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捜索

 逆に、リーシェとドランはアイリスのいないルークスハイド城にやって来ていた。桔音が街中にいない以上、城に居るかもしれないと考えたのだ。ルルは外に出たが、2人は一応こっちを確認してから合流することになっている。

ということで、門兵にお目通りの許可を得て、アリシアと面会していた。


「アリシア王女様……面会、ありがとうございます」

「ああ、良い。桔音には城に入り、私達と自由に会う権利を贈っているし、お前達も私の恩人には変わらないからな」


 リーシェとドランはそう言うアリシアに対して深々と頭を下げた。桔音と違って、彼女達は結構堅苦しい態度を取る。アリシアはそのことに少し残念そうな表情を浮かべたものの、咳払いをして気を取り直す。

用件は桔音の所在についてだが、残念ながらアリシアもそれについては預かり知らない部分だった。


「昼頃、アイリス姉様もきつねについて聞いてきたが……何があった?」

「分かりません……ただ、突然姿を消しまして……」


 リーシェの言葉にアイリスの言葉も含めて鑑みると、アリシアも流石におかしいと思う。

 その思考を働かせて、桔音が何か危険なことに巻き込まれたのではないかと考えた。


 しかし、そうなるとその危険はかなりの危険度を誇るだろう。この国にとっても危険な存在かもしれない。


「……残念だが、今日は来ていない。だが、私達も何か力になろう……捜索隊を組んで、早急に捜索しよう」

「ありがとうございます!」


 リーシェ達にそう言った後、アリシアはアイリスも同時に探し出して連れ戻さなければならないと考え出している。

 この国に桔音をどうこう出来る相手がやって来ているとなれば、アイリスの身が 少々危険だ。巻き込まれでもすれば、生死を分かつ可能性が出てくる。


(姉様のことだから大丈夫かと思うけれど……安全を確保するに越したことはない)


 そう思いながら、アリシアはとりあえずリーシェ達を帰した。アイリスの王女がいれば、保護しておいて欲しいとも言ってあるので、なんとか見つかって欲しいものだ。

 すると、突然舞い込んできた大事に溜め息を吐いたアリシアの下へ、リーシェ達と入れ替わりで入ってきたオリヴィアが近づいてきた。そして、無言でアリシアを背後から抱き締める。


「姉様……どうかされましたか?」

「んにゃ? 妹がちょーっと疲れた顔をしていたからな」


 アリシアは思う、相変わらずこういう時にはいつもと違って気を利かせる姉だと。やはりこういう一面を持つからこそ、人当たりが良く、そして一緒に居て心地いいのかもしれない。これもある意味、王の資質といって差し支えの無い才能なのだろう。

 抱き締められ、背中に感じる体温が心に安らぎをくれた。


「ありがとう、お姉ちゃん」

「待て、今のもう1回!」

「しません」


 その御褒美も兼ねて、1度だけお姉ちゃんと呼んであげると、やはりいつも通りの姉だった。



 ◇ ◇ ◇



 その頃、ルルとアイリスは森の中で桔音探しをしていた。

 話は弾んではいないようで、無言ではあるけれど、そこに気まずさはない。お互い人見知りでそれほど話さない性格ゆえか、黙っていられる方が気が楽みたいだ。


「……」

「……」


 ひたすらに沈黙が続く。

 ざりざりと地面を踏み歩く音だけが続く。2人は一応何か話さないとと思ってはいる。いるのだが、片や引きこもりの王女ニート、片や奴隷生活を送り会話自体してこなかった獣人少女。


 会話が成り立つはずがなかった。


「……あの」

「は、はい?」

「いえ……なんでもないです」


 話し掛けたアイリスだが、ルルに聞き返されると中々二の句を言えないでいる。


「えーと……そういえば、お名前は何と言いましたっけ?」


 すると、ルルが気を利かせて話し掛けた。そういえば名前を聞いていなかったなぁと思ったのだ。


「あ、アイリス!……です」

「アイリスさん、ですか」

「は、はぃ……」


 アイリスは、王女という身分を隠すことにした。王女と知られると、また面倒な展開になりそうだからだ。言い寄られても困る。

 にも関わらず、ルルはその正体を簡単に見破った。


「あ……もしかして、第2王女様ですか?」

「えっ!? どうして!?」

「いえ……きつね様が言っていたので」


 ルルは桔音が王女の話をしていたということで、アイリスの名前も知っていたのだ。

 だから、名前を聞いた時ピンと来たようだ。まぁ獣人の勘も働いたのだろうが。


「きつね……?それってきつねさんですか?」

「え?ご存知なんですか……?」


 すると、今度はアイリスがルルの言葉から知っている言葉を見つけた。

 お互いに顔を合わせて、驚いたような間抜けな顔を見つめ合う。


 と、噴き出す様に2人とも笑う。互いの顔がおかしかったようだ。


「あははっ……探していたのは、きつねさんだったんですね」

「はいっ……ふふふっ、王女様とは思いませんでした」


 どうやら緊張は解れたようで、2人の口調に不安げな色は消えていた。

 歳も大きく離れた2人ではあるが、どこか似た雰囲気を持っている故に打ち解けるのは早そうだ。もっと言えば、この2人はどちらも恋愛的な好意とは違って、懐いているという意味での好意を持っている。一応そういう部分でも通じ合うものがあるのだろう。

