王女との対談
さて、その夜のことだ。
かなり早い時間にお昼寝したということで、僕の疲労もかなり回復したようだから、アリシアちゃんの所へ行こうと思う。多分この時間なら会えるだろう、夜に来てくれって言ってたし。
城へ行くということで、リーシェちゃんとドランさん、後ルルちゃんが宿に残ることになった。リーシェちゃんとドランさんは、王族の人相手だとやっぱり恐縮しちゃうらしいから、強制ではないのならと遠慮したんだよね。ルルちゃんは身体がまだロリのままだから、この時間になると眠くなっちゃうみたい。僕達が宿を出る時にはもうベットでおねむだった。
という訳で、お城へ連れていくのはフィニアちゃん、レイラちゃん、そしてノエルちゃんだ。一応棒も持っていく。最近ずっとこれを持ってるんだけど、かなりしっくり来るから持ってるのを忘れてたりするんだよね。
とはいえこれも僕の武器だから、早い所使い方を知りたいんだけど……スキルとの組み合わせも悪いし、せめて刃でも付いていれば分かりやすいんだけどなぁ。強くなるには必須だからね。
ああそうそう、強くなると言えば、レイラちゃんがあの屋敷の一件以来暇があると瘴気を拡散させたり凝縮したりしてるんだけど、アレは何かの練習なのかな? まぁ飽きたらすぐに止めるんだけどさ。主に僕が近寄ると条件反射並に抱き付いてくるから、そういう時に止めるね。
しかしまぁ、パーティが強くなるんであれば良いけどね。でもレイラちゃんが強くなったらなったで面倒臭そうだなぁ。主に僕の負担的な意味で。
とまぁ、そういう訳で、僕の斜め後ろで両手の中の瘴気を弄んでいるレイラちゃんを引き連れながら、僕達は城へとやってきた。門兵はどうやら僕達について話を聞いていたらしく、やってきた僕達を見て直ぐに丁寧な反応を返してくれた。
「お待ちしておりました、きつね様とそのパーティの方ですね? アリシア第3王女がお待ちです」
「うん、案内よろしくね」
レイラちゃんがさっきから無言だ。彼女の特性上、夜だから力が高まっている訳だし、集中力も上がっているのかもしれない。現に赤い瞳が凄まじい集中力を放ってるのが分かる。まぁ、最初のステラちゃんとの一件以来レイラちゃんの欲望爆発症状は起こらなくなったから、デメリットが消え他能力向上と言えるかもしれない。
まぁでも、レイラちゃんの気分が昂ると同じ様な症状が起こるけどね。あと、長い間僕と触れ合っていないと禁断症状みたいな感じで同じ症状が出る。耐性値が高い今でこそ、あまり危険視してないけどさ。
と、そんなことを考えながらもうすっかり馴染みのレッドカーペットの上を歩く。黒い棒で床をコツコツと叩きながら、何気なしに門兵の後ろを付いて行く。
もう見慣れた城内だけど、改めてみるとやっぱり広い。この廊下の一部だけで僕達の泊まっている宿の一部屋並の空間がある。
「きつねさん、すっごいねー……綺麗!」
「あ、フィニアちゃんは初めてだっけ? まぁ広すぎるのも不便そうだけどね」
「でもお城ってロマンチックな部分があるよね!」
「あはは、そうだね。お伽噺の中の存在だったからねー、実際に王女様が住んでいる様なお城は」
フィニアちゃんと会話を楽しみながら、レッドカーペットを歩く。アリシアちゃん……実際は初代女王アリス・ルークスハイドの転生者な訳だけど、しかしまぁ彼女みたいな王女様が存在していて、僕みたいな一般庶民が友人になれたっていうのも、余り現実味の無い話だ。地球じゃ絶対にあり得ない出来事だからね。
そう考えると、このファンタジー世界に来て僕は刺激的な生活を送っているのかもしれない。妖精であるフィニアちゃんに出逢ってから、魔王や勇者といったファンタジーの王道的存在とか、冒険者とか騎士とか王女とか、お伽噺の中にしかいない様な存在とか、地球に居た頃では考えられない刺激的な人生だ。
まぁその代わりに命懸けだけどね。下手したら簡単に死んじゃうからねぇ。
「それではこちらです」
「あ、うん。ありがとう」
すると王座の間に辿り着いたようだ。いつ見ても絢爛豪華な扉だなぁ。
門兵の人が扉を開き、横に逸れて僕達に頭を下げた。僕はそんな門兵の目の前を通り抜け、王座の間に足を踏み入れる。王座には、アリシアちゃんが座っていた。そして、その両隣にアイリスちゃんとオリヴィアちゃんが立っている。この国の誇る王女姉妹達が揃い踏みだ、ありがたやーありがたやーとでも言うかな?
まぁ、未だにアイリスちゃんはオドオドと視線を彷徨わせているけどね。やっぱりまだ慣れないらしい。男性嫌い……というよりは人とのコミュニケーションが極端に苦手というべきかな?
