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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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閑話 放っておいた武器

『アレが初代女王、かぁ……幽霊の私が言うのもなんだけど、死んで生まれ変わるなんてあるんだねぇ……ふひひひっ♪ おもしろーい……ふひひひひ……!』

「まぁ、初代女王が転生した子っていうなら、あの天才ぶりも納得出来るけどね」


 アリスちゃ―――いや、アリシアちゃんと晴れて本当の友達になれた僕は、城の入り口から外へと出ていた。この城にやって来たのは、僕と僕に取り憑いているノエルちゃんのみ。レイラちゃん達には他の事を頼んである。

 此処に来た理由は、アリシアちゃんに屋敷の一件が解決したことを報告するためだ。その際に彼女が初代女王の生まれ変わりだとか新事実が発覚したけれど、それも僕や勇者の例もあるんだし些細なことだ。僕にはなんの支障もないしね。


 ちなみに、ノエルちゃんは契約関係にあるから僕から離れられないらしい。限界まで離れても大体10m程が限界の様だ。この契約はお互いが離れたいと思っていても離れられない契約の様だね。

 この契約を解消する方法は、ノエルちゃんも知らないらしい。なんでも、契約出来る人間自体がかなり稀少らしく、また幽霊という存在も自分以外に見たことがないから、前例がないとのことだ。

 前例がない以上、契約も初めてのことで、結局彼女は契約方法は知っていても解除方法は知らないらしい。


「ノエルちゃん、離れて」

『ふひひひっ♪ 白髪ちゃんのまね~』

「うん、すっごい似てる。うっとおしいとこまでそっくりだよ。感触ないのが不気味だけど」


 ノエルちゃんは初めてのお城にテンションが高まっているのか、さっきからずっと僕の首に腕を回して抱き締めている。頭に頬ずりされているんだけど、全然感触ないんだよね。寧ろ幽霊に抱き締められているから若干悪寒を感じる。レイラちゃんは暑苦しい感じだけど、ノエルちゃんがやると肌寒い感じ? 流石幽霊、その辺はちゃんと幽霊してる。


「にしても、この国はノエルちゃんといいアリシアちゃんといいクローンといいアンデッドといいゾンビ犬といい……生命に関わる異常現象が頻発してるんだけど、なんなの?」

『知らないよ、私被害者だもん。私からすれば、その悉くに巻きこまれてるきつねちゃんも大概だと思うよ? ふひひひっ……!』

「……そういえばそうだね」


 僕の厄介事を引き込む不幸はなんなんだろう。スキルにはなってないけど、実は何か変な力が働いてるでしょこれ。レイラちゃんから始まって、勇者とか巫女とか使徒とか魔王とか女王とか幽霊とか天使とか……僕はアレなの? この世界の人外達をコンプリートするつもりなのかな?

 そうなると次は何だろう? うーん……なんにしても、今までの例からきっと何処までも突き抜けた変人に違いない。うわー会いたくねー。


 とはいえ、取り敢えずは色々と一段落したんだし……しばらくは休んでいたいな。


 僕はノエルちゃんをさながら宙に浮かぶ風船の如く引っ張りながら、道を歩く。もう時間は昼だ……そろそろこの街並にも、食欲を誘う料理の匂いが漂ってくる。そこらじゅうにある屋台や食事処に吸い寄せられる様な魅力があるね。うん、幽霊とか色々と血生臭い部分があったけれど、こういう部分はやっぱりこの国の美点だねぇ。


「きつねさーん!」

「あ、フィニアちゃん達」


 歩いていると、前からフィニアちゃんとレイラちゃんがリーシェちゃん達を置き去りにして駆け寄って来るのが見えた。フィニアちゃんの手には布袋が握られている。

 飛び付いて来たフィニアちゃんを受け止めて、飛び付いて来たレイラちゃんを足を踏ん張ることで受け止めた。おおう、なんか足が地面にちょっと沈んだよ……僕じゃなかったら上半身千切れ飛んでたんじゃないのコレ。そっと命の危機だよ、怖っ!


「きつね、頼まれた物を持ってきたぞ」

「リーシェちゃん。うん、ありがとう」

「はいっ! きつねさん!」

「うん、ありがとうフィニアちゃん」


 後からやってきたリーシェちゃん達の言葉に、フィニアちゃんが持っていた布袋を僕に差し出してきた。受け取ると、ずしっと重い。けど、持てない程ではない。


 フィニアちゃん達に頼んでいたのは、注文した武器の受け取りだ。ナンバープレートを渡して、取りに行って貰ってたんだよね。流石に城に大勢で押し寄せる訳にも行かなかったから、僕だけ城に赴いてその間に皆に武器を取りに行って貰おうって訳だ。

 にしても、布袋って……剣とか弓とかならこんな布袋に入れてないと思うんだけど……違うのかな?


