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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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暗黒っぽい方

すいません、アリシアと魔王の会話は次回で!

「やーごめんごめん、なんか転移魔法でルークスハイド王国に飛んじゃったわばッ!?」


 ルークスハイド王国から出て、さくっと元の洞窟まで戻ってきた瞬間、3連続の打撃を腹部に喰らった。飛び込んできたのは、フィニアちゃんとレイラちゃんとリーシェちゃんで、そのまま3人に圧し掛かられるように押し倒された。

 ごっふ、超痛ぇ。そ、そうか今は弱体化の枷のせいでステータスが一般人位になってるからその分防御力障子紙なんだった。耐性値が低かったらレイラちゃん達は僕の『痛覚無効』を普通に突破してくるんだね。まぁそれぞれ約100万の筋力値を持っているから仕方の無い事なのかもしれないけどさ。

 ごふぅ……やばいやばい、口内が血の味で満たされている。あ、今の衝撃で枷が壊れた。

 耐性値が元に戻ると同時に痛みが引いて行き、内臓へのダメージがすぐさま回復していく。あっぶねー、今マジで死ぬところだったよ。


 レイラちゃん達に乗っかられたままの状態で、僕は3人に視線を移した。


「うわぁぁあんぎづねざぁぁぁん! よがっだよぉぉぉ……!」


 フィニアちゃんは大泣きだった。随分と疲弊している様で、僕の服を握る手にも力がない。ぐっしゃぐしゃの泣き顔を晒しながらわんわん大声で泣いている。随分と心配を掛けちゃったみたいだね、後で何かお詫びをしないといけないかな?


「う、うふふ……♪ 分かってたもん、きつね君はこんな所で死なないって分かってたもん……♡」


 レイラちゃんは、そんなことを言いながら涙目で笑顔を浮かべていた。その割には僕を抱き締める力が強い、ちょっとキツめに縛られている様な感覚だ。彼女にも大分心配掛けた様だね。

 ぽすんと頭に手を乗せると、うーうー唸りながら僕の胸に顔を埋めた。じんわりと胸のあたりに熱い何かが染み込んでくる。堪えていた涙が零れ落ちている様だ。そんなに泣き顔を見られたくないのか君は。


「きつね、もう我慢出来ないんだ。血を吸わせろぉぉぉ……!」

「君はもうちょっと心配してくれない!?」


 リーシェちゃんはただの吸血衝動だった。

 君はもう少し僕の心配をしてくれ。一応仲間じゃん? 命懸けで戦ったり、なんやかんやで吸血鬼にしたり色々あったじゃん。ちょっとは僕の心配をしてくれてもいいんじゃないの? え、僕餌なの? 君にとっての僕って仲間以前に餌認識なの? 超ショックなんだけど。


 と思ったら、リーシェちゃんの瞳が赤くなっている。

 成程、定期的に吸血しないと魔族の性質が前に出てきちゃうのか。つまりはレイラちゃんの発情モードと同じ感じって訳だ。ならまぁ理性を失ってても仕方ないのかな? さっき1時間くらいしか我慢出来ないって言ってたもんね。


「……はいはい、そういう約束だったもんね」

「!」


 学ランのボタンを外して、首筋を見せる。耐性値を出来るだけ低くするイメージで防御力を下げれば、リーシェちゃんの歯もちゃんと通る。ちょっとだけ身体の中に異物が入っている感覚があって、少しだけ違和感を感じるけれど、痛くはない。

 ちゅーちゅーと血を吸われる音がするけれど、別段身体がだるくなるとか意識が遠くなるとかないな。血が多いのかな僕。まぁこの世界に来てから序盤の方は出血大サービスだったから、そのせいで血の量が増えててもおかしくないか。


 なんとなく首筋がピリピリするけれど、リーシェちゃんの鼻息が当たってなんとなく妙な感覚だ。


「あー……きつね、無事だったみたいだな」

「ん、ドランさん。うん、リッチが生きててさ……転移魔法で外に出して貰ったんだ」

「生きてたのか……まぁ無事なら良い……まぁ今はそんな話をしている場合じゃないみたいだがな」


 にやにやしながらドランさんがそんなことを言う。リーシェちゃんに吸血されているからといって、別に会話出来ないほど余裕がない訳じゃないぞ。

 ちゅぱっと音を立ててリーシェちゃんが顔を上げた。衝動は収まった様で、彼女の瞳はいつもの翡翠色に戻っている。ふぅと一息付いてから口元に付いた僕の血を手で拭い、そのまま舐め取った。


 どうやら落ちついた様だね。耐性値を戻して、僕はリーシェちゃん達毎起き上がる。筋力値が戻ってなかったら多分起き上がれなかっただろうね。本当、地球の人達って結構脆かったんだなぁって心底思う。


「んー……さて、皆。これから僕は暗黒大陸に魔王をぶっ殺しに行くんだけど……どうする?」


 さて、本題に入ろう。


「は……何言ってんだお前!?」

「いやだから、魔王をぶっ殺しに行くんだって。一緒に行く? 嫌なら此処に残っても良いんだけど」


 ドランさんが僕の言葉に驚愕の表情でそう言うのだけど、僕は方針を曲げるつもりはない。というかそれしか道が無い以上、僕はそうするしかない。妙に遠回しに話すより、ダイレクトに言った方が話が早い。

 すると、ドランさんは大きく……それはもう大きく溜め息を吐いた。レイラちゃんは目を擦りながらもにんまり笑っているし、フィニアちゃんは鼻を啜りながらもにぱっと笑った。ルルちゃんは『白雪』の柄に触れ、リーシェちゃんは僕の視線に呆れた様な苦笑を洩らした。ノエルちゃんはどうしたって付いてくる破目になるし、後はドランさんだけだ。

