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幸せな結末が

 リーシェちゃんを救出してなんとなく洞窟の奥へと進んでいると、現れるアンデッド達の中に魔獣が姿を現し出した。人間のアンデッドとは違って必ずと言って良いほど自我がなく、死体になったことで生前よりもそのステータスを向上させていた。人間のアンデッドと合わせて大量に現れるので、正直数が増えた分更に厄介になった。

 リーシェちゃんやレイラちゃんが大暴れし、フィニアちゃんが隙を見て光魔法を連射しても尚手数が足りない。迫ってくるアンデッド達は、まるで肉の壁の様だ。

 一応、『武神(ミョルニル)』を発動して一撃かませば大威力で吹き飛ばせるだろうけれど、洞窟内である以上生き埋めになる可能性がある。必然的に使うのは『病神(ドロシー)』となるわけだけど……やっぱりいきなり薙刀を使いこなせというのも無理な話だ。数が多過ぎる上に、多分動きに無駄があり過ぎてすぐに懐に入られる。

 斬撃を飛ばした所で似た様なものだし、やっぱり最強ちゃんみたいな一網打尽に出来る攻撃力とそれを手加減して敵のみに炸裂させる、というような戦闘技術がない以上、僕は『死神の手(デスサイズ)』を使いこなす事は出来ないだろう。


 狼のアンデッドが飛び掛かって来る。大きく開いた口の中に薙刀を突き刺し、振り回すようにして後方へと捨てた。その際に斬撃を飛ばして更に近づいて来ていた2体の人型アンデッドの首を落とす。本当に切りがないなぁもう。


『うーん……私場違い? ふひひひっ……♪』


 そんな中で、ノエルちゃんがそんなことを言う。物理的に戦闘に参加する事が出来ないし、金縛りとかも通用しない以上彼女には攻撃手段がないんだよね。だから1人だけ戦闘に参加していないという状況が出来上がっている。ずるいな畜生め。


「きつね、これどうにか出来ないのか?」

「無理だよリーシェちゃん。一網打尽にするには瘴気変換が手っ取り早いけど、こいつら死体だから効かないし……リーシェちゃんもなんかないの? 吸血鬼なんだし何かあるでしょ?」

「元々人間だったんだ、いきなり吸血鬼になったと言っても吸血鬼の様に力を振る舞える訳じゃないぞ! 自慢じゃないが私はそこまで適応力高くないからな!」

「胸張って言うことじゃないよね!」


 リーシェちゃんとそんなことを言い合いながら、僕は薙刀を振るう。一応、ずっと使い続けているからか最初よりは随分と使いこなせる様になってる気はする。

 手首を支点にくるっと回し、その刃だけでなく、柄も使って敵の弱点を叩いたりすることも使い方の1つ……薙刀や槍といった長物はその刃だけではなく、柄も合わせた武器全体が全て戦いに使う事が出来る様になっている事に気が付いてからは、中々戦い易くなった。


 刃物系の武器は、殺傷能力が最も高いのが刃の部分だというだけで、その武器の全てが戦いの為に使える様にデザインされているってことだ。

 それに、元々槍というのは人類の歴史上獲物に対して投擲することで使われていた。使い方次第で、あらゆる結果を出す事が出来る武器……それが槍や薙刀といった長物だね。もっと集中して研ぎ澄ませれば、まだまだ無駄なく戦える筈だ。


「といっても……長物系の武器はこんな閉所じゃ使い辛いって欠点もあるんだけど――ねっ!」


 分析したところで、意味はない。使いこなせないという事実は変わらないのだから。

 突いて、アンデッドの喉を貫く。すぐに引き抜いてそのアンデッドを蹴り倒し、奥にいた狼のアンデッドと猿のアンデッドに向かって斬撃を飛ばし、首を刎ね飛ばす。集中しろ、集中しろ、まだまだこの薙刀には使い様があるはずだ。


「っぁあ゛ぁ……!」

「ッ……!」


 人型アンデッドが後ろから襲い掛かってきた。薙刀を引き戻している暇はない……! 噛み付かれても問題はないけれど―――咄嗟の判断だった。僕は薙刀を引き戻さずに、柄の頭……石突きの部分をアンデッドの足下の地面に叩き付け、そのままアンデッドの足を掬い払った。

 すると、アンデッドはバランスを崩して地面に倒れる。その間に薙刀を引き戻し、倒れたアンデッドの首を断ち切った。


 そんな中で僕は、敵を倒した達成感よりも……冷静に――成程こんな使い方があるのか、と考えていた。


 なんとなく集中が深くなっていくのを感じる。魔眼を発動させ、大きく薙刀を回してアンデッドの斬り裂いて行く。


「あはっ♪」


 すると、僕の目の前を瘴気のナイフが通り過ぎた。レイラちゃんが飛ばした様で、視野を広くして見れば数十本のナイフが数十体のアンデッドの眉間を貫いていた。本当に、規格外の瘴気操作能力だ。僕にはアレだけの数のナイフを同時にここまで操作する事は出来ないね。

 でも、これで大分アンデッドの数が減った。後はもう数える程度の数しかいない……それも、フィニアちゃんの光魔法が瞬く間に消し飛ばして行った。


 そして、全てのアンデッドが掃討される。地面はもう足の踏み場がアンデッドで埋め尽くされてしまっている。正直、死体を踏みながら進むのはあまり良い気分とは言えないけれど……まぁなんとかアンデッド達を倒せたということで、ほっと息を吐く。


