表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/388

一時の休息

 元の世界へ戻る為の手掛かりとして、全てのキーパーソンはやはり異世界人だろう。僕は僕以外の異世界人として、勇者の存在を知っているけれど、ノエルちゃんの居たあの屋敷の地下施設には1人の異世界人が居た。彼が勇者ではないとすれば、勇者以外の異世界人は、なにも僕が初めてという訳ではないのかもしれない。

 となれば、異世界を渡る方法として勇者召喚以外にも何かがあると見ても良いだろう。寧ろ、僕みたいな例もあるんだ、死んで転生した奴も居るのかもしれない。


 すると、自然と話を聞く相手は定まった。そう、およそ300年前に生きていた人物に聞けばいいんだ。初代勇者の歴史を実体験として知っている人物に。つまりは、アリシアちゃんだ。第3王女にして、初代女王の魂を持った僕とは違った意味での転生者。恐らく現在を生きる人々の中で最も過去に詳しい人物だ。


 とはいえ、昨日の今日で城に行くのも結構行きづらい。だから今は少しだけ休憩することにした。

 僕達はようやくパーティとして機能出来るんだ。幾つか依頼を全員で達成したとはいえ、それも格下ばかりだ。今度は少しだけ強い魔獣を倒しに行くのも良いし、迷宮に挑むのも悪くはないだろう。


「なぁ、そういえばきつね。俺達のパーティってなんて名前なんだ?」

「名前?」


 そんなことを考えていると、全員が集まった宿の一部屋の中でドランさんが不意にそう言った。


「5人以上所属しているパーティは、そのパーティに名前が付けられるんだ。全てのパーティをあの人のいるパーティ、とかそういう感じで把握することは出来ないからな。パーティに名前があるとギルドの方が把握し易いんだ」


 成程。パーティに名前か……それを考えるのに時間を費やすのも悪くないかな? 名前ねぇ……僕のパーティは色モノ揃いだからねぇ、そういう一面を表現した名前だと良いな。正直、カッコいい名前にすると中二病を知っている僕としては少し遠慮したい部分がある。

 となると……そうだなぁ。


「名前かぁ……ドランさんはどんなのがいい?」

「俺か? そうだなぁ……『死神の隊列(デス・レギオン)』とかどうだ?」

「却下」


 死神って絶対僕のことだろ。ぶん殴るぞ木偶の坊め。

 まぁドランさんの案は最終的に何も思い浮かばなかったらの案にしよう。でも、なるべくこの案は通したくないから、もっと良い案を出そう。

 というわけで、他のメンバーにも色々聞いてみる。


 レイラちゃん。


「『きつね君大好き隊』♪」

「拒否」

「却下ですらないの!?」


 リーシェちゃん。


「……『夢舞台(ドリームステージ)』とか?」

「候補としては良いね」

「…………いや、やっぱり駄目だ。恥ずかしい」

「あ、そう……」


 ルルちゃん。


「えと……『きつねと妖精(フォックスフェアリー)』……とか……どうでしょうか……?」

「うん、候補の1つに入れておこうね」

「ん……えへへ」


 ノエルちゃん。


『ふひひひっ♪ ……『危険な帰り道(リターントリップ)』とかどう?』

(言い得て妙だなぁ……まぁ候補の1つとして入れておこう)


 フィニアちゃん。


「『死神の呪詛(デスフェイバー)』!」

「読み方を直訳すると……死神の好意……か。うん、これも言い得て妙だな」


 さて、全部の案を聞いてみて、正直碌な印象の無いパーティだということが分かった。特に僕の印象が死神とか危険とかそういうモノに好かれているんだという感じなのも分かった。なんだか無性に泣きたくなってきた。

 うーん……そうなると、僕的にはフィニアちゃんの案が凄く的を得ている気がする。死神の呪詛、うん良いんじゃないかな? 正直僕的にはその印象は払拭したいところだけど。それをするには、僕は死神に愛されてるかの如く危険に見舞われるからね。


 レイラちゃんから始まり、勇者、使徒、魔族、殺人鬼、魔王、幽霊、天使……あはは、Sランクのオンパレードだぜ。正直僕はこの面々と戦って来て生き抜いてきたから、もう何が来たところで大抵のことなら切り抜けられる気がする。僕本当に死神に愛されてんじゃね? わぁこわーい。


「まぁ、そうだね……フィニアちゃんの案で行こうか、字は変えるけど」

「やったぁ!」

「ということで、僕達のパーティ名は『死神狐(デスフェイバー)』で」

「俺らは何処へ向かってるんだろうな……」

「不気味方向に爆走しているんじゃないか?」


 やっと決まった僕達のパーティ名に、ドランさんとリーシェちゃんがガクッと肩を落としてそんなことを呟いていた。

 まぁ物騒な名前だとは思いますよ、そりゃあね。でもさぁ、僕だって伊達に死神とか言われ続けてないよ? もうなんか開き直っちゃおうと思うんだ。僕を死神と呼ぶのならパーティ名にも入れちゃいますよ。名前にちなんで狐とか入れちゃうよ? 開き直りに開き直りを付け加えるからね。ざまぁみろ。


 さて、それじゃあパーティ名も決まった所で、次にやることを探そう。出来れば部屋の中で出来ることが良いなぁ。


「そういえば、きつねさんの持っているその黒い棒って本当にどう使うんだろうね?」

「確かにねぇ……本当にただの棒なんだよねー」


 この棒、瘴気で刃を作って槍にしてみようと思ったんだけど……瘴気自体は僕が操らないといけないから、棒を振る動作と瘴気の操作で2つのことを同時進行しなければならないから、正直武器にするには向いていないんだよねぇ……どうしたものかなぁ……本当に棒は棒だった。