 そう思いながら、布袋に手を突っ込むと―――予想以上に手が中に入った。


「うわっ……なにこれ?」

「えーと……『道具袋(アイテムポーチ)』だっけ?」

「ああ、良くは分からないが時空魔法で作られた……袋の収容出来る量を拡大させた袋、だったか?」


 なるほど……とどのつまりアイテムボックスみたいなもんかな? 良い感じにゲームみたいだねぇ、流石ファンタジーの世界だ。


「でもこれ貴重なんじゃないの? くれたの?」

「ん? いや後で返しに来いと武器屋の娘さんが言っていた。ため息交じりだったが」


 あ、なるほど……あの店主(バカ)が考えなしに渡しちゃったのか。どうせ武器を入れる袋ないかなーって感じで出したんだろう。お弟子さんも大変だねぇ。

 苦笑しながら、袋の中に確かな手ごたえを感じた。それを掴んで、引っ張り出す。すると、柄が出て来た。するすると、袋から出して行く。そして、反対側の柄の先が袋から出て来たのを確認して、袋を脇に挟みながらそれを確認する。


 ―――黒い……棒だ。


 長さは僕の身長よりも大きい。1.8mって所かな? ドランさんの身長を同じ位だ。でも、棒だ。

 力一杯圧し折ってみた。でも折れない。どうやら堅さは十分のようだ。でも、棒だ。

 くるりと回してみた。手に吸い付く様にしっくりと収まり、自分の手の様に扱える。でも、棒だ。

 片手で持って、上げたり下げたりしてみた。袋から感じたほど重くない。寧ろ、凄く軽い。でも、棒だ。

 デザイン的には、正直シンプルでとても好みだ。バルドゥルの装甲の色だからだろうけど、黒いのも良い。でも、棒だ。


 棒だ。ひたすらに棒だ。どこまでいっても棒だ。伸びもしなければ、叩きつけても凄まじい威力が出る訳でもない。本当に、ただの棒だ。


「…………何コレ?」

「分からない」


 いやいや、分からないはないでしょリーシェちゃん。コレ何? どうすればいいの? 振り回せばいいの? 歩く時の杖か何かにすればいいの? 武器じゃねーじゃんそんなの。


「……店主のドワーフの方にな、一応聞いたんだ。これはどういう武器なのか、と」

「……うん、そしたらなんて?」

「『えーと……わっかんねぇ! なんだっけ?』……と」

『ふひひひっ♪ そのドワーフの人、頭悪いんだねぇー……ふひひひっ……!』


 喧しいぞ幽霊。でもその通りだ。

 あの馬鹿ドワーフ、本当に何考えてんの? 何を考えてコレを作ったの? 腕は確からしいけど、その武器の性質をちゃんと把握出来ていないとか職人の風上にも置けないじゃん。


「お弟子さんはなんて?」

「いや、娘さんはどうやら店主の作る武器に関しては良く知らないようだった。申し訳なさそうにしていた」

「うーん……そっか、じゃあ仕方ないね。袋を返すついでにまた聞いてみよう」


 棒をくるっと回して、肩に担ぐ。気分は西遊記に出てくる孫悟空だ。とりあえず、棒は棒でも身を護る程度には使えるでしょ。

 とりあえず、今から袋を返しに行くかな。まだお昼時だし、ついでだからギルドで依頼の1つでもこなしておくかな。


 良し、方針は決まった。皆の異議がなければ、これで行こう。


「それじゃ、僕はこの布袋を返しにいくから……ルルちゃんとフィニアちゃんは付いて来てくれる? リーシェちゃん、ドランさん、レイラちゃんは、ギルドで適当な依頼を受けといて。討伐依頼が良いかな? 後で合流して皆で行こう……なにか質問ある?」


 皆の顔を見渡すと、レイラちゃんが不服そうな顔をしていること以外は何も無い様だ。


「……きつね君、私も武器屋行く」

「えー、そんなにいらないんだけど」

「行くの!」

「……そう、じゃあレイラちゃんはこっちね」

「うん♪」


 相変わらず子供だなぁこの子は。


『きつねちゃん、私も武器屋行くー……ふひひひっ♪』


 喧しいぞ幽霊。レイラちゃんの真似は継続してるの? どうせ君は僕に付いてくるじゃないか。いや、憑いてくる、かな?


 あ、そうそう。ちなみにだけど、このノエルちゃんと契約したことで、彼女と出来ることが1つ増えた。


(離れてよ、ノエルちゃん)

『やーだー! ……ふひひひっ♪』


 ノエルちゃんと念話が出来るようになったんだ。心の中で話し掛けるだけで、ノエルちゃんと会話する事が出来る。まぁ正確には、ノエルちゃんは喋ってるんだけどね。僕が心で語りかけた言葉が、伝わる様になったってことかな? 契約をして僕とノエルちゃんの間にはなんとなく繋がりが出来たから、多分それで意志疎通出来るようになったんだと思う。

