると、他の家の魔族達は皆死んでいるのかもしれない……レイラちゃんの耐性値はそれこそ普通より高いんだ、それでもアレだけ苦しんでいたんだし……普通の魔族じゃ耐えられないんじゃないかな。


「そうか……どうする、きつね」

「どうするって言われてもなぁ……そもそもなんでまだ夜なのかも分からないし、敵の姿も見えないし」

『きつねちゃんきつねちゃん! あっちに動いている人が居るよ?』

「ん?」


 すると、何処に居たのかノエルちゃんが現れた。そういえばノエルちゃんって僕達が眠っている間何処に居るんだろう。ずっと家の中を浮遊してたのかな? それとも何かしらの方法で睡眠を取っている? でも幽霊という存在だから、睡眠が必要な肉体も無い訳だし……どうなのかな。今度聞いてみよう。


 ノエルちゃんの指した方向へと視線を移すと、そこには2人の人影があった。目を凝らすと、なんか見たことあるシルエットだなぁと思う。

 ロングヘアーの白髪の子とちょこんとアホ毛が立っている黒髪の子……ていうかアレ、クロエちゃんとフロリア姐さんじゃね? なんであの2人が此処にいるんだろう……此処一応暗黒大陸なんだけど。何? あの2人暗黒大陸でも演奏してんの? 確かにあの2人は演奏のおかげで魔獣には襲われないだろうけど、魔族達にまで襲われないの? 凄いな。


 とはいえ、知り合いなら合流しておくべきだろう。


「クロエちゃーん! 姐さーん! おひさ」

「え……きつねさん? どうしてこんな所に……?」

「おーきつねじゃん、久しぶりだなぁオイ」


 大声で呼ぶと、2人もこっちに気が付いたのか僕達の方へと近づいてきた。クロエちゃんは僕達が此処に居ることに首を傾げていたけれど、フロリア姐さんの方は気さくに近づいてきた。

 でも、僕は2人の様子に首を傾げる。なんで僕達が此処に居ることに首を傾げるんだろう? その前に、この終わらない夜の方に疑問を抱く方が先じゃないだろうか? それとも、この2人はこの現象のことを知っている……? いや、考え過ぎかな?


「きつねさんきつねさん、この子達は?」

「ああ、フィニアちゃんは初めてだっけ? 前も話したと思うけど、この2人があの音楽姉妹だよ」

「ああ! あの魔獣とかを侍らせて悦に入った様子で演奏していたっていう?」

「僕そんな紹介したっけ?」


 フィニアちゃんのボケは時と場合によってちょっと気まずい空気を作り出すから、空気読んでほしい。ちょっと前にもノエルちゃんにおっぱいの話で叩かれたんだからさぁ。

 おそるおそる、クロエちゃん達の方を見る。すると、クロエちゃんは呆れた様に溜め息を吐いていた。あ、よかった叩かれないみたい。でもなんか僕の評価下がった気がする。


「相変わらずみたいですね……その妖精の子は、新しいお仲間さんですか?」

「ううん、クロエちゃん達に会った時はいなかったけど、フィニアちゃんは最初の仲間だよ」

「そうなんですか……クロエ・アルファルドです。こっちは姉のフロリアです。よろしくおねがいしますね」

「うん! 私はフィニアだよ! よろしくね!」


 自己紹介を済ませながら、久々の再会を喜ぶ僕達だけども……今はそんな場合じゃないね。レイラちゃん達の危機な訳だし、さっさとこの状況を打破しないとね。

 とりあえず、この2人にもこの状況がどんなものかを聞いておこうかな。もしかしたらこの事象のことを知っているかもしれないし。でももしもこの2人がこの状況について知っていたら、それはそれでなんで? と思うけど、今は置いておこう。


 フィニアちゃんと話しているクロエちゃんと姐さんに声を掛けた。


「ねぇ2人は、この夜が終わらない事とかについて何か知ってる?」


 すると、クロエちゃん達はその問いに少しきょとんとした後、何かに気が付いた様に目を伏せた。明らかに何かを隠している素振りだ。言えないことを無理に聞きだす趣味は無いけれど……今回はレイラちゃん達の命が掛かっているかもしれないんだ、多少無理にでも吐いて貰うしかない。

 さて、どうしたものかな……女の子に手をあげるのも趣味じゃないし、僕としては素直に話してくれるのが最良なんだけど。


「悪いきつね、確かにアタシ達はこの状況を知っているけど……話せないんだ」

「でも、夜に関しては時間が経てば元に戻ります。これは本当です」


 全部話すつもりはない、けど夜は時間が解決してくれる……か。それに、話さないんじゃなく話せないってことは、口止めされているか……それとも話せない事情があるか……まぁなんにせよ夜は時間と共に終わる様だし、夜が明けてもレイラちゃん達が目を覚まさない様であれば、この際仕方ない。


 力づくでも2人から聞きだすとしよう。


 取り敢えずそれまでは2人と一緒に行動していた方が良さそうだね。この状況を知っている人間がいるだけで、十分心強いし。

 


 ―――でも、なんだろう……この何とも言えない嫌な予感は。



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