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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
239/388

上陸

 暗黒大陸。それは人間が住めなくなった大陸に、魔族が住みついた場所である。


 ではなぜ住めなくなったのか? 人間が住めなくなった所に魔族が住みついた、ということは魔族の大陸になったのは人間が去った"後"の話だというのに。


 その理由として、魔力と呼ばれる要素が挙げられる。

 魔力を作るためには、魔素と呼ばれる細かい原子の様なモノを使う。つまりは魔法を展開出来る様に構成された魔素のことを、魔力と呼ぶ。だから正確に言うのなら、魔法使いは魔力ではなく魔素を使って魔法を行使しており、ステータスの魔力値というのは魔素を魔力に変換する力の高さのことである。

 人間の大陸にもこの魔素は大量に存在する。それこそ、存在する魔法使いが何発魔法を行使しようと尽きることはない位に。そしてそれは暗黒大陸も同じだ。


 生物は基本的に、この魔素を呼吸や魔法の行使などで体内に取り込んでいる。そもそもこの魔素自体放射能の様に空気に触れている肌から体内に入って来るものなのだ。

 だが、この魔素と呼ばれる要素は、けして人体に良いモノではない。酒も飲み過ぎれば毒となる様に、薬も過剰に服用すれば毒となる様に、この魔素も過分に取り込み過ぎれば毒となる。

 一応、人間には魔素を魔力に変換する能力が備わっている故に、体内に入った魔素は魔力として常に変換し放出されている。だから魔素が体内に留まらないようになっているのだが―――


 ―――それは人間の大陸での話だ。


 暗黒大陸はこの魔素が異常に多い。1m四方の立方体の中で言っても、人間の大陸と暗黒大陸ではおよそ数十倍近くその濃さに差があるのだ。故に呼吸で取り込む量も必然的に暗黒大陸の方が多くなる。そして魔素は取り込み過ぎると人体に影響を及ぼすのだ。

 例えば、病気になったり、身体が動かなくなったりといったことから、精神に異常をきたしたり、身体中に傷が出来たり、そういったことが起こる。


 魔法は魔力の塊、魔力は魔素の塊、そして押し固められた魔素の塊は他者を傷付ける事が出来る。攻撃魔法とは様々な属性はあるものの、基本的に仕組みはそういうことだ。魔法使いとは魔素を行使する者、そしてその魔素に魔法という方向性を持たせることが出来る者だ。故に攻撃だけではなく回復や防御などの方向にも魔素を行使することが出来る。

 そしてそれだけ魔素というモノは凶悪な代物だということだ。

 体内に取り込み過ぎると、最悪死に至る。暗黒大陸で、人間は暮らしていけないのだ。だから人間は人間の大陸で暮らすようになった。人間の大陸の魔素濃度ならば、生まれた時点で持っている魔力変換能力で毒にはならないから。


 暗黒大陸に魔族や魔獣だけが住みついたのはその後の事。魔族達にとって、人間とは逆に魔素は必要不可欠なモノだ。

 例えば、魔族の体内には魔力を溜めておける内臓器官が存在する。それは、魔素を取りこんで魔族の肉体を自分の資質に合ったものへと変質させる事が出来る器官だ。『赤い夜』がウイルス状の肉体を持っていたのも、バルドゥルが固い装甲を持った肉体をしていたのも、この器官があったからである。

 そもそも魔族の肉体自体が魔素に適応した肉体をしているので、この悪影響を受けない。魔素を取りこみそれを肉体の成長に転用出来る肉体を持っているので、魔族は総じてステータスが高いのだ。

 ちなみに、魔獣も魔族と同じように肉体が魔素に適応しているので、その影響を受けない。寧ろ、魔族よりも適応した肉体を持っている魔獣も居る位だ。(ドラゴン)などの伝説上の生物などがそうである。


 さて、此処までの説明で何が言いたいかというと、暗黒大陸はその魔素濃度故に存在する魔族や魔獣達は全て、人間の大陸よりも強いということだ。何故なら、この魔素濃度で生きていられる以上、それらの魔獣や魔族達は全員、魔素を肉体の成長に転用する事が出来るのだから。