 まぁ、虚空に向かって話し掛ける姿を皆に見せなくても良いっていうのは中々便利だ。まぁ、2人きりなら普通に口で会話するんだけどね。


 さて、それじゃあ武器屋に行くとしようかな。この袋を返しに行かないとね……ついでにルルちゃんの新しい武器を買うつもりだから、ちょっと時間が掛かるかもしれないけど。


「じゃ、行動を開始しよう。また後でね、リーシェちゃん、ドランさん」

「ああ」

「また後でな」


 この2人は常識があって良いね。話してて疲れないし、普通の日常を感じる。



 ◇ ◇ ◇



「んん? そりゃいつだったか俺の作った武器じゃねぇか! ぶっ壊しやがったのか!?」

「受け取ったのはついさっきだバカ」

「いってぇ!? なにしやがる……人間臭ぇぞ!」

「人間だからね」


 武器屋に辿り着いた僕達を迎えたのは、相変わらず馬鹿なドワーフだった。名前なんだっけ? ……ああそうだ、ゲイツさんだよゲイツさん。

 とりあえず、言動が相変わらず馬鹿だったから貰った棒を早速使うことにした。ゴンッ、と彼の頭に棒を落とし、馬鹿な事を言う彼の言葉をスルーする。どうやらこの人、僕の顔も忘れちゃってるみたいだ。


「いてぇ……」

「ゲイツさん、この武器の使い方が分かんないんだけど……どうすればいいの?」

「ん? ……あー、アレだアレだ……知らん!」

「……そう。それじゃあ別の話なんだけど……この子に合った武器が欲しいんだ、何かある?」


 まぁ期待はしていなかったから、武器の使い方が分からないのは別に良いとしよう……曲がりなりにも良い腕の職人が作った武器なんだし、何かしらの使い方があるんだろう。僕はゲームで説明書を読まないタイプの人間だからさ、戦いながら使い方を模索するとするよ。

 そこで、次にルルちゃんを前に引っ張り出して武器の注文をする。すると、ゲイツさんはルルちゃんの腕や脚、体幹や身体のバランスをしっかり確認した後、奥から1本の長剣を持ってきた。刀身はルルちゃんに上げた小剣の倍はあるかな? 比較的細身だけど、切れ味は抜群に良さそうだ。剣から触れれば切れてしまいそうな雰囲気が漂っている。


 ゲイツさんがルルちゃんにその剣の柄を差し出し、ルルちゃんはそれを受け取った。


「この嬢ちゃんじゃこの剣じゃねぇかな!」

「へぇ……どうして?」

「ん? 勘だ!!」


 やっぱり馬鹿だ。なんか良い感じの武器出してきたかと思えば、勘で持ってきたのかよ。ルルちゃんの筋肉とか確認してたのはなんだったんだ……とはいえ、馬鹿は勘が鋭かったりするし、あながち間違った選択ではないのかもしれない。


「どう? ルルちゃん」

「……はい……小剣よりは重いですが、なんとなくしっくりきます」

「重い、か……まぁそれならいいかな?」


 その細身で小剣よりも重いなんて不思議ではあるけれど……ルルちゃんが気に入ったなら良いだろう。


「娘さーん!」

「あ、はーい……お会計ですね?」

「うん、よろしく」


 奥に居るのは瘴気の空間把握で気付いていたから、呼べば娘さんは出て来てくれた。滞りなく会計を済ませ、金貨1枚と銀貨50枚を渡すことでルルちゃんの新しい剣が手に入った。

 すると、お弟子さんがルルちゃんの持っている青白い刀身の長剣を見て、あっと声を上げた。


「師匠! アレを売ったんですか!?」

「そうだ!」

「そんな……まだ私は師匠ほど優れた武器は作れないんですよ?」

「いいじゃん、アレ結構良いと思うぞ俺」

「そんな適当な!」


 話を聞く限り、ルルちゃんの持っている武器はお弟子さんが作った様だ。成程、師匠がこれでもお弟子さんは優れた実力を持っているらしい。

 でもまぁ、お金は払ったからあの武器はもうルルちゃんの物だ。客が満足してるんだから、お弟子さんもそんなに謙遜しなくてもいいと思う。まぁ、ゲイツさんはもう少し頭の調子を整えてほしい所だけど。


「……お客様、それはまだ若輩者の私が作ったものですが……よろしいですか?」

「うん、良いよ。ね、ルルちゃん」

「はい、コレが良いです」

「…………はぁ、そうですか……お買い上げありがとうございます」


 僕達の言葉に、お弟子さんはがっくりと肩を落として素直に売ってくれた。まだ一人前ではないと思っているから、この武器を売りたくはなかったんだろうけど、気に入ったんだから仕方ない。


「その武器の銘は『白雪』といいます。変な名前ですけど、大切にしてあげて下さい」

「はい!」


 お弟子さんの言葉に、ルルちゃんは笑顔で力強く返事を返した。


 その後、『白雪』の鞘と腰に提げるべルトを買って、店を出たのだった。

 お弟子さんが、少し誇らしい顔をしていたのが印象に残っている。今後、彼女がもっと成長したら、職人として名を馳せる時が来るかもしれないね。


注文していた武器を回収しました。馬鹿はやっぱり馬鹿のままでしたね。

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