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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第二章 生きるための仕事
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訓練終了と情報提供

「えい!」

「そらっ!」


 それから二手に分かれた桔音(きつね)達。リーシェを除いて、桔音とフィニアは自分達がどうやってレベル上げするのかを考えて、一つの答えを見つけた。フィニアはそのまま『炎魔法』や『光魔法』で魔獣を倒せばいい。桔音は『不気味体質』が発動しないように、流れ作業的な感覚で戦えば良い、と。

 桔音は魔獣を敵だと認識すると『不気味体質』が発動してしまう。精神的に強くなった桔音は、常に精神的優位に立っていると言っても良い、故に敵はスキルの発動を察知すると逃げてしまう。

 ならば、敵と思わなければいい。その辺の石ころ程度の認識にすればいい。そう結論付けたのだ。


 かなり強引な理屈だが、そうでもしないと桔音はレベル上げどころか戦うことすら出来ないのだ。それに、桔音はそういう認識の強引な変化を一度体験している。虐めを日常として享受した時だ、そういう風に自分の精神を捻子曲げたのだ。だから、今回もそうした。それだけのこと。


「うん、上がった上がった」


 結果、桔音は雑魚魔獣に逃げられることなく戦闘に持ち込む事が出来た。魔獣を敵と思わず、石ころの様に認識する。それを攻撃するだけ。

 寧ろそうすることで、敵を挑発するよう結果にもなった。敵として見られていないということが、魔獣達の怒りを買ったのだ。

 

 桔音達はそれを倒すことで、レベルを順調に上げていた。


「ステータス」


 桔音は自分のステータスを確認する。


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音

 性別:男 Lv6(↑2UP)

 筋力:40

 体力:100

 耐性:220

 敏捷:90

 魔力:60


 称号:『異世界人』

 スキル:『痛覚無効Lv2(↑1UP)』『不気味体質』『異世界言語翻訳』『ステータス鑑定』『不屈』『威圧』『臨死体験』

 固有スキル:???

 PTメンバー:フィニア(妖精)


 ◇


 やはり桔音は耐性の適性が高いようだ。たった2つレベルが上がっただけで適性のあるSランク冒険者のおおよそ半分程まで数値を向上させることが出来たのだから。

 だがその半面、落ち込む事実もあった。


「でも筋力は上がらないか……」


 桔音の筋力ステータスが上がらないのだ。おそらく、リーシェの言っていた限界値ということなのだろう。たったの40で筋力の成長限界とは、桔音もつくづく恵まれないらしい。攻撃力の限界がこんなにすぐに訪れるとは思わなかった。


「まぁいいか、攻撃力ならフィニアちゃんがいるし」


 だが桔音は気にしない。自分にはけして必要ないステータスだ。


「きつねさーん!」

「ん?」

「私レベル上がった? 上がった?」


 フィニアは先程から逐一こうして桔音の下へやってきてレベルを聞きに来る。彼女はステータスを見ることは出来ない故に、桔音に確認しに来るのだ。


「うんうん、えーと」


 ◇ステータス◇


 名前:フィニア

 性別:女 Lv16(↑5UP)

 筋力:350

 体力:600

 耐性:140

 敏捷:500

 魔力:5400


 称号:『片想いの妖精』

 スキル:『光魔法Lv3』『魔力回復Lv4』『治癒魔法Lv3』『火魔法Lv4』『身体強化Lv1』

 固有スキル:???

 PTメンバー:◎薙刀桔音


 ◇


「うん、5つレベルが上がってる」

「やったぁ!」


 フィニアも順調にレベルを上げているようだ。だが、桔音はレベルが上がるごとにレベルが上がりにくくなっているのを感じた。おそらく必要経験値が高くなっているのだろう。

 というより、桔音はフィニアのレベルがぐんぐん上がっていくことに少し劣等感を感じていた。なんだ、妖精はレベルが上がりやすいのか? ちくしょうめ、という感じだ。


「というかそろそろ疲れた、帰ろうよ」

「うん!」


 桔音はそろそろ精神的に疲れてきたので、帰宅を進言。フィニアもそれを受け入れた。さっきからトドメはフィニアが刺しているものの、流石に小剣で肉を抉る感覚は慣れない。最初に死んだ時に、男子生徒の肉を切った感覚が蘇って来る。


「ところでリーシェちゃんは?」

「えーと……あそこで鹿みたいなのにマウント取られてるね!」

「なにやってんの!?」


 桔音は急いで駆けつけて、リーシェの上にのしかかっていた鹿っぽい魔獣を蹴飛ばした。


「はぁ……はぁ……余計なことをするな、あれくらいやれた!」

「マウント取られてた奴が良く言えたね」

「うぐっ……」

「もしかしてリーシェちゃんって天然なのかな!」


 リーシェは荒い息をしながら強気に発言したが、桔音とフィニアの言葉に打ちのめされ、がくーんと四つん這いになって落ち込んだ。どうやらステータスの割にリーシェは結構弱かったらしい。