 といっても意識的にソレが出来る訳ではないので、彼らの認識としては普通に生きているだけなのだが。


「ってことは、僕は此処に居たら死ぬんじゃないの?」


 という訳で、カイルアネラ王国から出航して2週間。ドランやリーシェから暗黒大陸の説明を受けつつ、桔音達は暗黒大陸へと上陸したのだった。



 ◇ ◇ ◇



 暗黒大陸に上陸した僕達だけど、話を聞いてみると、なんだか物騒な事になってきた。魔素を取りこむと人間は死ぬとか先に言って欲しいんだけど。


「まぁ一応、高位の魔法使い達が研究した結果……魔力値が10万以上あれば此処でも普通に生きていけるらしいから、大丈夫だろう」

「ふーん……」


 ドランさんの言葉を聞いて、僕は全員の魔力値を見てみる。フィニアちゃんは当然として……うん、まぁ大丈夫か。一応、全員魔力値が10万を超えている。ドランさんは凄いギリギリだけど、この2週間の訓練でなんとか10万を超えたみたいだ。あぶねー。

 ドランさんのレベルは僕の『初心渡り』でも64までしか戻せないからなぁ、成長速度が僕達に比べて遅いのがネックか。耐性値もレベル64の時点で『STOP!』が付いていたから、これ以上上げられないしね。


 とはいえ、魔力耐性が高ければ魔素濃度が高くても大丈夫みたいだし、一応僕の目の届く範囲に居るのなら全員に『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』を装備させておこう。この外套なら僕の耐性値を持ちつつ、同レベルの魔力耐性を得られるからね。


「とりあえず、全員コレを着ておいてね」

「これは?」

「まぁ僕の防御力を得られる衣服、とでも思ってくれていいよ」

「そりゃ頼もしいな」


 実質魔王の攻撃も防げる衣服だもんね。僕としても、この衣服は伝説級の防具だと思ってるよ。ヤバいよね、僕の耐性値。


「じゃあどうしよっか。僕暗黒大陸のこと何も知らないからさー」

「きつねさんきつねさん! あっちになんか村っぽいのが見えるよ!」

「え、本当?」


 すると、フィニアちゃんが空高く飛翔して何かを見つけた。おそらくは魔族達の集落か何かだろうが、魔族達にもそういう村とかの集まりがあるんだなぁ……人間の文明とかを参考にしてるんだろうか? まぁ個々人で生きていくよりは集団を作って生きていく方が良いんだろうけれど、我が強い魔族達が手を取り合って協力なんて想像付かないなぁ。

 でもまぁ、何かあるのなら行ってみるかな。魔王城とか何処にあるのか知らないし、せめて魔王の居場所の情報位は得られればいいな。


 戦闘になったらまぁ……取り敢えず叩きのめそう。殺すのは一旦話をしてからってことで。


「じゃ、行こうか」

「き、きつね君……ちょ、待って……」

「あ」


 出発しようとして、船の方から死にそうな声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはレイラちゃんが這いずる様に此方に向かって手を伸ばしている。顔が青褪めてて今にも死にそうだ。そういえば船酔いでこの2週間ずっと死んでたんだったね。瘴気を出すことも出来ない位具合悪くしてたから、ちょっと可哀想だったんだけど……仕方ない、僕結構船揺らしてたし、これ位は力を貸そう。


 という訳で、倒れたレイラちゃんをおんぶする。普段なら嬉々として抱き付いてくるんだろうけれど、今はぐったりと凭れ掛かる感じでいた。うーうーと唸り声が聞こえるけれど、仕方ないよね。2週間船に乗ってて一向に船に慣れないんだから、相当船が苦手なんだろうなぁ。


「大丈夫? レイラちゃん」

「うー……だいじょぶ……じゃない……♪」

「あ、そう……」


 レイラちゃんは船から降りたことで回復に向かっているようだけど、この分じゃまだしばらくダウンしてるだろう。リーシェちゃんは―――


「ん? なんだ?」


 ―――大丈夫そうだ。傘を差していないけれど、僕が着せた外套に付いているフードが機能しているみたいだね。リーシェちゃんにとっては二重の意味で防御力高いみたいだ。紫外線もシャットアウトか、瘴気便利過ぎて笑えてくるね。