無駄に広い空間を歩いて、僕はアリシアちゃん達と会話するのに適当な距離まで近づいた。レイラちゃんは相変わらず瘴気を弄っている。拡散させては凝縮して、ちょっとして爆発と集束が起こっている様な光景だ。
「久しぶりだな、きつね。屋敷の件、感謝してるぜ」
「うん、久しぶりだね、オリヴィアちゃん……あと、アイリスちゃんも」
「ひゃいッ……は、はい……先日は、ど、どうも」
まずはオリヴィアちゃんとアイリスちゃんが挨拶をしてくれた。オリヴィアちゃんはともかく、どうやらアイリスちゃんも僕の事は話に聞いている様だね。屋敷の件の話を切り出したオリヴィアちゃんに、疑問の表情を浮かべたりしなかったことから、屋敷の一件の全容に付いても知っているんだろう。
それに、報酬で貰った感謝状にアイリスちゃんの名前もあったしね。
「それで、今日はどういう用件だ? きつね」
「うん、実はアリシアちゃんに話があって来たんだ」
「私に?」
「ああ、あと……アイリスちゃんにもちょっと」
「えっ……」
正確には、初代女王アリスの知識と、この城の中の書籍に、だけど。それにはアリシアちゃんに話を聞くことと、アイリスちゃんに書籍の案内をして貰うしかない。
アイリスちゃんと親交を深めるのは、あの拷問趣味に触れてしまいそうで怖いけれど、あの図書室について最も詳しいのはアイリスちゃんだろう。なんせ、図書室でご飯食べてるくらいだしね。寧ろあそこで暮らしてるんじゃないのってくらいだ。
すると、オリヴィアちゃんの視線がとても疑り深い物になった。シスコンモードに入ってるなぁ、アレ。私の妹に手を出す気か? とでも言わんばかりの疑惑の目だ。
「おいきつね、私の妹たちに手を出す気か?」
「本当に言っちゃったよ。出さないよ、本当に話を聞きたいだけ」
「ッハハハ、冗談だ。これでもお前に関しては信用してんだ」
なら言うなよ、とは言わない。
オリヴィアちゃんはこういう部分があるから付き合い易いんだしね。正直、3人共王女っぽくはないよね。オリヴィアちゃんは庶民的だし、アイリスちゃんは人見知り、アリシアちゃんに関してはもう女王の貫録出ちゃってるからね。王女らしい王女様いないの? もっとこう……お淑やかで言葉遣いも華やかな子は。
そういう意味ではアイリスちゃんは惜しかったね、拷問趣味がなければ文句はなかった。多少人見知りでも、そこは妥協の範囲内だろう。
「ふむ……それなら、きつねの時間が許すのなら図書室でアイリス姉様と話をするといい」
「えっ……あ、アリシア……私、この人と2人きり……?」
「姉様もそろそろ人と話す能力を身に付けた方が良いですよ。きつねは多少捻くれているけれど、悪い奴ではないですから」
「……………………う、うん……頑張る」
すっごい間があったな。そんなに人とコミュニケーションとるのが嫌か? その年でこの状況はちょっと不味いって……将来結婚するどころか、引きこもりで人生終わる気がするよ。最終的には性格がおかしくなって、毎日毎日囚人を拷問し続ける人になりそう……怖いな!
『きつねちゃん……この子胸大きいよ? 大きいよ?』
(ごめんって……別に巨乳好きって訳じゃないって何度も言ってるじゃん)
なるほど、アイリスちゃん……隠れ巨乳か。
『……きつねちゃん?』
(はぁ……今度何か1ついうこと聞いてあげるから。僕の出来る範囲でだけど)
『……約束だからね!』
そんな約束をしたら、ノエルちゃんは途端に機嫌を直した。切り替えは早いタイプの幽霊らしい。
「まぁそういう訳だ。明日の午前中なら私も時間が空いているから、今日の所はアイリス姉様に話を聞くと良い」
「うん、ありがとう」
「それじゃあ私はもう寝るよ。これでもまだ7歳なんだ、早寝早起きは心掛けないと……ふわぁ……」
どうやらアリシアちゃんもルルちゃん同様おねむの様だ。まぁ中身が300歳超えてるとしても、身体は7歳だからね、夜更かし出来るほど身体も丈夫ではないってことだね。
すると、アリシアちゃんは立ち上がり、寝惚け眼を擦りながら王座の間から出て行った。
「あ、アリシア! お姉ちゃんと一緒に寝ようぜ」
「はぁ……一緒に寝たいのは姉様でしょう? ほら、行きますよ」
「あっはー、ツンツンしてくれないのはアレだけど、デレ方でこうも萌えないのかー……」
まぁ、形容し難い表現ではあるけれど、オリヴィアちゃんもアリシアちゃんの後ろに付いて行って出て行った。なんだろう、駄目なタイプの姉だ……妹も中身は姉より年上だから、妹的なデレの可能性がないのか……あれだね、姉妹の立場が逆転してるタイプの奴だ。
「……」
「そ、それじゃあ……あの、図書室へ案内します……」
「あ、うん……よろしく」
気付けばアイリスちゃんと2人きりにされてしまった。いやまぁノエルちゃんやフィニアちゃんもいるけどさ。凄い気まずいんだけど、どうすればいいんだろう。
とりあえず、僕達の入ってきた扉から出ていくアイリスちゃんの後ろを付いて行く形で、僕達もこの広い部屋を出ていく。向かう先は図書室で、アイリスちゃんには色々と異世界に関する関連書籍を紹介して貰わないとね。
会話が続けばいいけど……不安だ。まぁ最悪、拷問趣味の方へと話が進まない様に気を付けるとしよう。流石の僕も、耐性値が高いとはいえ拷問に掛けられるのは嫌だからね。
さて、本格的に第2王女と関わっていきます。