「うぅ……能力値を見ればあの程度余裕の筈なんだが……敵を前にすると緊張してしまって……」

「あー……」


 違った、精神的な原因があった。


「そろそろ僕達帰ろうと思うんだけど……リーシェちゃんも帰らない?」

「……分かった、私も帰る」


 落ち込んだ様子のリーシェは暗い表情で立ち上がり、俯きながら国の入り口に向かって歩き出した。桔音もその後を追う。

 あれだけ先輩風のような格上の態度を取っておいて、いざ蓋を開けてみればこの有り様。リーシェからすればかなり恥ずかしかったりするのだろう。だから桔音は敢えてそこに触れたりはしなかったのだった。



 ◇ ◇ ◇



 入り口を潜って、この国……ミニエラに戻ってきた桔音達。結果的に桔音にとってはレベルを上げる収穫があったので、有意義な時間だったと思うことにした。

 ただ、今回のことで桔音は戦う時相手を石ころの様に見る戦い方を会得したので、不要な怒りを買う戦いを強いられるのだが、おそらく人と戦うことになったら余計に怒らせる気がする。


「はぁ……きつね、お前これからどうするんだ? ヒルクライムベアーの件とか……」

「え? どうするって?」

「知らないのか? 冒険者ギルドでは魔獣の素材以外にも情報を買ってくれるんだ、Eランクのヒルクライムベアーが森から出て来ていたことは報告すればそこそこ高値で買い取ってくれると思うが……」


 桔音は眼を丸くした。情報まで買ってくれるのか、あのギルドは、そう思った。ならばそれを利用しない手はない。是非是非利用させて貰おう。


「それってAランクの魔族を見つけた場合どれくらいお金貰えるかな?」

「嫌な例だな……そうだな……Aランクなら事前に対策もとれるしな、金貨3枚位は貰えるんじゃないか?」

「それって銀貨何枚分?」

「銀貨100枚で金貨1枚だから、300枚だな」


 つまり、300万円。とんでもない高額の金が手に入るではないか。幸いなのか、桔音は1週間前に瘴気の怪物―――『赤い夜』を見ている。しかもすぐそこの森の中でだ。これをギルドに報告すれば金貨3枚貰えるのではないだろうか。

 そしてそのお金さえあれば、自分の考えていたことも出来るのでは? そう考えた。


「ふーん……ありがとうリーシェちゃん、その情報売ってみるよ」

「あ、ああ……それじゃ私は先に宿に戻ってるよ」

「うん、行こうかフィニアちゃん」


 桔音の様子が何処か変だなと訝しげなリーシェだが、気のせいかと思いつつ宿へと戻って行った。桔音達はギルドへ向かう。


「きつねさん、あの怪物のこと教えるの?」

「うん、この国にとっても有益な情報だし、僕も出来れば大金が欲しいんだ」

「そうなんだ……」


 フィニアが笑顔を消して聞いてきたことに、桔音もまた真剣な面持ちで答えた。本当に出来ればでいいのだが、桔音にとっては大金が必要な物事があった。それに、出来る事ならあの怪物は早い内に何とかして貰いたかった。もしも次会った時は、左眼だけでは済まないだろう。


「まぁその前に元の世界に帰れればいいけど」


 桔音がそう言うと、ギルドの前に辿り着いた。

 慣れた様に中に入る。すると、なにやらいつもと違ってなにやら静かだ。というより、皆何かに怯えたように肩を狭くして俯いている。騒がしいギルドにしては随分と暗い雰囲気となっていた。

 桔音はそんな空気の中、首を傾げて歩きだす。すると、俯いていた全員が顔を上げて、桔音をあたかも救世主の様に見た。


「?」


 そんな様子にも桔音は首を傾げて、進む。受付に辿り着き、冒険者達の方を見ながらミアの下へとやってきた。

 桔音はミアに視線を向けないまま、冒険者達を見ながら話しかける。


「ねぇミアちゃん、なんかあったの? なんかやけに静かだけど……」

「なんでもありませんよ?」

「え?」


 桔音はミアの方を向く。すると、ミアは笑顔で桔音を見ていた。なんだか迫力がある。笑っているのに全然眼が笑っていない。桔音は察した、ミアちゃんの不機嫌が原因だこれ、と。

 桔音はミアは不機嫌だと察したので、隣の受付嬢の方へと移動しようとした。すると、ミアを除く全員が青褪めた顔をした。青髪の受付嬢もこっちに来ないでと全力で訴えている。