 まぁ良いや。レイラちゃんも持ったし、さっさと行こう。


「じゃ、行こうか」

「うん!」

『私も私もー♪』

「さぶっ……!」


 僕の言葉にフィニアちゃんが肩に乗りながら頷いた。同時に、ノエルちゃんがレイラちゃんの後ろにべったり引っ付く。止めなさい、具合悪い子に追い打ち掛けるんじゃない。君結構意地悪だろ、程々にしないと嫌われるぞ。幽霊に何を言うかって感じだけどね。



 ◇



 桔音達が魔族の集落へと向かう最中で、同じく暗黒大陸に居たクロエとフロリアもまた同じ集落を目指して歩いていた。ちなみに、彼女達の魔力値もとある理由でちゃんと10万という基準を超えている。

 だが彼女達にとっては場所がどこであれ、いつも通り演奏をして、いつも通り旅をしているだけのことである。


「なぁクロエ、なーんか変な空気じゃないか?」

「そうですか?」

「んー、なんというか魔獣達がざわついているというか……なんかあったんじゃね?」

「……まぁ、確かにそうですね」


 2人は歩きながら、周囲の魔獣達の様子が少しおかしい事に気が付いていた。

 魔獣達の様子がおかしいのは、桔音がこの大陸に上陸したことを本能で感じ取ったからなのだが、2人がそれを知る由も無い。そうでなくとも、桔音はこの暗黒大陸の近くで『不気味体質』を発動し続けて魔獣達を追い払っていたから、その威圧感を感じ取ったのかもしれない。まして、『海王龍(リヴァイアサン)』が倒された時の衝撃波はほんの僅かなそよ風となって、この暗黒大陸へと伝わってきている。

 勘の鋭い魔獣や魔族であれば、そのそよ風だけで桔音という存在に勘付いているだろう。しかも、魔王城から魔王の滾る魔力も感じられるのだから尚更だ。


 ざわつく魔獣達は、自分の勘に従ってなんとなく嫌な方向から離れている。まぁ、桔音と魔王の居場所の間に居る魔獣達は挟み打ちを喰らって戸惑っているだろうが。


「それにしても……暗黒大陸に来たのは予想外だったな。これからどうするよ?」

「姉さんが迷子になって暗黒大陸に迷い込んだのが原因じゃないですか……港で姉さんが小型船に乗りこんで去って行ったのを聞いた時は、流石に溜め息も出ませんでしたよ」

「ハハハッ! 悪いな!」


 そんな会話をする音楽姉妹。どうやら暗黒大陸に来たのはフロリアが迷子になったからのようだ。とはいえ、ソレで追い掛けてくるクロエも大概だろうが。


 しかし、この2人も合流してからすぐに、さっさと暗黒大陸を出ようとは思った。だがそれをしないのは、いや出来ないのは、フロリアとクロエがそれぞれ乗ってきた船が魔獣達に壊されたからである。帰る為の足が無くなってしまった彼女達は、とりあえず演奏することにしたのだ。

 それにしたって、此処まで来る間に魔獣達に襲われなかったというのは凄まじい事だろう。演奏の魅力というのは、海の中にまで伝わる様だ。まぁ音だから当然なのだが。


「まぁなんとかなるさ」

「その自信は何処から来るんですか……」


 しかし2人にとっては桔音の気配などそれほど危険に感じない。それは、2人が桔音に敵意を抱いていないことと、桔音が『不気味体質』を周囲の魔獣や魔族を対象に発動していることが原因である。


「次の集落で演奏したら……とりあえず船とか貸してもらえればいいけどなぁ」

「そうですね……」


 そろそろ暗黒大陸で生きていくにも辛くなってきた彼女達は、少し遠い眼をしながら桔音達の向かっている集落へ歩いて行くのだった。


音楽姉妹の上陸理由:迷子

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