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私は今、いつも通りに笑えているだろうか

「さて、僕達のパーティメンバーがやっと揃ったということで、これからの目標を再確認しようと思う」


 あの幽霊騒ぎが終わってから、ルークスハイド王国で私たちは3日くらい平穏な時間を過ごした。平穏の時間というのは、きつねさんの言うところの『人外(Sランク)勢』による襲撃とか命の危険が迫るとかそういう事がなく、ただ平穏に普通の冒険者らしく依頼をこなしていたってこと。

 きつねさんを中心としたこのパーティは、全国的に見ても多分かなり強い部類に入ると思う。

 きつねさんの堅さは勿論、リーシェちゃんやルルちゃん、あとドランさんも接近戦に秀でてる。しかも、接近戦と言っても3人ともそれぞれ違った戦闘を繰り広げるから、連携が取れれば互いが互いをサポート出来るから、やっぱり強い。認めるのは癪だけど、レイラはSランクの魔族ということもあって、普通とは違う力を持ってる。きつねさんも持ってる瘴気の力は、確かに強力で脅威的な力だと思う。


 個々の実力が高いこのパーティは、その反面で連携が取れている。私とルルちゃんはごく最近合流したばかりだし、レイラやきつねさんは中でも突出した実力を持っているにも拘らず、私たちは凄く連携が取れていると思う。

 その証拠に、この前の依頼で大きな猪の魔獣を討伐しにいったんだけど、その際は私も後方からの魔法支援がしやすかった。

 レイラときつねさんが中距離で、ルルちゃんとリーシェちゃんとドランさんが近距離、私が遠距離って感じで、役割分担が出来てたっていうのもあるんだろうけれど、やっぱり私はこの連携のしやすさの理由として、『お互いの絆』があるからだと思ってる。


 私たちのパーティは、きつねさんを中心に1人1人集まって出来たパーティ。

 私はきつねさんの狐面(たからもの)から生まれて、きつねさんが好きだから一緒に居る。最初は2人だけ、きつねさんと私はたった2人であの森から命懸けで生き延びた。最初から私ときつねさんの間には強い信頼で結ばれた絆があったと思う。


 そこから、リーシェちゃんに助けられた。


 奴隷として売られていたルルちゃんを家族にした。


 リーシェちゃんの家族問題を解決して、リーシェちゃんが仲間になった。


 レイラが襲撃してきて、きつねさんと戦った末に一緒に来ることになった。


 私はいなかったけど、その後ドランさんが仲間に加わって、離れていた私とルルちゃんが戻ってきた。


 聞けばきつねさんは、パーティに誘うことは1回もしていないらしい。皆、きつねさんに仲間に入れてくれと言ってパーティに入ってるんだ。皆きつねさんに惹かれて、集まってきた。

 だから私たちのリーダーはやっぱりきつねさんで、皆お互いきつねさんに惹かれて集まった者同士だから、そこには確かに絆と呼べる信頼があるんだと思う。無論、私とレイラの間にも少なからずそういう繋がりが出来てる。


 だから連携が取れる。簡単に言えば、皆きつねさんが好きなんだ。私みたいに恋愛的じゃないにしろ、仲間としてきつねさんの事が好きなんだ。そこに信頼が生まれるのは、当然のことなんだと思う。


「皆も知ってると思うけれど、僕は異世界人だ。そしてこの世界に来たのは偶然で、僕の意思じゃない」


 きつねさんの目的は知っている。私は本当に最初からきつねさんと一緒にいたから、私を生んだ想いの持ち主ときつねさんが本当に強い絆で結ばれている事も知っている。きつねさんが彼女と結んだ約束を、懸命に守ろうと足掻いているのも知っている。


 でも、きつねさんがこの世界から帰ることが出来た時……私たちはどうなるんだろう? きつねさんに惹かれて集まって、そして出来上がったこのパーティは……きつねさんを失った時きっと崩壊する。


 私はきつねさんの世界じゃ存在出来ない。だって私は妖精で、妖精はこの世界の生き物だから。レイラも、ルルちゃんも、ソレは同じ……魔族も獣人も、向こうじゃ存在出来ない。リーシェちゃんやドランさんは人間だから存在出来るかもしれないけど、きつねさんが地球とこっちじゃ魂の質が違うと魔王が言っていたと言ってたから、多分その可能性も薄い。


「だから、僕は元の世界に帰る為の方法を探しているんだ」


 私はきつねさんが好きだ。

 でも、きつねさんとずっと一緒にはいられない。きつねさんはいずれ、私の存在出来ない世界へ帰ってしまうから。少しだけ、胸がちくりと痛んだ。

 ルルちゃんはどうなるんだろう……彼女はきつねさんの家族だ。きつねさんがいなくなれば、今度こそ彼女は天涯孤独になってしまう。やっと出来た家族なのに、それをまた失ってしまう。

 レイラはどうなるだろう? ここ3日間で見た所、彼女もきつねさんが好きだ。それも、恋愛的に。きつねさんが世界の中心と言わんばかりの溺愛っぷりは、きつねさんを失った時の絶望の大きさを暗に示している。

 リーシェちゃんやドランさんはどうだろう? きつねさんに惹かれて仲間になった2人は、多分私たち程のショックはないのかもしれない。でも、それでもやっぱり心の中ではちょっとした喪失感を抱くと思う。


