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レイス・ネス?

 僕達が走って行った先、そこには予想通り、察知通り、レイスがいた。以前会った時とは大きく違っている。雰囲気も、姿も。まるでワインを樽で浴びた様に血を滴らせ、髪も服も武器も肌もなにもかもを真っ赤に染め上げた風貌、ふらふらと酒に酔った様な佇まい、そしてなにより――狂気に呑まれ、血走った瞳。赤錆びた剣には、新しい血が付いており、彼の足下には斬られたんだろう一般人が血の海に沈んでいた。

 別にそのことに対して怒りはない、僕は名前も知らない他人を殺されたからといって怒る程、善人じゃないからね。ただまぁ、リーシェちゃんを殺された事に関しては別だ。ソレは勿論、許さない。


 『死神の手(デスサイズ)』に『病神(ドロシー)』を付与し、瘴気の薙刀を作りあげる。漆黒の刃は、僕の怒りに呼応するかのように黒々と闇の様だ。そしてそのまま『不気味体質』を発動させた。

 すると、レイスが僕達に気が付く。ゆぅらぁとゆっくりとした動作で、仰け反る様な姿勢で首だけを此方に向けていた。コキコキ、と首から小気味いい音を鳴らし、その口で三日月を描く。長く、舐め取った血液で真っ赤に染まった舌をべろりと出して、身体全体を揺する様にケタケタと笑いだした。


 殺人鬼―――レイス・ネス。


 その威圧感は全く衰えていないにも関わらず、何処か吹っ切れた様な……心の底から楽しんでいる様な感情を全面に押し出している。多分、彼は狂気に身を任せることで無差別殺人に更なる快感を得ているのだ。殺人の快感だけを貪り、常識も良識も全て捨てさって、存在の全てを殺しにのみ掛けたのだ。

 正真正銘、彼は殺人鬼だ。殺人者ではなく、まさしく殺しの『鬼』――人であることを捨てた人間の末路である。


「キヒッ☆ きひふくひひひひひゃひゃはははは!! 居た、イタ、いたいたいたいたいたァ!! みィつけたぞォ……クソアマァ……くふふひひひははッ……! ゾックゾクするねェ、この時をォ待ァってたんだぜェ……?」


 すると、彼は高らかに狂笑を上げてそう言った。武器を構えていた僕ではなく、僕の後ろにいるレイラちゃんを見て、掌を空に向けた状態で真っ赤な人差し指を真っ直ぐレイラちゃんに指し、そう言った。

 彼の瞳に、僕やドランさんは映っていない。最早、彼にはレイラちゃんしか映っていないのだ、レイラちゃんしか、眼中にないのだ。


「レィイラァ……ヴァーミィリオォン……! また殺し合いをしに来たぜェ……クフフヒャヒャヒャハハハッ!!」

「……あ、思い出した♪ あの時の不味い人だ♡」

「キヒッ☆ ……あの時の快感が忘れらんねぇんダァ……! 殺したくて殺したくてたまんねぇんだよ……! てめぇをォ!!」


 そういえば、レイラちゃんとレイスは1回戦ってるんだっけ……ニコちゃんと一緒に居た時の話だけどね。あの時は確かレイラちゃんの圧勝だったらしいけど……その時にレイスは何か変な扉開いちゃったのかな。

 ま、どうでも良いけどね。今は、とりあえずレイラちゃんじゃなく――


「おい、こっちを見ろ殺人鬼」

「ァア? てめぇ……キハハァ……!! てめぇあん時の怪物かァ!! きひひゃはははは!! 今日はナンダぁ!? 超シアワセな日じゃねぇの……! こいつとも殺し合いさせてくれっかぁ! キフハハハハヒャヒャヒャ!!」

「知るか、お前の都合はどうでもいいよ」


 どうやら、意志疎通出来る位には理性も残っているらしい。まぁ、ギリギリ出来てるって感じだけれど……とはいえ、僕の言葉遣いもいつもより少し荒くなっている。こうして思考が出来ていても、苛立ちは募るばかりだ。この甲高い狂笑が、正直耳触りだ。今すぐに斬り殺してやりたい。


