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帰還した桔音

皆様の応援のおかげで、1000万アクセス突破!!!ありがとうございます!

 気が付けば、僕は窓際2列目最後尾の席に座っていた。見た事のある光景、見た事のある生徒、僕と同じ学ランを着た同年代の少年達と、セーラー服を来た少女達。どう見ても此処は、僕が2年と3ヵ月程を過ごした学び舎の、僕が在籍していた教室だった。僕は目を見開いて驚く……先程までの事は全て夢だったとでも言うのだろうか? 異世界に言っていたことも、フィニアちゃん達に会ったことも、果ては死んでしまったことも、全て嘘だった―――?


 椅子から立ち上がると、クラスの生徒達から驚愕の視線が送られる。見ると、僕の机の上には白い花が活けられた花瓶が置いてあった。まるで、死んだ生徒に対する対応のされた机だ。ということは、僕はちゃんと死んだってことだ……でも、以前と同じ教室、以前と同じ生徒達、以前と同じ―――……ならば、ここにはいるんじゃないか? 彼女が……篠崎しおりが。


「え……き、きつね……さん!?」


 聞き慣れた声がした。扉の方から、フィニアちゃんとは違う……少しだけ落ちついてて、でも今は少し驚愕の混じった声が。視線を移動させると、そこにはあの頃と変わらぬ姿の、しおりちゃんがいた。僕の眼が更に見開かれる。

 どういうことだ、しおりちゃんがいる。いや、それは良い……何故僕はこの世界に戻って来れた? 何が原因だ? どうして、何がきっかけで……?


「きつねさんっ!」

「っと……しおり、ちゃん……」


 困惑していると、しおりちゃんが僕の胸に飛び込んできた。思わず抱き止めると、肩が震えている事に気が付いた。じんわりと胸が温かくなる。どうやらしおりちゃんは泣いているらしい。

 でも、僕にはこの再会を喜んでいられる心境ではなかった。何せ、僕はちゃんと死んだ筈なんだから……死んで、異世界に行って……色々な出来事を乗り越えて……いきなり元の世界に戻ってきた。状況についていけない。

 

 すると、しおりちゃんは僕の困惑に気が付いたのか、顔を上げて僕の瞳を覗きこんできた。


「……きつねさん、片眼が赤いけど……どうしたの? 病気か何か……大変! 病院に行かないと……!」

「あ、ああ……大丈夫大丈夫、病気じゃないから」


 片眼が赤い……てことはますます異世界に言っていたのは嘘でも夢でもない。この左眼はレイラちゃんから貰った魔族の目だからね。それに、首筋に触れると少しぬるっとした……先程までレイラちゃんが舐めていた場所だ。ということは、ますますこの状況が現実味を帯びてくる。


 ―――本当に、元の世界に帰ってきた……?


「きつねさん?」

「……しおりちゃん、僕が死んでから……どれくらい経った?」

「え? え、えと……2ヵ月位かな」


 僕が異世界で過ごした時間と大体一緒だ。時間の流れは一緒だったらしい。

 なんにせよ……僕はどうやら元の世界に戻って来たらしい。そうとなれば、まずは言うべきことがあるね。折角、僕の帰還を喜んでくれているんだし……僕も会いたかったしね。


「……ただいま、しおりちゃん」

「っ……おかえり、きつねさん……!」


 教室の後ろの方で、僕達はまた、お互いの身体を強く抱き締めあった。



 ◇ ◇ ◇



 騒ぎになるといけないので、僕は一旦家に帰ることにした。しおりちゃんも一緒に行くと言っていたけれど、彼女にはちゃんと授業を受けて貰った。約束もあるし、帰ったら色々と話をしようと言って僕だけ帰ってきた訳だ。まぁ、教室内は十分パニックになっていたけどね。


 そして、久々に帰ってきた僕の家。母親らしき人と、5歳の頃から高校3年生まで過ごした僕の家だ。玄関の鍵は開いていたから、構わず中に入る。ただいまの挨拶はしなかった。僕にとっては、安らぎを得られる家では無いからね。玄関に入ると、ゴミで溢れていた。まぁ、僕がゴミ出しをしていたし、2ヵ月も放っておけばこうなるか。

 すると、リビングの方から何やら声が聞こえた。靴を脱いで、リビングの方へと向かう。


「んっ……はぁ……良いわね、貴方……♡」

「もっと、よがらせてやるよ」

「あはぁっ……!」


 この年で、見たくも無いものを見てしまった。僕の母親らしき人が、見たことも無い男とソファというリングでファイトしている。確かにコレは幼少期に見てたらトラウマものだね。吐き気がする。

 とりあえず、2人の営みは映像的にも音声的にもシャットアウトしてリビングを見渡す。ゴミ塗れ、主にティッシュが多い。それに、営みで使ったのだろう使用済みの風船の様な避妊具がそこらじゅうに転がっていた。うん、臭いし汚い。


 これ以上は精神衛生上よろしくないので、僕は階段を上がって元々僕の部屋だった部屋に入る。なんとも意外なことに、この部屋は綺麗だ。僕がいなくなった日と変わらずに、時間が止まった様にそこに空間として存在していた。そして、僕が電気を付けて中に入ることで、この部屋の時間がまた動き出す。

 この部屋にあるものは全て僕が働いて買ったモノだ。年齢偽ってバイトするのは中々骨が折れたよ。


「ふぅ……」


 敷きっ放しの布団に腰を下ろして、どさっと寝っ転がる。うん、やっぱり自分の家はそこそこ落ちつくものだ。僕の場合この部屋のみ落ちつくんだけどね。パーソナルスペースっていうの? この部屋だけは自分の物だからね、やっぱり他の場所と違って落ちつくんだろう。

 