 私たちはきつねさんを中心に出来たパーティだ。きつねさんを失えば、パーティだけでなくそれぞれが精神的に大きなショックを受けると思う。


 それでも、きつねさんは元の世界へ帰ることを止めないし、私たちにはそれを止められない。この胸が痛かろうと、私はきつねさんに付いて行く。私が存在出来なくなるのだとしても……私はきつねさんが帰るべき場所へ、きつねさんが帰れるように精一杯力を振り絞ろう。


「その手かがりを探す為に、力を貸して欲しいな」


 きつねさんが何時になく真剣な表情で、そう言った。

 私はきつねさんの肩の上で、いつも通りに笑顔を浮かべる。見れば、レイラは当然という顔をして、ルルちゃんはきつねさんの為ならばと鞘に収まった『白雪』を握り締め、リーシェちゃんとドランさんは強く頷いている。皆、きつねさんの力になってくれるらしい。


 だから、私は皆を代表してきつねさんにこう言った。


「―――大丈夫! 私たちがきつねさんの力になるよ! だからきっと帰れるよ!」


 うん……きっと帰れる。その方法は、必ず見つけ出す。


 私は今、いつも通りに笑えているだろうか―――



 ◇ ◇ ◇



 ―――その夜のことだった。


 暗黒大陸の中心に聳え立つ魔王城、その最奥で……魔王と呼ばれた存在が不敵に笑っていた。

 魔王城の中は、灯りがない訳ではない。寧ろ、しっかり灯りの火が所々に燈っており、ぼんやりと明るい空間となっていた。そこには魔王が居るだけで、他には何もないだだっ広い空間となっている。

 しかし、そうはいっても魔王がそこにいるというだけで、このだだっ広い空間はかなり狭い印象を与えてくる。


「この魔王城……というよりも、この魔族の世界……魔界とでも言うべきこの世界がつまらなく感じてしまうのは―――やはりあのきつねというあの男が原因か? ハハハ……!」


 魔王が漏らしたその言葉は、広い魔王城の中に響いて消える。

 魔王は、その身体に湧き上がる、情熱とも呼べる大きな感情の昂りに思わず笑みを浮かべていた。クスクスと楽しげに、不敵な笑みを浮かべて、その身に宿る大きな魔力で空間を埋め尽くす。


 そして、遠見の水鏡を使ってまた桔音を映し見ていた。だが、今見ているのは桔音ではない……桔音の傍にいた思想種の妖精―――フィニアだ。


「ハハハッ……この妖精は、私と会った時にはいなかったな。だが、思想種……これは中々、壊し甲斐のある仲間を持ってるじゃないか」


 桔音の傍にいるフィニアを見て、魔王は一目で見抜いていた。この妖精が、桔音のパーティの中で最も桔音と信頼関係を築いている存在なのだと。桔音が最も信頼している妖精、その妖精が最も信頼しているのが桔音……互いが互いを信頼し、そして通じ合っている。

 だからこそ、魔王にとってはこの2人の間にある絆が最も壊しやすいと感じた。直感的にも、経験的にも、確信していた。


 故に魔王は、桔音を殺すという目標を達成する為に最も凶悪な方法を取る。


「ハハハッ……! きつね、お前は確かに強い。精神的にもその実力的にも、この魔王と張り合えるという事実は脅威的だ……しかし、お前の周りまでもがそうではない。レイラ・ヴァーミリオンが1度その心を破壊された様に、お前の周囲までもがお前の様に強靭な精神を持っている訳ではないのだ」


 だから、と魔王は続ける。


「まずはお前の仲間とやらを1人1人消して行こう。仲間の為に戦うお前は強い、だがその仲間を失い孤立したお前は……揺れずにいられるか?」


 魔王の目的は、桔音の周囲の仲間を殺すこと。集まった仲間達、やっと出来たパーティ、それを全て消して行くつもりだった。

 魔王は肉体派の戦闘狂という訳ではない。桔音が勇者にやった様に、相手の心に足を踏み込んで、滅茶苦茶に掻き回し、心を蹂躙する。その上で、相手の命を奪い取るのだ。血を啜り、骨を砕き、肉を引き千切り、心を破壊する。


 心も身体も、完膚なきまでに破壊し尽して勝利の美酒を楽しもう。それが魔王であり、魔王が魔王として掲げる矜持でもある。やるのなら徹底的に、完全に、勝利する。美学と言ってもいいかもしれない。


「ヴィルヘイムはいるか?」

「ええ、此処に」


 魔王が名前を呼ぶと、1人の魔族が現れた。魔王の右腕とも呼べる魔族ではなく、魔王の配下にいる魔族だ。その実力は魔王の側近にも引けを取らない……つまり、Sランクの力を持っている。


「お前に頼みたい事がある」

「なんでしょうか?」

「この妖精を、『お前のやり方』で殺せ。方法は問わん」


 魔王の言葉を聞いて、その魔族は目を見開いた。そして、凶悪なまでに口端を吊り上げる。妖精だから、ではなく……壊しても良い餌が目の前に転がってきたからだ。


「よろしいのですか?」

「ああ、但し……きつねには手を出すな、奴は私の獲物だ……まぁ、精々奴の心に傷を負わせてやるくらいは許そう」

「畏まりました」


 そう言って、その魔族はふっとその姿を消した。魔王の視界にも、魔族の姿は映っていない。転移スキルではない。文字通り、彼女はその場から姿を消したのだ。魔王はその力を知っているが故に、不敵に笑う。

 肘掛けに頬杖をついて、余裕淡々と瞼を閉じた。


「楽しみだ……精々大事な仲間を護る為に尽力するといい、きつね」


 そう言って、魔王が動き出した。



第十一章、開始です! メインは、フィニアちゃんかな?

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