「……はぁ……ミアちゃん、何怒ってるの?」

「怒ってません。別に何も無いです」

「怒ってんじゃん」

「怒ってません、それで何のご用ですか?」

「あ、うん。リーシェちゃんと訓練に行って―――!?」

「………それで?」


 リーシェの名前を出したとたんにミアのこめかみに青筋が立った。これ以上話したら殺される気がした。あのフィニアでさえ、桔音の学ランのポケットに逃げ込んでしまった。

 冒険者達の中には失神している者まで出て来た。なんだこのプレッシャーは。


「う、うん……Eランクの魔獣が森から出て来てたから情報を買って貰おうと思って」

「…………そうですか、分かりました」


 ミアのプレッシャーが引いた。ほっと息を吐く桔音と冒険者達。

 そしてほっとしたのもつかの間、冒険者達は桔音の言葉を思案し始めた。流石は冒険者、国の危機にはしっかり冷静に思考を働かせることが出来るらしい。桔音は内心感心した。


「あと、ミアちゃん……出来ればあまり人のいない所で話があるんだけど……」

「……なんですか?」

「魔獣の情報について……ちょっと此処では話しにくいんだ」

「そうですか……分かりました、それでは奥へどうぞ」


 ミアの威圧感が無くなったので、桔音は話を進める。『赤い夜』についての話だ。

 ミアがカウンターの中に桔音を入れて、奥へと案内する。ミアもおそらく、桔音のふざけていない瞳に何かを察したのだろう。こういったあまり公にするには複雑な話をする為に、用意されている部屋がある。そこへ桔音を通した。


 カウンターの奥へ進んで、少し歩いたところに空き部屋があった。談話室の様な部屋になっており、話をするには最適の場だ。


「どうぞ、お座り下さい」

「うん」


 桔音はミアに言われた通り、テーブルを挟んで置かれた二つのソファーの片方へ座った。それを皮切りに、フィニアも学ランのポケットから顔を出す。


「さて……なんのお話でしょうか」

「うん、さっきEランクの魔獣が森の外に出たって言ったよね?」

「ええ」

「僕はこの国に来る時、森の中を通ったんだ」

「!」


 ミアは驚いた様な表情を浮かべた、桔音は今軽く言ったが、あの森はHランクの冒険者が通り抜けられる様な簡単な場所ではない。数多くの魔獣が住まっており、その平均ランクでもEランクばかりだ。過去には、Dランクの魔獣トロールが出たこともある。例え同じDランクの冒険者であっても、単独で突破することは普通出来ないのだ。

 そこを抜けて来た? 武器も無しに? そんな事が出来たのなら、それはとんでもない幸運の持ち主に他ならない。


「それで……?」


 だが、本題はそこではない。ミアは桔音に続きを促した。すると、桔音も頷いて続きを語る。


「僕は森の中で――――『赤い夜』に遭遇した」

「なっ……そんなっ!?」


 ガタッと音を立てて、ミアは立ち上がった。

 『赤い夜』、天災級(Aランク)の上級魔族。出会った者は全て例外なく食い散らかされるとされる最凶最悪の悪魔。『赤い夜』の他には『深紅の地獄』、『一夜の惨劇』とも呼ばれる存在だ。

 そんな化け物が、この国のすぐそこにいるなどと、本当ならば危険な事実だ。もしも『赤い夜』が襲撃してくれば、一夜にしてこの国が崩壊するといっても過言ではない。


「本当ですか……!?」

「うん……僕は黒い瘴気を纏った赤い瞳の怪物と出会って、死にかけた。フィニアちゃんがいたから治癒魔法でなんとか生き延びたけど、この左眼を喰われた」

「そんな……!」


 確かにこのギルドにやって来た時、桔音は『赤い夜』について聞いてきたし、左眼の包帯は痛々しいとも思ったが、まさか本当に『赤い夜』が近くへ来ている等、信じたくも無かった。


「なんで左眼だけを奪って殺さなかったのかは分からない……でも、このことは言っておくべきだと思ったんだ」

「……はぁ……一週間も経ってから言わないで欲しかったです……」


 ミアは頭を抱える。一週間も前からAランクの怪物が潜んでいたというのだから、そうなるのは仕方が無いだろう。

 今は桔音によってその情報が齎されたことを幸いとすることにした。


「情報提供ありがとうございます。その情報、ギルドで買い取らせていただきます」

「うん」

「情報の有益さを考慮して……金貨3枚と銀貨10枚でどうでしょうか?」

「それでいいよ」

「では、用意してまいりますので少々お待ち下さい」


 ミアはそう言って、一旦部屋を出て行った。

 桔音はソファに寄り掛かり、大きく息を吐く。リーシェの助言通り、大金が手に入りそうだ。


「でもきつねさん、そんなにお金を手に入れてどうするの?」


 フィニアがそんな桔音に問いかけた。

 すると、桔音は薄ら笑いを浮かべながら答えた。


「―――奴隷を買う」




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