「そういえば、最強ちゃん達の方はどうなってるだろう……まぁ、最強ちゃんがいるからあまり心配はしていないけど」

「ふぅ……さぁな、最強ちゃんという人物自体私は知らないし」

「まぁそうだね……とりあえず前に進もう」


 リーシェちゃんの言葉に、考えても意味はないかと結論付けて先に進むことにする。瘴気の空間把握に集中力を割いていられなかったから、もう空間把握は解除されている……だからリーシェちゃんと戦っていた時点でもう最強ちゃん達の動向は分かっていない。分かっているのは、僕達の進む先の空間だけだ。


 ただ1つ分かっているのは……先に進むしか、このアンデッド達をどうにかする方法はないということだ。


「それに……」


 それに、この先にさっきリーシェちゃんと戦ったのと同じような広い空間がある。そこにはやはり大量のアンデッドが居て、その中に1人……アンデッドらしくない理性的な動きをしている存在が居る。これが……多分レイスを支配下に置いて、リーシェちゃんを殺した張本人。アンデッドを作り出している魔族なのだろう。


「きつね君♪ 私頑張ったよー♡」

「っと……ああうん、お疲れ様」

「うふふうふふふ♪ 食べても良い?」

「待てレイラ、私に血を吸わせてくれないんだぞ。お前だけずるい」

「レイラちゃんはともかく、リーシェちゃん吸血鬼になってなんか吹っ切れてない? 君は結構純情なタイプだった気がするんだけど」

「まぁ恥ずかしくはあるが……吸血衝動が耐えられないんだ。正直、あと1時間位しか我慢出来ないぞ」


 あ、具体的だな結構。レイラちゃんの食人衝動もそうだけど、リーシェちゃんは吸血鬼になったばかりだからか血に飢えているらしい。さっき僕と戦った時も剣に付いた僕の血を舐めていたよね……元々人間だったからか、衝動に対する耐性が薄いらしい。

 まだ吸血鬼の身体に馴染んでいないってことかな。リーシェちゃんも大変だねぇ、そうしたのは僕だけどさ。


「まぁ後で吸わせてあげるよ……レイラちゃんも今は我慢して。この先に多分、魔族が居るから」


 僕の言葉に、レイラちゃんとリーシェちゃんは約束だからな、とばかりに首を振って、その後表情が鋭くなる。どうやらさくっと魔族を殺して吸血、噛み付きタイムに入りたいようだ。頼もしくはあるけれど、理由が不純過ぎてアレだなぁ……まぁ魔族を殺してくれればなんでもいいけどね。

 なんか僕復讐しようと思って来たのに、リーシェちゃん復活しちゃったからなんか魔族を倒す理由がなくなっちゃったんだよねー。まぁ此処までアンデッド達に随分と苦しめられたから、その分の労力を無駄にしない為にも、魔族は倒しておかないとね。


「じゃ、行こうか」

「うん♪」

「ああ」

「うんっ!」

『やっと私も活躍できるかなっ! ふひひひっ♪』


 進む僕の後ろから、レイラちゃん達がやる気満々で付いて来た。


 後で気付いたことだけれど、アレだけのアンデッド達を相手に戦った結果……何気に無傷で突破していた僕達だった。



 ◇ ◇ ◇



 一方その頃、ルークスハイド王国内ルークスハイド王城。アリシア・ルークスハイドは、目の前に現れた存在に歯噛みしていた。唐突に現れたその存在は、王城内の兵士達をいとも容易く全滅させた。圧倒的実力を持ち、圧倒的な威圧感を持った存在……それがアリシアの目の前で不敵に笑っていた。

 とはいっても、その存在は兵士達の命を奪ってはいない。全滅させたといっても、それは全員気絶させたということだ。


 つまり、今回この存在にはルークスハイド王城の中で命を奪うつもりはないということだ。


 アリシアは、禍々しい気配を放つその存在に傍に置いておいた剣を抜き、構えている。前世がアリス・ルークスハイド初代女王であったこともあって、彼女にはSランク冒険者でかつて序列1位を取った存在の経験が宿っているのだが……それでも今の彼女は戦闘の為に身体を鍛えているわけでもなければ、幼い身体故にかつて最強を名乗っていたその経験を生かす事は出来ない。

 かつて最強を誇った冒険者である彼女は今、盗賊よりは多少強い程度の少女でしかない。まして、目の前の難敵に勝つなど、奇跡でも起きない限りは不可能だ。


「―――そう構えるな、今日はお前に1つ頼みごとがあって来たのだ」


 禍々しい気配を放つその存在は、そう言って口端を吊り上げた。


「頼みごと、だと?」

「ああ、とはいえ……拒否すればこの国を滅ぼすのも吝かではない」

「……ッ」


 実質拒否権は無し、ということだ。アリシアは、国民を護る為に抵抗する事は無意味と理解する。兵士達は全滅……しかも城の中に突然入ってきたという事は、外からの救援はあまり期待出来ない。アリシアは剣を収め、目の前に現れた敵―――魔王を睨みつけた。


「……用件は何だ」

「何、人間のお得意な争いの―――種を撒いてくれればいいだけだ」


 魔王は不敵に、嗤う。弧を描く口端と、愉快に歪んだ凶悪な覇気。何もかもを破壊し、何もかもを崩壊させ、何もかもを台無しにする為に動く、魔王のやり方。


「―――」


 そしてアリシアは、魔王の口から発せられたその言葉に……眼を見開いて絶句した。


魔王が動き出しました。

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