 いや違うな―――そうしよう。


 僕は『病神(ドロシー)』の薙刀を横水平に振った。全力で振った。すると、瘴気の刃が形となって飛んで行く。レイスに向かって、まっすぐに。何処かの漫画であった様な技だけど、近距離武器で遠距離攻撃が出来るというのは、確かに便利だ。

 が、レイスはそれに直ぐ対応して見せた。まるでリンボーダンスの様に仰け反って、ソレを躱し、また上体を起こした。なんて柔軟性だ。


 でも、この飛ぶ刃も瘴気―――つまり、僕の支配下であり、操作可能だということだ。

 レイスの後方へと飛んで行った刃を操作し、Uターンさせて再度背後からレイスを狙う。速度は僕の操作だから自動飛来よりも大分遅いけれど、それでも鋭く薄いのなら殺傷能力は十分だ。首を落とすには十分な殺傷性だ。


「キヒッ―――無駄だってなァ!!」


 しかし、レイスは視線は僕に向けたまま迫りくる刃をその赤錆びた剣で斬り裂いた。驚愕に僕の眼が見開かれる。あの瘴気で出来た固形物の堅さは、僕の耐性値と同じ――それを後ろ手で斬り裂く? なんだその悪い冗談は。レイスの筋力は、既に僕の耐性値を超えているということか?


 ―――いや、違う。多分……あの武器だろう。赤錆びた、血に濡れているあの武器が原因だと思う。僕の『死神の手(デスサイズ)』にスキル付与の性質があったように、あの武器にも恐らく何かしらの性質が宿っているんだと思う。

 そうでなければ、まずあの赤錆びた状態の武器であの堅さの瘴気の刃を斬り裂くことなんて出来はしない。


「……レイラちゃん」

「なぁに♡」

「時間稼ぎ、頼んで良い?」

「勿論♪」


 ならば、あの武器の性質を見極める必要がある。幸いなことに、こっちには頼れる戦闘要員が僕の他に4人もいる。ああ、ノエルちゃんも入れれば5人かな?


「ドランさん、フィニアちゃん、ルルちゃんはレイラちゃんの援護」

(ノエルちゃんもね)

「あぁ、分かった」

「分かりました」

「りょーかい!」

『……ふひひっ♪ 時間稼ぎなら私だけで十分だと思うんだけどなぁ……ほら、動きを止めるだけなら簡単だし?』


 あ、そうだった。ノエルちゃんには脅威の拘束術である『金縛り』があった、天使をも縛り上げるあの力なら如何にレイスが強かろうと意味はないよね。というか、武器の性質見極める必要も無いよね。動き止めて、そのまま首を刎ねれば良いんだ。


「前言撤回、やっぱり僕だけでいいや。皆見ててよ」


 正確にはノエルちゃんとの連携戦闘だけど、まぁそこは関係ない。素直に殺し合いをさせてやる必要も無いし、寧ろ何もさせないで殺してやる方がレイスにとってはかなり絶望的な展開だろう。

 ということで、ノエルちゃん。金縛りよろしく、そしたら僕が『死神(プルート)』で恐怖与えた後に―――ちょっとした実験込みでぶっ殺すから。


『分かったよー……ふひひっ……♪ 無敵コンビだね!』


 君と組めば誰でも無敵だろそりゃ。

 そう思いながら、僕は『病神(ドロシー)』から『死神(プルート)』に切り替えた。レイスもどうやら僕のこの武器には警戒していたようで、話し合いが終わるまで待っていた訳ではなく、警戒して迂闊に踏み込めずにいたようだ。狂っていても、そこは流石のSランク犯罪者……殺し合いはしっかり理性的に立ち回り、狂気的に快楽を得るようだ。