 黒い棒は手にしっくりくるし、振りまわしやすいし、耐久力は思ったよりも高いから良いとしよう。なんとルルちゃんが全力で『白雪』の斬撃を繰り出しても、なんなく受け止める事が出来た。おそらく、バルドゥルの耐性値を大きく上回っている。堅さの限界値は分からないけれど、多分かなり高いと思う。


 でも、攻撃用の武器なんだし……これには正しい使い方があるんだと思う。


「んー……まぁ分からないモノは考えても分からないか」

「そうだねー」

「……それよりも……」

『ん? どうしたの、きつねちゃん?』


 僕にはちょっと気になっている事がある。僕のステータスについてだ……正確には、僕の筋力値についてだけど……『鬼神(リスク)』の副作用で下がったとはいえ、最近では結構戻ってきた筈だった。最近見た限りでは3万にまで戻っていた筈。なのに、今は少し下がって1万になっている。

 何をした訳でもないし、『初心渡り』を使った覚えも無い。筋力値が半分以下にまで下がっているのは、少しおかしい。


『すてーたす? 何それ?』


 おっと、どうやら心の声がノエルちゃんに伝わってしまったようだ。気を抜くとノエルちゃんに念話を送ってしまうから気を付けないとね。


(能力値のことだよ。ノエルちゃんには肉体がないから関係ないけどね)

『ふーん、そうなんだ……ふひひひっ♪ もしかして異世界の言葉? おもしろーい、ふひひひっ……!』


 ノエルちゃんが部屋の中をふわふわと浮かんでは移動している。最近は何でもかんでも初めての体験ということで、かなり人生――なのかな? を楽しんでいる様だ。毎日毎日くすくす笑いながら過ごしている。

 まぁ、良い傾向だろう。彼女の境遇を考えれば分からないでもないからね。


 それはそれとしても、なんでステータスが下がったんだろうなぁ……何かした覚えはないんだけどね。


「まぁいいか……筋力自体はそれほど気にしているわけじゃないし」


 最低限武器が持てて振りまわせれば関係無いし。今はこの黒い棒だけどね。瘴気の攻撃も一応兼用で使えれば良いなと思うけれど、今の僕には2つのことを一片にやりながら動くことは難しそうだ。

 まぁ、少しずつ鍛えていこう。やれない事はないだろう。今までも出来ない事は全部慣れで習得してきたんだし。瘴気然り、耐性しかり、戦闘しかり、だ。


 でも――一応、このステータス半減についてはちゃんと考えておこう。


「レイラちゃん」

「なぁに♡」

「んー……なんか面白い事やって」

「無茶ぶり!? うふふうふふふ……やだよー♪」


 そんな感じでレイラちゃんに無茶ぶりしながら、難しい思考を払拭する。面倒臭いから止めておこう、こういう面倒な思考は。

 ベッドに仰向けに寝っ転がると、レイラちゃんが僕のお腹にうつ伏せで覆い被さってきた。上から見たら十字に見えるだろう。正直暑苦しいけれど、レイラちゃんのお腹の柔らかい感触が伝わって来るし、押し退けるのも面倒くさいからそのままにしておこう。


 すると―――


「私もー!」

「あの、私も……!」


 フィニアちゃんとルルちゃんもレイラちゃんの上から僕の上に覆い被さってきた。少しだけ重いけれど、耐性値の高い僕には大したダメージはならない。寧ろ、ルルちゃんも乗り掛かって来たのは驚きだったね。この子結構大人しい子だから、こういうノリにはあまり付いて来れないと思っていたんだけれど……染み付いた奴隷根性から脱却しようとしてるのかな? まぁなんにせよ、少し不安げに僕の表情を覗きこんでくるルルちゃんは、やっぱり可愛い。頭を撫でてあげよう。


『どーん! きつねちゃん、私も!』

「「「「さぶっ!?」」」」


 そこへノエルちゃんまでやってきた。僕とレイラちゃんとルルちゃんとフィニアちゃんが、同時に背筋に走る悪寒を感じたらしく、言葉が見事な四重奏を奏でた。流石幽霊、存在しているだけで不快感を与えてくるね。

 正直、地球で良く見たホラー映画では、幽霊って血塗れで黒髪の長い女性が人間とは思えない動きで迫ってきたりするけれど、この世界ではそんなことないよね。普通に人間の姿をしているから可愛いし、人間として付き合えるから怖くはない。半透明だし、死んだ眼をしているけどね。


「んー……それにしても、暇だ」

「なら依頼でも受けりゃいいじゃねぇか」

「面倒臭い、僕は今非常に動きたくないと思っている」

「まぁ、お前と一緒に居て分かったが……さっきのパーティ名の通り、結構な頻度で危機に見舞われてるもんな。一時の休息も欲しくなるわな」


 寧ろ、もうそろそろ新しい危機がやってきそうで怖いんだよね。魔王とか、ステラちゃんの居る組織とか、僕に関わってきそうな危険はいっぱいあるからなぁ……勇者関連でまた別の組織が出て来てもおかしくはないし、異世界人って世知辛いなぁ……本当に、この休息時間がどれほど続くか心配になって来たよ。


「とりあえず……明日から本気だすよ」

「それは本気出さない奴の常套句だよ! 流石きつねさん、引きニート!」

「いや、本当に本気出すって。明日から」


 フィニアちゃんの悪態も決まった所で、次は何をしてこの暇を潰そうか。


この休息が続くのは、一体どれくらいでしょうねー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