 さて、一頻り落ちついたところで……少し考えてみる。どうして元の世界に帰って来れたのか、本当に帰って来れたのか。

 一応、さっきの様子から見るとしおりちゃんも他の生徒達も、僕がいきなり現れて驚いた様子だったし……それに、この家も時間が経っている形跡があった。あのゴミとか、僕が死んだ後に作ったんだろう男との関係とかね。あの女はどこまでも堕ちてくなぁ……いずれ麻薬にでも手を出すんじゃないだろうか……いや、もう出しているかもしれない。もしも決定的証拠が出てこようものなら、いずれ警察に突き出すから良いけどね。

 僕は赤い左眼を左手で抑えながら、頭に掛かっていた狐のお面を外す。そして、左眼がそのままということは、手に入れたスキルの数々も使えるのだろうか? そう思いながら、瘴気を出してみようとしたけれど、出なかった。どうやらスキルの類は使えなくなっているらしい。


 となると……こっちはどうだろうか?


 そう思い、僕は勉強の為に購入したそこそこ重いデスクを持ち上げた。以前は持ち上げることなんて出来なかったけれど、今は軽々と持ちあがった。重さをあまり感じない……ってことは、ステータスは引き継がれているらしい。デスクの上にあったシャーペンで腕を突き刺してみたけれど、薄皮1枚ですら貫けなかった。耐性値もちゃんと引き継がれている様だ。

 でも、この世界でこのステータスは良いのだろうか? 正直この世界でやっていくには過剰なステータスだと思うんだけどなぁ……まぁ損はしないから良いけどさ。


「……そういえば、フィニアちゃん達はどうなったんだろう……レイラちゃんも、あの状態のまま置いて来たけど他の人に手当たり次第喰らいかかったりしてないかな?」


 ちょっと不安だけど……別れを言わないで来ちゃったのはちょっと心残りだ。帰れるのなら、パーティの面々は勿論、お世話になった人達にも挨拶をしたかったな。


「ん? ……これは」


 ふと見ると、部屋の隅に最近手に入れた黒い棒が立て掛けてあった。一応こっちに帰ってくる直前レイラちゃんをおんぶする際に、レイラちゃんのお尻を支える部分として使っていたけど……一緒にこっちに来てしまったらしい。

 近づいて、手に取る。最後まで使い方の分からない棒だったなぁ……コレ。というかこれ、こっちの世界じゃ未知の物質なんじゃないのかな? バルドゥルの甲殻だったわけだし。


「……あんまり外に持っていかない方がいいかもね」


 まぁ見た目は棒だから大丈夫だろうけど、念の為にね。

 僕は棒を持ったまま再度布団に寝そべる。薄っぺらい布団だけど、それでもなんとなく落ち着く。帰って来たんだ、本当に……良かった。これでやっと……約束が果たせる。


 そう思うと、少しだけ睡魔に襲われた。安心感からか、少し精神的な疲れがドッと来たのかもしれない。でも、もう良いんだ……今日はこのまま眠ってしまおう。この世界には、魔王もいなければ、勇者も使徒も、天使も魔獣もいない。もう僕が命を掛けて戦う必要はないんだ……安心して、眠ってしまおう。


『―――ん……! ―――き―――!』


 うとうとと、まどろみの中へと落ちていく中で……僕はなんとなく聞き覚えのある様な声を聞いた気がした。でも……沈んでいく意識はもう、止まらなかった。



 ◇ ◇ ◇



 その後目が覚めると、眠っている僕の真横に母親らしき人が居た。物凄く疲れた様子だ。身体を起こし、頬を掻きながら声を掛ける。


「おはよう、クソババァ。反抗期っぽい演出だけど、どう?」

「……アンタ……なんで此処に居んのよ……!! アンタは死んだ筈でしょ……!!」

「あはは、ひっでぇ顔。ゴキブリみたいな顔してるよ? さっきまで身体を重ねていた男の人は?」

「ッ……見てたのね……どういうことか説明しなさい……なんでアンタがまだここにいるのか……早く!!」


 窓から空を見ると、もうそろそろ夕日も落ちてくる時間の様だ。しおりちゃん達も授業を終えて帰ってくる頃だろう。ギャーギャーとうるさい母親らしき人は放置して、すくっと立ち上がる。手に黒い棒が握られたままだった。まぁいいか、ついでだし持ってこう。


「ちょっと!」

「あーうるさいうるさい、息子の反抗期だから生温かい眼で見守っててちょうだい」

「ハッ……アンタみたいな屑野郎の遺伝子の入ったガキが反抗期? もう1回死ねば?」

「あ、僕の父親分かった? ぷふー、その屑野郎に無理矢理犯された元援助交際娘が何か言ってるけど、反抗期だからそれっぽく言っておくね―――うっせぇババァ、勝手に部屋に入ってくんな」

「なっ……!?」


 以前は全く言い返したりしなかったからね、いきなり反抗した僕に驚いている様だ。まぁ、大分すっきりしたから良いとしよう。

 すると、丁度インターフォンがなった。しおりちゃんがやってきたようだ。部屋を出て、階段を下りた。そして玄関で靴を履いて、扉を開ける。するとそこには予想通り、少しもじもじとした様子のしおりちゃんがいた。


 自然と笑みが零れる。こういう普通な光景が、本当に掛け替えのない、僕が欲しかった光景だ。


「いらっしゃいしおりちゃん。改めて、ただいま」

「えへへ……こんにちはきつねさん! おかえりなさい!」


 僕としおりちゃんは、昔と何ら変わりない自然体で、笑い合った。


…………!!

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[良い点] なんかもう好き [気になる点] 続きは??? [一言] 続きは???
[気になる点] 誤字発見 ますます異世界に言っていたのは夢でも嘘でも 異世界に行っていた ではないですかな?
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