 そして、一頻り笑った2人はまた歩き出す。今度は2人共桔音という共通認識を持った状態で探しだしたのだ。


 すると、先程までは一向に会話がなかったというのに、2人は桔音という共通の話題を手に入れたことで会話を行うことが出来るようになっていた。

 やれ、桔音との出会いがどうだとか、普段はどうしているだとか、最近ますます不気味さが増しただとか、約束があったけど来なかっただとか、そういう話をしている内に、お互いの事を知る切っ掛けにもなっていった。


「へぇ、そうなんですか?」

「はい、きつね様は私の大切な家族なんです」


 2人の雰囲気はどう見ても友人と言って良い。というか、ルルは桔音達と一緒に居た時よりもなんだか落ち着いた時間を過ごしている様な感覚に陥っていた。

 それは別にアイリスの方が居心地良いというわけではなく、桔音達といる時はボケとツッコミの応酬に加えて、数々の危険が多かったから、こういうただの会話がゆったりしている様に感じているだけだ。


「ってあら……今何処にいるんでしょう?」

「あ……と……迷っちゃいました……」


 すると、余りに会話が楽しかったのだろう。2人は纏めて迷ってしまった。


「あ……でも、この匂い……近い」

「え?」

「きつね様が、近くにいます」


 だが、その代わりにルルの鼻が桔音の匂いを捉えた。

 ルルはその匂いを辿って歩きだし、アイリスもその後を追った。ガサガサと草木を掻き分けて進んでいく。すると、ぐらりと何か脳を揺らす様な微妙な衝撃が走る。ルルはちょっとだけその衝撃に足下がふらついたが、直ぐに気を取り直して進む。アイリスはそんな衝撃を受けた様子はないが、ちゃんと付いて来ていた。


「きつね様!」


 そして、一際匂いの強い場所に辿り着いた時、ルルは桔音の名前を呼んだ。すると、最後の草木を掻きわけた先に―――


「ルルちゃん?」


 ―――桔音と、フィニア、そしてレイラがいた。本当はノエルもいるのだが、ルルには見えていない。


「きつね様、ようやく見つけました」

「あー……うん、ルルちゃん来てくれたのは嬉しいけど……なんでアイリスちゃんも居るの?」

「きつねさん、お城に来るって言ったじゃないですか……約束は破らないで欲しいです」

「えー、それだけの理由で来たの?」


 引きニートも無駄な所で根性見せるんだなぁ、とは言わない桔音である。そもそも、桔音も此処にアイリスが来るとは思っていなかった。何故なら、アイリスは知っての通り引きこもりの人見知りボッチだからだ。わざわざ外に出てくるなんて思っていなかったのだろう。

 とはいえ、桔音にとっては助かったことだろう。外からのアプローチがやってきたのだから。


「まぁいいや……ルルちゃん、此処から城に帰りたいんだけど……此処にどうやってきたのか教えてくれる?」

「え? ……いや、あの……迷ってたら此処に……」

「……」


 まだ、助かったとは言えないのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇



 その瞬間を見ていたのは……桔音達を封じ込めたループ空間を作り上げた張本人、ヴィルヘルムという魔族の女だ。彼女はやはり、死んでいなかった。

 だが、何処で、どのように、どんな姿で見ているのかは、誰にも分からない。彼女は誰にも認識出来ない様な場所から、誰にも認識出来ない様にその光景を覗いていたのだ。


 そしてルル達が桔音達の下へと辿り着いた事に対して、驚愕の色を持った感想を漏らす。


「……どういうことかしら……? 何故あの空間に入れた?」


 驚愕の理由は、ルルとアイリスが桔音達を閉じ込めた空間に入り込めたこと。あの空間はそもそも人に認識出来る様な代物ではない。まして、中にいる桔音の匂いなど漏れる筈がないし、匂いを嗅ぎ取ったとしてもそこへ辿り付ける筈も無い。

 なのに、ルルとアイリスはあの空間に入り込んだ。それも、いとも簡単にだ。何か特別な力が働いた様な感覚はなかったし、あの2人が何かした様子も、桔音が何かした様子も無かった。なのに、何故彼女達はあの場所へと入り込めたのだろうか?


 すると、そこでふと思い出す。ルルとアイリス……2人の内ルルの方は空間に無理矢理入ったからか意識が揺れるような現象に陥っていたが、アイリスの方は全くなんの影響も受けていなかったことを。


「あの銀髪の子……かしら?」


 ヴィルヘルムはアイリスに目を付ける。何があったのかは分からないが、アイリスに何かあると考えたのだ。どういう力を持っているのか、意識的に使ったのか、無意識的に使ったのかは分からないが、それでも自分の力を使って作った空間を突破した力を持っているのは脅威だ。

 下手すれば、彼女は自分の存在を脅かす存在なるのかもしれない。


「……あの子、先に潰しておこうかしら」


 ヴィルヘルムはそう呟いて、桔音に話し掛けているアイリスにジトっとした視線を向けた。



皆様遅れてすいません! 大丈夫と言っていただき、とても嬉しかったです!

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