 普通の人ならそれはそれは恐ろしいだろうね。でも、こっちは死神と幽霊が手組んでるんだ……僕達に恐怖を与えたいのなら―――まずは1回死んでから出直すことだね。


「あー……レイス」

「あ? ……あぁ、俺の事かァ? くふはひゃひゃ! 名前なんて忘れてたぜ……! きひふひふひゃあはははあはっ……! 何だ、化け物ォ?」

「勝負は終わりだ、殺し合いもしない」

「はぁぁああぁぁぁ? なに言ってんだヨぉおお゛お゛ぉぉい?」

「いや、終わりだよ。今から君が死んで、それで終わりだ」


 僕が言うと同時、ノエルちゃんがレイスに金縛りを仕掛ける。レイスの眼が見開かれた、剣を振るおうとしているけれど、ノエルちゃんの固有スキルの前には全く動く事は叶わない。レイス自身には、あの武器程の特殊な性質はないらしい。ステータスを覗いてみたけれど……能力値は以前より少し増した程度で、それほど異常ではない。


 まぁ――ステータスを覗いたおかげで、どうやら裏で手を引いている存在がなんとなく見えて来た。


 とはいえ、それは置いておいて……まずはこのレイスを片付けよう。僕は不気味な光を放つ大鎌を構えて、レイスに近づいて行く。動けないレイスは、僕に処刑されるのを、復讐されるのを、じっと待つことしか出来ない。

 だが、これは復讐の終わりじゃない。リーシェちゃんを実際に殺したのは、目の前のレイスで合っているけれど、その裏で糸を引いている者が居る。レイスの脱獄を手伝い、かつレイスの行動を操っている。


「さて、レイス君―――最後に聞いておこう、僕の泊まっていた宿で赤い髪の女の子を殺したよね?」

「っ……こんの……! 動けね―――ぶッ……!?」

「答えろよ」


 質問に応えないレイスに、僕は大鎌の柄で顔面を殴った。レイスの口端から血が滲む。


「っ……赤髪の女ァ? ……ああ、あの女かァ! キフヒヒヒヒャヒャ! ありゃ上玉だったぜェ……? きひゃひゃひゃひふひゃふふふはははは!! 死ぬ前にあの女がなんてったか知ってっかァ?」

「……」


 苛々するけれど、殺したくなるけれど、リーシェちゃんの最期の言葉は気になった。


「『―――弱い私を仲間にしてくれて、ありがとう』だってさァ!! 意味わっかんねェけど……あんときの女のツラァ最高だったぜェ!? 後悔と絶望と悔恨に苛まれながら、ボロッボロ泣いてたぜェ!! ギャハハハハハッッ!! キヒフフハハハハハアハハハハハハ!! 泣き声漏らさない様に口で手を抑えてるトコなんてかぅわいくてなァ!? 思わず抱き締めたくなっちま―――」


 僕が耐えられたのは、そこまでだ。気が付けば僕は、レイスの首に『死神(プルート)』の刃を突き立てていた。直接的に殺せる訳じゃない、殺す為の刃ではないから、直接斬って殺せる訳ではない。でも、こいつは殺さなきゃ駄目だ。リーシェちゃんの為に、なんて言う必要も無い―――僕がこいつの生を許せないから殺す。


 死神は怒った時、相手の尊厳を全て否定して命を奪う。ソレを、僕は体現する。


 ―――まずは、恐怖を与え


「キャァァァァアアアアアアアアアア!!!? ッキャアァァ! イヤァァァァ!!!?」


 ―――次に、苦しみを与え


「『病神(ドロシー)』……『接触感染(コンタクト)』」

「ウグッ……か、は……ぁぁあああ゛あ゛あ゛……!?」


 ―――そして、最期に死を与える


「『鬼神(リスク)』『城塞殺し(フォートレスブロウ)』」

「ヒッ………ッッ!?」


 最後に、僕は超攻撃特化スキルの2つを『死神の手(デスサイズ)』に付与した。出来上がるのは、圧倒的覇気と威圧感を放つ、まさしく鬼の持つ金棒の様な存在感を放った、巨大な刃。武器のジャンルとしては、『ハルバード』と呼ばれる武器に分類されるのだろう。

 しかし、それはハルバードと呼ぶには刃が巨大だった。大鎌の時よりも刃の部分が巨大。触れれば破壊されそうな程の力を秘めていた。


 その名も―――『武神(ミョルニル)