 最強ちゃんは少し興味がありそうな表情をしているけれど、沈黙を守っている。というか、さっき僕の事殴り飛ばしてそのまま放置しただろお前、生き埋めになったらどうするんだこんちくしょうめ。


「……んー…………はぁぁあ……仕方ねぇなぁ……今に始まったことじゃねぇし、付き合ってやるよ」

「ありがとうドランさん。ついでに言うけど、なんか『人類の敵』に認定されちゃったから」

「はぁっ!? おま、『人類の敵』に認定されたのか!? 嘘だろ……!?」


 なんだかドランさんが凄まじい反応を見せた。何? そんなにヤバい感じのモノなの? ちょっと待ってよ、凄く不安になってくるじゃないか。

 まぁ名前と字面からして、あまり良いモノではないのは分かっているんだけど……その内容は分からないからちょっとばかし気になる。教えてドランさん、君はこの世界の住人且つ僕のパーティ内で唯一常識人なんだ。今や、リーシェちゃんは吸血鬼になっちゃったからさ。


 とりあえず、この『人類の敵』とかいう不名誉な称号について聞いてみた。ん? 称号? うわっ、ステータスにまで付いてる! 何これ、また変な運命背負っちゃったんじゃないの?


「えーとだな……『人類の敵』ってのは全国的に、所謂空気として扱われるんだよ。犯罪者とかは捕縛されたり、処刑されたりするんだが……この場合存在しない者として扱われるんだ」

「何その全国を挙げてのいじめ」


 どんだけソイツを迫害したいんだよ。


「だが……この称号を付けるには全国的に認められるだけの理由が必要の筈なんだが……きつね、お前何かしたのか?」

「強いて言うなら、魔王を敵に回したかな」

「ああ、なんとなく理解したわ」


 ドランさんも理解してくれたらしい。うん、周りを見渡すと皆『あー、なるほどー……』みたいな顔で苦笑している。なんだ、僕がいじめられっ子という属性を再獲得したからといって、そんな当然だろうみたいな眼で見るんじゃない。


 にしても、犯罪者扱いじゃなくて空気扱いになるのか。『人類の敵』、つまりは種族内における敵である訳だ。その対処法は、クラス内の虐めと同じって訳だ。作られた輪から外す、内輪揉めをするのではなく、輪の内から外へと追い出すという手段である。

 大雑把な話、人は人類という種族で繋がった仲間と言える。だから仲間が仲間を殺せば、内輪の中でそいつの処分を決めるし、その殺害に継続性があれば殺処分として処刑する。

 だがこれは、同じ仲間(しゅぞく)だからこその対応である。


 種族の敵、ということは仲間ではないということ。仲間ではないのなら、相手にする必要もなければ気を使う必要もない。空気として扱っても良いだろうということだ。


「でも成程ね……空気なら、殴っても良いし蹴っても良いし毒を吐いても良いし傷付けても良いし何をしたって良い訳だ。だって、空気なんだから」

「そういうことだ。だが、こんな称号付けられた奴なんて過去に1回しか例がない……魔王が何をしたかは分からねぇが……まぁ対処法は魔王を倒すしかねぇよな」

「でしょ? まぁ犯罪者扱いされないだけ良いけれど、正直誰にも相手にされないのは生き辛い」


 人間の中で生きるには、この称号は生き辛い。ならば、この称号を取らない限りは何も行動に移せない。さっさと魔王を倒して、この称号を取っ払った方が良い。というかそうするべきだ。そうしなければ、僕はこの世界で生きていけない。生きるにしても、暗黒大陸で戦いの中で生き抜くという超絶サバイバル生活を送るしかなくなるね。


「で、ドランさんは良いの? 僕のこと空気扱いしなくて」

「本気で言ってんなら……殴るぞ?」

「冗談だよ。良い仲間を持って僕は幸せ者だね」


 どうやら皆僕に付いて来てくれるらしい。

 とはいえ、皆は僕から離れれば普通に生きていける訳だよね。別に皆だって良く知りもしない奴を称号だけで空気扱いする訳で、進んでやりたいわけでもないだろう。なら、僕と知り合い、もしくは仲間だったからといって彼女達まで空気扱いされることはないだろう。

 僕にそれだけの価値があるとは思えないんだけど。

 フィニアちゃんやレイラちゃんは僕に好意を持ってくれているみたいだし、ルルちゃんは家族として一緒にいるから分かるんけど……ドランさんとリーシェちゃんに関しては、無理に僕に付いてくる必要は無いんだけどなぁ。


 でもまぁ、仲間として一緒に付いて来てくれるのならそれで良いだろう。好意は素直に受け取っておくべきだ。損はするかもしれないけれど、その場の気分は良くなるからね。


「さて……それじゃ最強ちゃん」

「……」

「勝負は終わったし、もうお別れでも良いよね?」

「……」

「あれ? もう空気扱い?」


 なんだか泣けて来た。幼女に無視される辛さが僕の心をグサグサ貫いてくる。ルルちゃんに彼氏が出来たら僕こんな気分になると思う。

 とはいえ、行動に移す素振りは無いので僕は沈黙を肯定と取ることにした。何か考え込んでいる様にも見えたけれど、元々仲間というわけでもないんだし、勝負の約束も終わったから良いでしょ。


 さっさと出発しよう。馬車は……まぁ瘴気に全員乗せて空中から移動すればいいか。


「じゃ、行こうか。暗黒大陸ってどっち?」

「知らなーい♪ なんか暗黒っぽい方じゃない♪」

「超アバウトな指針をありがとう」


 取り敢えずは……そうだね、なんか暗黒っぽい方に向かうとしよう。あれ? 僕レイラちゃんと同じレベル?


『人類の敵』→究極の虐められっ子の称号

さて、魔王討伐に行きましょう。

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