 その性質は……レイスの身体で見せる。そして僕はその巨大な刃を、レイスの身体へと叩き付けた。鋭い刃というよりは、叩き潰す刃というべきだろう。ハルバードの形を成してはいるものの、その実用途としては実質押し潰すハンマーや大槌の方が近い気がする。


 その威力は、レイスの身体に押し潰すと同時に地面を砕き、周囲を吹き飛ばす。思った以上の威力、僕が拳でやるよりも凄まじい威力が出ていた。あの時、魔王との戦いの時、レイラちゃんが時計塔を破壊した時以上の轟音を撒き散らし、衝撃波が周囲の建物を吹き飛ばしていく。


「―――」


 僕の声が、僕自身にも聞こえない。


 でも、ノエルちゃんはその声をちゃんと聞いてくれた。


 フィニアちゃんは、声を聞くまでも無く動いてくれた。


 レイラちゃんは、僕の意志を考えて動いてくれた。


 ドランさんは、自分の意思で僕と同じ事を考えてくれた。


 ルルちゃんは、僕が刃を振り下ろす前に動き出していた。


 僕が生み出した衝撃波で、周囲の建物が吹き飛んだが、5人が動いて周囲の人々の命を守っていた。ドランさんとルルちゃんは大きな瓦礫をそれぞれ大きな身体と凄まじい切れ味の『白雪』で叩き落し、レイラちゃんは瘴気の盾で視界に入る人々を包みこみ、フィニアちゃんは衝撃が広がらない様に障壁を展開し、ノエルちゃんは空に跳ね上がった瓦礫や木片を全て念動力の様な力で受け止めていた。


 本当に、頼もしい。結局、僕の『武神(ミョルニル)』で死んだのは、頼もしい仲間のおかげもあって、レイスのみ。僕の目の前に、レイスの死体はない―――跡形も無く吹き飛んだからだ。地面に、レイスの被っていた血と、彼自身の血による赤黒い染みだけが残っていた。


 衝撃波が収まる。


「―――はぁ……」


 音が戻ってきた。溜め息が、ヤケに大きな音として聞こえてきた。随分と周囲の様子が変わってしまった。フィニアちゃんが被害を抑えてくれなかったらちょっとこの辺一帯更地になってたんじゃないかな。


 とりあえず、地面に手をやり『初心渡り』を発動。衝撃波で割れた地面が元に戻る。そしてその辺一帯の建物も全て元通りに戻っていく。そして、救われた人々が外に出ている事以外は、全て元通りになった。

 そして、地面から手を離し、立ち上がる。目の前に、レイスの死体が現れた。どうやらレイスの死体も一緒に元通りになっちゃったらしい。まぁ良いか、この死体を持っていって報酬金を貰えば良い。緊急依頼中だしね。


『きつねちゃん、これからどうするの? 』


 すると、そこにノエルちゃんが話し掛けて来た。どうするか、ね……まだリーシェちゃんの復讐は終わってない。レイスの裏で手を引いていた奴をぶっ殺しにいかないと。


「リーシェちゃんの仇を討ちにいく」

『え?』


 裏で手を引いている奴、何故その存在が分かったのか―――それは、レイスのステータスにとある変化があったからだ。能力値でも、スキルでもない。変わっていたのは、レイスの存在自体だ。


 ◇ステータス◇


 名前:レイス・ネス

 種族:食屍鬼(アンデッド) 男 Lv91

 筋力:47820

 体力:39200

 耐性:80320

 敏捷:39500

 魔力:982100


 ◇


 そう、食屍鬼(アンデッド)……生ける屍となっていたのだ、彼は。しかし、あの幽霊屋敷で見かけたのは違って意識があった。つまり、グールやゾンビのような存在と違って、かなり異質な生ける屍だということ。そして、彼は投獄されていたにも拘らず食屍鬼(アンデッド)になった……ならば、恐らくそこにアンデッド出生の秘密がある。


 僕の予想としては―――


食屍鬼(アンデッド)は、何者かによって作られた存在だ」


 ―――食屍鬼(アンデッド)を作る何者かが、この世界には存在している。


食屍鬼(アンデッド)という魔族は、作られた魔族だった―――?

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